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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
第二章 魔法学園編
33/40

魔法

 






「そもそも、魔法とは何か」







 黒板らしきものに魔法で図を描いた学園長。

 そこには、人体と魔法陣が描かれていた。

 人体は正面から見た姿で、両手を肩の高さまで上げている。




「歴史が判然としていない古代期。その時代のある瞬間に、自身の身体を駆け巡るモノに気付いた者が居た。彼はそれについて興味を持ち、その究明に時間を費やした。その結果、それは世に遍くあらゆる生命・物体が内包しているものだと分かった。…今やこの世界で知らぬ者はいない、『魔子』である」




 黒板に描かれた人体の中を、魔子を示すと思われる光が巡る様子が示された。

 おれはそのまま、黙ってメイ爺の話を聞く。




「彼は魔子の研究において、あることを発見した。それは、魔子が思念に反応して動きを見せるということ。『魔球』の形成も、彼が発見したものだ。魔球を吸収し、彼はひたすらに強くなっていった。

 そして彼が人生の半分を既に終えた時。彼は指先に何かの存在を感じた」




 描かれた人体の指先に丸い光が映される。




「その感覚はすぐに消えてしまったが、意識を集中すればまた存在が浮かび上がってくる。彼はその感覚を段々と掴んでいき、遂にはそれを完全に掌握したのだ。だがその指先の何かが、どんな働きをするのかは全く分からない。……途方に暮れていたある日、彼が研究結果を書き記していた時にそれは起こった」




 メイ爺がまた別の魔法を使うと、人が文字を書いている様子が描かれた。

 その文字と指先は光で繋がっている。




「文を書いている途中、突然指先から魔子が流れ出した。その先にあるのは、丁度その時書いていた文字。彼が疑問を浮かべた次の瞬間、文字を書き記していた書物が炎に包まれていたのだ!


 …これを機に、彼は文字と魔子の関係を研究し始めた。今で言えば魔法学においてその根幹を成す重要な古代文字だが、かつてはただの意思疎通方法。彼はそれまで文字に目が行かなかったのだ。

 彼が文字と魔子、それと指先の存在を掛け合わせた研究を始めた…それが魔法世界の始まりである!」




 堂々と言い放ったメイ爺。

 黒板の図はそのままに、雰囲気を変えて説明を再開する。




「………歴史の説明はここまで。これからは、『彼』の発見から人々が発展させてきた魔法の詳細を話そう。


 まずは、指先の存在について。


 これは魔法陣を描くための特別な器官。

 それに意識を集中させると、魔子が集まる。

 そのまま指を動かすと、魔子を使って筆記具のように記すことが出来るのだ!

 その器官には魔子同様、既に名がついている。

 魔なる指と書いて『魔指』だ」




 初耳すぎるものが出てきた。

「魔指」……魔子を集めて字を書ける器官。

 恐らくそれで魔法陣を描き、魔法を使っているのだろう。

 魔法陣は魔子で構成されている。そのため、皆は魔子をそのまま操って魔法陣を描いていたのかと思っていた。

 しかし魔王によれば、魔子をそれほど細かく操るのは不可能だという。実際おれが魔子で魔法陣を描こうとしても、難しくて未だにちゃんと描けない。

 だから魔法陣を簡単に描く方法について一切見当がついていなかったのだが…。

 まさかそれ専用の器官が指先に存在していたとは。

 おれは一度も感じたことが無い。




「魔指は魔族、人族、獣族など…あらゆる人類の身体に生まれつきあるものだ。ただ、その知覚が非常に難しい。普通に過ごしていればまず気づくことは無いだろう。

 だが時代を経て、魔法が必須となった今…教育は大幅に変わった。魔子の知覚から魔指の使用までを、生後二十年程度までには完了することが一般的になったのだ。

 ちなみに、人族や獣族は生後十年ほどだ。

 魔族は他族より寿命が大幅に長いため、他族よりも遅い習得となる」




 つまり、この世界では幼少期から魔法を使えるように教育され始めるということか。

 人間や獣族なら十歳くらいまで。

 魔族なら二十歳くらいまでに、魔法を使えるようになると。




「それで、トモ君。事情は魔王様がお伏せになったが、君は幼少期からの魔法教育を受けられなかった状況にあったと察する。年齢は五十ほどだと聞いているが、今から魔指の感覚を掴むのは時間が掛かるだろう。

