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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
第一章 神々の襲撃編
15/40

目覚め

 




 紫黒の草原と森が広がっていたハズの魔王城周辺が、更地になっていた。





「………これは………?」



「一回外出てみて」



「おう………」





 開かれたドアから、その更地となっている外へ足を踏み出す。

 というか、この部屋二階にあったよな?

 城はどうなったんだ…と振り返ってみると、


 無くなっていた。


 おれが居た魔王の部屋だけキレイにくり抜かれた形で、それ以外の魔王城を構成していた部分は全て無くなっていた。




「………訳が分からない」



「たぶん、トモがやった」



「おれがか…うーーーむ……」




 まぁ思い当たる節というか、予想はある程度出来る。

 恐らくおれは魔王を治すという意思から大量の魔球を生み出し、吸収した。

 その魔球を構成する魔子をどこから持ってきたのかというと、まぁ空気中のものを使ったのだろう。


 しかし。

 魔王を治すためには空気中の魔子だけでは足りなかったのだとしたら、それ以外のところから魔子を持ってくる他ない。

 空気以外とは、どこか。

 即ちこの城や森の木々である。


 魔王は、この世の全てのものは魔子が元になっていると説明していたし、その気になればそこから魔子を抽出することは出来るのではないだろうか。

 ただ魔子へ戻ることは出来ない不可逆性を持つとも言っていたから、断言は出来ない。


 というか、それが合っていたとして、城や森を殆ど魔子に変えて使わないと治せないほど魔王の症状は重かったのか。

 ならそれが出来たのは本当に幸運だったな…。



 周りの景色を眺めると、ある程度の範囲の森は消失しているが、その範囲の先からはまた森が広がっていることが分かった。

 森の全てが消えたわけでは無いらしい。

 というかこの森、めちゃめちゃ広い。

 大量の魔子保有によっておれの身体能力は著しく上昇したが、その視力をもってしても森の先が見えない。


 魔族の国に医者を呼びに行ったりしなくて良かった…。

 勢いで考え込んでしまったため気付いたら夜になっていたものの、そこにステイしたままで正解だったらしい。



 ………まぁ、とにかく。

 魔王城がほぼ消えて、森も大幅に無くなったが、魔王を助けられたことだし結果オーライだ。

 魔王城の今後とかは魔王に丸投げするとしよう。




「じゃあお風呂様はもう失われたってことか…悔やんでも悔やみきれないな」



「ラミィはあんまりお風呂、馴染みない」



「入ったことないのか?あれは一日の癒しになるぜ。獣族はそういう文化が無いのか」



「水浴びはする、でも熱い水に全身浸かるのはやらない」



「魔族の国に行ったらお風呂くらいあるだろうし、お前も一度は入ってみろ。くそ…お風呂の話をしたら余計恋しくなったな」



「入り方、わかんないから一緒に入って、ね」



「まぁその時が来たらなー。

 はぁ…お風呂が無いならもういいや。寝るとしよう」



「うん」




 今や城としての原型を留めていない魔王城(というか魔王の部屋)に入り、昨日この部屋へ搬入した一人用ベッドに身を投げる。

 昨日持ってきておいて良かった。

 あと少しでここでの永遠ソファ生活が始まる所だった。


 というか、この部屋だけキレイに残ってるのは何故だ…と思ったが、おれの意思で城を魔子に変換したのだとしたら、無意識下でこの部屋だけは無事に残すよう考えていたのかもしれん。

 よくやった、おれの無意識。


 ただ、城が殆ど無くなっていったというのに、その時のおれは全く気づかなかったらしい。

 考えるのに夢中で周りが見えなくなることは多いが、にしても建物が消失していくのに気付かないなんてことがあるか…?

