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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
第一章 神々の襲撃編
9/40

暴露 in 異世界

 



 湯船から上がり、脱衣所へと向かう。

 据え置きの漆黒タオルは、持っている感触があるのに目ではタオルがあるように見えないという、不思議な感覚を味わわせてくれた。

 タオルがある空間だけ切り取られたかのような、そんな感覚だ。

 身体を拭くと、包まれたその部位まで闇に消えてしまったかのような感じがした。

 このタオル、というかこの城にある黒いもの全般そうだが、どうやって作られたのかとても気になる。

 異世界でしか採れない素材を用いているんだろうが、あまりにも奇妙な感覚を与えてくるので、視覚に何らかの効果を及ぼす素材なんじゃないかとも思う。

 後で魔王に聞いてみよう。



 閑話休題(バイザウェイ)



 今から魔王に話をするが、それは黒いタオルのことについてではない。

 おれの生まれながらの欲求についてだ。

 正直、話をしてからどう転ぶかが分からないというのが本音だ。

 ビビっている、とも言える。

 だが、風呂の中で考えた通り、あいつがおれと居る理由は魔子の回復のためであって、つまりおれの性癖が狂っているからといって何が変わる訳でもない。

 ただ懸念事項としては、あいつの魔子はすぐに満タンまで回復してしまうということだ。

 実際、一晩同じ部屋で過ごした後、あいつの魔子は殆ど全快と言っていいほど蓄えられていた。

 それはゼオグリフとの戦いで消費されてしまったようだが、おれの近くで一晩過ごせば問題無く補充されるのだ。

 今は魔子回復のため傍にいるが、それが完全に終わったら、あいつの目的とやらのためにおれの元を離れるだろう。

 その時、あいつがおれの性質を知ってドン引き状態だったら。

 おれは着いて行こうとしても拒否される。

 仲間になるのであれば、やはり人格は大きな判断基準となる。取引相手では無いのだからな。

 そんなわけで、今回の暴露にはリスクが伴う。

 いや、いつでも暴露なんてモンは危険まみれだれどな。

 暴露の(その)おかげで今おれはここにいるわけだし。

 ただ、ここは前の世界より死が少し多いであろう場所で、相手は魔王だ。魔王っぽくないけど。

 それを考慮すれば、リスクは前の世界よりも少ないと思われる。


 そこで次に考えるのが、暴露によって拒絶された際、どうやって魔王と交流を保っていくべきか。その方法だ。

 これはそんなに難しくは無いと思う。

 あいつからすればおれは無限の魔子タンクだ。強くなりたがっていたあの魔王は、これから多くの戦いを経験するのだろう。

 そんな時、おれはあいつの為のヒーラーとして有用出来る。

 タンクにヒーラーって、ややこしいけども。


 それでも拒絶されたなら、まぁしょうがないな。

 生憎とあいつより俺の方が強いようだし、その時は解体させて貰おう。

 この世界には狂ったヤツなんてあいつ以外にもたくさんいるだろうしな。



 にしても、おれがこんな長々と人との関係について考えるなんて、珍しい。

 相当ビビっているな、おれは。

 そんなにあの魔王と仲良くしたいのだろうか。

 この世界に来てからそう日は経たないが、何がおれを変えたのだろうかーーーーーー



 と、魔王の部屋の前に着いた。

 中に入ると、天蓋付きベッドに魔王が座っていた。

 漆黒バスタオル姿ではなく、魔王の衣装で身を包んでいる。

 ……おや?



「魔王の服、血が取れてるな。実は水魔法使えたとか?」


「いえ。さっきお風呂に入った時、まずこの服を洗ったのよ。お風呂の水を使えばいいのを失念していたわ。貴方がゼオグリフを爆裂させるからびっくりしちゃったせいよ」


「おれのせいかよそれ…まぁ良かったじゃねーか」


「ええ、そうね」



 他愛ない会話。

 この雰囲気が、今からする話によってガラリと変わってしまうかもしれないと考えると、どうもイヤな感じだな。

 今更ウジウジ考えても仕方ない。

 暴露はすなわち博打なのだ。

 今のところこの異世界で負け無し!

