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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
第一章 神々の襲撃編
19/40

言葉

 






 魔王を追っかけたら、おれにとって異世界初の村が壊滅していた。







 身体を休めるために寝ていたセレネリアが目を覚ます。



 数十分程度の仮眠だったが、彼女の魔子量は動くのに充分なほど溜まった。


 そして、魔王が目覚めると同時に村の生存者たちも続々と意識を取り戻していった。

 魔王は目を覚ました人から順番に、事のあらましを説明していく。


 この広場にいる人以外に生存者は居ないということを告げられると、それぞれ違った反応を見せる村人たち。

 だが共通していることが一つだけある。それらの反応は全て強い負の感情を含んでいるのだ。


 今更かもしれないが、やっと身をもって実感できた。

 ここは、おれが前住んでいた世界とは全く異なる世界なのだ。

 魔法が存在する、即ちすぐ身近に死がある。

 前の世界にも紛争地域など簡単に命を危険に晒してしまう場所はあったが、こちらはそれよりも更に危うい。

 放った炎が容易く村一つ滅ぼすのである。


 自分が転生者でなく、馬鹿げた量の魔子を持っていなかったならばと想像すると、本当に恐ろしい世界だと思う。




「ーーーーだから、ここにいる人たち以外は、皆…亡くなってしまったの…」



「じゃあ……お母さん、も……?」



「…………………ええ」



「…っ………うっ…………」



「………………」



「ぅぅううう………っ……ひぐっ………ぅうっ……」




 神族との戦闘の最中に助けた子供が先程目を覚まして、セレネリアから説明を受けたようだ。

 見た目的には七歳か八歳くらいといった所か…。

 母親が死んでしまった事実を知り、声を必死に抑えつつも泣き出してしまった。

 その様子を見るセレネリアも、今すぐ泣いてしまうんじゃないかというほど辛い表情をしている。

 そっと彼女が子供を抱き締めると、子供は遂に我慢出来ず大声で泣き始めた。

 その悲痛な泣き声を聞いて、周囲の表情も更に暗いものとなっていく。


 村の惨状も相まって、絶望そのものを体現したかのような空気が漂う。






「ーーーそれで、…ここに残っている人以外の村人は、全員亡くなってしまったわ……」



「…………そう、ですか………」



「…………私が、……私のせいよ………。幾ら謝罪しようと、足りない…………」



「………いえ……魔王様。そんなことを仰らないで下さい…。むしろ、魔王様のお陰で…十人も生き残れたのです。…少なくともそれは、無意味ではありません」



「……………ごめんなさい……本当に………」



「そ、そんなに謝らないで下さい。村はまた、一から建て直せばいいですし…。魔族である以上、神からの攻撃はある程度覚悟しなければならないものです。…魔王様が謝るのは、違います」



「………ありがとう」




 これで十人全ての生存者が目を覚ました。


 全員に対して、ひたすら自責と謝罪を口にしていた魔王。

 相当参っているようだ。

 初めてセレネリアが王様っぽく扱われている所を見ることが出来たが、王という割には意外と親しげに接されているらしい。

 まぁ当然だろうな。

 こんな甘々魔王、国民から愛されない方がおかしいというものだ。


 生存者全員への説明を終えた後、魔王は村人たちの前に立った。




「…村の皆。……村を、皆を守れなくてごめんなさい。……謝って済むなら何度だろうと謝りたい。でも、…もう失われたものは返ってこない………。…私は絶対に、もっと強くなる。強くなって、次は絶対に失わせない。だから、皆も…この村を立て直して、前みたいにとは行かないけれど、また落ち着く故郷を作って欲しい。私からの、お願いよ…」




「…魔王様が謝る必要は無ぇですよ」


「その通りです。自分自身で村を守れなかった俺らが悪い」


「今まで魔王様に頼りっきりで迷惑掛けてばっかりでしたから、むしろこんな私たちを守って頂いて感謝していますよ」




 全員に向けて改めて謝る魔王に対し、励ますように声を掛ける村人たち。

 ただ、その顔は皆依然として重々しい。

 明らかに魔王の「獄炎」によって村が焼かれたが、事情は既に理解されているし、説明が無かったとしてもこの村人たちは魔王がやったとは疑わないだろう。

 しかし、結局のところ被害が大きすぎたのだ。

 自分の家族や友人、住処が一度に失われた。

 魔王を慰めるために何とか言葉を捻り出しているが、彼らの喪失感と悲哀に満ちた顔は隠すことが出来ていない。




「皆………本当にごめんなさい。ありがとう…。…さっき、遠隔で王都からの支援を要請したわ。…あと少しで到着すると思うから、その人たちから食料とか寝具を受け取って今日は過ごして。何日かしたら、村の瓦礫の撤去と建物の再建を始めるわ。……勿論、出来る人だけでいい」