 よって、今は魔法の知識だけを教えることにした。

 実際に魔法を使うための教育は、もっとじっくりと行う」




 おれの年齢が五十歳って…なんてこと言ってんだあの魔王。

 と思ったが、そういえばおれは今魔族の設定なのだ。

 魔族と人族を見分けるのは難しいようで、おれは魔族だと疑われていない。

 だが生きてきた年数で言えば、魔族にとっておれは幼児みたいなものだろう。

 魔族の間では、五十歳くらいが高校生の年齢なのだ。

 よっておれも年齢を偽る必要がある。

 五十歳が高校生…字面だけで見るとすごい。


 それと、おれが魔指を知覚するのは時間が掛かるらしい。

 吸収が早い幼少期の方が感覚を掴みやすいというのは、何に置いても共通することである。

 おれは大幅に乗り遅れてしまっている状態なのだ。

 なので、魔指を実際に確認するための時間は今は取らないとのことだな。


 ………………ちなみに。

 さっき話を聞いてからずっと指先に意識を集中してみているが、全く魔指とやらの気配は感じられない。

 何気に……というかめちゃくちゃショックだ。

 なんだこの無力感…大量の魔子を持っているというチート能力持ちなのに、魔指を感じる程度の才能は無いのか。

 くっ…悔しい!




「ふ…先程から魔指を感じ取ろうと頑張っているようだが、難しいだろう?みな親や師匠からの教えを経て感覚を掴む。現代において自力で魔指を知覚出来るようになるなど、それこそ魔王様ほどのお方にしか出来ない偉業。トモ君には明日から私が教えるが、そう簡単に行くとは思わない方がよい」



「明日からの授業に参加するには魔法の基礎を習得しなければならないと仰っていましたが…魔法が使えないままでも良いんですか?」



「ああ。習得、というのは誤解を招く表現だったな。必要なのは、魔法の基礎知識を身につけることだ。学園の最初の二週間は、知識に関する授業だけを取り扱う。つまり、君はその二週間の間だけは実際に魔法を使えずとも良いということだ」