 魔王一人にどれだけ本気になって考えているんだおれは。


 だが、確かにこの魔王は貴重な存在だ。

 おれにこの世界の情報を与えてくれるし、おれの暴露にも動じず受け入れてくれた。


 或いはおれがこの魔王たる女に好意を抱いている可能性も少なくは無い。

 恋愛には疎いので自分が恋をしているかなんて分からんが、自分の中で保存の優先順位が高いことは確かなことだ。


 ああ、違う。保存なんて言い方は友達にすべきではないな。

 おれも変われるのだ。

 ちゃんと友人を友人として扱うことが出来るよう努力して、本物の友情を築けるようにしたいのである。

 ヤバい奴限定だが。


 それでいうと、ラミィもしっかり守らないといけない。

 魔王と獣族の王のパワーバランスがどうなっているかは知らんが、魔王ですらあんな状態になるこの世界である。

 獣族にだって危険が多い世界なのだろう。

 事実、ラミィは神に追われていたし。

 そのことについても後々聞いていかないとな……。



 なんて色々考えていると、やはり疲れていたらしくすぐ眠りに落ちてしまった。











 目を開けると、眩い光と共に一面真っ白な世界が視界にあった。

 おれが最初に転生した神族の《淵》である神殿に似ているが、似ているのは全部白いという点だけである。

 おれが今見ているのは、何も無いまっ更な空間。

 その全てが白く、平衡感覚が失われそうだ。



 気付くと、前方に門があった。

 この無の世界において非常に目立つ、黒だ。

 この黒にも見覚えがあった。

 魔王城である。

 その門は簡素な造りをしていて、魔王城にあったものとは違う。



 興味のままに、おれはその門へと向かっていく。



 ただ同時に、それを潜ってはいけないような気持ちもある。



 その抵抗感を完全に無視して、おれの身体は門を通り抜けた。



 不思議と、誰かに歓迎されたような気持ちが湧く。

 門を潜った先も相変わらず白い世界が広がっているが、遠くにまたもう一つの門が見えた。


 今度はあれを潜ってみるとしよう。



 歩み出すと、後ろに誰かの気配がした。



 振り返る。



 誰かが、おれが既に通った門、それを挟んだ奥の方にいる。



 そいつはおれに声を掛けている。




「トモ。朝よ」




 朝らしい。



 こいつをおれは見た事がある。

 こいつの為に、昨日おれは深い思考に沈んだのだ。



 さてこいつがおれに声を掛けている理由は分からないが、戻るべきだろうか。

 おれはこの先の門を潜ってみたいが、こいつとあともう一人がおれの傍に居て、そいつらはおれの興味の対象であった気がする。



 門への興味とそいつらへの興味、今のところ勝るのは門だが、そいつらを放っておいてはいけないと直感が言っている。




 どうしようか。




 まあ…そうだな。

 とりあえず、今のところ門は後回しにしとこう。



 門は失われるものじゃないし。





 そう考えた途端、視界が明滅して意識が暗闇に落ちていった。











「レナ、彼は疲れてる。寝かせておいて」


「いいえ、この人はそんなので疲れたりとかしないと思うわ。それより色々と話を聞かせてもらわないと」


「昨日、彼はフラフラだった。レナが彼にどれ程信頼を寄せてるのかわからない、けど、彼はただの人間」


「ただの人間に神を粉砕出来るわけがないでしょう。あと信頼を寄せてるわけじゃないわ。化け物だと認めているだけ」


「助けてもらったのに、ひどい」


「…まぁ、それはそうなのだけれど、化け物なのは事実でしょう。…………信頼を寄せていないっていうのは、撤回するわ」


「良し」



 美しい声二つの会話で、目が覚めた。

 どうやら、セレネリアは意識を取り戻したらしい。

 そんでもって、ラミィに「レナ」なんて呼ばれているのか。

 互いに愛称で呼び合う仲。

 うーん、素晴らしい友情である。こんな感じの友人関係を作れるように是非ともなりたい。




「レナに信頼を寄せてもらえてるなんて、驚いたなあ」



「きゃっ!?」

「わぁ」




「おはよう」



「びっっくりした…起きてたの?というか何なのよその呼び方は!不敬極まりないわ」


「友好の証だ。愛称呼びも許してくれないのか、随分と狭量な魔王だな」


「王を何だと思ってるのよ!ラミィとは長年の付き合いだから渾名で呼びあっているけれど、会って三日の貴方にそんな名前で呼ばれる筋合いは無いわ」