 いつの間にやら魔法か何かで増援を呼んでいたらしい。

 そして数日置いてから村の復興を図るようだ。

 早すぎるように思うが、建築のための魔法とかがあるのなら国から送られてきた魔術師だけでも村の再建は可能だろうし、心配は無さそうだな。




「そして、遺体を集めるのも明日辺りにしようと思うのだけれど……今すぐやりたい人は、私と行きましょう」



「私は大丈夫です。それより、とりあえず安静にしておかないと」


「俺も遠慮しておきます。…正直一刻も早く回収したいですが…今は休むのが優先だ」


「私も、明日以降でいいです」




 遺体の回収を、村人たちは皆明日へ繰り越すことを決定した。

 ただ、やはりこの感じ…。

 セレネリアが気遣われているような雰囲気だ。

 無論村人たちが一番の被害者であり、最も悲しみを感じているだろうが、それよりも魔王を慮る気持ちが若干強い。

 王様なら気を遣われるのは当然だろうが、何と言うかこの村人たちのセレネリアに対する気遣いは、王へのそれとは違う柔らかさを感じる。

 当の本人は…気付いていないのだろうか。




「………時間を取らせてごめんなさい。話したいことは以上よ。各自、自由にしてもらって構わないわ」




 そう締めくくると、村人たちはそれぞれ毛布の上に横たわったり会話を始めたりと、各々散らばっていった。


 それを見届けたセレネリアは、徐に村から離れるように歩き出した。


 おれとラミィは、無言で付いていく。



 村から少し離れた場所の、爽やかな丘に着いた。

 淡い青空の下で、穏やかに吹く風が草を揺らす。

 これが崩壊した村を見た後でなければ、最高の昼寝場所だと感じられただろう。




「………すまなかったわね、手伝ってもらって………」




 不意にその丘で立ち止まると、後ろに続いて来たおれたちに声を掛けてきた。




「いや、いい。むしろ災難だったな。相手の魔法を模倣するだなんて、見破れるはずもない」


「…それでも、焦らず通常の魔法だけで相手すべきだったわ。知らない神族が来たというのに、油断が過ぎた…」


「獄炎を使わなかったとしても、結局その神族は村を狙ってただろうよ。元気出せって」


「……それは、そうかもしれないけれど…『獄炎』でさえなければ、幾らでも手の施しようはあったわ…。その判断一つで、村が灼かれてしまうことになった…」


「それはまぁ、そうだな」




 うーーーむ。

 ものすごく落ち込んでいるのは分かるが、どうしても立ち直らせる方法が思い浮かばない…。

 いや、一番悩みを解決してくれるのは時間の経過なのだが…魔王が神族に狙われている今、このままじゃどんどん悪い方向に向かってしまう気がするのだ。

 なるべく早くメンタル回復させろ、といつもお世話になっている勘さんが仰っている。


 ……が、しかし。


 草の揺れる爽やかな音だけが暫く流れ、そこからおれたちが会話することは無かった。

 打開策発見ならず。




 その沈黙を破ったのは、国からやってきたらしい増援の人達だった。

 なんとその人らは空を飛んでやってきたのだ。

 対空中に背中に魔法陣が浮かんでいたが、あれが飛行魔法か。

 なんと興味深いことだ。

 魔法で空を飛ぶというのもやはりロマン。是非とも優先して使えるようになりたい…。


 飛んでくるや否や魔王に跪いたその増援の人達は、魔王に指示を貰うと村人たちの方へ向かって行った。

 増援の人が描いた魔法陣から出てきたのは様々な食料、飲料、二メートル四方ほどと思われる大きな紙だ。

 そのでかい紙には複雑な魔法陣が描いており、空中ではなく紙などの媒体を必要とする魔法もあるんだなと思ったのも束の間。

 その魔法陣から、テント一式のようなものが現れた。

 いくつも用意された魔法陣によって、村人全員とセレネリアの分のテントが生み出されたのだった。


 にしても、このテント。素材が謎だ…。

 前の世界におけるテントはポリエステルだのナイロンだのの布生地で出来ていたが、こちらのテントはそうではない。

 形がほぼテントだったので最初はそう表現したが、よく見ると魔法障壁的なもので構成されているのだ。

 硬いハズなのに弾力がある。

 不思議な触感である。

 更に、適当にテントの表面を触っていたら、急に一部分が透明化した。

 どうやら、指などで図形を描くとその形の通りに透明化、つまり窓が作られるらしい。

