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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
樹林公国クレア
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91.御前試合、または試される場

ハウォルティアから少し離れた土地に、地面が均された広場が存在していた。


否、そこは切り株の上であり、騎士達が普段修練を行っている場所であった。


端で見ているのは、エメラルドグリーンに輝く髪を持つ少女と、白銀の髪を揺らす青年。

彼らから少し離れた場所には一塊になった集団が二つ。


イクリールの近衛騎士の一団と、ツムギ一行である。


皆の視線の先、切り株の中央には二人の女性が向かい合う。


「聞けば貴様は鬼の血を持つようだな。」

「そうですね。ですが、私は人間寄りです。ので…。」


黒髪のストレートを揺らす彼女が、だらりと携えた刀の柄頭に魔力を注ぐのと同時、弾けるように彼女の全身を覆う紅。


紅血(クリムゾン)


彼女の攻防一体の兵装であり、その姿をオーガを想起させる姿へと変貌させる。


相対する女性は黄褐色の髪を大きく羽ばたかせ、その身を宙へ押し上げている。

ひくひくと鼻を動かし、その匂いに眉を潜める。


「その深紅の鎧、全て血液か。」

「えぇ。心配しているのでしたらご安心ください。体は頑丈なので。」

「相手の心配して、衛兵など出来まいよ。」


彼女の獲物は槍。

その身が飛翔に特化した身軽なものであるため、中近距離戦闘に特化したものを持つのは必然と言えた。


「行きます!」

「来い!」


お互いせっかちな性格なのであろう。

審判役としてリオネルさんが間に立っていたのだが、合図をすっ飛ばして戦闘を開始した。


「仮にも御前試合だと言うのに、ロッティは何を…。」

「レティちゃんも中々空回りしてる気がするなぁ。」


レフリオさんとフェリがそれぞれ壇上で獲物を交わす二人の事を口にする。


シャルロットさんのことは解りかねるがレティとはそれなりに一緒の時間を過ごしているため、少しだけ解ることがある。


理由までは推し量れないが、彼女は今、焦っているようなのだ。

何が彼女の心を逸らせているのか。


心知らぬはツムギだけなのはここだけの話。


ーーー


神速の槍は千変万化の斬り込みを見せており、レティはその場に足を縫い付けられたかのように、留まっている。


「どうした!そんなものか?」


豪快な身のこなしに反して、穂先は繊細にレティの次の手を事前に潰してくるため、満足に刀を振るうことができない。

すんでの所で槍を躱しつつ、強引に攻撃に転じるも、それすら織り込み済みであるようで刃は競り合う事無く空を切る。


相対するシャルロットは強い。

一手一手の強さはそれほどではないが、それを補ってあまりある素早さと機動力、そして恐らく魔法。


飛翔できる利点を最大限使った高速立体機動は眼で追うのに必死で、未だ慣れるに至らない。


魔法に関しては恐らく風を起こすものだろう。

時折全身を面で叩くような突風に見舞われる。

威力はさほどであるが、著しく集中力を乱される。


切り結ぶ度、すれ違う度に、右から左から、突きに薙ぎ払いに突風と、多彩な技を織り混ぜる技術も手伝って、レティは大きく苦戦を強いられている。


焦る。


ツムギと行動するようになって、周りに強い人が、しかも女の人ばっかり集まって、自分がツムギが私と一緒にいる意味が、理由が無くなってしまう。


焦る。


こんなにも自分が弱かった事に。

強がって虚勢を張って、父からもらったオーガの血で自分を武装してまで立ち向かっても、何一つ掴み取れなくて。


ダンジョンでの一件を思い返す。

私は横に立てなかった。

とっさの事とはいえ、最下層で並び立ったのはグロリオ領で私を圧倒したソフィアだった。


どうすればツムギの横に並び立てるだろう。

考えるほど胸が苦しくなる。

攻めることができない苦しみと、自身の無力さが一緒くたになって頭を駆け巡る。



対するシャルロットも現状に焦りと憤りを覚えていた。

勇んで飛び出したにも拘らず、シャルロット自身が得意とし、自慢である槍術の悉くを時に往なし、時に受け止め、時に紙一重で躱される。


まるで流れ落ちる滝に切りかかっていくような錯覚を覚えていた。

如何なる方向から技を加えるも、紅の鎧に刃が届くことがない。


無為なことをしているのではないか。

不安で自然と呼吸が上がる。


なのに。


これほどまで堅牢な守りをしているにも拘らず、当人の鬼面の奥の瞳は揺れている。

目の前のこれは何と戦っているのか。


攻撃を当てられない自身への苛立ちが募るが、それ以上に相手の態度に苛立つ。


「ッッ!!」


ギャリギャリと金属が強く擦れる音。

レティの刀とシャルロットさんの槍の穂先が競り合う。


双方が疲弊した体での力比べを嫌って、お互いを弾く。


シャルロットはギリリと歯を食い縛る。


「なあ。貴様は何を見てるんだ?どこ見て戦ってるんだ?」

「…なんの事です?」

「貴様の目がどうしても、じぶんを射抜いているように見えんのだ。邪念が見える。」


なのに、なぜじぶんは貴様に致命の一撃を能えることが出来ないのか。

自問する事を控え、出来るだけ苛立つじぶんを抑えようと努力する。

しかし、言葉を交わすともうダメだった。

頭に血が上っている自覚がある。

妹を助けてくれた恩もある。


ならば、賭けてみよう。

この目の前のオーガの血を引く者が、じぶんを、シャルロット=コールブランドの我が儘を見て、どこまでよそ見をして居られるか。

どうせ練習試合なのだ。

怒りに任せて倒れようともお叱りを受けるだけで済む。


心に決めたら早かった。


「構えろ。じぶんの全てを賭ける。耐えてみせろ。」


シャルロットの後ろ髪が大きく広がる。

威嚇するように、圧を掛けるように。


彼女の腰にある二つの魔法結晶が光る。

彼女の魔法は二つ。

一つはこの世界では割とポピュラーな魔法結晶『突風(ラフィカ)』は風を起こす。

注ぐ魔力を増やせば強い風が、減らせば弱い風が起こる。

もう一つが『錬氷(グラシオン)』。

これはその名の通り、氷を造り出す魔法結晶である。


シャルロットはこれらを組み合わせる。

無数の小さな氷塊を暴風により吹き飛ばし、相手を巻き込む。

自然の猛威、氷嵐と呼ぶに相応しい広域殲滅魔法は狙い過たずレティを襲う。


ツムギは一瞬だけ声を出そうとし、止めた。

レティと目が合ったのだ。

瞳にはギラギラとした熱があった。

挑戦者の瞳を視てしまった。


直後、轟音と共にレティの姿は氷嵐に消えた。

突風(ラフィカ)」が出回っている理由としては、動力として優秀であることと、飛行する魔物のほとんどからドロップする可能性があるからです。


ただし、魔力の少ない新人冒険者や一般人が使うと扇風機のようなものに近くなります。


魔力を風にするので、エネルギー量は等価です。

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