「レナ、狭量。命の恩人にそんなこと、無粋。筋合いある」


「とは言っても……まぁ、ええそうね。好きに呼びなさい」


「猫に躾けられてやんの」


「喧嘩売ってるのっ!?」




 変わらぬ様子で何よりである。

 命の恩人だの何だの言っているが、感謝したいのはこちらの方だ。

 よくぞ無事に戻ってきた。

 おれのヤバい奴パーティはまだ二人しか居ないのだから、こんなとこで退場してもらっては困るというものだ。




「それはさて置いて、おれから話を聞きたいんじゃなかったか?」


「あぁ……そうね。とりあえず、貴方に何か無くて良かったわ。心配したのが馬鹿らしいくらい変わりないようで」


「そっちも面白い魔王が健在で安心したぜ」


「何よ面白い魔王って…!もう、ふざけてる場合じゃないでしょう。聞きたいのは、この状況について全般。

 まず、私が意識を失ったところから話してちょうだい」


「ああ。…お前がバッタリ倒れた後、ベッドにラミィと一緒に寝かして、治す方法を模索したんだ」




 その後の色々を魔王に説明する。

 といっても、治すために考えた内容を全部話してたんじゃ気も遠くなるだろうと思い、「色々考えた」で済ました。

 ラミィが見たおれの異変について、ラミィに確認を取りつつ話した。

 これついては、魔王もよく分からないようだ。

 そもそも魔球が大量に集まる瞬間なんて見た事がないらしいし、ましてそれらが門を形成するなんて理解が及ばないという。

 魔王城とその近辺の惨状については、おれの予想として「全て魔子に変換し魔王を治すのに使用した」説を伝えておく。

 これまた理解出来ないようで、案の定そんな事例は聞いたこともないらしい。




「じゃあ何でこんなことに…」


「私が事例を聞いたことないというだけであって、絶対に無いと断言するわけではないわ。むしろ、貴方に出会ってからは有り得ないことだらけだもの。そんなことしても不思議じゃないとは思う」



「まぁここにいる全員が知らない以上、考えても埒が明かないからな。とりあえず置いとこう」


「そうね…。それで、私の頭の辺りから魔子が漏れ出ていたと」


「らしい。おれは考えるのに夢中で全く気付かなかったが」



「そう。トモ、何しても動かなかった。城が消えてって、けっこう揺れたのに、無反応」


「ちょっっっと待ってラミィ。今この人のこと名前で呼んだように聞こえたのだけれど」


「あ?お前もおれを起こす時名前で呼んだじゃねーか」


「え?呼んでないわよ。呼んだとしても、私とラミィでは全く意味が違うの。

 ラミィ、本当に良いの?」


「トモしかいない」


「………そう……まぁそう言うなら止めないけれど、ちゃんと二人でお互いについて話し合うのよ?」


「大丈夫」



「おいおいおれを置き去りにすんなよ。名前呼んだだけで随分と大袈裟な感じだな」


「あー…貴方は知らないんだったわね。後で説明するわ。真面目に考えてちょうだい」


「いや、分からんのに真面目に考えるも何も無いだろ」


「まあ!とりあえず!それは置いときましょう!

 …それで、私の頭ん中から魔子が抜けて、治ったわけね?」


「だいぶ無理やり置いといたなオイ。

 そうだ、気付いたらお前の魔子の吸収は正常になってた」


「……なるほどね。大体分かったわ。貴方がしたことについてはさっぱり分からないけれど」


「結果オーライだ。おれも自分に起こったことについて調べてくつもりだが、何はともあれお前が無事ならそれでいい」



「……………………。……改めてお礼を言うわ。助けてくれてありがとう。また借りを作ってしまったわ、最初のも返し切れていないのに」


「気にするな。おれはおれの失ってはいけないものを守ろうと念じただけだ」


「……。まぁ、それで。私がなんであんなことになっていたのか、ということについてなのだけれど…」


「昨日の朝、お前どこに向かったんだ?」


「魔界に連なる一番大きな山脈の洞窟よ。邪性魔子濃度がここに匹敵するくらい高いのだけれど、そこで隠居生活をしている魔術士に会いにね」


「その魔術士に何かされたのか」


「いえ。その人はとても良い人で、昔から魔族の発展のために色々な魔法道具を生み出しては魔族にもたらしていたの。そのお陰で今魔族は技術的にも申し分無い程栄えていて、彼のことを知らない人は居ないくらいよ」


