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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
第一章 神々の襲撃編
4/40

マナ

 


 異世界へ転生してから何かとゴタゴタしていたせいで、落ち着いてこの世界について考える暇が無かった。

 というわけで、ちょっと考えてみよう。



 というのも、その思考に至ることになった切っ掛けがある。

 ヴォルテノンが去った後、おれは考えた。


「このままの強さで大丈夫なのか」


 と。

 前世でおれの住んでいた国、日本。

 そこでは、法が整備されており、殺人・傷害その他危害を加える行為は罪として裁かれていた。日本以外の国も割とそうだったが、まあ安全性で言えば日本はトップクラスにあったんじゃないだろうか。

 自衛隊や警察の制度も定着していて、とても安全な国だったように思う。

 この異世界に比べれば。


 何が言いたいかというと、今までこの世界で得た情報(と言ってもまだここへ来て一週間も経過していないため、その情報の程度も知れているというものだが)から推し量るに、この世界は警備システムがしっかりしている場所が少ない。

 ちゃんとした国とかに行けば整備はされているだろうが、この一面黒に覆われた森に国が出来ているとも思えない。

 いや、魔物の国とかはやっぱりあるのだろうか?

 とは言え、勝手な偏見ではあるが、魔物たちの国があったとしてもまともな法や警備システムがあるとは思えない。


 つまるところ、危険が危ない。

 Danger is dangerous.

 そういうことだ。


 日本という比較的安全な国で17年暮らしたおれからすれば、まず最初に必要だと思うのは安全だ。

 当たり前のことだけど。

 でも、この世界の基準で何が安全かがまだ分からない。

 もしかしたら、世界最高峰の安全性を誇る建物とか言って、藁の家が出てくるかもしれん。

 さすがに冗談だけど。

 神の国を見た限りじゃあ、結構文明は発達してると思う。つっても、おれが転生した神殿の造りを見るに、おれの居た世界ほど進化していないようだ。

 しかし、魔法だの何だのと掛け合わせることで、技術的には充分なレベルになっていると推測される。

 そういうわけで、魔法が存在しているために、世界の文明はまだおれにとっちゃ未知数なのだ。


 そこでおれが安全を確保する方法。

 すなわち、自分自身の強化!である。


「このままの強さで大丈夫なのか」

 とは、安全面における心配なのだ。

 おれは、出来ればこの世界では死にたくない。

 先程も言った通り、おそらくこの世界では法や警備のシステム化が為されている場所が、そう多くない。

 また、予想でしかないが、ダンジョンとか定期的な魔物の襲撃とかがあったら、死亡率は相当高いのではないだろうか。

 つまり、おれの欲求を満たしてもバレない、又は容易に隠蔽できる可能性が大いにあるのだ。

 異世界の住民にはまだ神としか会ったとこがないが、女神も言っていた通り人間以外の種族がたくさん居るのだろう。

 ならば、解剖して見てみたいというのが本音だ。

 勿論、狂った奴もいっぱい居るだろう。

 前世とは違って自由度と選択肢が増え、人生がより楽しくなりそうな所なのである。


 先程ヴォルテノンにボコボコにされたが、傷はもう治ってしまったようだ。

 しかし!しかしだ。

 もしこのヴォルテノンが神の中では雑兵程度の実力であったら。

 そう仮定した場合、おれは神々を統べる王とかに襲われたらひとたまりもないだろう。


 リスクヘッジは重要だ。

 力を蓄える必要があるのだ!

 と。そんなわけで、強くなりたいという意志を持ったその瞬間。



 カッ!!


 と辺り一面が光を放つ。

 真っ黒の大地と邪悪な木々を照らしたその光は、例に漏れず漆黒の輝きを放っていた。

 黒いのに眩しいという不思議な感覚を味わいつつも、その黒い光が止むのを待つ。

 眩い発光が停止したかと思うと、その黒光の中心であったと思われる空中に、まん丸い漆黒の球が浮遊していた。

 テニスボールくらいの大きさを保っている。

 球といっても存在がなんだか朧気で、分かりやすく適切な表現をするならばエネルギーの球と言うべきだろう。


 その黒球は、ふいにおれに近寄ってくる。

 これヤバくないか?触れただけで死にそうな見た目してるんだけど。

 そう思いつつも、興味に負けてその黒球に手で触れる。

 すると、そのまま黒球はおれの体にすっと入り込んだ。


「何だったんだ…?」


 と疑問の声を発した瞬間。


 ドクン、と体が大きく胎動した。

 身体すべてが心臓になったような感覚である。

 あ、やべ死んだ?

 なんて錯覚を起こしたが、結果はその逆。

 急激に、知覚能力が上昇したのだ。

 具体的にどれほど上がったのかというと、空気中に漂う粒子のようなモノが見えるほどに。

 目良くなりすぎじゃね?と一瞬思ったが、きっと違う。

 この粒子、恐らくは「マナ」的なものだ。

 魔法の存在する世界では常識のようなモノ。呪文を詠唱し、マナを実体化させて使うことで魔法とする。典型的な、異世界の概念だ。

 それを知覚出来るようになった、とすると、さっきの黒球は多分マナの塊か何かだろう。

 それを吸収したために、おれの体の感覚器官に刺激が与えられ、マナを知覚出来るようになった。

 的なやつだ。多分。きっと。



 これが今に至る経路だ。

 ここで一番最初の思考に戻る。

 この世界について、だ。

 と言っても国同士の情勢や地理的なモノじゃなく、この世界の根本について。

 空気中に蔓延る粒子。先程から呼称しているように、今は「マナ」とする。

 そのマナは、この世界でどれほどの役割を果たしているのか。空気中に大量に存在していることから、もしかしたら空気でいうところの窒素のように、呼吸など生命維持に必要なプロセスに大きく関わらないモノであるかもしれない。

