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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
樹林公国クレア
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90.賢王樹

宿について幾らか時間が過ぎた頃に、レフリオさんが宿屋へと戻って来た。

全員が揃ったら謁見の間にて、賢王への謁見を許可する旨を報告してくれた。

彼はそのまま賢王の元まで案内する役目も仰せつかったらしく、足早にリオネルさんを探して宿から出ていった。


更にその後、しばらくしてリオネルさん、レフリオさんとレティ、ヴィルマが宿屋へと戻って来たので、僕たちは賢王へ謁見に向かうことになったのだ。


「拐われた子供を返して回ったのに帰ってくるの早かったね。」

「えぇ、皆感動の再会だったんで、初めは凄く時間がかかっていたのですが、レフリオさんが来てからはえらく迅速でしたね。」

「賢王様?の話をしたら、『何よりまずはそちらの優先をー』とかなんとか。余程町の人からは慕われてますよー。」


なるほど。

速やかに僕らを賢王の元に向かわせるために、町の人が協力した訳か。


「会うの怖くなってきた。」

「ラピスグラスの王と斬り合った癖に?」

「あれは不可抗力でしょ。ソフィアも襲ってきた癖に。」

「ボク達の運命はあそこからだったのかもしれない。」


ソフィアはそう言いながら、少し眉を下げていた。

いじめすぎただろうか。

とは言え、あれに関しては僕らが付き合っていく上でずっと付きまとうものであり、言い逃れはできないものである。

ある程度は常に心に留めておく必要があるように思っている。


「ソフィア、大丈夫です。私も出会い頭に斬りかかりました!」

「それはフォローになってないですぅ。」

「うぐ…。」


そう言えばレティもそうだったな。

ヴィルマも無意識か知らないが棺に引きずり込まれたし、そんなのばっかりか。


「やはり運命的なのはフェリが一番ですかねー?」

「あの時ツムギくんがフェリス抱えて連れてきたんだよ。」

「だって、あんなに近くに顔が来たら誰だって…。」


ぼしょぼしょと尻すぼみになっていくフェリ。

呆れた顔のアニスタ。


「オレたちもフェリ姉ちゃんやアニスタ姉ちゃんの後くらいだよなー。」

「おいら達が主に軽く捻られた話?」

「だな!やー強かった。今戦っても勝てる気しないからなー。」


大所帯になったものである。

初めはスライムさんと二人、いや一人と一匹だったのに。


「そう言えばナツミ。」

「どうしました?」

「ダンジョンから帰ってきた時に、スライムさんに会った気がするんだよ。」

「まぁずっとご主人様と一緒にいますからね。一心同体と言うか、同一人物と言うか。…それで、何か言っておられましたか?」

「『無茶しすぎ』って怒られた。」


ナツミはクスクスと笑う。


「当然ですね!腕切り落とされて、無理矢理繋いだり、火炎に体晒したり…一回死んでるのに、体の限界というか、さじ加減がわかってないんですよ。ご主人様は。」


そう言われると、自分が如何にまともな行動をしていないかがよくわかる。

ナツミが傍から離れようとしない気持ちも解ると言うものだ。

だからと言って、手を繋いで歩くのはやはり気恥ずかしいと言うかなんというか。


「ここが賢王樹だ。ここで賢王イクリール様が待ってる。リオネル、ロッティと賢王様に一声かけてきてくれないか。」


万象の樹より少し小さな大樹にへばりつくように据えられた大きな扉。

3m以上あるだろうか。

僕の高さの倍くらいの高さがある扉は、木造で緻密な装飾が施された上で劣化や欠損を防ぐ、特殊な加工が成されているのたそうだ。


彫られているモチーフは…頭と前足、それと翼は鷹や鷲のような凛々しい鳥で、その他の部分はライオンのような獣の姿。

空の王と陸の王を重ね合わせた姿はまさしくグリフォンに相違ない。

それは今にも飛び出しそうなリアルさと芸術的な緻密さで見るものを威嚇しているようにも見える。


扉に見とれていると、レフリオさんに言われてリオネルさんが僕の隣を通り過ぎ、賢王樹に入っていく。

間も無く、リオネルさんが戻って来た。

賢王さんの準備が整ったらしい。

むしろ整っていたらしい。


リオネルさんとレフリオさんが両開きの扉を、同じタイミングで開いていく。


足元の真っ直ぐ伸びる深紅の絨毯には金の刺繍が映える。

賢王樹の内側は、大木をくり貫いたとは思えないほど広く、素朴でありながら豪奢、と言うような奇妙な感覚を覚える。


その最奥、真正面に見据える玉座の正面に立つ、人成らざるモノが口を開く。


『よくぞ来た。』


頭上から響く声。

扉を開けた瞬間からそれはこちらを見ていた。

高くから見下ろしているのは威圧するように翼を広げたグリフォンだった。


扉のレリーフよりも更に威厳に満ちた姿。

猛禽類の眼光の鋭さ、爪の鋭さ、翼の雄々しさ。

獣の全身のしなやかさ、後ろ足の屈強さ、


どこを取っても王の風格が漂っている。


「王の御前だ。頭を下げよ。」


シャルロットさんの声が響く。

僕らは急ぎ片膝を付き、頭を下げる。


『冒険者よ。子は宝である。我が宝を救出した上、万象の樹の元まで送ったこと。感謝しよう。さて…』


一拍を置いた後、賢王であるグリフォンはその姿を変える。

渦巻く風と、魔力の光の目映さにより、その姿は見ることができない。


風が収まる頃に、現れたグリフォンは人化を使った姿。

腰にまで届きそうなほどのロングヘアはエメラルドグリーンに輝き、三編みを一つ結びにしている。

つぶらな瞳にキリリとした目尻。

ふっくらとした頬に、ストンとした体躯。

その姿は幼女だった。


宿に着く直前の会話を思い出し、そう言えばファンタジーの世界だったと心の中で嘆息する。


「くふふ、どうじゃ。愛らしいじゃろ。」


その幼女は悠然と玉座に座り、大きく足を組みひじ掛けに肘をついた上で頬杖をついていた。


「賢王、戯れが過ぎます。」

「構わぬ。ワシがこやつに求めるのは、そんな地位云々のような些末なものではない。ツムギとやら、面をあげよ。腹を割って話そうではないか。」


おずおずと頭をあげる。

彼女はいったい僕とどのような話を求めているのだろうか。


「軽くロッティから話を伺っておる。子らを連れてくる道中に、我が騎士とロッティの妹らを暴漢から助けたそうだな。」

「はい。」

「全員生きたままだったというが、無血であのような荒くれどもを制圧出来る力を少し視たいと思うてな。」


賢王はちらとシャルロットさんの方を見ると、予定していた流れなのか、一歩前へ進み出る。


「どうじゃろう。うちの騎士と手合わせ願えんだろうか。」


ニヤリと笑みを作る賢王の圧は有無を言わせないものがあった。

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