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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第一章 ~願いの手紙~
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4-16 仲裁したい

 あかりと二人きりになった部屋で、私はあかりに問いかける。


「……あんた、どうすんの?」

「ぽけー」


 私は髪の毛を引っ張る。すると、あかりは後頭部を床に思い切り打ちつけた。


「いだつっ!?」

「これは、重症ね……。ていうか、あんた、マナと付き合ってるわけじゃないのね」

「うん……。まあ、色々とね……」


 あかりの顔は真っ青で、すっかり、意気消沈していた。死にそうな顔をしている。起き上がる元気もないらしい。


「隣国の王子ってことは、たぶん、政略結婚ね。本人の意思で決められる問題じゃないわ。……って言っても、みんなマナに甘いし、今度もなんとかなりそうだけど」


 あかりは、吹雪く雪山の中に、何時間も取り残されたかのような顔をしていた。本当に死ぬのではないかと心配になるほどに。そして、ガタガタと震え始めた。


「ほら、マナも嫌がってたし。なんとかなるわよ」

「う、うううん、そそそそそそ……」

「そんなに嫌なら、付き合えば?」


 あまり口出しはしたくないけれど、この二人なら、意外と、なんとかなりそうだし。


「無理」

「なんでよ?」

「……うわああああ!!」


 頭を抱えて、今度は上下に揺れ始めた。わけが分からない。昔、何かあったのだろうか。とはいえ、こんな反応をされると、無理やり聞く気にもなれない。


「あんた、マナが王子と結婚してもいいと思ってんの?」

「え……? そんなことになったら、僕、死ぬ……?」

「あんたが何もしなかったら、マナはそっちを選ぶんじゃない? 王子なんて、いかにもポテンシャル高そうだし」

「そ、そんなこと、ある? え、ある? ないよね? ねえ?」

「少なくとも、あたしだったら、あんたは選ばないわね。どこがいいのか、さっぱり分かんないし」

「それは僕もそう思うけどさ……。ワンチャン……?」

「ないわね。むしろ、王子と比べて、あんたのどこがいいのか、言ってみなさいよ?」

「魔法」

「それだけ? なら、諦めた方がいいわね」

「か、顔!」

「マナ、あんたの顔、あんまり好きじゃないって言ってたわよ」

「うん、知ってた! 言われたことあるもん! ねえ、もう絶対無理じゃん! どうしたらああああ!」


 また上下に揺れ始めた。とはいえ、マナがその辺の王子ごとき、相手にするとも思えないけれど。むしろ、たいていの王子たちは、心を折られると思う。マナはなんでもかんでもできすぎて、却って隙がないのだ。口笛は吹けないようだが、味覚がないのに、レシピを見さえすれば、料理は普通にできていたし。さすがに、プロレベルとまではいかないけれど。


「あんた、せめて、もう少し根性見せなさいよ」

「別に弱くて可愛いいままでもいいじゃんかー」

「甘えてんじゃないわよ。待っててもマナは降ってこないわよ?」

「分かってるけどさ……」


 あかりは膝を抱えて、ため息をついた。


 そのとき、ノックもなしに扉が開かれて、私は目の前にトンビアイスを差し出された。


「まなさん、結婚してください」

「あたし、マナのことそういう風に見たことないから、悪いけど──」

「──まなさんは、真面目ですね。愛してます」

「ああ、そう……。それで、本当にお見合いするの?」

「カルジャスー」

「マナはなんでお見合いが嫌なの? 隣国の王子が嫌いとか?」

「……カルジャス」


 それきり、マナは黙りこんでしまった。あかりは、半分くらい気を失いかけているし。自分の部屋に戻ってくれと思わずにはいられない。ここは私の部屋だ。


「あんたたち、あたしに話せない事情があるなら、二人で話し合いなさいよ。あたしはちょっと、外に出てくるから」


 どちらも返事をしなかった。まるで、お通夜のような空気だった。


 私はトンビアイスを冷凍庫にしまって、下の階に降り、ロビーの机で宿題をすることにした。


「きばっちょるけん」

「あ、ル爺。いたの?」

「いえそー」


 ここからは玄関が丸見えなので、当然、玄関横の椅子に座るル爺の姿も見える。


「なっちょばこんなとこっち?」

「何言ってるか全然分かんないけど、あかりとマナが話があるみたいで。しかも、あたしの部屋に居座るからあたしが出てきたの」

「まなさんど大変ばち」

「やっぱり、あたしって、あの二人の面倒見て、大変よね」

「お前も、大概だけどな」


 その声に振り向くと、一階の通路の方に、青髪の青年が立っていた。ハイガルだ。こうして姿を見るのは久しぶりな気がする。


「ハイガルや、でっちょぱす?」

「心配しなくても、一人で、行ける」

「ぞんだらばっけいっちゃんせ──」

「あんたは、俺を何歳だと、思ってるんだ。俺はもう、十七だぞ」

「そげんじっちも、おまさん目が……」

「魔力探知が使えるから、問題ない」

「──魔法ば使われむとなっちばどげずんぴゅ! ごげん昼間に!」


 ル爺が突然怒り出した。私は肩をびくつかせる。これ以上、喧嘩になるようなら、止めなくては。


「知らん。目が見えなければ、音を頼りにすればいいだろう。それに、トンビニでポンポンサイダーを買ってくるだけだ。なんで、いつまでも、ついてこられなきゃならない?」

「なづぅ口どぎぎがだぞゃ!」

「あー、あたし、トンカラが食べたいわ。ハイガル、一緒に買いに行ってくれない?」


 私はル爺とハイガルの間に立ち、仲裁に入った。

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