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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
第一章 神々の襲撃編
27/40

村での日々 〜魔王の変化〜

 





 魔界において魔王城に最も近い集落、ガルヴ村。

 神族の攻撃によって甚大な被害を受けたその場所では、復興作業が着々と進んでいた。


 村が全焼してから約二十日が経とうとしているその日も、村人たちや魔王機動隊の面々が家屋の建設や道の整備に勤しんでいる。


 ただ、彼らよりも遥かに忙しない人物が居た。



 第十六代魔王、セレネリア・グラーヴェル・ディエザレムである。



 彼女は歴代魔王の中でも最高峰の魔子量・魔法技術を持っており、魔界において彼女にしか出来ないことが多くある。


 そんな能力の高い彼女だが、本人の性格ゆえに人を助けずにはいられないのだ。

 現在はガルヴ村に滞在しそこで復興に助力している。

 しかし、日夜多くの問題や要求が国の各地で発生する。

 そのため、村の復興活動に加えそれらの問題にも対応しているのである。

 そんな生活を続けているうちに、彼女に疲弊が見え始めた。


 それも当然だ。

 そもそも、勇者と神族との戦いで城に居た部下は全滅し、彼女自身も瀕死になった。

 そこからとある事情で一命を取り留めたとはいえ、部下を失った心の傷と身体の疲労は癒え切っていない。

 魔子さえあれば身体を保てる魔族だが、消滅しかけるまで魔体が傷ついたとなれば、魔子を吸収するだけではそう易々と回復しないのだ。

 そこから更に村を守れず無力感に打ちひしがれ、立ち直ったそばから今度は復興作業に魔子を注ぎ込んでいる。

 限界を迎えない方がおかしい。




「………はぁ…」




 若干の目眩を感じて、一旦足を止める。


 彼女は今現在、村から少し離れた場所まで徒歩で来ている。

 飛行魔法を使うまでもない距離だったが、彼女は失敗したと感じた。

 魔子を勿体ぶらずに速い手段を使うべきだった、と。

 その考えは合っていた。

 彼女が感じている疲労は魔子により回復するものではなく、魔体の根本的な疲弊だ。

 時間を置いて休ませないと癒えないもの。


 …だが、今は休んでいる暇などない。

 彼女にとってやるべき事は膨大にあり、時間は今こうしてフラついている間にも刻々と過ぎ去ってしまうのだ。

 そう言い聞かせ、再び歩き出す。



 しかし、目眩はまだ収まっていなかった。




 よろける身体。




 バランスを保てず、前方に倒れてしまう。




 まずい、と思う暇もなく今にも転ぶ……その瞬間。





「大丈夫か」





 誰かの腕で支えられた。


 見れば、出会った時から波乱ばかり生む人物が、彼女を押さえていたのだった。


 当然のような顔をして、魔王を助けるこの男。


 彼の名は、友雄。

 この世界ではトモと名乗る、異世界からの漂流者である。




「ありがとう、大丈夫よ」




 魔王と向き合う形で彼女の肩を支えていた彼は、その言葉を聞くと手を離した。




「疲れてるだろ。お前がやる必要の無いことまで背負うな。おれが代わりにやればいい」



「…貴方がこの世界の生まれなら、そうしていたでしょうね。けれど貴方はまだ全然世界のことを知らない。貴方が出来るような力仕事は、ほぼ全部貴方に任せているわ。他のことは無理。だから、大丈夫よ」



