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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
第一章 神々の襲撃編
20/40

勝手

 









「本当に、セレネリア。お前は馬鹿だ」




「………何よ………弱いけれど、馬鹿ではないわ」



「いいや馬鹿だね。おまけに自分勝手だ」



「……っ……そうだとしても、わざわざそんなこと言う必要は無いでしょう!私を貶しにきたの!?」



「お前、村人たちの顔見たか?」



「見たわよ…。あまり、見ていたくは無い顔。それを生んだのは、私の責任。……彼らの顔を晴らすことは……もう出来ない」



「不正解だ。…お前はちゃんと村人の顔を見れてない」



「そんなこと……」



「お前は、村人の悲しい顔だけしか見ていない」




「………え…?」




「本当に気付いてなかったのか?あの村人たちは、みんなお前を心配するような顔をしてたんだぞ」



「……いや…家族と村を失ったのに、私を気遣う余裕なんてあるわけ無いじゃない…」



「だから馬鹿だって言ってんだ。お前は相手の心でも読めるのか?読めないのにどうしてそう決めつける?」



「彼らが何を考えているか読めるわけじゃない、けれど私だって感情は分かる。彼らは、私なんかよりもずっと辛い!」



「だからなぁ。その辛さを一旦置いて、お前を悲しませまいとしてたんだぞ。お前だけだ。お前だけが、辛さしか見てない!」



「………っ……!」



「お前は、おれと同じだよ。卑屈になってるんだ。どうしても犠牲を出してしまう自分が情けない、こんな自分は魔王に相応しくないだなんてな」



「強い貴方に、何が分かっ……」



「お前はあの村人たちから愛されてんだ!それに気づけないから馬鹿だって言ってんだよ!」



「……っ!?」



「全く関係の無いおれからでも分かる。あの人たちがお前を見る目は、例え村が焼け去った後だろうが優しいものだった。王として、理想のことをしてきたんだろう」



「……私は、理想のことなんて全く…………」



「昼間の会話から察するに、何度もあの村を守ってきたんだろ?お前があの村のことを思っているのは、充分伝わってたってことだ。民を思う王こそ、民にとって理想なんだろうよ。王様について語れるほど偉くなったつもりは無いけどな」



「…………」



「お前は立派な王様だってことだよ。まず、自信を持て!」



「……それでも、亡くなった村人たちは二度と戻らない………立派な王だろうと、民を守れなきゃ意味が無いわ」



「…ああ、そうだ。もうひとつ言いたいことがあったんだった」



「……何よ」



「失ったもんばっかウジウジ気にしてんじゃねぇ、馬鹿が」



「………っ!そんな言い草は無いでしょう!第一、前にも同じようなことで言い合ったハズよ!私は死者の損失で考える、貴方は生者の利益で考える…これは平行線で、もう交わる余地は無い!」



「それは命を奪うことの重さの話だろうが。お前が考えるべきはそこじゃねぇ。死んだヤツらはもう過去のものだ」



「その言い方が気に食わないわ!亡くなった人達を軽んじるような言い方が!死んだらもうどうでもいい、なんて考えはそれこそ馬鹿よ!」




「じゃあ生き残ったヤツらは軽んじていいのかよ」




「はぁ!?そんなわけ…」



「今のお前は何だ…ごめんなさいだの、自分のせいだの何だのと!あいつらは家族が死んだ過去よりお前のことを考えて必死に気遣ってたっつーのに、お前は失ったもんばっか気にしやがって!この世界の王がどんなもんか知らんが、民衆に真っ先に慰められるような情けないヤツが王様か?違うだろ」



「!……」



「あの村人たちに気を遣わせる必要も無いくらいに、まずはお前が気力を持たないとダメだろうが。村と家族が消えた悲しみで精一杯な村人に気遣われるほどお前は見え透いて落ち込んでたってことだ」



「……………周りが、見えなくなってたってわけね………」



「そうだ。お前は優しすぎる。だから、失った人の気持ちが理解できて、真っ先に自分の心が傷つくんだろう。それで色々なことに気付けなくなる」




「…………そう、かもしれないわね………」




「だから馬鹿と言った。勝手に傷ついてる暇があったら、お前よりもっと辛いハズのやつを元気づけてやれ。魔族の長が落ち込んでたら、魔族皆そうなる。王としての自覚、足りてないぞ。…まぁ、この世界に来て間も無いヤツが知ったような口をきくな、と思うかもしれんが」