 自信を持て。

 拒絶されても、こいつへのメリットを提示すれば関わりは途絶えないと信じよう。よし。



「ところで魔王、話があるんだが」


「…そうだわ、すっかり忘れてた。貴方、その呼び方はちょっと淡白すぎるとは思わない?」


「え?」


「……私の名前を教えていなかったと、そう言ったのよ」


「あーーー…忘れてたな」


「私は魔王だから、会ったことも無い人に名前を知られているというのは慣れっこなの。だから名乗るのを忘れていたけれど、貴方がそれを気にも留めないというのはどうなのかしら…」


「すまんすまん。で、名前は?」


「魔王にそんな態度で名前を聞けるのなんて貴方くらいよ…。


 …こほん。

 私の名はセレネリア・グラーヴェル・ディエザレム。

 第十六代魔王よ。

 貴方は命の恩人だから、特別に名前で呼ぶことを許可するわ」


「ほーーーこれはまた綺麗な名前だ」


「でしょう。魔王としては少し似合わないかもしれないけれど、美しくて悪いことは無いわ。それで、話っていうのは?」





「……おれの、根本(こんぽん)に関わることだ」




「…ええ」





 一拍を置く。



 少し真面目な顔つきになった魔王。



 おれの心臓の鼓動が聞こえる。



 場が静かになったからか、それとも緊張しているからか。



 柄でも無いな。





「おれは、モノを解体して中身を調べるのが好きだ」


「…」



「それを一番の生き甲斐にして、前の世界では生活してきた。解体欲は、おれが気になると思ったモノに対していつでも何にでも湧いた。それは、…人間にも。」


「…」


「ただ、前の世界でおれが住んでいた国はここより遥かに平和で、人間の死が日常的では無かった。だから、おれはその欲求を我慢して暮らしていた。」


「…」


「しかし、欲求そのものは抑えようとして抑えられるものではない。親しくなったやつは、必ず中身を見たくなる。その度に、何度も我慢を続けてきた。」


「…」


「ある日、おれの友人に暴露をした。そいつは頭のネジが外れたようなやつだったから、大丈夫だろうと思っていたんだ。その予想は外れ、おれは恐怖の目を向けられた。受け入れて欲しいと言って手を差し伸べた時、やつは殺されるとでも思ったのだろう。突き飛ばされた。」


「…」


「話をした場所は高い位置でな。そこで落ちたおれは死に、この世界へ魂だけの状態で迷い込んだらしい。女神によって身体が再生されて、こうしてこの世界に降り立ったわけだ」



「…なるほどね」



「これがおれだ。そして、前の世界で燻り続けた欲求は、この世界で爆発した。おれは女神を殺したんだ。殺して、身体を開いて、内臓を見て、頭も開いて、中身を取り出して、四肢の皮を剥いで、筋肉と骨を観察して。数時間もその女神を研究したよ。とてつもなく、楽しかった。前世で見た図鑑の内容や水死体のものとはまた違う肉体、臓器。時間を忘れる程度には没頭していた。そんな中、他の神に見つかって、慌てて逃げようと建物の外へ出た。そしたら足場は全部雲で、立てるハズもなくここへ落ちてきたわけだ」


「…」


「さて。これがおれだ。前世では何に対しても強く起こるおれの欲求を、人間に対してだけは発散させなかった。よく我慢したものだよ、おれも。自分を褒め讃えたいほどだ。ただし、この世界に来てからは違う。衝動的に女神を殺し、襲撃してきた神もバラバラにした。ただ、関係は悪化させたくない、友好関係を結びたい。そうとも考えている。狂っているだろ?おれが狂っていないと言うのであれば、狂っているのはおれ以外だ。こんなおれを見て、お前はどう思った?さて、勿論お前もおれの欲求の対象だ。魔族である上に魔王なんて、その身体に興味が尽きないのも当然というものだ。完全というほどに。もしかしたら、おれはお前をつい開いてしまうかもしれない。お前がその魅力的な姿をおれに見せる度に、おれはお前を解体したくなる。今は、別の理由で抑えられているが、いつそれも崩れるか分かったものじゃ無い。これが、おれの心の底からの本音だ。それを聞いて、お前はどうする?今の協力関係を途絶えるか?それとも、おれとは深く関わらずに、魔子と情報を交換するだけの関係で続けるか?おれはどちらでもいい。選ぶのは、お前だ。さぁ、おれの本心を聞いてどう思い、どう対応する。聞かせてくれ」



