一日
「メイジィ学園長。魔法使えるようになりました」
初日の授業を終え、放課後。
前日まで「魔指」の感覚すら掴めなかったため、今日からメイ爺にそれを教わるという予定だったのだが…魔王によってそれは解決された。
そのため、メイ爺と会って開口一番に伝えたのである。
「……………?………」
「ほら」
全く理解していない様子だったので、実際に魔法陣を描いて見せる。
すると、そのまま硬直して動かなくなった。
「なのでもう学園長のご指導は必要ありません。あ、私がすぐに魔法を使えるようになったことは他言無用でお願いします。というか出来れば私が目立たないように手配して頂けるとありがたいのですが」
「……あ、あぁ……君が望むならそうしておくが………いやいや、目を疑ってしまうよ」
「実は元々魔指を使えるようになってたんですよ。それに気づかなかっただけで」
「ああ……そういうことか………それならば有り得る話だ。魔法を使えるのなら問題は無い、これから学園で精進するように」
「はい。色々とご教授頂きありがとうございました」
軽く会話を済ませてメイ爺とは別れた。
これで彼と関わる機会も少なくなるだろう。
だがおれが目立たないように手を回すことも了承してくれたし、もう彼に用は無いので良しとする。
最初から大幅にスキップしてしまったが、学校の授業の方はというと中々面白いものだった。
前の世界の高校と同じく科目ごとに異なる教師がやってきて授業を行うのだが、その科目の種類が相当多い。
魔法の種類ごとに授業が分けられているのは勿論、魔法歴史学や魔子学などもあって盛り沢山である。
今日やったのは殆どが魔法基礎の復習だが、上級魔法の魔法陣構成などについても軽く触れたので楽しくなりそうだ。
そして、メイ爺との会話を終えたおれは第四魔法技場へと向かう。
「遅いわよ!」
刺々しい声と共におれを迎え入れたのは、五星のクイン先輩。
魔法技場のど真ん中で仁王立ちするその姿は美しく、やはり造形だけで言えばあの魔王にも匹敵するほどである。
「すいません。用事があったんですよ」
「この私との約束に遅れてまでする用事って何よ?五星の私と一対一できるなんて誉高いことなのよ!」
「それ自分で言っちゃダメでしょう…学園長との約束ですから仕方ないんですよ」
「とにかく、もう始めるわよ!まず十本勝負!!」
「それが終わったら『先に相手に魔法を当てた方が勝ち』の勝負しません?おれ昨日やっと魔法使えるようになって、まだ慣れてないんですよ」
「先に当てた方なんてなまっちょろいこと言わないで!倒した方の勝ちよ!」
「そしたらおれの圧勝でしょう。練習にならない」
「この……!やってみなさいよ!!」
その日は、暗くなるまでクイン先輩と戦った。
ちなみに普通の勝負では全勝。
魔法当てた方勝ちゲームでは、やはりというか先輩の方が圧倒的に魔法発動が速く、全敗してしまったが。
改めて五星の強さを実感した今日であった。
ちなみに同じく学校に来たラミィはというと、クラスの女子たちに揉まれて商業区画へ遊びに連れてかれた。
おれと離れていると思考能力が下がるらしいが、まぁ遊ぶ分には知能なんて要らん。心配は無いだろう。
「………………はぁ………」
「さすがに疲れた……。にしても凄いですね第四魔法技場。魔子の回復も出来るんですか」
「…………そう。王都の技術が惜しみなく使われてるのよ。でもさすがに肉体の疲労までは回復出来ないけど」
「あ、そうだ先輩。おれのこと誰にも言ってないでしょうね」
「当たり前じゃない。約束は守るわよ、というかそうでもしないとあんた来ないでしょ」
「いや…意外と魔法の練習になるんで、クイン先輩と毎日こうするのも悪くないなと思い始めてますよ」
「あっそ」
力尽きるまで散々戦った後は、魔法技場に二人で寝転がって適当に喋る。
これから毎日これをやる予定だが、思ったよりも中々良い魔法の訓練になりそうなのだ。雑談は要らんけど。
戦闘そのものに関してはクイン先輩と戦ってもあまり伸びないものの、魔法だったら慣らすのに丁度良い相手だからな。
「……………聞きたくないけど、聞くわ」
「何です?」
「あんた何なの?」
「おれもおれが何なのか断定するのは難しい」
「そういうことじゃないわよ!何でそんなに強いのか聞いてるの!」
「んーーー…」
おれが異世界人だと話すべきか。
いやでも情報が漏れたら面倒なことになるのは確定だし、その必要も無いからな…。
先輩はおれのことを黙っててくれると言ってるけど、異世界人なんてビッグな情報を与えてしまうとそれも崩れかねない。
というかそもそも信じて貰えない可能性があるし。
あの魔王ですら伝説上の存在だと思っていたらしいからな。
「才能ですよ才能」
「ムカつく……!!だから聞きたくなかったのよ!」
「でもそれ以外に理由が?」
「無いでしょーね!………でも私が敵わない程の才能の持ち主が、なんでこんなとこに」
「魔法に関してはからっきしなんでね。セレネ………魔王様に聞いたらここが一番良いって言われたんですよ」
「…………………何でもいいわ。とにかく、そのうち絶対あんたを手も足も出なくさせてやるから」
「楽しみにしてますよ」
淡く夕焼けが残る夜空の下、ボーッと二人で他愛ない話をする。
部活終わりのような雰囲気があって、これぞ青春って感じだ。
悪くない。
「それじゃ、そろそろ帰ります。お疲れ様でした」
「ん」
返事とも取れない声を聞きつつ、第四魔法技場を去る。
おれの学園生活初日は、まぁこんな感じで終わった。
クイン先輩に余裕で勝てるとは言え、魔子は殆どが指輪に取られている状態だ。
だから何十戦もすればさすがに疲れる。
ここまで身体的疲労が溜まったのは異世界に来て初めてかもしれない。
そう………だから。
夕闇の中、こちらを見る気配には気付かなかったのだ。