 その逆で、酸素のように無くてはならないモノかもしれない。


 考えるだけでは無駄なので、もう一度さっきの黒球を生み出してみることにした。

 条件は多分理解している。

 先刻と同様、「強くなりたい!」と念じてみる。

 するとどうだ。

 またもや黒い光が勢いよく周囲に照らされ、収束し黒球が現れた。

 これは、強い意志に反応して生まれるのだろう。

 意思に連動するということは、もしかしたら自分の脳や体全体にもマナが満ちているのかもしれない。それは果たして可視化出来るのだろうか?



 ふと、今生み出した黒球に目をやる。

 すると、先程生み出したものがテニスボール大だったのに対し、今回はピンポン玉程度の大きさになっていることに気がついた。

 なるほど。恐らく、空気中に漂うマナが凝縮して生成されるのだ。先程作った一つにより、おれの居る辺りの空気中のマナが減ったのだろう。結果、小さい黒球しか作れなかった。

 その黒球を吸収し、もう一度念じてみる。

 すると今度は、一円玉くらいの大きさの球が生まれた。

 それもまた吸収、そしてまた生成…ということを繰り返して行けば、一切黒球が生まれなくなった。

 この辺りの空気中のマナが枯渇したのだ。

 その状態で暫く周囲の様子、また自分の様子を見てみる。

 おれ自身になんの問題も無し。

 呼吸も、しづらくなったりとかは全く無い。

 周囲の木々や地面にも一切影響ナシ。

 おれ以外に何体か生物がいればもっと精度の高い結果が出せたのだろうが、仕方ない。

 このマナの無い空間で変化が無かったことから、マナは生物や物体の維持に必須なものではない、と結論付ける。

 そんでもって、どうやら空気中のマナが枯渇しても、そこに他の場所からマナが流れ込むことは無いらしい。

 数十分経過した今でも、あの黒球を作り出すことは出来ない。


 というわけで、場所を変えてまた実験開始。

 また同じように念じてみると、今度はなんとバスケットボールサイズの黒球が現れた。

 ふむふむ。

 場所によって空気中のマナの濃度が高い場所とそうでない場所があるらしい。

 黒球を吸収しつつ、場所をまた変えて生成してみる。

 それを繰り返していると、マナの濃度が高まる場所には法則性があることが分かった。

 というのも、一定の方向に向けて濃度が高くなっていくのである。

 マナの実験を一旦やめ、その方向に進んでいくことにした。

 飽きたからでは決してない。

 おれの勘が声高に主張しているのだ。

 この先には面白いモンがあるぞ!と。

 決して飽きたからでは、ない。



 と思ってしばらく進むと、森が開けた。

 森の先にあった光景に、おれは圧倒された。



 そこには、巨大な丘が広がっていた。

 森の中の黒い地面とは違って、禍々しい紫を彩る草が広い草原を成している。



 その巨大な丘の中心に。



 黒という色の権化と言われても違和感が無いほどの、黒に染まった建造物があった。



 その建物は、幾つもの尖った塔の集合体のようであった。



 まるで世界の漆黒は全て我に有り、とでも宣言するかのような黒々しさ。

 輪郭すらぼやけるその黒い建造物は、悠然と丘の中心に建っていた。



 これまた、一つのモノが連想される。

「魔王城」。

 その言葉が、この建造物ーーーー否。

 この荘厳な城には相応しい。



「おお…っ」



 思わず感嘆の声を上げてしまった。

 今まで黒いと思っていた森を、もはや黒とは思えないほどの純粋な黒。

 おれの背後に佇む森は、殆ど黒色や紫で構成されていて、感想は「禍々しい」の一言に尽きる。

 しかし、その魔王城は、もはやその域を超越しているのだ。

 黒すぎて、美しい。


 この方向に進むように進言してきたおれの勘には、感謝せざるを得ないな。

 そして、気になった実験の続きだ。

 黒球を生成してみる。

 すると、ピンポン玉程度の大きさのものが現れた。

 ふーむ。

 こっちに近づくにつれて黒球は大きくなっていったというのに、城の近くに来た途端マナが減った。

 実験は難航した…かに思えたが、違う。


 周囲に目を凝らして観察してみると、夥しい血痕や折れた武器のようなものが、紫の草の陰に隠れて在ったのだ。

 理解。


 ここでは、絶え間なく争いが行われている、もしくは大きな争いが最近起こった。

 その争いでは魔法が幾度となく使われ、ここら一帯に元々豊富にあったマナは減ってしまった。


 恐らくこういうことだろう。

 にしても、やはり期待を裏切らない魔王城。

 しっかり争いごとをしてるようだ。




 そして、唐突に、されど城を目にしてからずっと燻っていたであろう好奇心が湧き上がる。



 この城についてもっと知りたい。

 この城の主に会いたい。

 出来ることなら、その中身も。




 そうして、おれは徐ろに美しき魔王城へと歩みを進めるのであった。


もう70PVにも到達していて、とっても嬉しいです。

拙文を読んで頂いてありがとうございます。

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