「…………王としての自覚、ね……確かに足りなかったみたい」



「だろ。空元気でもいいから、せめて村人の前では明るく振る舞え。あの村人たちにとっちゃ、お前の元気な姿こそ立ち直るキッカケになるだろうよ。知らんけど」



「…知らんけどって何よ、適当すぎない?」



「ああ。テキトーに言った」



「馬鹿にしてるの!?」



「どーでもいいけど早く機嫌直せよ。お前がどんよりした雰囲気出してるとめんどくさすぎる」



「貴方だって、おれの性格は拒絶されるーだの何だのウジウジうるさかったじゃない!ほんと情けないと思ったわ!」



「魔王の威厳を保たないといけないとか言ってた癖に村人に気ぃ遣われるへなちょこ魔王には言われたくないね」



「くっ………!言い返せない!」



「ばーーーーか」



「ばかって言う方がばかよ!」



「小学生みたい」



「意味が分からないけれどムカつくわ!はっ倒してあげる!」



「よく言えたもんだなおいおい。やってみろホレ」



「この…っ!」





 いやー、元気が出たようで何よりである。

 敢えて強い口調でしっかり叱ってみたが、効果覿面だったらしい。

 結局のところ、この魔王は自分を追い込みすぎていたのだ。

 命を救うことばかり考えて、犠牲を出したその都度自分を責める。

 誰かを死なせてしまう度に、一番にショックを受けてしまうんだろう。

 まぁ、その優しさというか思いやりが、恐らく村人たちの心を掴んでいたのだろうな。

 村を失った悲しみより、魔王のことを気にする気持ちが勝る程度には。


 ここで魔王がすべきことは、不甲斐なさを詫びることではない。慕ってくれる村人たちの気持ちに応えるように、気を強く保つことなのである。




 挑発しまくったら取っ組み合いに発展したので、それから少しばかり夜空の下でケンカした。

 もちろん本気でやったら魔王がボコボコになってしまうので意図的に身体を弱めていたが。

 いい殴り合いだった。

 てかセレネリア、意外と武闘派だ。

 ヴォルテノンさん程ではないが、良いパンチを持ってる。




「………はぁ……………」




 星々の下、草原に寝転がって息をつく。




「元気出せよ。お前が真っ先に元気になって、村人たちを鼓舞するんだよ」



「………ええ、もう大丈夫」




 急に、大きな破裂音が冷えた空に響き渡る。

 セレネリアが両頬を思いっきり叩いたらしい。




「問題無いわ。一番辛いのは、彼らなんだものね」



「当然だ。お前自身はむしろ、なんにも失ってない。なんで落ち込む必要があんだ。馬鹿だろう」



「何回馬鹿って言うのよ…!…彼らの心を強く保たせる。私が考えていたことだわ。それも忘れて自分が真っ先に落ち込んでるんじゃ、世話ないわよね。分かってる。馬鹿だったわ」



「ああ」



「…………ただ、何も解決してない。私は無理やりでも元気を出すことにしたけれど、それで強くなるわけじゃない。神族が動き始めた今、これからも私は多くの犠牲を出してしまうでしょう。そうなった時、心を保てるとは限らない」



「………」



「その時は、また今日みたいに叱ってくれると…助かるわ。私より強い人にしか、こんな相談は出来ないもの」



「………ああーーー…面倒だ」



「また借りを作るようで、すまないけれど…ね」



「面倒だ。実に面倒だ…。おれは、こういうタチじゃなかったはずなんだけどな」



「……」



「決めた」



「…?」




「お前を、手伝おう」





「………、えっ、と…それは、どういう…?」




「そのままの意味だ。お前の、全ての人を幸せにしたいとかいう馬鹿な考え。それを実行するのを手伝うと言ってる」



「いえ、貴方にそこまでしてもらうのは流石に良くないわ。貴方に借りを作りすぎてる」



「別に、借りだ何だと考える必要は無い。そもそも、おれがお前の命を助けたのだっておれがそうしたいからしただけだ。今回もそう。狂ってるお前の目的を果たさせてやりたいと、そう思ったというだけのこと」



「………そんなこと、言われても…………」



「困るか?」



「………いえ……貴方なら敵は無いだろうし、平和を実現するのも夢じゃなくなる………けれど………」



「ならいいじゃねーか」



「…………」



「お?」





 ふと見れば、魔王は起き上がってこちらを向いていた。

 それに応じるように、おれも立ち上がる。





「なんで、貴方は………私を助けるの」




「もう言っただろ。そうしたいからだ」




「違くて………その…………」




「まぁ元を辿れば、お前が落ち込む様子を見るのは些か不愉快だってのが理由か。せっかく美しい顔を持ってるんだ、雰囲気も良い方がより美しくなる」



「………………」



「たまにするその顔、何だよ」




「…………貴方は、私のことが………その、好き…なのかしら?」



「ほぉ」



「だって、平気な顔して美しいとか大切だとか言ってくるし…………」



「恋愛って意味なら知らん。おれは自分の恋愛感情よく分からんし。ただ……おれにとってお前はとても大切だ。それだけは確かだと言える」



「………………っ…」




 ポーカーフェイスを貫いて喋っていたセレネリアだが、少しばかりその頬に朱が差した。

 …と思いきや、端正な眉を強くしかめてこちらを睨みつけている。

 やばい、さすがにセリフが臭すぎたか。

 前の世界では恋愛小説やドラマ、ラブコメ漫画も色々嗜んでいたが…やはり男女の関係というのは難しいものだ。




「……………………分かった、わ…。理由は別としても、貴方が力を貸してくれるのならもう敵は無いと言ってもいいでしょう。…喜んでお願いするわ」



「ああ、悪いヤツ全員皆殺しにしてやろう」



「それはちょっと過激よ…」



「勇者と一緒に襲ってきた神を『獄炎』で拷問した冷酷な魔王に言われたくないな」



「………それもそうね」



「…ふっ」



「………ふふ」




 冗談で笑える程度には、メンタルも回復したらしい。

 …神の拷問は冗談じゃないけど。


 何はともあれ、一件落着と言ったところか。

 村はこれからどうとでも復興出来るだろうし、村人たちもセレネリアが頑張ればそのうち元気になる…だろう。


 そして、セレネリアを手伝うという件について…。

 正直言っておれの自由が奪われるのは面倒だが、結局のところセレネリアを守るというおれの目的と一致しているし、ラミィも一緒に行動すれば二人同時に守ることが出来る。

 この機会にさっさと反抗勢力を排除して、ヤバいパーティ作りを進めたいところである。


 魔法の習得についても、ちゃんと魔王に頼んでおくとしよう。










知ったような口ききすぎ系主人公

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