出発
村の復興を始めてから、約一ヶ月が経過した。
その一ヶ月でなんと村は殆ど復元されたのである。
驚くべきは、家を建てる速度。
魔法で生み出した建材を魔法で接着して組み立てていくという、魔法の世界ならではの方法で作業が進められた。
建材は人力で運んで設置しなければならないため皆魔子の消費は激しかったが、家一軒がたった数日で完成するほどの速度だった。
元々の姿をおれは知らないが、村人たちの達成感に溢れる様子から見て、元の村と遜色ない良い場所を作れたのだろうと思う。
広場や道の整備なども村人たちは完璧にこなし、あの焼け焦げた更地の面影はもはや無い。
にしても一ヶ月で復興が終わるとは…。
魔法の力が凄いのか、村人や増援が優秀なのか。
いずれにせよ、前の世界との圧倒的差異に驚かされる。
この一ヶ月、中々楽しいものだった。
意外とクセの強い村の人達や増援のメンツとも仲良くなれたし、密かに毎日行っていた魔球吸収のお陰で魔子の操作も洗練され、非常に実りある生活だったと言える。
ラミィの方も、金髪お坊ちゃまのセスタと親睦を深めたようで、彼にすっかり懐かれている。
………そして。
「ここから王都まで自律人形で約三日。それから二日後に、入学試験が始まるわ。貴方たちは入学試験を受けずに、別の形で入学することになる」
「おう」
「うん」
村人たちがサプライズで作ってくれた家のリビングにて向かい合って話す三人。
この家は村を手助けしたおれたち、それと魔王への普段の感謝として、自由に使っていい旨を伝えられた。
セレネリアが笑顔で感謝を述べる姿を見て、村人たちは大層元気付けられた様子だった。
「けどラミィ……本当に貴女も魔法学園に入るの?」
「うん。トモについてく」
「確かに貴女もあの学校では色々と学べるでしょうけれど………まぁ、問題は無いわね。くれぐれも私の生徒たちを食べないように」
「分かってる。そんな無粋はしない」
おれが魔法学園に入学するということで、ラミィも同じく入学することになった。
ラミィが何故ここまでついてこようとするかについては………後々。
「そろそろ移動用自律人形が来るわね。それじゃあ二人とも、準備して」
「りょーかい」
「りょうかい」
移動用何某の速度は分からないが、ここから三日かかるというのには正直驚いた。
魔王城の森を抜けた所に魔族の国があるという話だったが、なるほど王都がすぐ近くにあるというわけでは無いらしい。
魔王城と王都がそんな離れてていいのかと思って詳しく尋ねてみると、どうやら王都には魔王城とはまた別の王城があるらしい。
魔王城の存在意義とは…という疑問はとりあえず置いとくことにする。
村の広場へ繰り出すと、村人たちが出迎えてくれた。
「おう魔王様!気ぃ付けてな!」
「ハントとフート。…ええ。貴方たちも、神族に気をつけて。何かあったらすぐに連絡してちょうだい」
「ま、魔王様……この十人だけで、村は大丈夫なんでしょうか…?」
ハントにいつも引っ付いているフートが、心配そうに尋ねた。
「王都から警備を呼ぶから、襲撃があれば彼らが戦ってくれると思うわ。でもいざとなったら、アレを使って対抗して」
「は、はい」
「トモも、獣王さんも、達者でな」
「おう。ハントさんは……別にどうなってもいいや」
「んだとこのガキぃ!」
「ふふ」
生意気に接してもノリ良く返してくれるハントさんと、そのやり取りを見て少しだけ笑ってしまうセレネリア。この光景も、この一ヶ月で随分と見慣れたものになった。
気のいいオッサンであるハントと対照的に、フートはおれのことを少々警戒しているきらいがあるが…まぁ多分もう関わらないし気にすることはない。
「お姉ちゃん…村から離れてほしくない………」
「セス」
死んだ母と、一度村に帰ってきたものの仕事の都合上王都に戻らなければならなかった父に代わり、一ヶ月の間ラミィがセスタの面倒を見ていた。
ラミィが出発した後は村人の元で育てられることになるが、復興の後半になる頃にはラミィにべったりだった為、彼の心の内はなんとも寂しいものだろう。
ちなみに、獣族は相手を名前で呼ぶことに大きな意味があるため、それ以外の相手はあだ名というか愛称で呼ぶらしい。
ラミィはセスタのことを「セス」と呼んで親しく接している。
「セスは強いから、ラミィがいなくても大丈夫」
「でも………寂しい………」
「ラミィはまた来るから。それまでに、もっと強くなって、ラミィを驚かせて。ね」
「…………………………」
「じゃあね」
涙目のまま俯いてしまったセス太を優しく抱擁するラミィ。
知らぬ間に、良い姉になっているじゃないか。
……ここで血を見せたらどうなるか…体が疼くほどやってみたいが、流石に感動シーンを邪魔するほど無粋では無い。
これまた我慢だ。
「魔王様。お身体を大事になされますよう」
「ファルス。また色々仕事してもらって、助かったわ。また頼むわね」
「ありがたきお言葉。不肖ファルス、精進致します。
…トモ様、ラミエル様。この度はお世話になりました。感謝致します」
「ああ。ファルさんも頑張ってな」
「こちらこそ」
金髪イケメン・ファルスはというと、魔王が親しく接する相手は非常に丁寧扱っているみたいだ。
魔王を崇めているとすら表現できるその忠誠心は、なんとも素晴らしいものである。
今更だが、増援の人達の正式名称は「魔王機動隊」というらしく、魔王の要請によって素早く任務をこなすエリートチームなんだとか。
そのリーダーであるファルスは魔族の中でも相当の猛者なようで、その実力は幹部にも匹敵するほどだという。
そもそも聞いたところによると、飛行魔法を使える人は魔界でも数少ないらしく、飛行魔法を使えるということが強さの指標にすらなり得るらしい。
おれは凄い人達と一ヶ月過ごしたようだ…。
その他の村人や魔王機動隊の人達とも別れの挨拶を交わしていった。
彼らの名前や詳細については割愛する。
まぁ、大体全員と仲良くなれたというのは言っておこう。
肉体作業は、人と人の繋がりを強くするもんだ。
「それじゃあ、皆元気で!」
「もちろん!」
「魔王様も、気をつけて!」
「頑張ってください!」
「トモも元気でな!」
「セス。またね」
「絶対強くなるから!お姉ちゃん!」
馬車に似た形状をした移動用自律人形とやらに乗り込み、村人たちと魔王機動隊に見送られながら出発した。
窓から外を覗いてみると、爽やかな風が吹いて草が穏やかに揺れている。
この快適な草原と村の雰囲気はとてもいい物だった。
たった一ヶ月しか居なかったが、離れるとなると多少惜しさも出てくる。
暇になったら、リラックスしに来てもいいかもな。
ただ、それは相当先の話になるだろう。
何故ならおれは今から、多くのことを学び、経験するのだから。
魔法習得…この世界を知る…ヤバいやつを探す…あとここまでずっとお預けになっていた魔族の肉体解剖などなど、王都に行ってからやることは盛りだくさんである。
魔法を知っていくことで、この世界でのおれの視野はもっと広くなるだろう。
ここから加速していくのだ、おれの異世界での生活が。
第一章完、です。
たくさんの人に見て頂いて、恐悦至極!
ここからは、村での一ヶ月の様子を写した番外編を何話かお送りします。




