村での日々 〜ハントとフート〜
「よぉボウズ!お前魔法使わずに瓦礫運んだんだって?やるじゃねぇか!」
村の残骸の撤去を行った日の翌日、オッサンが話しかけてきた。
この人は確か…ハントという名前だったか。
自国の王様にタメ口をきく、恐れ知らずの中年である。
まぁ、あの魔王には恐ろしさの欠片も無いが。
短く切られた茶髪に、乱雑に生えた顎髭。
筋肉質で図体がデカい。
ただ、いつも勝ち気な顔でニカッと笑っているので、気のいいオッサンって雰囲気がある。
「ハントさん……だったっけ?おれは魔子が多いらしくて身体が丈夫なんだよ。ハントさんは創造魔法を使えるって言ってたな。出来れば教えてほしい」
「創造魔法は大変だぞォ!魔子をモノに変えるコツを覚えるのに俺は三年も掛かった。道のりは長ぇ」
「そんな大変なのか…」
「ああそうだ。自慢になるが、これでも若い頃は王都でドカドカ名声を上げてた身でな。魔法は得意な筈だったんだが、まさか習得に何年も掛かるたぁ思わんかったぜ」
「なるほどなぁ。じゃあ創造魔法使うとこだけ見せてよ。魔法陣覚えるから」
「おうおう、俺の魔法を見たい時にそんな態度で頼むヤツは初めてだぜ。いい度胸したガキだ」
「あ、そういうのいらないです」
「あんだとォ!?」
キレたような口調だが、雰囲気に全く棘が無い。
ハントはおれの馬鹿にしたような態度に敢えてノッてくれてるらしい。
良いオッサンだ。
「…ふ、何してるのよ貴方たち」
おれとハントのやり取りを見て、通りすがりのセレネリアが話しかけてきた。
「魔王様!調子どうだ?また昨日みたいに落ち込んでねぇだろうな」
「昨日のことは忘れなさい。…貴方こそ、奥さんと息子さんを亡くしたんだからもう少し落ち込んだらどうなの?」
「おいおい酷ぇ言いようだなぁ!もちろん辛いぜ。ただこの危険な地に居る以上、覚悟はしてた。あいつらを守れなかったのは、大分……キツいがな」
「………私こそ、この村を守るべきだった。でも後悔しても遅い」
「ああ。神族ならある程度相手出来たんだが、獄炎には対抗出来なかった。…なら、今すぐにでも強くなるべきってことよ。これ以上失わんためにな」
「……ええ、そうね。でもやっぱりいつも通り振る舞えるのは貴方とフートくらいのものだから、貴方も積極的に村の人達を元気付けていってちょうだい。こんなことを頼まれるほど、平気ってわけじゃないだろうけれど…」
「大丈夫だ。任せろよ、魔王様」
魔王は、このハントに相当の信頼を置いてるらしい。
妻と子供を失った身だというのに気丈に振舞っている彼は、普段から頼りがいのある存在なのだろう。
それとは真逆と言うべきか……彼とは違う意味でいつもと変わらない人物がハントさんの傍にいる。
「ま、魔王様……王都に警戒令を出しましたか……?」
気弱そうで、いつもハントの陰に隠れている男。
ハントより幾分か若いその男は、名をフートという。
彼も今回の火事で家族を失ったハズだが、魔王によればいつもと全く様子が違わないらしい。
家族が大切では無かったのか、それともメンタルがめちゃくちゃ強いだけなのか。
いや、メンタルが強いは無いな。
この男…いつも何かに怯えたような目をしているのだ。
「ええ、一応国中に神族の襲撃を警戒するよう指示はした。けれど直接私が各地に行って話さなきゃ受け入れない人達も居るし、防御魔法機構も強化しないといけないから…やることはまだ沢山あるわ」
「王都は、大丈夫ですかね……?」
「あそこの防御機構については今のままで問題無いと思うわ。元々神族の襲撃をある程度想定して作ったもの」
魔王との会話の中では、王都の心配ばかりしている。
王都にこそ真に大切な人がいるのか。
…まぁどうでもいいか。
おれがフートを見ていると、彼と目が合った。
するとその瞬間、彼の体内の魔子が速く巡り始める。
心臓の鼓動と同じで、恐らく動揺すると速くなるのだろうが…これは、警戒されているのか?
「ああ、フートにはまだ紹介していなかったわね。彼はトモ。ある事情で私と同行している、とだけ言っておくわ。…今回襲撃してきた神族を倒してくれた人よ。あまり邪険にしないでね」
「……そうですか」
急に言葉がしっかりとしたものになったフート。
キョドりっぱなしだった彼がおれを見て突然変化するのは、果たして何が原因か。
何にせよ、彼は少し不気味だと感じざるを得ないな。
「神族を倒したってのか?!ボウズ、只モンじゃねぇと思ったが…そこまで強いヤツだったとは。どうやって倒したんだ?」
「魔子量が多くて身体能力がズバ抜けてるから、特にひねりも無い蹴りを横っ腹にぶち込んだだけだよ」
「魔王様、マジ?」
「まじよ。信じられないでしょうけど、それほどの魔子を彼は持っているの」
「『加護』を貫通するってのか…?恐ろしいな、ボウズ」
セレネリアは、おれについて深くは教えないらしい。
異世界人という説明を加えるだけで話がつくと思うのだが、それを言わないってのはそういうことだ。
ちなみに、おれの蹴りを食らって気絶した神族はというと、しばらくしたらセレネリアに似た容姿が段々と変化していった。
女か男か分からない、短髪で中性的な顔つきに変わったのだ。
そんでもって未だに目を覚まさない。
魔王が強力な緊縛魔法を使って拘束しているため、意識が戻ったとしても大したことは出来ないだろう。
今は神王に監視されているだろうし迂闊なことは出来ないが、なんとか気絶してるうちに解剖してみたい…。
「ま、この話は置いておきましょう。とりあえず、彼は魔法が使えないけれどよく動けるわ。村の復興にも大きく貢献してくれる。貴方たちが仲良くするのはとても良いことよ」
「あぁ、このボウズ若ぇクセに俺みたいなオッサンのあしらい方を分かっていやがる。仲良くやれそうだぜ。なぁボウズ…いや、トモ?」
「おれはこんなオッサンと仲良くしたいわけじゃねー」
「おいコラ!思い切り突き放してんじゃねーよ!」
「ふふ」
何はともあれ、これから村を復興してくに当たって関わりの多そうな人物だ。
気のいいオッサンで良かった。
フートの方は、まぁ不気味ではあるが今のとこ無害なのでオーケー。
解剖する選択肢は無いし、仲良くやっていくとしよう。
もちろん他の村人たちともな。
その後、創造魔法とやらを見せてもらったり若い頃の武勇伝を教えてもらったりと、充実した時間を送れた。
それからの日々でも、復興作業をしつつ同じようなテンションで話をして、彼とは親しくなっていったのだった。
フートの方は、相変わらずおれに変な態度を取っていたけどね。




