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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
第一章 神々の襲撃編
16/40

襲撃(親玉)

 






 神王と、そう名乗った目の前の神族。





 魔族で言えば、あの魔王に当たる地位の人物である。


 …まぁ、セレネリア以外の魔族に会ったことが無いから、今のところ王らしい扱いされてるのを見たことないんだけど。

 或いはあいつが魔王を騙る狂人だという可能性もまだ残っている。

 それはそれで面白いからその場合も大歓迎だ。



 それはそれとして、王とは一番偉いヤツなのだ。

 神王は、文字通り神の王。

 神々の親玉である。


 かつての世界じゃ王とか天皇ってのは歴史を経て大きな権力を持たない者になっていったが、この神王とやらの風格を見るに象徴としての王では無いらしい。

 神界の王の基準は知らんが、もし地位と力が比例するならば一番強いのはこいつだ。

 実際、こいつに食らった攻撃はこの世界に来て受けた中で一番強力だった。



 それにしても、不思議な見た目をしている。

 正方形の布が頭部を囲むように何枚か並んでいて、それに隠されて顔は見えない。

 肋骨の浮き出る痩せ型の身体を雲のようなものが覆っているが、その雲みたいなのも肋骨の形をしている。

 上半身を大きい肋骨の骨組みに包まれている感じだ。

 下半身は獣のもので、ラミィとはまた違う白さを放つ毛で覆われている。肉食動物の脚のように見えるな。

 そんでもって一番気になるのが翼。

 背中から生えるのが本来の翼の在り方であろうが、この神王とやらの翼はまず翼なのか疑わしい。

 まず背中から離れて宙に浮いているし、円を描くように幾枚のそれが繋がっている。

 どういう原理で浮いているのかとか、下半身と上半身の繋ぎ目はどんな構成になってるのかとか色々調べたいが、これまた王なので解体するのは我慢しておく。


 その前に問題となるのが、神王がラミィを狙ったことだ。

 おれは耐久力も超人的なものになっているので神王の攻撃を「結構痛い」で済ませたが、逆に言えばヤツはおれが結構痛いと思うレベルの力を持っているのだ。

 おれに大した痛みを与えられなかったスフィアナッダに殺される寸前だったラミィには、この神王の攻撃を受け止める術は無いだろう。

 つまり、ラミィを守りながら神王と戦うことになる。




「神王さん、ラミィを狙うのはなぜだ?」




『獣王の力を侮ること、愚者の行いの其れ』


『力をその身に宿す前に無に帰する』


『然すれば獣の本能は妨げられる』




 もっと詳しく説明して貰いたいもんだが、とりあえず神王さんが明確な殺意をもってラミィに攻撃したことは分かった。

 またラミィを狙われる前に退散させたいが、相手は王だしちょっとまた別のアプローチを掛けてみたいと思う。




「神王さんと話がしたい。事を穏便に済ませる為の話を」




『事と言うなれば既に其れは穏便さを失っている』


『人よ、其の方には話に済まぬ出来事が起こった』


『故に対話はもはや意味を持たない』




「そう言わずにさ。女神とか他の神を殺したことは謝る。償いも、おれに出来る限りやらせて貰う。おれは神族と友好関係を作りたい」




『神の殺害は大きな問題でない』


『人よ、其の方は殺害者でなく強奪者』


『返らぬ物の簒奪者』




 全然話を聞いてもらえない。

 女神たちをやってしまったことに関しては気にしないでくれるらしいが、何やらおれには別の罪があるらしい。

 そう言えば、ゼオグリフだったか。

 レーザー撃ってくるあの神が、おれのことを「淵の略奪者」と呼んでいた記憶がある。

 その時は厨二心をくすぐる良い二つ名だ、なんてアホなことを考えていたものだが、神王すらおれを強盗だと言うならちゃんと考察する必要があるな。


 淵の略奪者と言われて思い当たるのは、やはり《神淵》か。

 おれがこの世界で最初に降り立ったあの純白たる神殿、そこが神々の淵だったハズだ。

 まさかおれが神殿丸ごと奪えるワケも無しに、何故奪ったことになっているのか。


 もしかして、能力石版か?

