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ヤバい奴らとヤバい生活 in 異世界  作者: バウム
第一章 神々の襲撃編
11/40

襲撃(逆)

 






「はっ…………はっ………はっ………」







 黒き静寂を内包して佇む大地を、「一人」のーーーー



 ーーーーー或いは、見る者によっては「一匹」の影が、その持てる力全てを振り絞って駆け抜けていた。


 沈黙する大地からは、本来の色にそぐわぬ暗い見た目をした木々が、その駆ける者を見物するように所狭しと立ち伸びている。


 その見物客の間をするりと器用に、されど風のような速度で通り抜ける影。


 その影の後方に、もう一つの影が迫っていた。


 否。


 影ではない。

 迫るのは、圧倒的なまでの光。


 それは、影と呼ぶには白すぎた。


 前方に走る影と大差無い速さで移動しているというのに、身体に巻いている純白の布は停止しているかのように振る舞う。


 それは布を身に付けた本人にも言える。


 大地から離れ、その身体の一切を微動だにせず高速で移動する様は、見る者に不気味な違和感を覚えさせる。


 そんな光と、四足を駆使し奔る影。


 数時間にも及んだその奇妙な追いかけっこは、今まさに終幕を迎えようとしていた。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 魔王城生活三日目。



 昨日の夜は、ベッドを貸してもらった。

 といっても、魔王の部屋のデカい天蓋付きベッドではない。

 別室にあったものを、魔王の部屋に搬入した形だ。

 とは言え、ベッドはベッド。一日目の夜に寝たソファとは比べ物にならない寝心地だった。

 例に漏れず、こちらもしっかり漆黒であった。

 ずっと気になっていたその黒さについて魔王に尋ねると、



「この魔王城にあるものは、邪性を纏った魔子の濃度がとても高いの。

 その影響で、ここまで黒くなるのよ。邪性魔子の本質は『黒』だからね。

 ちなみに、邪性魔子濃度が高いと魔族ですら害を受けるわ。魔導三廻以上の力があれば、問題なく耐えることが出来るの」



 そうらしい。

 確かに、この黒さは見る者に良くない影響を与えそうだとは思っていたが、邪性を纏った魔子を多く含むのか。

 邪性魔子なんて名前だから、そりゃ高濃度になれば害が発生するだろうな。

 存在感すら消えかける程の黒、その秘密は魔子にあったらしい。

 ほんとに魔子はあらゆるものに影響してるんだな。



 城の黒さについて話した朝。

 それから魔王は、神界へ行くために必要なものを集めに出掛けた。

 おれはというと、爽やかな朝日の差す城の窓際で、悠々と朝のコーヒーブレイク(コーヒー抜き)を堪能していた。

 ただ座っているだけなので、すぐ飽きた。

 というわけで、朝の散歩だ。

 石版を探しに行くとしよう。


 魔王城のデカい扉を抜けて、紫の草原に足を踏み入れる。

 さて、このめちゃめちゃに広い森だが、どの方向から探そうか…なんて思っていると、微かな魔子の揺らめきを感じた。

 基本、空気中の魔子は大きく動かない。

 魔子濃度が高くとも低くとも、である。

 だが、それが一定の流れを見せる時がある。

 それは、近くで何らかの魔子操作が行われた場合だ。

 例えば、魔法。

 魔王が「獄炎」を使う時、周囲の魔子はおれが見た中でも一番激しく揺れる。

 それを凄い迫力だと魔王に言うと、



「空気中の魔子の揺れ、って…また、それも冗談じゃないわよね…?というかもしかして、魔子濃度を肉眼で見分けられたりするの?」



 という風に、理解が及ばないといった顔で聞いてきた。

 肯定すると、ヤバいものを見る目を向けられた。

 理不尽な。


 そんなことはまぁさておき、つまりは今おれが観測した魔子の揺れは、この先で何らかの魔法行使が為された可能性が高いことを示しているわけだ。


 行くっきゃねぇ。


 魔子が揺れたのは、魔王城正面から見て西。

 まぁ正直言ってどの方角も漏れなく森なので、見た目には全く変化が無い。

 だが、魔子には確たる変化があったのだ!