 めちゃめちゃ便利。




 このテントで寝てみたいのが本音だが、村の復興を手伝うという理由でこちらに泊まることにした。

 テントは一つにつき余裕を持って二人入れる程度の大きさで、村人十人分、つまり五つのテントとセレネリアの分しか用意されてなかったが、おれとラミィとセレネリアで一つのテントに入れることが分かったので事なきを得る。




 そして、何だかんだやっているうちに夜になってしまった。




 増援の人らは飛行魔法を使って一旦帰ったようだ。

 それぞれのテントで飯を食べて、皆早めに就寝した。

 おれたちは、テントに三人じゃ少し狭いので外で食事を摂った。

 増援の人らにナチュラルに食料を貰ったが、魔族にちゃんと食べ物を食べる習慣があることに驚いた。

 魔族は魔子さえ得られれば身体の維持が出来る。

 それなのに、支援物資にはリンゴのようなモノやパンのようなモノ、水筒っぽいモノまで含まれていた。

 魔王の話では、魔族は魔子を得るためのモノを摂取して生きているということだったが、どうやら魔子を人工的に多く含ませた食べ物を食べるのが一般的らしい。

 村人のおっちゃんが教えてくれた。

 おっちゃんは家族が皆王都に住んでいるらしい。

 今回で一番被害が少なかった人と言って差し支えないようで、明るいテンションで話をしてくれた。


 まぁ、おっちゃんのことはいいとして。

 つまるところ、魔族もちゃんと食事らしい食事を摂るようである。

 ちゃんと味覚もあるらしい。

 そんなわけで、しっかり美味しく作られたパンたちを頬張ったのであった。

 魔王城に食料が無かった理由もちょっと気になったが、セレネリアが凹み状態なので話し掛けるのはやめといた。




 そして夜も深まってきた今、テントの中でセレネリアを立ち直らせる方法を考えているのだ。

 ちなみに、セレネリアは少し前にテントを抜け出した。

 夜の草原で憂いに耽るのだろう。




 ……果たして、あの甘々魔王をどう励ますべきか。

 彼女は、自分の判断ミスと力不足を悔いていた。

 それは偏に、他者を守らんとする気持ちゆえだ。

 自分は王であり民を守る使命があるという自覚か、または単純に人を助けたいという思いか。

 どちらにせよ、彼女は余りにも優しい。

 そんな魔王をおれはどうやって立ち直らせる?

 悩みを抱えた人にそう多く出会う機会が無いから経験が無いし、まずおれがカウンセリングに長けてるわけもない。

 というか、そもそも十七歳の男子が二百年以上生きてる異世界の魔王の苦悩を晴らせるなんて、とんだ思い上がりなのだろうが…。


 うん、やはり考えるだけでは意味が無いな。

 とりあえず行動してみるとしよう。








 昼間に来た丘のところに、セレネリアは一人座っていた。

 夜空をじっと見つめている。



 ちなみに、濃紺の暗い空には無数の星が浮かんでいる。

 丸い月も見えるしちゃんと太陽も昇るので、この世界はおれが居た地球と同じような惑星にあると判断していいだろう。



 何も言わないまま、魔王の隣に腰を下ろす。

 おれが隣に来てもセレネリアは特に反応も見せず、しばらくの間満天の星々を眺め続けていた。


 冷ややかな夜風が肌を優しく撫でている。

 心が落ち着く、いい丘だ。

 そのリラックスレベルはお風呂にも匹敵すると言って差し支えない。

 こんな素晴らしい草原にあった村も、さぞ居心地が良かったのだろうな。

 惜しいものだ。

 というより、おれにとって異世界で初めて到達した村である。

 建築様式や生活模様、村人たち自身について興味があったのは言うまでもない。

 その興味を行動へと昇華させる前に全焼してしまったのだから、何ともやるせないことである。


 ただ、今のままじゃ更にダメな方向に向かってしまう。

 だから魔王に教えてやりたいのだ。

 おれがカツシに拒絶されて拗ねてた所を叱った魔王に、おれも叱り返してやろうと思う。

 ただ、その前にちゃんと聞いておこう。




「……おれは、他人の感情とか考えてる事を顔色・言動からある程度予測出来る。ただ、それは論理的な面で導き出しているだけというか、本当の意味で理解できているわけじゃない。身体の構造は肉体を開けば分かるが、そいつが何を考えているかっていうのはそいつが喋ってくれないと分からない。だから、聞かせてくれ。お前は何故落ち込んでる?」