 あれが《神淵》の力の一部で、女神を殺してそれらを何個も持っていったから強盗扱いされているのかも。

 強盗扱いというか、完全に強盗なんだけど。

 おれもあれに関しては今更ながら反省している。立派な強盗殺人を犯したのだおれは。




「能力石版だったら、今手元に無い。だが、必ず全部探して返すよ。それで許してくれないか?」




『其れも問題点より外れている』


『石版の喪失による損失は我々にとって矮小なものである』


『己の罪に蒙き人よ、もう其の方の滅殺は決した』




 石版のことでも無いらしい。

 というか、おれが何を言おうと殺すつもりのようだ。

 話を聞いて答えてくれるのはありがたいが、これはもう何しても状況が変わらないだろう。


 ならば。




「神との親交は諦めるか」




 そうおれが呟いた途端、神王が消えた。


 いや、消えたのではなく跳んだのだ。

 突然かつあまりの速さに見失ってしまっただけで、神王はしっかりと跳んだ先に居た。

 獣の脚の力か、数十メートル上方まで飛び上がっている。


 瞬く間に無数の魔法陣が描かれ、その全てからレーザーが発射された。

 雨にすら思えるほど大量のレーザーが、音を追い越して地面に近づいてくる。

 恐らくこの攻撃ではおれを傷付けられないが、ラミィはまた別だ。

 抱えたラミィをその場で無数の光線から守るのは、雨の中傘を使わずに濡れないことと同じくらい難しいだろう。

 そう感じるほどにそのレーザー群は多く、速いのだ。



 ラミィを強く抱きかかえ、全力で地面を蹴る。

 跳んだのは横だ。

 思い切り距離を取る。


 黒い大地が破砕される音と同時に、光線がおれの居た場所へ降り注いだ。




「はー…あっぶね」




 間一髪で逃れたようだ。

 ラミィは無事である。

 地面を蹴った際には無論のこと上体が前で下半身が後ろになるため、若干間に合わなかったらしくおれは脚に何発も食らってしまっていた。

 ただ、やはり傷はついていない。

 刺すような痛みがあったが、それもすぐ消えた。




「うーーーむ…どうしたものか」



「ラミィ、一人で逃げるから、トモは全力でやって」



「いいやダメだ。アイツは速い。おれが少しでも目を離せば、すぐにお前を見つけて攻撃出来る」



「でも、このままじゃどうしようもない」



「確かにそうだけど…お前を何としても守らなきゃいかん」



「なんで…そんなに?」



「大切な仲間だからだ」



「……仲間…………」



「絶対におれ以外の手によって失わせることはしない」



「……トモ。あと少し、時間ちょうだい」



「分かった。何をする?」



「さっき、あの神が言ってたこと。獣の本能を呼ぶ」



「それでどうなる?」



「あいつの攻撃を避けられる」



「絶対か?」



「私は、獣族の王だよ。神族の王に対抗する力くらい、すこしはある」



「……信じよう。この体勢のままで大丈夫か?」



「うん」




 どうやら、獣の本能とやらを呼び覚ますことで神に対抗出来るらしい。

 時間が必要なようだから相当の大技なのだろう。

 その力を信じてはみるが、万が一の為にもやはり警戒はしておくべきだ。

 いや、まずおれが神王を見逃がさなければいい話か。

 全力を尽くすとしよう。




 気づけば、目の前まで神王が迫っていた。

 やはりあの獣の下半身は強靭なようで、おれが全力で跳んだ距離約数十メートルを同じく一足で跳んで来ている。


 また、こちらに跳んでくると同時にあのレーザーを撃つと思われる魔法陣を周囲に描いていた。

 これまた大量だ。



 咄嗟に上空へ跳ぶ。

 その衝撃で地面が割れるのを眺めつつ、失敗したと思った。

 空中じゃおれも自由に動けない。

 空を飛ぶ魔法があるのかどうかは分からないが、もし空で機敏に動こうとしたらその魔法を覚える必要があるだろう。



 案の定、神王が描いた無数の魔法陣から、空中に身を晒したおれに向けて光線が発射された。

 それらの光線と共に、神王がこちらへ跳躍してくる。



 まずい、非常にまずいな。

 大量のレーザーからラミィを守れたとしても、神王がすかさず追撃をしてくるだろう。

 上へ跳んだのは、本当に悪手だった。



 お姫様抱っこ状態であるラミィを一旦ハグのような体勢で抱える。

 おれは迫り来る光線に対して背中を向け、自分の身に攻撃を集中させようと試みる。

 身長差・体格差が意外とあるので、ラミィの体はおれの影に隠れてほぼ見えなくなっているハズだ。



 無数のレーザーが着弾。

 いててて。

 おれの一張羅が破れていく。


 あ、ずっと触れていなかったが、おれの服装はカツシに突き落とされた時から変わらない。

 学校の制服だ。

 長袖の白ワイシャツに、黒い制服のズボンを着用。

 ゼオグリフのレーザーで少し穴が空いてしまっていたが、まだまだ使える状態だった。

 だったのだが…。


 さようならおれのワイシャツよ。

 ズボンも大分穴が空けられている気がする。

 おれの制服たちよ…さらばだ。




 そんなこんなで何とかレーザーを全て背中に受け切ったわけだが、まだ脅威は去っていない。

 こちらに跳んできた神王は、双方の手のひらに白銀の魔法陣を浮かべている。


 さっきと何やら様子が違うぞ、とそう思った瞬間。


 神王の下の地面に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 ヤツの両手のひらに浮かんでいるものと同じ煌めく白銀で、それはどんどんと光を増していく。