「…」



 めちゃめちゃに喋った。

 ただただ言葉を思うがまま羅列した。

 確か、カツシに話す時もこんな感じで畳み掛けたような気がする。言葉の数で圧倒すれば相手も理解しない間に頷いてしまうかもしれない、なんて思っていた。

 が、しかし。

 今考えてみれば、こんなに言葉を並べて詰め寄られて、それは逆に恐怖に繋がるものなのではないか。

 それが無ければ、カツシもあそこまでおれを拒絶することも無かったかもしれない。

 今更遅いがな。

 そうなると、今回も失敗した可能性がある。

 魔王をちらと見ると、何やら腕を組んで目を閉じて、考え事をしているようだ。

 カツシの、おれへ向ける恐怖の目が想起された。

 あの雰囲気は無い。

 無い、が、まだ安心出来ない。



 目を閉じる。

 ひたすらに、魔王の言葉を待つ。セレネリアと名乗ったっけ。

 おれは、名前に興味が無い。

 興味があるのは、ただそこに存在する肉体のみだ。

 ただ、それも悪かったのかなと思う。

 通常の人間ならば、関わる相手の名前は気になるのが摂理なのだろう。

 名前を問わないことは、不信感を産む原因になり得る。

 仲良くしたいと言いつつ、仲良くするために打つ手が杜撰すぎたな。

 後悔先に立たず。

 次から頑張ろう。



 ふと目を開けると、セレネリアがこちらを見つめていた。

 何て言われるか。ドキドキだ。

 やはり美しい顔だな。中身を見たい。




「貴方がその性格の片鱗を見せる度、考えていたわ」




 性格の片鱗を見せる度、と言うと、口が滑って「神を解体したい」的なことを言ってしまった時のことだろう。




「私は魔子による人の見極めはそんなに得意ではないけれど、王なんてやってると人の感情くらいは簡単に読み取れるようになるのよ」

「…貴方は、基本的に感情が薄いように見える。ただ、興味を持ったものに対して向ける目は、すごく輝いている。貴方が城の装飾を見る目、とても生き生きとしているわ。美的感覚もちゃんとあるのでしょうね」

「ただ、そんな貴方の感情が、一番大きく出てくる時があったの。それが、貴方がその『根本』について少し喋った時。『神を殺したい』『肉体に興味がある』。そう話した時の貴方の目は、それまでで一番感情的になっていた。そういう風に感じたわ」

「それが気になっていたの。どこか、理解の及ばないような人間だったから。まぁたった一日しか接していないのに、理解が及ばないも何も無いのだけれど…底無しの魔子を持っているということも相まって、ね。貴方を、理解の及ばない人間だと思っていた。そんな中で、貴方が見せる感情の揺らめき。知りたいと思っていたのよ、何が貴方を動かしているのか」



「言った通りだ。おれはモノを、生物を。興味関心のゆくままに解体したい。それが行動の原点だ。ただ、また別の欲求もあるけどな。それを満たして、人を殺すのはなるべく抑えている」



「ええ、理解したわ。なるほどと、そう思った。貴方がそれを話すことに抵抗感を持っている理由も分かった」



「抵抗感か…確かにあった。でも、分かるモンなんだな」



「魔王を舐めないで。私はこれでも歴代最強の…」


「はいはい、分かったよ最強魔王さん。で、言いたいことは以上か?おれとの今後の付き合いはどうする?」


「遮らないでよ、魔王の言葉を!……それに関しては、ちゃんと話すわ。黙って聞いていなさい。でも、一つだけ言わせて」


「…何だ」







「……辛い思いを、してきたのね」







「!………」




 なんだと。

 これは、この感じは…知っている。

 が、初めて言われた。

 同情ってやつだ。

 表現が少し悪いか?