「ということは、逆に二週間で魔法を使えるようにならないといけないということですね」



「あぁ。だが安心したまえ。君を一週間で魔法が使えるようにしてみせよう。私はそれなりに自信があるのだ」




 自慢げに話すメイ爺。

 学園長というほどの者だし、教育には優れているのだろう。

 魔子量も、クイン先輩より余裕で多い。これまた相当の実力者だ。

 この人の元で教われば魔法を使えるようになる気がする。




「というわけで、君の感覚を掴むための練習は後回しだ。今からは、魔法基礎の知識を全て教えていく。大量の知識だ」










 それから約二時間、ノンストップで魔法の基本を叩き込まれた。



 …さすがに疲れた…。

 この二時間の授業を全て記すわけにはいかないので、概要だけでも説明しておくとしよう。



 古代期に「彼」とやらが発見した魔法。

 魔指で書いた古代文字に魔子を流し込むことによって、魔子の変質化・具現化が起こり魔法が完成するらしい。

 かつてはただ魔指で古代文字を書いていたのだが、効率化のためにその形を変えていき、今の魔法陣が出来上がったと。

 魔指で書かれたものを魔子がなぞるように通るという法則があり、その魔子の流れを損なわないために円状になったという。


 魔法陣の基本の形は、二重の円の中心に一つの図形があり、それを囲むように古代文字が円状に書かれているというものだ。

 中心の図形は五芒星・六芒星だったり、四角形や三角形、バツ印とかもあった。その図形の種類によって魔法の形式が変わるらしい。

 円状に書かれた古代文字が魔法の大元。

 文字の意味がそのまま魔法になるらしく、古代文字を覚えることが魔法習得の第一歩なのだとか。

 中心の図形と古代文字の他にも模様はあるが、それは魔法陣を通る魔子が動きやすいように作られた道。

 図形と古代文字を定型通りに描けば、それ以外の模様は各々の判断で描いても魔法は使えるらしい。



 以上が魔法陣の基本だ。

 基本二重の円だが、魔王やガルヴ村の人達が描いてた魔法陣は四重だったり五重だったりした。

 おそらく、円を増やして古代文字を多く書くほど魔法のクオリティが上がっていくのだろう。


 その魔法陣の基本を教えられた後は、実際に使われている魔法を覚えさせられた。

 この魔法学園に入学するためには、魔法陣を四百は覚える必要があるのだという。

 それらを全て爆速で説明されたのち、実際に描く形で試験を行った。

 結果は…とりあえず全問正解。

 古代文字も教えられたものは殆ど覚えることができた。

 だが、さすがにこれで終わりというわけにはいくまい…と思っていた、その時だ。




「………本当に、覚えられるとは」




 愕然とした様子で解答用紙を見つめるメイ爺。

 もしやこれが魔法の基礎の全てなのか、と拍子抜けした気分になる。

 ………が。

 よく考えれば、四百個の魔法陣を見てすぐ記憶できるというのは異常だ。

 おれはそれなりに頭が良いが、そこまで記憶力があるわけではない。前の世界の学校では、試験などで大した点数を残すことは無かった。

 だというのに、魔法陣に関しては見ただけで四百個全て覚えることができた。

 客観的に考えて…いやそうでなくとも明らかにおかしい。

 考えつく所があるとすれば、大量の魔子保有による影響か。

 だが魔子を多く持っていたところで魔法に関する記憶力が上がるだろうか?


 …とりあえず、魔法を学ぶ能力が高いことに感謝はしておくとしよう。




「これで魔法の基礎は終わりですか?」



「…あぁ。多少残ってはいるが、それらは全て既存の魔法陣の組み替えなどによるものだ。今教えたものが出来るならば問題ない。これで君は、授業に参加出来る程度に魔法を学んだと言えよう。………いやはや…実に驚いた」




 四百の魔法陣を学んだということは、四百の魔法を使えるようになったということ…ではない。

 どうやら二つの魔法陣を組み合わせて成立する魔法もあるようで、それらを差し引けば大体使える魔法は三百五十といったところか。

 にしても多い。

 無論のこと、興味の湧く魔法がいくつもあった。

 特に「切開(シーラ)」や「開放(ハルア)」辺りが非常に試したい魔法だ。

 ラミィを保護した時に、おれの腕を食わせるために魔王に使ってもらった「断絶(シーレン)」の下位互換であろう「切開(シーラ)」は、モノの中身を見るのにピッタリな魔法だ。

 また「開放(ハルア)」は、これまた魔王が使っていた「開拓(ハルアラ)」の下位互換で、工夫すれば使い所が多そうな魔法である。

 あとはシンプルに炎魔法だったり雷魔法だったり、厨二心をくすぐりまくるカッコいい魔法も沢山あった。

 是非とも早く使いたい。


 新たに学んだ魔法の数々に胸を踊らせていると、メイ爺が黒板の図を消して教壇から下りた。



「終わって早速だが、入学式の準備に行ってくる。トモ君とラミィ君も、遅れず向かうように。会場は中庭だ」



 そう言葉を残して教室を出ていく。

 中庭で入学式というのはあまり聞かないな。

 でも今日は晴天だし、新鮮で良さそうだ。


 ふと思って、授業の間ずっと良い姿勢のまま寝ていた獣少女に声をかける。




「ラミィは魔法習ってたんだよな。どこまで使えるんだ」



「基礎は大体教わったよ。ほとんど忘れたけど」



「いやダメだろ忘れちゃ。戦いで使わないのかよ」



「身体強化魔法とか、よく使う魔法とかはちゃんと覚えてるよ。使わないなら覚えても意味無い。無粋」



「まぁ…確かにそうかもしれんが」



「あとラミィは、トモについてきただけで、熱心に魔法を学びたいわけじゃないから。レナには悪いけど」



「まぁお前は別に強くなる必要は無いしな…。いざとなれば『獣の本能』とやらがあるんだろ」



「うん」



「あんまり目立つなよ」



「うん」




 よくよく考えると、ラミィは獣族の中で暫定最強なのだ。

 そんなヤツが魔族の学校に通うなんて、今更というか…あまり必要性を感じられない。

 ラミィもあまり戦闘で魔法を使わないようだし。

 しかし彼女が生徒と普通に実戦などしてしまうと、恐らく一方的な試合になる。

 ラミィと常に一緒に居る身としては、相方が持て囃されて目立つのはまずいからな。

 彼女には大人しくしていて貰いたいものだ。




「少し早いけど中庭行くか。生徒観察もしたいし」



「わかった」




 特にやることも無いので、入学式の場へと向かうことにする。


 魔法の基礎については十分学んだ。

 次はそれを使えるようになることと、応用…また応用よりも上位の魔法を覚えていくことだな。

 そして、ヤバい奴を見つけて仲間に入れることも励みたい。



 そんな感じで学園での目標を改めて確認しつつ、校舎を歩いてゆくのだった。











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