 その巨大魔法陣を中心として、更に大小様々な魔法陣が繋がって今までとは比にならない程複雑なものを構成しているようだ。



「これは…ヤバそうだ」



 つい声を漏らしてしまった。

 この魔法陣を全て理解してみたい、なんて場違いな欲望とラミィを抱えつつ、神王に迫っていく。



 白銀の魔法陣を両手に掲げる神王は、何やら剣を持つように手を構えた。

 そこに光が集まり、一本の長剣を創り出していく。

 それと同時に地面の巨大な魔法陣から光が失われた。


 どうやら、今創った剣があのヤバい魔法の結果らしい。

 あれは…耐えられるだろうか、おれの体。

 分からんな。

 また博打である。

 この世界ではまだ負けてない。

 自分の運を信じてみるとしよう。



 長剣を両手で大きく振りかぶる神王に対して、おれはラミィを右手だけで抱えるようにした。

 そして、剣の軌道を防ぐために左手を出す。



 これこそが光の速度だと言われても違和感の無いほど超速の振り下ろしが、おれの左手に直撃する。



 腕の肉に容易く食い込んだ神王の剣。


 骨だろうと思われる硬い部分に引っかかり勢いを止める。


 が、神王は地面に足をついていないのにも関わらず、圧倒的な膂力をもっておれの腕を切断しようとする。



 だが、おれの骨はまだ斬れない。



 …このまま空中での拮抗を続けても無駄だ。

 かと言って、おれが下に向かって落ちているのに対し神王は上への跳躍の勢いで長剣を振るっているというこの現状、剣を腕から抜くことは出来ない。



 ここは、大きく出るしかない。





「ぅおらッ!!!」





 気合いを入れて声を張り上げつつ、思い切り左腕を剣に押し込んだ。


 自分の力でも異常に硬く感じる骨を勢いのままに切断させる。



 音も無く断たれたおれの左腕が宙へ舞うが、お構い無しにそのまま身を翻して剣を避ける。



 僅かな驚きを見せ、ほんの一瞬硬直する神王。



 身体を回転させたその勢いで、おれは神王に全身全霊の蹴りをお見舞いしてやった。



 硬いものが思いっきり砕けるような音。

 それと同時に感じたのは、蹴りを放った右足の痛み。



 ただ、それらと共に視覚情報として得たものは、神王がおれの蹴りをモロに食らって上空へ吹っ飛ばされている様子だった。



 原型を留めていることにホッとしつつ、左足のみで地面に着地した。




「ふぅーーー…。よくあそこで蹴りを出せたよ、おれ。実は格闘技のセンスあるんじゃないか」




 適当な冗談を吐きつつ、蹴った右足を見てみる。




「………折れてるな、多分。あいつの身体どんだけ硬いんだ」




 蹴った際に感じた痛みは、前の世界で体験した骨折と同じようなものだった。

 しかし、痛みの具合で言ったら今の方がだいぶ強い。

 自分の力を出し切って全力で蹴ったから、割とバキバキに折れちゃったんじゃないだろうか…。


 それよりも、おれのフルパワーの攻撃を受けて粉砕されないどころか、おれに骨折までさせる神王。

 やはり相当強いことがよく分かる。


 さて、死んでないことを祈るとしよう。

 蹴った時の激しい粉砕音は、おれの足から出たものじゃなかった。

 だから神王の何かしらがぶっ壊れた音なのだろうけど…。


 種族の王を、とりわけ神の王を殺したとあっては、神以外にも良いイメージを与えない。

 神族との和解は王があの通りだからもう難しいとしても、それ以外とは流石にうまくやっていきたいからな。



 と、そんな心配を軽く拭い去るかのように、神王が着地してきた。



 ただ、まぁ腹に穴が空いてるけど。

