向かうは
落ち込む魔王にビシッと言ってやった。
おれの言葉を受けて、セレネリアはキッパリ気持ちを切り替えたようだ。
翌日の朝には既に普段の様子を取り戻していた。
早朝に起きてきた村人たちを集めて、魔王が話す。
「みんな!昨日は情けない姿を見せて悪かったわ!…本当に辛いのは皆の方なのに、気を遣わせてごめんなさい。でも、皆もそんな辛気臭い顔さっさと止めて、この村を立て直すわよ!今はとにかく前を向かなきゃ!」
腰に手を当てて堂々と言い放つ魔王。
急に配慮が無いこと言い始めたな…とは思ったが、まぁこれくらいが丁度良いだろう。
それを聞いた村人たちも、少し顔色が明るくなった気がする。
「ああ…やっぱ魔王様は元気な方が良いわ」
「そうですね……。今はまず、村の復興を頑張りましょう!」
「でも魔王様、お忙しいのでは?私たちのことを手伝う必要は…」
「野暮なこと言わないで。目の前の貴方たちより優先することは無いわ。私もこの村を早く直したい。ここは、良い所だから」
セレネリアが鼓舞しただけにしては、やけに村人たちの立ち直りも早すぎるとは思うが…。
やっぱりこれだけ危険な土地だから、彼らもいざと言う時の覚悟はしていたのだろうか。
あと、それほど魔王への信頼が厚いということか。
こんなに民と親しいヤツが魔王だなんて、笑える話だ。
考えるより動けということで、早くも今日から復興作業が始まった。
魔王に呼ばれ、例のごとく飛行魔法を使ってやってきた増援の人達。
そんな彼らが今回持ってきたのは、大量の宝石である。
鮮やかな紫や赤に輝く美しい石……だが。
正確には宝石では無い。
魔王によれば、これは「魔石」。魔子を蓄えた鉱物らしい。
触れると魔子をゲットできる仕組みかなと思いきや、なんとこの鉱石の中には液体が詰まっているらしい。
それを経口摂取することで、魔子を吸収出来るのだとか。
「この魔石とやら、どうやってできるんだ?液体を包むように作られる石なんて聞いた事ない」
「『魔原石』っていう特別な鉱石に対して魔子を大量に送るの。そうすると、内側の方から段々と液体化していって魔石になる」
「元は石かよ…。そんなん飲んで大丈夫なのか?」
「害は無いわ。ただ、味に関しては絶望的ね。砂利でも食べた方がマシってくらい」
「ああー…漢方薬みたいな感じか。それを我慢して飲んだ暁には?」
「魔子が大量に摂取出来る。拳くらいの大きさの魔石を飲めば、常人なら全回復するわ」
「おお、効率良さげだな。それをあんなに沢山か」
見れば、増援の人たちが持ってきた魔石はどれも拳大のサイズで、尚且つ百個はありそうだ。
「灼けてしまった村の残骸をどかすには、力技しかないから。みんなで協力して魔法で動かすの」
「あっ、そうだ。それならおれが手伝った方が早いんじゃないか?この機会に魔法を教えてくれよ」
「前にも断ったでしょう………あぁ、でも理由を言って無かったわね」
「教えられない理由があると?」
「ええ。魔法は、というより魔法陣の描き方は、ちゃんとイチからその概念を理解しないと使えないのよ。それに加えて、魔法陣に流す魔子の適切量とか色々と細かいことを覚えなきゃないの」
「うーーむ…それくらい感覚で出来そうなモンだけどなあ」
「幾ら魔子量の馬鹿げた貴方とは言え、魔法技術についてはさっぱり素人でしょう。…まぁ、魔法の才能が無いわけないでしょうけれど…」
「確かにおれが居た世界に魔法は存在しなかった。けど、魔法って概念はあったから大体理解出来ると思うぞ」
「概念だけあったの?…ちょっと、訳が分からない世界ね。まぁそれは置いておいて、とにかく貴方にはちゃんと基礎から魔法を学んでほしいわけ」
「えぇーー…基礎ったってどうすれば…」
「それについては任せて。魔法を習得するのを駄目って言ってるわけじゃないから、しっかり手立ては用意してある」
「まじか!ありがたやぁ〜」
「感謝は不要よ。私がそうしたいと思ったからそうするの」
「おいそれおれの言葉だわパクんな」
「これからはコレで凌ぐことにするわ。貰うわね」
「おいぃ!」
おれの決めゼリフを取られた。
いや、決めゼリフってほど使ってきた言葉じゃないけどね。
何はともあれ、魔法を習得する道を用意してくれるようだ。