 共感、とかの方がいいか。まぁ変わらん。


 この魔王、セレネリア。


 返答からして、おれの本心を聞いても大して動揺していなかったことは理解できた。

 そこでおれの気持ちが大きく安らいだことに、おれ自身驚いたのだ。やはり、おれは拒絶されるのを恐怖していたのか、と思って。

 ただ、まさか拒絶どころか同情までしてくるとは、考えが至らなかった。



「狂っていると、そう思うだろ」


「ええ。人を解体するのが好きだなんて、相当頭がおかしいわ。ただ、魔王を舐めないでって何度も言っているでしょう。そのくらい何てことないわよ。今までどのくらい戦争をしてきたと思っているの?私の方が人間を殺しているわ」


「お前の場合は、敵対しているんだから仕方無いだろ。相手も殺す気だったんだ。正当防衛。対しておれは、敵対していないお前のことすら解体したいと考えている」


「変わらないわ。私だって敵意のない無垢な人間たちの村を襲ったことがある。領土を広げる為に。つまりは、自分の為だわ。貴方とそう変わらない」


「いいや違うね。領土の栄えは国の栄え、即ち国民の栄えだ。お前は魔族を養うため、敵国を侵略する。確実に、有益なことをしてるだろ。おれは個人的なことだ。ただの趣味のためだ。殺しの重さが違う」


「馬鹿じゃないの、貴方?何が殺しの重さよ。そもそも、殺しに重さも何も無いわ。あるのは、相手が今まで積み重ねてきた人生の重さ、それを奪うことだけよ!」


「その殺しのお陰で生きることが出来るやつらが、お前の下には含まれてる。だがおれには何も無い!奪うだけ、ただ奪うだけだ。お前の殺し(それ)は、釣り合いが取れてるから意味があるんだ!」


「何が釣り合いよ!さすが狂っていると言うだけあるわね!釣り合いなんてのはこっちから見ただけの勝手な裁量だわ!相手からすれば、全てを奪われること。相手の世界は、そこで終わる。殺された時点で、その人にとっては全てが意味を為さなくなるのよ!どうして分からないの!?」


「全く分からないな!そいつにとっては意味が無くても、そいつの死の恩恵を受ける奴らにとっては意味があることだろ!死人と生きてる奴、どっちにとっての意味が大切かなんて簡単な話だ!そもそも、相手の目線で考えられるようなヤツが魔王になって戦争なんかすんな!」


「それとこれとは別の話でしょ!相手にとっては死んだ時点で全てが無意味!だから死に重さも釣り合いも無いって言ってるの!貴方と私は同じ罪を犯してる!数が多い分私の方が罪は重い!だから貴方なんかまだまだ雑魚なんだから!」


「こっちにとっては意味があるから相手の死に価値の違いが生まれるんだろうが!益が出るから殺す!お前は当然のことをしてるだけだ!」


「ああもう平行線よ!有益でも殺しは殺し!利益でしか物事を考えられないの!?この狂人!」


「魔の王が何言ってんだ!お前こそ甘いんだよ考えが!おれみたいなヤツに同情する時点で甘い!もっと警戒しろよ!」


「はぁ!?貴方受け入れて貰いたいのか拒絶して欲しいのかどっちなのよ!?友人に否定されたのが悲しかったのか知らないけど、そんな卑屈になったって受け入れてくれる人は出てこないわよ!」


「否定されて悲しいなんて感情は無ぇ!卑屈になってもねぇ!だが明らかにおかしいだろ!拒絶されるのが普通だ、おれみたいな狂人は!」




「この世界は貴方がいた世界とは違うの!貴方の世界の普通とは、全く違うのよ!」




「!!…………」




「貴方を受け入れることが出来る『普通』が、この世界には存在するの。少なくとも、私には。だから、認めなさい。この世界では、貴方は大して狂っていない。思い上がらないで!」