 人間のそれと変わらないように見える真紅の血が大量に溢れている。




「蹴っちまって申し訳ない。ただ、おれは神王さんを殺す気は無いと信じてくれ。なるべく害を成さないようにしたいんだ、あらゆる方面に対してね」




『神王の加護を魔法ならざる蹴りにて破砕するとは、畏怖すべきかな人の器よ』


『獣王の覚醒も遂に妨げること叶わず』


『蒙昧なれど凡百を覆す其の力は、此方では去なし得ぬ』




 獣王の覚醒と聞いて見れば、抱きかかえたラミィの体内の魔子が高速に動いているのが知覚出来た。

 そして、その魔子が奇妙な雰囲気を纏っているのも。

 同時に周囲が重く揺れ、地面のひび割れが大きくなっていく。

 ラミィの力、獣の本能。

 お目にかかるのが少し楽しみになってきた。

 …が、今は神王の行動を注視していないと見れるものも見れなくなってしまう。

 神王はここからどう動くか。




「相変わらず色々分かりにくい。結局、どうする?おれは神王さんが襲ってこなければ、敵対することは無いぞ」




『最早神の行いに適わぬ事態だ』


『道無き場所に意味を見出す神と言えど、その意味の先に破滅が在っては愚者たり』


『遠方からの干渉を以て其の方の滅殺はここに留まらす』




 やっぱり何言ってるか分からん。

 けどまぁ、遠方からの干渉ってのはおれを監視するって意味だと捉えておこう。

 おれを襲うのは止めるが、監視はさせてもらうってことか。

 監視下で神を解体するとさすがに怒られるだろうし、これから神を解体出来ないとなると中々ツラいが…。

 ラミィが無事に済むなら良しとしよう。




「監視は好きにしてくれ。おれは神王さんの言う通りこの世界について無知蒙昧だ。だから、おれが悪いことをしようとしてたらちゃんと言葉で説明して止めてほしい。いきなり襲うとかじゃなくてね」




『飽くまで対話での決定を望むか』


『淵の力を得ても害を齎さぬと断ずるか』


『遠視は解かぬが、神は其の方が蒙を啓くことを望むのみ』




 言うと、獣の下半身が段々と変化していき、地面に届く長い布を巻いた人間の下半身となった。


 神王の足元に魔法陣が描かれ、神王は霧になるように消えていった。





「…………っふぅーーー……」





 ココ最近でも一番大きな溜息をついた。

 大切なモノを守りながら強敵と戦うというのは、これほど負担が大きいことだったとは。

 未だに心臓が激しく鼓動を打っている。


 最初にアイツが放った一撃から、また無数のレーザーやヤバい剣からラミィを守った。

 ギリギリだったと、今になって思う。


 右足の骨折も多分完治し、切断した左腕も段々再生してきているが、いかんせん心の疲れがデカい。


 くそ…。守ることに精神的に慣れてないんだおれは。

 こんな調子でこの先仲間を守れるのか若干心配だ。


 このままではいけないと、そう感じた。




 魔法だ。

 魔法を学んで、おれの仲間を完璧に危うげ無く守り通す。

 こちらに来て何度も魔法を習得したいと思ったが、ラミィを神王から守るという体験を経てその思いが一段と強くなった。





 石版を探しつつ、魔法を習得する。

 可能なら全ての魔法を極める。





 これを新たな目標として生活していこうと決心した。










初めて評価を頂きました。

喜びが溢れ出てます!!

おかしい点や気になる点があったら、是非とも気軽に指摘して頂けると嬉しいです。

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