 西方向へダッシュする。

 ダッシュといっても、小走り程度に抑える。

 じゃなきゃ異常な身体能力のお陰で有り得ない速度が出て、制御出来なくなっちゃうからな。



 小走りで木々の間を走り抜けている最中、別のことを行う。

 念だ。オーラを練ったりとかはしない。

 頭の中で強く念じるのだ。


 すると、久々の黒球くんの登場である。

 今回は、テニスボールより一回り大きいくらいのサイズ。

 さてさて…。


 魔王に、この黒球について色々と教えて貰った。

 正式名称を「球状邪性魔子凝体」というらしい。

 普段呼びは「魔球」。

 投げると消えそうだ。

 そんな魔球だが、おれたちの脳の中で巡る魔子の動きに呼応して作り出されるようだ。

 端的に言うと、念じれば出る。

 凝縮の際、通常の空気中の魔子とは異なる性質を得るらしい。

 それが、身体へ定着しやすくなる性質だそうだ。


 これを吸収すると、身体に蓄えられる魔子量の最大値が増えて強くなれるようだ。

 しかも、魔子が肉体そのものに定着するから、その強化は半永続的なのだと。

 この世界で「強くなる」と言ったら、基本的にはこの魔球を生み出して吸収することを示すらしい。


 というわけで、おれも強くなるために魔球を吸収することにした。

 筋トレと同じように積み重ねが大事ということが予想されるので、毎日五回くらい行おう。

 少ないと思ったが、魔王に「ここら一帯から魔子を枯渇させたいのなら毎日やってもいいわ」と言われたので、五回くらいに留めておく。


 ただし疑問点が一つ。

 魔球作成を繰り返すとその場の空気中の魔子量は減っていく。

 そこの魔子濃度にもよるが、大体三から五回程度作れば魔子は枯渇してしまう。

 しかし、この世界では魔球を吸収することが強くなる手段だ。

 国の兵士とかは、当然それを行うだろう。

 そんな大人数が魔球を作ったら、すぐにその近辺の魔子なんて無くなってしまうのではないだろうか。


 法律とかで、魔球作成は一日一回だけみたいな内容のがあったらどうしよう。

 即罰金又は懲役だ。


 でもまぁ、そんな事この森の中で考えても無駄なので、取り敢えず気にしないことにした。



 走りながら生み出した魔球を、スっと身体に取り込む。

 なんか強くなった気が…………する。多分。きっと。


 ふと気になって、もう一度魔球を作る。

 その次に、作った時よりもムムムっと強めに念じてみる。

 念じた内容は、魔球の動き。

 作った魔球を、自在に動かせないものかと思ったのだ。


 結果は何とも言えない感じだった。

 八の字に動くよう念じたが、一画目を書きかけたと思ったらパシュッと音を立てて消えてしまった。

 集中が途絶えると、魔球も霧散するようだ。


 うーむ、難しい。

 でも、これも毎日練習してけば身に付けられる気がする。

 今日から頑張ろう。

 努力するならベストを尽くす、がおれのモットーだからな。

 今考えた。




 魔球で遊んでいるうちに、魔子の流れが段々と大きく変化し始めてきた。

 もう少しだ。



 と、遠くに何やら目立つものが見えた。

 この世界で最初に見た色。

 距離があってそのモノの姿はあまり識別出来ないが、あの目が眩むような色は確実にアレだ。



 神族。



 走っているうちに距離が縮んで、そいつの姿がはっきり見えるようになった。


 男だ。横顔が見える。

 端正な、しかし豪快さもどこか感じられるガッシリとした顔つき。

 例に漏れず髪は白く、短髪に切り揃えられている。

 左肩から腰にかけて純白の布が垂れており、下半身には腰巻きのようにして脛まで伸びる布を着用している。


 何やら、おれから見て左の地面に目を向けている。

 何かを見てる?


 と思いきや周囲の魔子がぐっと揺らめき、そいつの胸の前に輝かしい黄色の魔法陣が描かれた。


 めちゃカッコイイ。なんだアレ。

 おれもやりたい。


 そんな感想を抱いたのは別として、なにか嫌な予感がしたので全速力でその神に突進する。


 寸前でそいつはこっちに気付くが、もう遅い。


 おれはタックルでそいつを吹っ飛ばした。



 バキィッ!!



 だが、感触と音がおかしい。

 生物に突撃した感じがしない。

 何か、硬い壁にぶつかったような…。

 防御されたか?