「お前を裏切った勇者みたいな展開も有り得るだろう」


「それは無いわね。もちろん私も充分警戒してそこへ向かったし、常に彼の様子に気を配ったけれど、何も変わったところは無かったわ。操られているという気配も無かった」


「なら、誰にやられた?」


「正直言って、それは分からないわ。けれどね、心当たりならあるの」


「ほう」


「彼が住んでいるその山脈、ここと同じくらい邪性魔子が多いと言ったでしょう?」


「そうだな。この魔王城でいうと、魔導三廻以上の力が無いと耐えられないんだったか」


「ええ。その山脈も同様。その理由が、《魔淵》が近いからなのよ。…今はもう無い魔王城からすると後方。ここよりもっと奥の方にあるのよ、その山脈は」


「《魔淵》が近いから邪性魔子が多いってのは分かった。そんで?」


「《魔淵》には、私たちでは干渉出来ない存在が居る、という言い伝えがあるの」


「そいつにやられたと」


「まだ分からないわ。いるかどうかも確かめられないし。けれど、私がその魔術士に道具を貰って帰る道中、《魔淵》の方向から妙な気配がする感覚があったの。その時から、何となく身体がだるくなっていったのよ」


「そんで、帰ってきて少ししたらバタン。か」


「そうね。その《魔淵》に居る何者かに攻撃を受けて、私は魔子を吸収することも消費することも出来なくなった。ただ、魔王の本能で、魔子を消費しなくても魔体をある程度維持出来るようにしたらしいわ」


「なんだその魔王の本能てのは。だが、それだったのか。お前が魔子を吸収しなくても消滅しなかった原因は」


「そうよ。魔王の本能っていうのは、代々魔王に血が引き継がれるのだけれど、その時に得ることができる特別な免疫のようなものだと理解してくれればいいわ。

 それで、私は魔子を必要としない魔体を得たわけ。

 まぁ、意識を失ったままっていう副作用も付いてくるけれど」


「意味ねぇじゃねーか。ただ魔子が無くても身体そのものは消滅しなくなったってだけか」


「そうだけれど、事実良い効果を出したじゃない。貴方が助けてくれた」


「……ああ、確かにそうだな。魔子抜きで魔体を維持出来るっていうなら、魔子を得られない状況を脱するまで意識が無いとはいえ死にはしない。なら、助ける余地が出来るってわけか」


「ええ。でも正直、どうしようも無い状態だったと思うわ。魔子を吸収・消費出来なくなるなんて異常、歴史上発生した試しが無かったから。貴方は、本当に例外というか…規格外ね」


「例外のおれが傍にいて良かった。…お前の頭から魔子が出てそれで治ったんなら、頭に何か仕掛けられてたんじゃないか?」


「私もそう思うわ。もし貴方が本当にこの城や森を魔子に変換出来たのだとしたら、私の頭に仕掛けられたものを魔子に変換して無効化することも可能でしょうし…そうやって治したのだと予想はしてみましょう。そもそも物体を魔子に変えるというのが信じられないことだし、確証はやっぱり無いけれど」




「まぁとにかく、その《魔淵》に居るかもしれない何者かがお前に危害を加えた可能性が高いと」


「飽くまで心当たりってだけよ。ただ思い付くとしたらそれくらいしか無いわ」



「じゃあ次なる目標は《魔淵》だな。連れてってくれ」


「早すぎるわよ行動が。そもそも《魔淵》の中は私ですら満足に行動出来ないほど邪性が濃いの。貴方ならまぁ、物ともしなさそうではあるけれど…流石に幾らか動きにくくはなるでしょう」


