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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
第二章 魔法学園編
35/40

呼び出し

 





 可憐な狂人シャルルと共に、校内を見て回ることにした。







「ガスプ先生、間隔の長い当事者だよね!」



「ああ。何だかんだ生徒のことを考えてくれそうだよな」




 シャルルは、固有名詞はまともに言えるようだがそれ以降が意味不明になる。

 なのでおれも名前を聞いてある程度察した上でテキトーに答えている。

 彼女の反応を見るに、今のところは会話が成立しているようだが…いかんせんもどかしい。

 心を読む能力とかが欲しくなるな。

 つっても心の中まで理解不能だったらお手上げなんだが。

 そういえば神界から盗んだ能力石版の中に、確か「全てを見通す力」的なものがあった筈だ。

 それを手に入れられれば…


 …………いや、ていうか完全に石版のこと忘れてた。

 魔王城の森に散らばっているのだと思うが、色々起こりすぎて探すのを忘れてしまっていたな。

 あの森に行くヤツなんてそうそういないと思うが、盗まれたりしたら面倒なことになる予感しかない。

 とは言っても授業も始まるから取りに行く暇なんて無いし…なんで忘れてたんだおれ。


 とはいえ一旦置いておこう。

 今更どうしようも無いしな。



 そうして色々考えつつ、シャルルとの会話も楽しみながら校内を歩いて回っていると、なにやら前方に人だかりが見えた。




「あれ、なんだろ?」



「随分といるな」



「強調してみよう!」




 一階にあるラウンジのような広い空間にて、何十人もの生徒たちが集まって騒々しくしている。

 雰囲気からして、誰かを囲んでいるような感じだな。

 有名人が来てるとか。

 おれとシャルルがそれとなく人混みへ向かうと、段々生徒たちの声が聞き取れるようになってきた。

 すると無視しがたい名前が耳に入る。




「クイン先輩!今日はどうして学園に来られたんですか!?」


「クイン先輩、握手…握手お願いします!!」


「クイン様……こっち見てーーー!」




 五星「銀棘」クイン・ヘルナー。

 目を刺すような銀髪が、群がる生徒たちの中心に見える。


 クイン先輩がここまで人気だとは…。

 そういえば、五星ともなると学園だけでなく王都の中ですら有名な人物だという話だったな。

 ならば、今日入学したハズの生徒たちが彼女のことを知っていてもおかしくはない。

 知っているどころかアイドルのような扱いまでされてるように見える。




「クイン先輩だ…!側溝に沈む二重螺旋、簡略的だね!」




 シャルルも彼女を知っていたようで、その姿を見て目を輝かせている。

 何を言っているか分からないが、クイン先輩はシャルル含め多くの人に好かれているようだな。




「ちょ…あんたら、どきなさいよ!私やることあるんだけど!ちょっと!!」




 当の本人はというと、生徒たちに押し留められて身動きが取れなくなっている模様だ。

 生徒たちはテンションが上がるばかり、彼女の言葉が耳に入っていない。

 クイン先輩もここまで大人数にせめ寄られるとどうしようもなくなるんだな、と思って少し笑ってしまう。




「あ!!!あんた!!ちょ、助けなさいよ!!」




 シャルルが押し潰されないように守りつつ、生徒の群れに紛れて先輩を眺めていたら…偶然おれを見つけた先輩が声を掛けてきた。

 面倒だ…。

 知らない人のフリでもしようか。


 なんて思ってそそくさとこの場を去ろうとすると、クイン先輩が声を掛けたことによって生徒たちが一斉におれの方を向いた。

「クイン先輩の知り合い?」「誰?」「どこ?」みたいな感じで生徒たちがザワつく。

 ここまで人気のある先輩の知り合いともなると今後みんなの印象に残ってしまう可能性が高い。

 何としてもここで地味ムーブしないと。

 くそ…やってくれたな先輩。




「あ、は、はい…皆さん、クイン先輩を通して頂けませんでしょうか。彼女困ってますよ」




 物腰の弱そうな雰囲気を演じつつ、先輩を解放するよう訴えかける。

 すると、生徒たちは我に返ったように先輩に道を譲った。

 クイン先輩は、ため息をつきながら空けられた道を歩いて去っていく。

 そんでもって生徒たちの視線は去る彼女に釘付けだ。

 …よし!