 どうやって励ますか分からないのなら、直接本人に聞いて本音を話して貰うしかない。

 そこから解決の糸口を探すのだ。




「…………………」



「…ああ、言いづらいだろうな。というか会ってから数日程度しか経ってないのに、そんなヤツにお悩み相談しろなんて方が間違ってるか」



「……いいえ、言いづらいわけではないわ。…ただどう言葉にしようか……迷っていただけ」



「なるほど」



「………貴方、人の悩みを聞くとかいうことするのね…。てっきりモノの造りにしか興味無いのだと」



「ひどいなおい。思考だってちゃんと脳の構造の一部だ。人の感情とか思考についてはめちゃくちゃ興味深いが、いかんせん解体して調べるのは難しい。だから会話から知るしかない。そういうことだ」



「………まぁ、何であれ…苦悩は喋った方が良いのには変わりないことだし、遠慮なく相談させてもらうわ」



「ああ」



「……………………魔王になったのは、百五十年前くらいのことだったかしらね。…当時の魔界は、争いが絶えなかった。王都では革命を起こそうとする集団が多かったし、辺境に行けば神族の襲撃が危ぶまれた」



「神族はなんで魔族を襲撃する?」



「……理由はさっぱり分からないわ。ただ、神族にとって最も相性が悪い相手が魔族なの。それでなるべく排除しようという意思があるのかしらね…」



「うーむ…聞く限りだとロクなヤツらじゃないな」



「民衆に利益をもたらすこともあるわ。…まぁ、酷いことをする割合の方が高いのだけれど…」



「話の腰を折ってすまん。続けてくれ」



「…………それで、私が魔王になってからは、何とか争いを減らそうと頑張ってきた。その甲斐あってか今は前よりも平和な時代になったと思う。…けれど、私の力では全部守りきれない。神によって作為的に戦争を起こされた時も、魔族たちをなるべく死なせないようにするので精一杯で………人族を守ることは、出来なかった」



「…………」



「…種族関係なく、誰も彼もに幸せになって欲しいっていうのが、私の気持ち。…ただ、それと私の力が釣り合ってない。貴方には『歴代最強の魔王だ』なんて威張ったけれど、私は守りたいものも守れない程度の魔王なの。…正直言って…………魔王の資格は無いと思ってるわ………」



「………………」



「…こうやって、守りたいものを失ってしまう度に思う。なんで私は弱いのだろう、って。…でも、強くなるには鍛錬を積むしか無くて、そんなことをしてる間にも誰かが失われてしまう。…………それが、どうしようもなく……辛い」



「…………………………」



「誰かが死んでしまう度にこうして落ち込んで、でもそれで一気に強くなれるわけもなく……変わらないままに、また誰かを守れない。同じことを、繰り返している」



「……………………………………」



「…………そんな自分が、大嫌いなのよ」



「…………………………………………………」



「……これが、私の悩みよ。解決しようが無いわ…」



「………」



「………」



「………」



「…………?」



「……あ、ごめん寝てた」



「聞いてなさいよ!!」



「冗談冗談。……なるほどね、自分の無力を嫌っていると」



「…まぁ…大体そんなものよ。どうしようもないでしょう?」




 改めて分かったのは、こいつがやはり甘々…いやそれじゃ済まないレベルの優しいヤツだということだ。

 種族問わず全員幸せになってほしいっていう思想はまぁ理解出来る。

 だが全員を幸せにするために行動し、それが完遂出来ないことに悩み続けるなんて正気の沙汰じゃない。

 優しすぎるのだ。

 …神族にはちょい厳しいが。


 思えば、おれがセレネリアと出会ってからというもの、こいつは大抵行動が早い。

 目的があるとなれば、忙しなく動く。

 それは、一刻も早く平和を作りたいという気持ちゆえのことだろう。

 根っからの善人である。



 ただ、優しすぎるのが問題なのだ。

 心の内側から優しいのが、いけない。



 一度ガツンと言ってやらなきゃ分からない。







「馬鹿だよ、お前は」












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