「うーむ…でもまたお前かラミィに危害が及んでも面倒だし、その《魔淵》に住む何者かにも興味あるしなぁ」


「我慢しなさい。私の方は気にしなくていいから、貴方はラミィを守ってあげること。でもまぁ、勝手に行くというのなら止めはしないけれど」



「レナ、トモは命の恩人なのに、全然恩返そうとしてない」


「それとこれとは話が別なのよ。ラミィはあまり知らないでしょうけど、《魔淵》は他の《淵》とは危険度が段違いなの。こればっかりは引いてもらうわ」



「そこまで言うなら《魔淵》は後回しでいい。それより神界へ行く手立てはどうなってる?」


「私があんなになっちゃったから少し予定より遅いけれど、あと二日くらいあれば行けるわ。ラミィはどうする?」


「ついてく」


「なら、ラミィの分も用意しておくわ。あと二日、この部屋しか無いけどまぁ寛いでいて。早速行ってくる」


「おう。また変な攻撃受けてくるなよ」


「充分気を付けるわ。ラミィを頼んだわね」


「ああ」




 そう言って、足早に部屋から出ていった魔王。

 普段は収納してる悪魔の翼を開き、飛んでいった。

 方角は…部屋から見て東か。

 その先に何があるのか知らないが、ちょっと気になるな。




「ラミィ」



「なに?」



「着いてってみないか?」



「私も、心配。行こう」




 おれは心配してるわけじゃ無いが、同意も貰ったことだし魔王の後を追ってみるとしよう。

 以前から尾行するのは大好きだった。

 気付かれず後をつけることで、その対象の自然な状態を見ることが出来る。

 見られているとも考えない対象は、その生態を余分無く曝け出すのだ。

 魔王の尾行、実に胸が踊るな。


 意気揚々と扉を開け、外に出る。

 後ろに着いてきたラミィを一瞥しつつ、東へ向かおうとする。




「あ、そうだ。お前、その格好で寒くないか?」



「ちょっと寒い。けど平気」



「うーん、でも見た目的に良くないな…。魔王の服とか、部屋に無かったか?ちょっと探してみよう」



「レナの部屋、勝手に漁っちゃだめ。女の子の部屋を漁るのは、無粋」



「といってもな…まぁお前が良いならそれで良いか…」




 今ラミィが身につけているのは、汚れたボロ布のみ。

 袖は無く、首元から膝上まで伸びる布を着ているだけだ。

 昨日馬乗りされた時の感触からして、下着を付けてない。

 まぁ獣族だしそんな文化あっても不思議じゃないだろうけど。


 つまりは、非常に寒い格好をしているのだ。

 これから魔王をつけるとなると長時間外に居ることになるだろうし、風邪でもひかれたら困る…と思ったが。

 こいつ、確か獣族の国からここまで逃げてきたんだったか。

 獣族の国から魔族の国まで、多分結構な距離があるハズだ。

 そこをそのボロ布の格好でずっと走ってこられたなら、問題は無いのか。


 というか、ラミィのことについて全然話をしてなかったな。

 魔王を尾行しながら聞くとしよう。




「じゃあ行こう。魔王相当飛ぶの速かったから、おれらも走っていく。着いてこれるか?」



「がんばる」



「よし。行くぞ」










 動き出したその瞬間。





 おれは直感で、ラミィを庇うように動いた。





 雷が落ちたような轟音と共に、体に衝撃が走る。





 ラミィを抱えたまま、背中に受けた衝撃に逆らわずおれの身体は軽く吹っ飛ぶ。

 とんでもない威力の攻撃だ。


 着地し、ラミィを確認。




「大丈夫か」



「……うん…トモは?」



「平気だ」




 背中に痺れるような痛み。

 はっきり痛みを感じる機会は、この世界に来てから幾度とあった。

 だが、今回のはそれらと別物だ。


 ヴォルテノンの拳撃も痛かったが、ただの殴打の痛みだ。

 スフィアナッダの極太な光線を全身に食らっても、ヒリヒリした痛みを少し得るだけで大したことはなかった。



 今受けたのは、違う。

 この世界に来て一番重かった。

 身体の芯まで痛みが響いた。


 攻撃を受けた方向を見ると、立つのは顔を布で覆った白い人間。

 いや、人間では無かったな。



 神族。



 ただし、今まで会ったどの神よりも圧がある。






「お前は誰だ?」






『教示するには意味の無きこと、世の理の定めるところ』


『然れど、神は無意味にこそ道を見る』


『蒙昧たる人に、神の御名を授けん』




 神族恒例の、脳内音声が流れてくる。

 これまた不思議で、三つの声が同時に流れてくるというのに、それぞれちゃんと意味が理解出来る。

 ややこしい言い回しをしてきたが、何となくこいつが偉そうなヤツだということは分かった。

 結局のところ、名前を教えてくれるようだ。







『我は神にして、神族を束ねる者』


『我は天辺にて、世界を俯瞰する者』


『我は淵より、い出て為す者』






『我は、神王。



 神王ヴァルエーゼシュタリーヴェンである』








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