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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
プロローグ
2/40

神ってどんな中身してるんだろう

 

 辺り一面、眩しいくらいの白。



 何十メートルもあるだろう高い天井と、その天井を支える巨大な柱が何十本も綺麗に並んでいる。



 カツン、カツンと足音が近づいて来ている。



『ようこそいらっしゃいました、吉田友雄様』



 突如頭の中に響く麗しい声。

 横たわっているおれは、顔を上げる。



 そこには、まさに「純白」と表現すべき美しい人間が、こちらに背を向けて佇んでいた。

 ただ、恐らく人間とは違う。

 雪よりもなお白く滑らかな長髪、それが背中まで伸びているのを目で追うと、そこから生えていたのは翼だ。

 背から生える六つの大きな翼。

 これも例に漏れず目が眩むほどの白。白。白だ。

 頭の上には何やら複雑怪奇な魔法陣らしいものが浮いていて、それを含めた全体の姿からおれはある架空のものを連想した。


 天使、または女神。



『ええ、その認識で問題ございません』



 脳が甘く痺れるような、不思議な声が頭の中を駆け巡ると同時。

 その女神がこちらに体を向けた。

 年齢は20ほどだろうか。肌は真っ白というほどでもなく、ほんのり熱を持つ薄橙色。

 顔についてはもう言うことが無い。というか語彙が無い。ただただ美しい。睫毛まで真っ白だ。

 そして、美しい髪と同じように滑らかで、水流を見ているかのような錯覚を起こすほど整った肢体。

 白い簡素な布を大雑把に纏っていて、まさに女神を彷彿とさせる。というか女神そのものだ。



『吉田友雄様。この度は、此方とは異なる世界にて生まれ持った生命、その一切を失ってしまわれたこと、たいへんにお悔やみ申し上げます。』



 おっと。女神に見惚れて忘れていたが、そういえばおれは死んだのだった。

 17年か。なかなか短い。どうせなら最期に誰か解剖してみたかったけど、そんな暇も無かったししょうがない。

 それはいい。気にしない。

 何故なら、この状況を鑑みるに。

 もしかしたら前世以上に楽しい体験が出来るかもしれないからだ。



『ご明察にて。貴方様は、前世界での死を経て、この世界に魂のみの状態で迷い込まれたのです。』



 うーむ。ラッキー。

 てか当然のように思考読んでくるな。



『許可も得ず貴方様の頭の中を覗いてしまい申し訳ございません。ですがそれが最善ゆえ、お許し下さいませ。』



 いいよ。

 そんなことより、ここはどこ?

 そんでおれはここからどうなる?



『お答えします。まずここは、貴方様の元いた世界とは異なる場所。異世界です。この異世界には、人間だけでなく多くの高知能生物が存在します。私達がその中の一種である「神族」です。そしてここは、その神族の形成する国の中心部に位置する場所。名を「神々の淵」といいます。ここでは、新たなる神の誕生や異世界からの魂の受け入れが行われます。貴方様には、私達が再現した貴方様の前世界での体を用いて、この世界に降り立って頂きました。』



 ほーーーん。

 つまり、前世の体はもう死んだけど、こっちでそれを再生しておれに与えてくれたってわけか。



『はい。そして、貴方様が次にどうすべきか、ということについてなのですが…』



 いいよ。

 何となく分かるぜ。

 世界を救うんだろう。



『たいへん聡明なお方でございます。私達が貴方様の身体を用意させて頂いたのは、他でもない、貴方様にこの世界を危機から救って頂きたいからなのです。』



 もう一回人生やれるなんて思ってもみなかった。

 もちろんやらせてもらうぜ。



『快諾感謝致します。しかし、この世界に迫る危機は、現在の貴方様では太刀打ち出来ない程に強力なものです。ゆえに、貴方様に能力を授けさせて頂きとう存じます。』



 いいね。どんなの?



 脳内で尋ねると、おれの前にノートほどの大きさの光る石版が、何十枚も飛んできて綺麗に列を成した。



『その中にある能力から、一つだけ選ぶことが出来ます。神々の文字で書かれていますが、貴方様には全言語を理解する能力を予め授けさせて頂きました。ゆえに読むことができるかと存じます。』



 本当だ。何書いてるかは全然分からんが、内容は入ってくる。

 いいの?