基礎から学ぶというのが面倒そうだが、基礎だろうとなんだろうと興味は尽きない。
既に楽しみだ。
それと…村に来てからずっと影が薄いラミィはというと、ちゃっかり食料を食い尽くしていた。
村人十人分と、おれたちの分すべて。
セレネリアはまさかの予測済みで、増援の人達に追加食料を要請していたらしい。
ラミィ…華奢な体をして恐ろしい胃袋の持ち主である。
そんだけ食った後でも、ちょっと物足りなさそうな顔しておれの腕を見つめていた。
獣族のキング…いやクイーン怖ぇ。
ここに来る前みたいにダウンされちゃ困るので、おれの肉を食わすのはお預けとさせてもらう。
日が高く昇る前に、作業は開始された。
「『隆動』!」
六人の村人が同時に魔法陣を描き、魔法を唱える。
すると、大地が振動して大きくせり上がった。
段々と地面が隆起して形を変えていき、瞬く間に平原が傾斜のある大地へと成ったのである。
その傾斜に従うまま、黒い塊と化した建物の残骸が下の方へズズズと滑り降りていく。
そして、満を持してセレネリアが登場。
先程村人たちが描いた魔法陣と同じようなものを描く魔王。
ただし、彼らのそれとは比べ物にならない程大きい。
「『隆動・逆行』」
今度は逆に、隆起した地面が元の平坦なものへとゆっくり戻っていった。
六人掛かりで変えた地形をいとも容易く元に戻してしまった。
思えば、この世界で会った王たちは皆スゴい力を有している。
実力主義というほどでも無いだろうが、地位の高さと能力の高さが比例してると見て間違いなさそうだ。
とは言え、人族の王は権力だけの存在な気がするけど。
なんだかんだいって人間は金だの権力だのに走ってしまうだろうしな。
瓦礫を滑らせた後地面が元通りになったことで、殆どの残骸が村の端っこへと寄せられた形になった。
「ここからは、瓦礫の運搬と村の建物の再建を同時並行で進めるわ!建設に関してはこのラティンとベッケルトの指示を聞いて!」
「魔王様、創造系魔法を使えるのはオレとフートしか居ねぇ。二人で足りるか?」
「二人とも、結構な腕だったわよね。なら大丈夫よ。精根尽き果てるまで魔子を注ぎ込みなさい!」
「あいよ!」
ずっと触れてなかったが、ちゃんと増援の人達や村人にもそれぞれ名前があるのだ。
増援は五人来たのだが、そのうちで建設を担当するらしい二人がラティンとベッケルト。
一昔前のヤンキーみたいなリーゼントを自慢げに掲げた男前がラティン。
上半身痩せ型なのに下半身だけがゴリゴリに鍛え上げられている、アンバランスなベッケルト。
そんでもって、セレネリアのことを魔王様と呼びつつも敬語は使わない、ちょっとやんちゃな感じのオッサンがハントと言うらしい。
そのハントに常時引っ付いている気の弱そうな男性がフート。
正直言って彼らの肉体にしか興味は無いが、さすがにここまで魔王と親しげな人達を解体したらアイツに激怒されるだろう。
やっぱり魔族の解体については、関係のないそこら辺の悪党とかが一番適してるだろうな…。
だから今のうちは我慢だ。
盗賊とかが都合よく出てくるまで、我慢である。
それまでに解体用の器具を取り揃えておきたい所。
いやはや…魔族の体内、果たしてどうなってるんだろうか…。
「ハントとフート以外の皆は、瓦礫を運ぶわ!今ファルスが運搬用自律人形を運んでくるから、それに瓦礫を乗せてちょうだい!」
ファルスというのが、確か二本角を生やした金髪のイケメンだった気がする。
それと、以前にも魔王の口から出た「自律人形」と言う単語が再登場。
おれの予想では、文字通り自律的に動く人形…元いた世界で言うところのAIロボットなどと同様のものと思われる。
「自律人形っていうのは、魔法で作られた人形よ。予め注入された魔子を消費して自動で様々な働きが出来る優れものなの。運搬用自律人形っていうのは、性能を運搬だけに割り振った限定的な自律人形のこと」
「便利なのがあるモンだな」
おれがゴートのことを知らないと察してか、魔王は自ら説明をしてくれた。
予想と違わぬ実態。
魔子を動力にする点は、やはり魔法のある異世界らしさが出ているというべきか。
逆に、石炭・石油をエネルギーとして使うものがこの世界にあるのか気になった。下手したらこの世のあらゆるエネルギー源が魔子なんじゃないか…?