 もう皆おれのことは眼中に無いだろう。

 ショボいヤツのように振る舞うことで…つまり、クイン先輩の輝きに消される程度の存在感を演出することで見事地味ムーブを成功させた。

 まぁ元々目立つ人間じゃないからな。

 良かった。




「あんた、十分後に屋上に来なさい」




 胸を撫で下ろしかけたその時、クイン先輩が振り返って何事か喋った。

 生徒が大勢いる中だが…さっきの流れからして完全におれを指している。

 というか完全におれのことを見ている。


 そして、彼女の視線を追うように生徒たちの目もこちらに集まってしまった。

 くそったれぃ。




「分かりました」




 一応返事をするが。

 彼女がその場を去るや否や、生徒たちが今度はおれに押し寄せてきた。

 雪崩のようである。

 先程この生徒たちに揉まれて困り果てていたクイン先輩を笑ってしまったが…これは確かに身動きが取れない。

 ………にしてもやってくれたな先輩。

 もうおれに何の用も無いだろうに、何故呼び出しを。




「クイン先輩とどういう関係!?」


「きみ何組!?」


「屋上で何するの!!!??」




 質問攻めと質量攻めにあってシャルルが目を回しているので、仕方無く「ラーク」を使って人混みに紛れる。

 そのまま彼女を連れて何とか群衆の外に出ることが出来た。




「すまんなシャルル、先輩から呼び出し食らった。今日のところは校内探索終わりにしよう」



「いいよ!それより、クイン先輩と断行してたんだ!いつ差し終えたの?」



「おれ実は『魔王推薦』でな。その時の試験官がクイン先輩だったんだ。それで知り合った」



「そうだったんだ!」




 いつ、というワードだけから「いつ知り合ったの?」という問いだと断定して答える。

 これまた正解だったようだ。

 シャルルは何と言うか…言葉において漢字の部分だけが狂っているような状態なので、やはりある程度は察することが出来るのだ。


 彼女とは充分話すことが出来たし、なんなら明日以降も席が近いから交流は続けられるだろう。

 というわけで今日のところは大人しく先輩の呼び出しに応じておくことにする。


 そのままシャルルとは別れ、屋上へと上っていく…が、先程群がっていた生徒たちの一部がついてきてしまっている。

 野次馬的な精神で来ているだろうし邪魔する気は無いのだと思うが、おれとクイン先輩の交流を何度も見られるのは困る。

 印象に残らないようにするために、彼女との会話を見られるのは一度か二度で済まさなければならないのだ。

 ……クイン先輩………わざわざみんなの前で屋上に来いと言ったり、もしやおれに嫌がらせをしているんじゃ無いだろうか。

 初っ端から舐めた態度で接したのは確かにキレられて当然だが、おれとしてはビンタされたことでもうトントンになったと思っている。

 彼女としてはまだおれをボコし足りないのかもしれないが、これ以上関わろうとしないで欲しいな。

 ……正直、今は五星の他のメンツに興味が行ってるのだ。



 うんざりした思いを抱えつつ、屋上へ辿り着いた。

 群衆を引き連れて。

 いや引き連れたつもりは無いんだけども。


 この学園は屋上への出入りが可能らしく、特に施錠はされていない。

 重々しい鉄製のドアを開けると、広い屋上の中心にクイン先輩が立っていた。




「こっち来なさい」




 屋上に足を踏み入れたおれに棘のような視線を刺して、彼女はそう言い放った。

 彼女に向かって歩いていく…が、さすがに野次馬の生徒たちはこちらまでは来ないらしい。

 そのまま全員帰ってくれないだろうか………なんて思っていると、クイン先輩が小声で言葉を発した。




「人の目が無いところに行くわよ。ついて来なさい」




 なるほど、屋上に呼び出したと見せかけてここから更に移動するという作戦だったのか。

 クイン先輩は恐らく生徒に群がられることが多々あっただろうから、対処法もある程度考えついているのだろう。

 そう感心していると、徐に先輩が屋上から飛び降りた。

 ザワつく生徒たち。

 この強気な先輩のことだし急な自殺の線は薄い。

 つまり、何十メートルもの高さから飛び降りても平気だというわけだ。

 ここで安易におれも飛び降りてしまったらみんなの記憶に残ってしまうだろうが、有難いことに彼らは飛び降りたクイン先輩の方に注目している。

 おれは少し離れた所から「ラーク」を使いつつそっと飛び降りた。


 クイン先輩は既に着地。

 見たところ、着地の瞬間に何らかの魔法を使っていた。

 落下衝撃を軽減する魔法…的なヤツか?