「何が大丈夫なんだよ…。今倒れそうになってたじゃねーか。そんなんじゃこの先やってけない」



「……分かったから、もう大丈夫よ。仕事の分担についてはまた後で話すから。とりあえず村に戻ってなさい」



「………」




 トモは、それを聞いて何も言わず去っていく。

 つい突き放すようなことを喋ってしまった、と魔王は後悔した。


 というのも、彼女はこの頃自分の様子がおかしいと感じ始めているのだ。


 鼓動が強くなる。


 彼と接すると、鼓動に乱れが生じるのである。

 本当に若干ではあるが。

 百年以上も王としてやってきた彼女にかかれば、その程度の乱れを表に出さず平然と話すことは可能だ。

 だが、問題はそこではない。

 自らの心臓の拍動に乱れが生まれる、これは自分が彼と関わることに対して動揺しているのだと。

 そう、彼女は結論づけた。



 魔王からすると、彼は二百年生きてきた中で最も強く、そして唯一魔王が守る対象では無い人物だ。

 守る必要が無いと感じているのは、無論その強さ故だが…もしかしたら自分は、彼を危険だと認識しているのでは無いだろうか。

 そんな不安がよぎる。


 彼は殺しに躊躇が無く、自ら生物を解剖したがる。

 狂った人間だと、そう思う……が。

 彼は友人に殺されたと思ったら突然この世界にやってきて、何も知らないまま神族に襲われているのだ。

 …原因は彼自身にあるとは言えど。

 ともかく、絶対に困っているであろう彼を、放っておくわけにはいかない。

 それが彼女の性質であるのだから。


 だというのに、自分は彼と話すことに動揺を覚えている。

 これはいけない。

 自分より力を持つ者は神族くらいであり、それらを警戒する意識が自然と神族以外の強者に対しても向いてしまっているのではないか。

 そう思い、自分を咎める。

 彼は確かに殺しを平然とする異常者で、そんな人物が圧倒的な力を持ったら恐ろしいのは確かだ。


 だが、この数十日の間、彼が味方に危害を加えたことなどあっただろうか。


 死にかけの自分を助け、柱神の襲撃も退け、親友のラミィも保護した。

 倒れた自分をまた救い、村でも危ないところを助けてくれた。

 復興作業の間も支えてもらっている。


 思い返せば、魔王になってから命を助けられるなんてことは初めてかもしれない。

 幹部や軍の皆には日頃から助けて貰っているが、それとはまた違った方向。

 自分はもっと彼に感謝をするべきなのだ。

 彼がいなければ死んでいた場面が多すぎる。

 …そんな彼に、危険を感じるなど。



 先程は鼓動の乱れを感じたため無理やり彼を帰らせたが、余りにもぞんざいな扱いをしてしまった。

 自分が動揺しようと関係無い。

 彼には、真摯に接するべきなのだ。




 そう思いながらも歩いていき、定位置につく魔王。


 魔王はこの村に、防御魔法機構を作ろうとしていた。

 魔法機構とは、術者不在でも魔法が働く特殊な魔法形式であり、防御魔法機構は設定した強度を保つ魔法障壁のようなものだ。

 これから、ガルヴ村を囲むように防御魔法機構を設置していく。


 魔法機構の制作は非常に精密な魔子操作を必要とするため、集中しなければ完成は難しい。

 だが彼女も、国随一の魔法機構製作者とまではいかないが、相当の技術を持っている。

 普段なら失敗は無い………ハズだった。



 疲労、それと先程トモと接したことによる少しの動揺で、集中が切れる。



 魔法機構の魔法陣は膨大なエネルギーを有しているため、製作途中に乱れると暴発してしまうことが多々あるのだ。

 それが、今起こってしまった。



 魔法陣が光を放ち、魔子が爆発する。



 今日はとことん駄目だな、なんて思いつつも防御魔法を展開しようとするが…間に合わない。

 甘んじて爆発を受けるしかないと目を瞑る。




 次の瞬間、爆発音が響き渡るも…自分は無傷だった。




「だから言ってるだろうが…ポンコツ魔王」




 また、トモが彼女を助けたのだ。

 彼は魔王を横抱きに抱えて、一瞬にしてあの場から抜け出した。




「………ごめんなさい。迂闊すぎたわ」



「もうこのまま持って帰る。無理にでも休ませるぞ。心配だからこっそり後をつけたおれの身にもなってくれよ」



「………………」




 まただ。

 鼓動が乱れる。

 彼に横抱きにされて、密着している分強く。

 心配だから、なんて言われて…彼が自分のことを「大切だ」と言ったその瞬間がフラッシュバックする。

 鼓動が、また少し強くなる。




「………わざわざ抱きかかえたままで行かなくてもいいでしょう。私のこと舐めすぎよ。子供じゃないわ」




 動揺を誤魔化すために、強く当たってしまう。

 彼女は、トモに対して度々()()()()を出してしまうのだ。

 何も考えず、したいことをしていた昔の自分の、乱暴な態度。

 自身が強者となった今ではあまり出ない。

 …が、自分よりも圧倒的に強いトモを前にすると、つい威張ってしまうのだ。

 馬鹿にする態度を取ってくる彼も彼だが、反応する自分も自分。

 どうしても変えられない。




「歩くだけでフラついて、魔法の設置もミスる。これを子供じゃないって言えるか?」



「…う、うるさいわね!いいから下ろしなさいよ!」



「いいや駄目だ。強制的に休ませる。今からテントに運ぶが、そこからしばらく出るな。寝ろ。睡眠は大事だ」



「…………っ」




 抵抗するが、離れられない。

 魔法機構の設置は明日にでも出来るし、自分でも少し休息を取るべきだとは思うが…

 この状態は、良くない。

 彼の顔がすぐ上にある。何を考えているか分からない表情。

 鼓動がますます強くなっていく。

 何故自分は彼を見て動揺してしまうのか。

 甚だ疑問だ。

 考えすぎて、頭の血の巡りが早くなる。

 顔が熱い。








「よし、少し揺れただろうが…高速でテントに着いたぞ。入って寝ろ…………ん?お前顔ちょっと赤いな。熱出たんじゃないか」



「………えっ?……ね、熱なんて無いと思う…けれど。知恵熱よ、多分」



「病気してくれた方が休ませる口実出来ていいんだが…」



「そんなこと言わなくても、ちゃんと休むわ。さすがに私もこのままじゃその内崩れると思うもの」



「というかもう崩れ始めてるぞ。まぁいい、休めよ」




 そう言うと、彼はテントから出て入口を閉じた。


 ……未だに、鼓動が乱れている。

 本当に自分は熱があるのかもしれない。

 そう思い込んで、魔王は色々な憂いを一旦置いて睡眠に入ったのだった。






 それはまだほんの小さなものだが、確かな変化だ。

 彼女がその変化…「動揺」の正体を知るのは、まだ少し先の話となる。











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