その疑問はさておき、運搬用自律人形の登場だ。
どんな姿かと期待したが、そこにはなんと見覚えのある形があった。
船である。
船というより、艦船と言ったほうがいいとすら思える程巨大なソレが空を飛んでやってきた。
その表面には多くの魔法陣が浮いており、模様や色的に増援の人達が使っていた飛行魔法と同じものだろうと推測される。
低速にて降下、地面に重々しく着地すると共に船の側面に大きな魔法陣が出現し、そこから魔子で構成されたワイヤーのようなものが多数伸びて船を大地に固定した。
「おぉ〜…」
「凄いでしょう!自律人形そのものは前に話した山奥の洞窟に住む魔術士が開発したのだけれど、これは魔王城技術部が私と共同で開発した運搬型なの!」
「人形……では全く無いけどな」
「そ、それはまぁ問題無いわ。仕方なかったの。運搬面に性能を偏らせるには、人型じゃ適してなかったから」
「何にしろ凄いな。デザインも全体的にはシンプルでありながらも所々の装飾はちゃんと凝ってる。そんでもって飛行とか船の固定とかは魔法で出来る…。しかもこれが自動で動くんだろ?なんてスマートな船だ」
「ところどころ訳が分からないのだけれど…」
「良い感じってことだよ」
「そう。ありがと」
そのスマートな艦船が運搬路を下ろすと共に、金髪イケメン・ファルスが船から飛び降りて来た。
魔王の姿を発見するや否や片膝をついて跪く。
「魔王様。運搬用自律人形を運行させて参りました。次なるご指示を」
「よくやったわ、ファルス。次は瓦礫の分別、その後村人たちと協力して船に載乗させてちょうだい」
「仰せのままに」
即座に行動を開始するファルス。
王に仕える優秀な臣下、って感じだ。
その優秀な彼は、瓦礫の元に駆けつけてすぐにいくつもの魔法陣を描いた。
その魔法陣にファルスが魔子を送った途端、それぞれの魔法陣から霧のように魔子が飛び出し、特定の瓦礫に付着した。
その魔子が付着した瓦礫は、様々な色で淡く発光し始める。
物体の種類によって魔子が付くか付かないかが変わり、付着の有無から判断することで物体を分別することが出来る魔法…といったところか。
便利な魔法もあるもんだ。
それから彼らは色ごとに瓦礫を分けてまとめていき、例の船に載せる作業へと移った。
二人一組で魔法を使い、瓦礫の塊を浮かせて運んでいた。
おれは大量の魔子保有によってパワーも有り余ってるので、人力で瓦礫を持ち運んだが…めちゃめちゃ重かった。
魔王城に近い村の建造物ともなると、素材も特別頑丈になったりするのだろうか。関係無いか?
その重い残骸を運びつつ、モノを浮かす魔法以外にも色々な魔法を見ることが出来た。
魔法陣の模様をそれぞれ軽く記憶してみたので、それらを使って後で実験することにしよう。
そうやって作業を進めていたら、完了する頃には日が沈んでいた。
各々のテントで夜飯を頬張り就寝。
だが魔王のテント内では、三人による会議が行われていた。
「さて。今日は、今後の動きについて話すわ」
姿勢よく正座して喋り出したセレネリア。
その対面にはおれとラミィ。
ちなみにラミィは今日、村の子供と一緒に過ごしていた。
生き残り唯一の子供で、名前は確か…セスタ。
金髪でキューティクルさらさらの、お坊ちゃまって感じの子供だ。顔も整った造りで、将来舌を巻くイケメンになるだろう逸材である。
そんな彼は今回の火事で母を失ったらしく、父は王都に住み込みで働いているようで今のところココでは孤独の身。
連絡を送ったもののこちらへ来るのに数日掛かるようで、それまでラミィが相手をしてあげる運びとなった。
今日一日では心を開いてくれなかったらしく、若干しょんぼりしたラミィが面白い。
「神界に行くって話は、村を復興させてからになるか?」
「それについて話したかったの。神界に行くことだけれど…今のところ、後回しにするわ」
「ほう」
「今回のこととか…勇者と神の協力とかを考慮して、まずは魔族の国に知らせて警戒態勢を取らせることにしたの」
「まだ知らせてなかったのかよ」