 衝撃を和らげる魔法を基礎の内で習ったが、それでは到底落下ダメージは防げない。多分その魔法の上位互換だろう。


 屋上から校庭に着地した先輩は、そのまま建物の陰に隠れながら走っていく。

 おれはそれを追い上げてすぐ後ろについた。

 彼女の向かうままについて行くと、おれが彼女と戦った第二魔法技場が見えてきた。

 校舎の屋上を見るが…生徒たちはおれらの姿を見失ったようで、誰もこちらに気付いていない。

 クイン先輩もそれを確認したと思ったら、第二魔法技場の脇で魔法を使った。

 あの魔法陣は…「開放(ハルア)」に似ている。

 だが何か別の要素も加えられているな。

 そう思って魔法を観察していると、何も無い場所に突然扉が現れた。

 彼女はそのまま魔法行使を続け、扉が開く。




「………入りなさい」




 彼女の誘導するままに扉へ入る。

 すると、そこには第二魔法技場ほどの広さを持った空間が広がっていた。




「…ここは?」



「五星にだけ使用が許される、第四魔法技場。五星は全員強すぎて、普通の魔法技場じゃ耐えられない場合がある。だから特別に王都の中でも最高峰の耐久を持つ魔法技場が用意されてるの」



「なんでおれをここに?」



「…」




 おれを呼び出した理由を聞くも、無視して空を見つめるクイン先輩。

 腕を組んで目を閉じたかと思いきや上を見上げる。

 しばらくそんなことを繰り返していたが、一つため息をついてから意を決したように口を開いた。




「あんた……私と本気で戦いなさい」



「ほう」




 何故彼女との戦いで手を抜いていたことがバレたのか…とは思わない。

 おれも下手くそだったと思ったのだから。

 最初にクイン先輩の一撃を食らった時は特に身体を弱体化しているわけでは無かった。

 つまり、魔王の二倍ほどの魔子を身体強化に使っていたため相当の耐久力があったのだ。

 だというのに二撃目に突然脆くなったのだから、彼女とて違和感を覚えないハズもない。

 自分の耐久力を変えられることを思い出したは良いものの、そんな急に変えるべきでは無かったのだ。

 お陰で実力を隠していることが見抜かれている。

 …だが、ここは敢えてトボけさせてもらおう。




「何故ですか?おれは試験の時に本気で戦いました。そしてボロ負けしたじゃないですか」



「……しらばっくれるつもり?あんた、最初は異常に硬かったじゃない。それで本気を出したらあっさりやられるし…加減を間違えたと思って謝ったけど、よく考えたら絶対あんたが何かやったんだわ!」



「いやいや何を根拠に」



「私の速度についてこられたのが証拠よ!さっき私、本気で走ったんだけど!あんたが雑魚なら、なんでついて来られるのよ!」




 徐々にヒートアップしてく先輩。

 何ともないように先輩について行ったが、実の所おれは試されていたのか。

 先輩は何らかの魔法を使って本気の速度で走っていたのにも関わらず、おれは特に何も変わりなく追いついた。

 おれが実は強いのでは無いかという疑問が芽生えていた彼女は、おれを試すことで確かな根拠を得たのだ。

 …ぬかった。




「………一本取られましたね」



「あんた、魔法一切使ってなかったわよね!どういう体してるのよ!」



「それは言えませんな」



「………生意気ね…!!