 疑問に思っていると、前方に吹っ飛ばした神が仰向けになって転がっていた。

 しっかり当たってるじゃねーかと、そう安堵するのも束の間。そいつはバッと全身を起こし、仰向けの状態から手を使わず立ち上がった。



「おーーー」



 おれが拍手でその超人技を称えると、神族恒例の脳内語りかけ音声が響いてきた。



『神に仇なす者よ…この私の偉大なる任務の妨害をし、あまつさえ侮辱する始末。死罪を宣告します』



 頭に響いた声は、その神の見た目にベストマッチな感じの清潔感ある中低音。

 ただ、敬語は何かイメージと違う。

 その壮健な見た目に合わせるなら敬語を選ぶべきでは無かった!



『意味不明な思考回路です…死が差し迫る状況でこの私の外見と声・口調の整合具合を気に留めるなど…』


「あ、やべ聞かれてた?ごめんごめん気にすんな。おれはトモという。お前の名前は?」


『私の名はスフィアナッダ。偉大なる神智一廻、序列第三位《神なる沈黙》スフィアナッダです。卑しくも神の名を尋ねるその無礼、死を以て償ってもらいます』



 名前聞いただけで死刑て、神にも過激なのが居るんだなー…

 と思ってスフィアナッダをじっと見ていると、やつはあの輝く黄色の魔法陣を五つ描いた。

 描いたと言っても、やつ自身は微動だにしていない。

 動かずに魔法陣を描けるのか。

 これはおれが魔球を操る為のヒントになり得るのでは…!?


 そう考えていると、その五つの魔法陣全てから光る矢が発射された。

 ()()()だったらさすがに取れないかもしれないが、光っているだけの矢なら今のおれの動体視力からすればそこまで速くない。

 五本全ての矢を掴み取った。



『…………この私の矢を防ぐとは、相当の実力者のようですね…。ですが残念。あなたはそれに触れずに、避けるべきだった。防御するのは余裕だと勘違いし警戒を怠った。それがあなたの敗因です』


「なっ…何だと!?」


『フ……後悔してももう遅いですよ。その矢は神性を纏っています。実力者と言えど、身体中の魔子が神性に染められて無事に帰ることができる道理はありません!』


「………」


『………』



 右手に掴んだ五本の矢に目を向ける。



 自分の身体を見回す。



 異常ナシ!オールグリーン。



「………」


『………』


「………神性が何だって?」


『な!ななな何故です!何故私の神矢を五本とも受け止めて神性に乗っ取られないのですか!』


「こっちが聞きたいぜ。ただ、一つ言わせてくれ」


『………!?』


「敗者はお前のようだぜ」


『調子に乗るなぁーーーーっ!』



 頭の中に叫び声が響く。

 うるさい。

 騒音に顔を顰めていると、スフィアナッダが五本の矢を出した魔法陣よりも一際大きなものを描く。


 すると、この場の魔子が矢の時とは比べ物にならない程大きく震えだした。



「もしかして大技来る?」



『あなたは私を怒らせた…!神性魔子への耐性を持っているだけで付け上がり、私を敗者などと侮辱した!ここまで私にふざけた態度を見せられる者はそうおりませんよ……その愚かさを賞して、褒美を差し上げましょう。

 私の本気の魔法を思い知りなさい!!』




 戦闘中に本気とか言うヤツ、大体そんな強くない説を提唱したい。


 それはさておき、これは本当に凄そうだ。

 魔法陣は未完成のようだが、新たな部分が描かれていく度に周囲が激しく揺れる。

 魔子の震えから察するに、魔王の獄炎には劣りそうだけどそれに近いレベルの威力を持っているんじゃ無かろうか。


 耐えられるか、おれ…?

 一か八かだな。博打というほどでもないが、こいつの実力がめちゃめちゃ上だとしたらおれは今ピンチかもしれん。

 ま、取り敢えず魔法受けてみようか。


 てか使うの遅い。

 スフィアナッダさん、戦いの中そんな悠長に魔法陣描いてたらボコボコにされるぞおい。

 変身中は攻撃しちゃいけない、みたいな戦隊モノルールでもあるのか?

 魔法陣描いてる途中で攻撃しちゃダメなのだろうか。


 …まぁ、ここはヤツに魔法を披露させてやろう。




『喰らいなさい、私の究極たる魔法!