「魔王城が実質的に陥落しかけたのよ?魔族の皆が動揺してしまうでしょう。けど、四の五の言ってられないわ。ちゃんと成り行きを全土に通達して、危険に備えて貰うことにする」
「ラミィも、そうすべきだとおもう」
「あ、そーいやお前の国はどうだったんだよ。獣族の国」
「被害は全然無い。寝てる時に神が直接ラミィを攫いに来て、それで逃げてきた。レナに協力してもらって、ラミィの無事としばらく帰らないことは、伝えてある」
「なるほど」
「つい昨日、増援を呼ぶのと同時に魔王軍の幹部たちもここに招集したわ。幹部たちには、魔界の各所を守って貰っているの。今後の警戒について会議をする予定なのだけれど…、貴方は、くれぐれも彼らの前に姿を現さないようにして」
「なんで」
「彼らは魔界における最上層の実力者たちよ。さすがに私くらいの強さは無いけれど、三人と同時に戦うなら私ですら勝ちが危うい」
「逆に幹部三人同時に相手しても戦えるのか、お前は」
「伊達に魔王やってないわよ。それで、そんな洗練された実力者ばかりだから、貴方の異常な魔子量に気付いてしまう可能性があるの。皆馬鹿では無いし、ちゃんと説明すれば分かってくれるだろうけれど…それも面倒な話だから、彼らと会わないようにしてちょうだい」
「見てみたかったんだけどなぁ」
「悪いと思ってるわ…けど我慢して。ちょっとうちの幹部、気が短い人が多いから」
魔王軍の幹部とやらがちゃんと存在したらしい。
魔王城に居なかったのは、勇者の襲撃でやられたのではなく国の随所に配置されてたからか。
にしても、魔王軍幹部の会議とな。
漫画とかでよくある強い敵キャラたちの会議シーンが、ここで再現されるとは…少しばかりわくわくだ。
「話が逸れたわね。…それで、神界で調査する前に魔界の守備・警戒を強化することにしたわ。
そうなった時に!」
「お?」
「貴方とラミィが手持ち無沙汰になってしまうわ」
「…おれらもそれに協力すればいいじゃん」
「無理に決まってるじゃない。各地に対して今回の件の通達と警戒指示、防御魔法機構の整備を行うの。貴方が行ったら『誰?』ってなるわよ。ラミィも、獣王なんて地位の人が赴いたら騒ぎになるから駄目よ」
「じゃあ魔王城暮らしか?」
「いいえ。魔王城は建て直すわ。だから貴方たちには、別の場所を用意する」
「ほほう」
「ここでの復興作業が終わったら、長い道のりを行くわ」
「どこに行くんだ?」
「向かうは、王都!そこで貴方には、魔法学園に通ってもらうわ!」
「!」
「丁度今は、春季休みの時期。それが明ければ入学試験が開始される。それと同時に貴方は王都の魔法学園に入学するの」
「なるほど……そこで好きなだけ魔法を学べる、と」
「ええ。その学園は私が制度や教師を整備した、とても素晴らしい学校よ。貴方も存分に勉強できると思うわ」
「王都の学校ともなると、デカい図書館とか設置されてるんじゃないか?そこでこの世界についても調べられる」
「ご明察よ。魔法と同時に、自主的にはなるけれどこの世界の常識も知ることが出来る。貴方にぴったりよ」
「考えたなセレネリア。ありがとう」
「…いえ。こんなの恩返しのうちにすら入らないわ。もっと色々してあげたいのだけれど…これから忙しくなるから、それが終わるまで学園で時間を潰してほしい」
「だから、恩だの何だのは考えるなって言っただろ。あと…忘れてんのかよ。おれが手伝う。授業中だろうが、どっか危険な場所に行く時はおれを呼べ」
「………ええ、分かってるわ。ありがとう。遠慮なく呼ばせてもらうわ」
魔法を学ぶ学校へ入ることになった。
思えばおれはまだ学生で、まだ青春を謳歌し切ってなかったのである。
その魔法学園とやら、王都の学校…つまり日本で言えば東京にある学校のようなモンだろう。
さぞ色んなヤツが集まるんだろうな…。
そこでヤバいパーティの新メンバーを物色するのも悪くないかもしれない。
魔法も、図書館も、新たな仲間も…楽しみが一気に増えた。
この世界に来てから、なんとも心の舞踊が止まらない。