 ……………いや、いいわ。その理由については追求しない。

 というより、力づくでも喋らせてやるわ」



「えー」



「えーじゃない!私と!本気で!戦いなさい!!」



「……じゃあ一つだけ絶対に約束してください」



「なによ!」



「ここで負けたことは一切他言無用で」



「言うじゃない…!」




 おれが恐れているのは、彼女と本気で戦って一方的に倒してしまった場合、先輩が言いふらしたりしないかということだ。

 いや、この負けず嫌いな感じのクイン先輩が自分の敗北をわざわざ人に伝える道理は無いのだが、万が一もある。

 少しでもおれが強いという情報が流れるのは嫌なのだ。




「もちろん誰かに言ったりしないわ!まぁ、あんたが勝てばの話だけどね!!」




 そう言った途端、先輩の姿がブレる。

 腰に差しているのは相変わらず木剣…だが、先輩が動き出す瞬間にいくつもの魔法陣が描かれ、その木剣の圧が変わった。

 真剣すらブッタ斬りそうなパワーを帯びる木剣。

 それを瞬時に腰から抜き去り、こちらへ刃を振るってきた。



 恐らく彼女の本気であろうその一撃は、試験の時に受けた攻撃よりも圧倒的に速い。

 試験の時は本当に手加減していたんだな…なんて思いつつ、首を狙う木剣を右手の手刀で叩き折る。

 ……だが、折れなかった。

 上から振り下ろしたおれの手刀は木剣にヒットするも、それを地面に打ち付けるだけに留まってしまった。



 気付けば先輩が目の前から消え、魔子の動きが背後に感じられる。

 木剣は即座に捨てて魔法攻撃に入ったか。

 果たしてどんな魔法を使おうとしているのか?



 振り向けば巨大な魔法陣を描いているクイン先輩。

 自身よりも数段大きな魔法陣をどうやってこの一瞬で描いたのか。

 思えば先程も、木剣に魔法強化をする際指で描いたとは思えないほどの速さで描き切っていた。

 指は確かに動いていたが、ちゃんと魔法陣の通りに動いていなかったような気もする。

 そういえば魔王も一瞬にしてデカい魔法陣を描き上げていた。

「魔指」を使って魔法陣を描くことで魔法が使えるハズだったが、もしやその魔法陣を描く過程を短縮出来る方法があるのか。

 これも授業で知れるのだろう…待ち遠しいな。

 まぁ、まずはおれが「魔指」を使えるようにならないと意味がないんだが。



 そうしてクイン先輩が魔法陣を描き終えるのを待っていると、どうやら完成したようだ。

 二、三秒しか経っていないのに、七つの円から成る巨大な魔法陣を完成させた彼女。

 そのまま身体の魔子を魔法陣に流し込んだ。



 魔法陣の中を魔子が瞬時に駆け巡り表出したのは、氷。

 彼女の魔法によって、無数の氷塊が生み出されたのだ。




 生み出された勢いのままにこちらへ飛んでくる氷塊の雨。

 いや、嵐と言った方が適切だ。

 この威力…おれくらいの耐久力が無ければ簡単に粉々にされてしまうだろう。

 ちなみに、氷塊をまともに食らい続けているおれの身体にはほとんど傷がついていない。




 降り注ぐ氷塊を身体に受けつつも、またもやどこかへ消えたクイン先輩を探す。

 周りを見渡すが人影は見られない。



 ならば上。



 見上げると、先程叩き落としたハズの木剣を振りかぶる先輩がいた。



 知らんうちに拾っていたか。


 それはいいとして、すごい氷魔法も見れたことだし…早いところ終わりにしよう。




「ーーーああぁッ!!!」




 気合いの入った声を張り上げつつ、今までに無い速度で剣を振り下ろす先輩。


 更に魔法を重ねがけしたのか、木剣の纏う魔子が物凄い力を帯びている。



 その木剣を素手で受け止めた。



 さすがに彼女の全力に無傷で対抗できるほどの力は無いようで、受け止めた右手からは血が出る。

 だが全く問題無い。



 木剣をいとも容易く掴まれ目を見開いたクイン先輩、その一瞬の隙を突いて腹にパンチを一発入れる。

 顔面が一番ガラ空きだったが、まさか美しい顔を殴打などで崩すような無粋はしない。



 おれのパンチを受けた先輩は、そのまま吹っ飛ばされて魔法技場の地面を転がっていく。



 てか魔法技場なのにバリバリ物理攻撃使ってるわ。

 まぁ、この身体能力も魔子を使ったものではあるから…魔法としてカウントしても別にいいか。

 それはどうでもいいとして、広い魔法技場を転がっていった先輩は壁にぶつかる直前というところでストップした。


 …本気でやれと言われたので普通にぶん殴ったが、先輩大丈夫だろうか。

 さすがに「乾きの指輪」とやらでパワーは激減しているので先輩が爆発四散するなんてことは無かったが、これでも魔王二体分の力がある。

 さすがにやりすぎたか…?

 と思って彼女に駆け寄る。




「先輩、大丈夫ですか」




 地面に伏す先輩に声を掛けるも、反応が無い。

 やらかした。

 先輩を起こして壁を背に座らせる。

 目を閉じているが…気絶してるだけか?