神々は然れど凪を見るヴァルエン・リクシェード」!!』




 ヤツが魔法の名を叫ぶと同時、魔法陣から極太の光線が発射された。

 魔法陣とほぼ同じ直径だ。

 太さ三メートルくらいはある。

 まぁ魔法そのものの情報は一旦置いといて…


 魔法の名前すごいなオイ!


 なんだその読み方!

 というか何でおれは技名と読み方が違うのを理解出来てるんだ!怖い!


 頭に直接声が届くのだが、「神々なんちゃら」っていう技名と「ヴァルなんちゃら」っていう読み方が同時に情報として脳にぶち込まれた感覚だ。

 技名もすごいけど、この情報が二つ同時にねじ込まれる感じ、面白い。


 技名にツッコんでいるうちに、光線がおれにぶち当たる。

 ちょっとピリっとした。

 あ、コレ大丈夫なヤツだ。


 ていうか、おれはどんだけ強くなってるんだ…?

 こいつ、さっき「神智一廻序列第三位」って言ってたし、神の中でも相当上位に位置するだろうに…

 序列だの何だの、具体的な強さの指標が出てきたお陰で何となく自分がヤバいことに気付き始めた。

 能力的な面でね。

 人間性の方はとっくの昔にヤバいって気付いています。




『…………な………ぁ…………!!?』




 スフィアナッダはというと、光線を浴びてもピンピンしているおれを見て愕然としていた。

 目を見開いて、「あんぐり」という効果音が似合うくらい口を開けている。


 濃い感じのイケメンだというのに、そんな顔したら台無しになるだろう…。



「スフィアナッダ。これで敗者がどちらか理解しただろ。そんでもって、敗者は勝者の言うことを聞かないとなぁ?」


『どこまでもふざけた人間だ…っ!一体何を企んでいる!』


「教えて欲しいことがあるんだ。それが終わったら逃がしてあげよう」


『………請願を許します、言ってみなさい』


「お前、動かずに魔法陣描いてただろ?あれどうやってるんだ?」


『……私の加護の特性です。思考によって生じる魔子の流れを加護の魔法機構が読み取り、身体を動かさずに()()()()()()()()を具象化させます』


「うーむ、加護か…。一般的に人間が加護を得ることは?」


『ありません。神族にのみ適応する魔法機構ゆえ』


「そうか…まぁしゃーないな。ありがとう。ここから去っていいぜ」


『……不服ですが、致し方ありません…大方あなたは()()を護る為に私の妨害をしたようですし…これ以上は命の危機だ。一時撤退と致します』


「うん。ごめんな、奇襲して。おれは神とは仲良くやりたいから、間違ってもおれを敵だと看做さないで欲しいな」


『………不敬極まりない……ですが、その強さは一見の価値があります。敵対しないというのなら、こちらも相応の態度で接しましょう。ヤツを追う任務も、一旦保留と報告させて頂く』


「そうそう。みんな仲良く、だ」



『………では、あなたが神の敵では無いことを祈ります』



 そう言い残し、スフィアナッダは飛び立っていった。

 微動だにしないまま。

 加護の特性とか言ってたが、直立不動のままでスイーッと飛んでく姿だいぶシュールだな。

 面白いヤツだし、是非友達になりたい。



 …と。



 何故おれが今のヤツを解体せず見逃したか。


 もちろん、あいつ自身が面白かったのと、襲撃したのはこっちだからさすがに殺すのは申し訳無いと思ったという理由もある。


 だが、一番の理由は。


 あいつの死体に構ってる暇が無いほど、おれの興味は別のモノへと向いていたからだ。


 おれがスフィアナッダに不意打ちタックルする直前、あいつは左の地面に向けて魔法を放とうとしていた。

 その先にあったものを、おれはタックルと同時にチラ見していたのだ。


 その姿を思い出しつつ、それがあった場所へ向かう。

 そう離れては無いはずだが……………



 ………いた。



 それは、耳と尻尾。

 白い毛並みで覆われた、猫の耳と尻尾だ。


 ただし、その部位以外は本来のものと異なる。



 人間だ。



 白い髪の、少女の頭に耳が。

 尻の上部から尻尾が、生えている。

 これは、人間と猫の融合。

 前の世界で人々が夢見た、生命の不思議だ。





 簡潔に言えば、ケモっ娘である。






色を表す語彙力が欠乏している…。

勉強します。

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