「………なる、ほど…な」




 今までに、前の世界含めた今までに無いほど感情的になってしまった気がする。

 冷静になれ。

 おれは、こいつに暴露する前まで、拒絶された場合のことだけを考えていた。

 それが、あっさりと受け入れられたもんだから、困惑しているのだ。…と、思う。

 わからん。

 自分が分からない。

 こんなに本気で口喧嘩したのは、初めてかもしれない。

 同情されて反発するなんて、中学生のすることだろうに…。

 そう思うとなんだか、馬鹿馬鹿しくなってきた。




「……そうだな……ここじゃあ、おれなんてまだ生物を二体しか殺してないしな」



「でしょう?私はその何百倍も、いや…それ以上に、殺している。確かな命を。こんな私に比べれば、貴方なんてほとんど一般人よ」


「ただ、そこについては認めないぞ。どこまで行っても、殺しに重さはある。生きてるヤツにとっての意味の大きさがある。お前は命を奪うと同時、別の命を保っている。おれは、ただ徒に奪うだけ。おれの方が、罪深い。それは変わらん」


「目線が違うんだし、仕方無いことね。貴方は生者から、私は死者から見ている。もうそこについて話しても意味が無いわ。でも、罪深いのを誇っても仕方無いわよ?」


「誇ってるわけ無いだろ。お前が罪人ヅラするから、それは違うと言ってやってるだけだ」


「…必要ないわ、そんなの。訳が分からないわね、本当に」


「出たそれ。『訳が分からない』って、お前の決めゼリフか何かなの?」


「決めぜりふって言うのが何かは知らないけれど、何だか馬鹿にされているような気がするわっ」


「馬鹿にしている」


「こんなにぞんざいに扱われた事なんて無いわ!私は魔王よ、魔王!異界人とは言え、王に対する敬意くらい無いの?」


「初めて会った瞬間から死にかけだったし、敬意を抱けという方が難しいだろ」


「この…っ!!いつか絶対尊敬の眼差しを向けさせて……」


「ただ」


「……っ?」


「尊敬してないなんて一言も言ってない。…今回は本当に、感謝してる。異世界に来てから、色々と面白いことが起こりそうだとは思っていたが、それを実感させてくれたよ、お前は。尊敬とまでは行かないが、すげぇヤツだとは思った。

 ありがとう、セレネリア」


「………………当然よ。腐っても貴方は命の恩人。まだ恩は返し切れていないもの」


「そうかよ」




 一件落着、という感じだ。

 おれも、自分の気持ちが何となく分かった。

 魔王に言われたことだ。

 おれは、ずっと卑屈になっていたのだろう。

 友人であったカツシに、拒絶されることで。

 おれは狂人で、他者に受け入れられることの無い異常者。

 そう思い込むことによって、拒絶されても何ら変わりないことだと自分自身で受け止められるようにした。


 けど、この世界は元の世界と比べて狂っているのだ。

 なら、相対的におれの狂人具合は下がるのだと。

 受け入れてくれるヤツもいるのだと。

 そうあいつは言った。



 魔王はやはり面白いヤツで、狂ったヤツ。

 割と常識を持ってそうだが、まぁおれを受け入れる時点で狂ってるのは確かだろう。

 おれに同情し、叱咤し、受け入れる。

 そんな存在が、この世界には居る。

 それを知れただけでも、今回は収穫と言っていい。

 この魔王に感謝しよう。



 受け入れられたことでおれの心の穴が埋まり、今まで無かったはずの感情が生まれる。

 それによって、ふと目尻に涙が浮かび上がーーーーー




 ることは無いが、この魔王を解体したいという意欲が、今までよりも少しだけ減ったようなーーーーーー




 気も全くしない。




 つまりは何も変わらないが、ただ。

 こいつを失うことはしたくないなと、そう思う気持ちが増えたような気もする。






友雄くんは、狂ってはいますが、人並みの感情を多少は持ち合わせているのです。

人と親しくしたい、という感情を。

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