『勿論でございます。能力を一つしか選ぶことが出来ないのは、二つ以上能力を持つと、貴方様の器の容量を超えてしまうゆえ。言語理解の能力でしたら、それほど容量を圧迫しないため心配はございません。』



 言語理解能力って結構容量使いそうなモンだけど…

 まあいいか。

 ちょっと引っかかるが、そんな矮小な疑問は頭の隅に追いやる。

 なんといったって目の前にある能力は二十以上。

 見てみると、「不死身」だの「魔力無限」だの、あからさまなチート能力が羅列されている。


 あ。

 言い忘れたが、おれは異世界転生モノのラノベを読んだことがある。

 というか、ラノベに限らずだいたいのジャンルの本はもう読んだと思う。

 本は面白いからな。解剖するのも楽しいし。

 そんなわけで、異世界だの転生だの魔力だの、そういう系の単語の理解は深いと思う。

 それを踏まえて、やっぱりチート能力ばかりだ。

 悩む。全部欲しいな。


 おれが決めかねていると、ふいに女神が言う。



『その石版に触れれば、その能力を試すことが可能です。』



 おお。マジか。

 じゃあ遠慮なく。

 そこでおれは石版に触れる。

 その能力の使い方を、自然と理解した。



 で。これならいけるのでは?と思った。

 何がいけるかって言うと。



 ずぶりっ。



『……何…を……』



 おお!すごい。

 おれの手が、女神の腹にずぷりと突き刺さっている。


 おれが選んだのは、「防御無視」と「全身武器化」。



「防御無視」ってのは、字面に違わず、ありとあらゆる加護や防御を無視して攻撃が通るって能力。

 んで「全身武器化」ってのは、自分の体の好きな部分に想像した通りの武器の効果を与えるって能力。



 え、なんで能力が二つ使えているのかだって?



 博打だ。

 おれの得意な。いや得意ではないか。前世ではそれに失敗してあいつに拒絶されたわけだし。


 先程、女神は二つ以上の能力を得ると容量オーバーすると言った。

 ただし、言語理解能力に関しては例外で、他能力との併用が可能。

 んなバカな。

 さっきは疑問を頭の隅に追いやったとか言ったけど、普通に考えてあらゆる言語を解する力なんて相当容量食うに決まってるのだ。

 つまり、おれの疑問は、女神が嘘をついている可能性を疑うものだった。

 その疑問が正しいことに賭け、こっそり二つの石版に触れた。そしたら、ドンピシャ。何の影響も無かった。



 というわけで、反撃しようともしない女神の首を掻っ切る。

 さすがに生きたまま解剖するのは可哀想だから。

 そんで女神の中を見てみるが、見たこともない臓器で埋まっていた。

 心臓から何まで全部違う。

 腸とか排泄器官らしきものは見当たらなかった。



 そんなこんなで何時間も、女神の研究に費やしてしまった。



 いやはや、面白かった。



 で、ここからどうしようか。

 余りにも短慮だった自分を嘆く。

 能力の持ち出し方とかも分からなくなってしまった。

 とりあえず残りの能力に触れて試してみる。

 全部凄いな。やっぱ全部欲しい。



 ぼけーっと能力を使って色々なことを試してみるうちに、一日ほど経ってしまったようだ。

 とは言っても、神殿の中の景色は変わりない。

 変わりなく白…

 …いや?なんかちょっと灰色っぽくなってる。

 女神を殺してしまったからか?

 申し訳ない気分になった。

 というか、そもそもおれは女神とはいえ人を殺してしまった。

 異世界に来たということで、どうも現実味を感じられていないが、おれはやってしまったのだ。

 まずい。おれ、神々とやらに殺されるんじゃね?



 その時。




 神殿の厳かな扉が重々しく開いた。


 そして、その扉の向こうから歩いてくる半裸の大男。

 身の丈三メートルはある。

 大男は何やら絶句していた。



「やっべぇ…」



 思わず呟いてしまう。

 そうだ。

 なんで前世でおれが人を殺さなかったか。

 人と仲良くしたかったからだ。

 殺人者と仲良くする奴はそうそう居ない。

 それを恐れ、おれは人に手を出すことをしなかった。


 だというのに、その気持ちを忘れ、美しい女神を容易く殺してしまった。


 転生したという衝撃で狼狽していたのかもしれない。

 まだ見ぬ新たな生物を目の前にして、昂ってしまったのかもしれない。

 どっちにしろ、おれはやってしまった。



 後悔。

 そして、焦り。





 その結果、生み出された結論は逃亡であった。

 なるべく多くの能力石版を抱え、おれは愕然と立ち尽くす大男の脇を全力で駆け抜けて神殿から出る。

 そして神殿の外の地に足を踏み下ろーーーーーー




 せない。



「え?」


 神殿の外の景色は辺り一面真っ白だった。

 とは言っても、神殿の中の神秘的な白さとはまた違う。

 それは朧気な白。

 触れることは叶わない、希薄で繊細で細やかな。


 つまるところ、雲だった。



 雲に乗っかれるなんて思っちゃいなかった。

 でも、この異世界なら乗れる雲くらいあるだろう。

 どこかにあったらいつか乗ってみたいな…。

 なんて思いながら、おれは最早遥か上空にある神々の淵とやらを眺めつつ、落下していくのであった。

今のとこチョー胸糞主人公です。

本当にごめんなさい。

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