 胸に耳を当てて心音を確認………………生きている。

 良かった。




「…………ん…………」



「あ、先輩よかっ」



「何してんのよ!!!離れなさい!!!」




 ぶん殴られた。




「なんで殴るんですかひどい」



「あ、あんたこそ何で私の胸に顔うずめてたのよ!!気持ち悪い!!!何なのあんた!!」



「いや心音確かめてただけですって」



「き、きもいわよ!!お腹殴られたくらいで死ぬわけ無いじゃない!!!」




 顔に当たる胸の感触は確かにスゴいものだったが、それを目的としていたわけでは無いのだ。

 過剰反応しすぎでは…と思ったが、さすがにおれもデリカシーが無かったか。

 とはいえキモイと連呼されて絶賛傷つき中だ。

 一応心配したんだけども。




「とりあえず…ごめんなさい」



「許さないわよ!!近寄らないで!!」




 自分の身を抱いてこちらを睨んでくるクイン先輩。

 視線が痛い。

 普段から刺すような視線を向けてくるのに、完全に非難の意図を持った彼女の目はもう剣山ですら劣るほどの威力だ。

 彼女に嫌われるのはまずい…が、目立つのを避けるためにもここら辺で縁を切っておく必要があるかも。

 ここは穏便に済ませたい。




「………それはそうと、どうです?本気で戦いましたよ」



「……………………」



「これでおれへの用事は無くなったでしょう。先程失礼を働いたお詫びはいくらでもします。なのでそこからはもうお互い関わらないということで………」



「だめよ」



「はい?」



「あんたには、これから毎日付き合ってもらう」



「…………と、いいますと」



「放課後、ここで毎日私と戦いなさい!」




 嫌すぎる。

 彼女を解体したい気持ちがおれの中で常に渦巻いているが、それはセレネリアに向ける顔のためにも出来ない。

 そして彼女の性格や行動はもう大体理解した。すぐキレるけどそこまで狂ったヤツじゃない。

 つまり、おれのクイン先輩への興味は半ば失われている状態なのだ。

 開きたい気持ちは全く減ってないんだけども。


 だというのにそれと毎日戦わなくてはならないのは些か面倒である。

 魔王の手伝いもあるだろうし。

 クイン先輩から魔法を学べるかもしれないが、それは学校の授業で事足りることだしな。




「いやです」



「拒否権はないわ!」



「それは相手より強い人のセリフでしょう」



「ぐ………っ!うるさい!いいから黙って従いなさい!!頷くまで毎日言ってやるわよ!?」




 何だってんだくそう。

 この勢いだと本当に毎日おれに迫ってくるような気がする。

 教室にでも来られたら面倒すぎるぞ。


 これを承諾すると、毎日時間を取られるが他言されない。

 先輩と関わらないと、場所を選ばず毎日おれのところにやってくる。

 どちらが良いかと言われれば…前者、なのだが。




「毎日おれと戦うとして、先輩の体力は持つんですか?今だってだいぶ消耗してるハズじゃ」



「節穴なの?見なさいよここ!」




 クイン先輩が自身の腹を指し示す。

 おれのパンチによって制服すら損害を受けて破れてしまっているが、その奥に見える白肌には何の傷もついていない。

 疑問に思っておれの右手を見てみると、先輩の一撃を食らって血が出たはずの手のひらが完治していた。

 現在魔子量の関係で自己再生能力は失われているのだが、それでも回復しているということは…?




「この第四魔法技場は、強力な治癒魔法機構が併設されているのよ。だからある程度の傷はすぐ治るってわけ!」



「なるほど」



「だから毎日よ!やるわよ!」




 治癒魔法機構が設置されている…か。

 魔法機構とは術者不在でも発動する魔法のことで…恐らくはこの場にいると常に傷が癒される状態になるということだろう。

 ならばクイン先輩側の問題は一切無い。

 面倒だが…普段の学園生活で彼女に絡まれる方が不都合が多い。

 いっちょ付き合ってあげるとしよう。




「分かりました。…ただ、普段はあまり話しかけないで下さいね。あと、おれと関わりを持っていることを他言しないこと。これらを約束して下さい」



「わかってるわよ!でも強いからって調子乗らないで!ここでの先輩は私なんだから!」



「はいはい」




 とりあえずおれが目立つことのないように約束を取りつけて、承諾した。

 ま、デメリットだけでは無いし…クイン先輩との交流もできる限り活かすとしよう。



 明日からは学校の授業、「魔指」を使えるようになる練習、クイン先輩の相手、そして魔王の手伝いと…忙しくなりそうだ。












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