9.魔王城の現在
「すみませんでした。」
オーガが泣き叫び雄叫びをあげていた理由が大剣を失ったからだと聞き及び、平身低頭の構えである。
「俺に言ってくれりゃもっとなんとかなったかも知れねぇのに。」
「いや、ほんとすみません。」
「それに、プラチナムオートマトンも吸収しちまって…」
あの絡繰人形そんな名前だったんだ。
「まぁあれが動き出したのも最近だったから別に良いけどよ…。いや、いいのかな。」
『意識はこの中にありますから大丈夫です!それに、ご主人様見てください!』
スライムがもこもこと大きくなっていく。
通路一杯にまで広がり、スライムの体から人の形が二つ、形作られる。
一つはナツミの姿で、もう一つはさっきのオートマトンメイドの姿で。
ナツミには穴を開けた袋を被せる。
『分裂で、核の数だけ一人ずつ身体が作れるようになりました!』
大きなスライムは誉めてほしそうにぷるんぷるん揺れる。
大きいので地面も揺れる。
うーん。凄い。
核の数…スライムさんと、ナツミと、メイドさんで3つか…。
うちのメタルスライムはどこへ向かっていくのだろう。
ステータスは…
ーーーーーーーーー
Name:シロガネツムギ
FP:1140/1340
Familiar:ヒュージコンプレスメタルスライム
FamiliarName:ナツミ
Skill:
『吸収:B』
『転写:C』
『圧縮:D』
『人化:C』
『分裂:E』
『錬成:E』
ーーーーーーーーーー
分裂と…錬成?
「錬成ってどんなスキル?」
『取り込んだものを量産できるそうです。』
取り込んだものを量産?
金属製品を量産?
すっごいな。
『スキルランクが上がれば、より上等なものが作れたり、混ぜて創作が出来るみたいですよ!』
ますます凄い。
頭を使えば一財産築ける力だ。
取り込んだものを量産と言うことは…
「この力で、このオーガさんの剣…作れないかな?」
「なっ、まじか!出来るのか!?」
『すみません。柄がなくて出来ないんです。ラッチさん、柄は持っていませんか。』
「もちろん持ってるさ。ほら。」
柄と鍔だけずっと持ってるのを見ると申し訳なくなってくる。
愛着があったんだなぁ。
『では、その柄を頂けますか?吸収します。』
「えっ…」
あからさまに嫌そうな顔してる。
気持ちはわからなくもないけど、渡してくれないと作れないよ。
渋い顔のまま、スッとスライムに渡すオーガさん。
このオーガ、なんか親しみがあるな。
人間っぽいというか。
付き合いのいいおじさんって感じ。
目付き鋭いし、見た目はデカイし、肌の色赤黒いし、筋肉凄いし、角生えてるけど。
『では、錬成しますので、暫く待ってくださいね。』
「暫くって、どれくらい?」
『えーと、解析して、形を作って、整えて…2日程かかりそうですよ。ご主人様。』
「そんなにかかるの!?」
『ものを作るのは大変なのですよ。その間に食料庫へ向かってはどうですか?オートマトンさんがウズウズしていますので。』
「なんでウズウズ?」
『ご主人様から貰った指示を実行したいそうです。』
そういえばそんなこと言ったなぁ。
「ナツミと、スライムとオートマトンさんはバラバラでも動けるの?」
『はい。それぞれに核が入ってますので、自立行動出来ます。』
…それって結構危険なんじゃないだろうか。
どこか行ったまま帰ってこないとか。
反逆されるとか。
今のところ、使い魔と幼女とメイドロボだし大丈夫だと思うけど。
「じゃあオートマトンさんは僕を案内して欲しい。ナツミはオーガさんの剣を錬成してて、で、スライムさんは…」
この階と上の階にある金属を集めてもらおうかな。
「オーガさんと吸収していい金属を見繕って欲しい。オーガさんもいいかな?」
「構わねぇけど、あんまり詳しくないぜ?俺、部屋に入ったことないし。」
「大丈夫、知ってることがあったら教えて欲しいだけだしね。」
「わかったよ。じゃあ、お前のメタルスライム預かるよ。」
「お願いします。置いておきたいものは避けておいてくれればいいから。」
僕とオートマトンさんが下に向かう。
オーガさんとスライムさんが能力上げのための金属探し。
ナツミは一人でオーガさんの剣を複製…一人か…。
「ナツミはどこに居ようと思ってるの?」
『あたしはあたしが使っていた部屋を覗こうと思います。落ち着けるかは分からないですけど。』
「うん。無理しないでね。書庫で集中してもいいからね。」
『ありがとうございます。ご主人様も気を付けてくださいね。』
「ありがと。じゃあオートマトンさん、道案内よろしくね。」
『承知しました。では、こちらになります。』
先ほどと同じように、オートマトンは下に向かって歩き出す。
「ん?あ、おい!下に行くのはもうちょっと準備してからの方がいいかもよ。」
「え?なんで?」
「だって、この階より下は全部ダンジョン化してるし。」
…やっぱりか。
でもすぐ下?
それって城の中なんじゃ。
「城がダンジョン化してるんだよ。ここはセーフティゾーンになってる。元々防護の魔方陣が多かったから、魔力の流れが乱されなかったんだと思う。逆にここから下は、勇者との戦闘で魔力が乱されて…というか、攻め込まれた時に乱れた。始めは一階、二階までだったが、今はこの真下まで全部。」
オーガさんは苦々しい顔をしている。
攻め込まれた時の事を思い出しているのだろう。
「まぁ、昔の話だ。すぐ下の階は俺でもうろうろ出来るし、セーフティゾーンもまだ残ってる。俺が普段生活してるスペースの周辺だけだけどな。」
「わかった。…そういえば、オートマトンさんも聞きたいんだけど、ナツミ…ローナちゃんから聞いてたんだけど、魔王様の部屋から1階へ向かえるって聞いたんだけど。」
「ん?そうなのか?…魔王専用ってことならまぁそんなもんもあるか…。」
「私の記録には通路はありません。王族特権だったのではありませんでしょうか。」
「でも、それ使えないんじゃねーかな。ダンジョン化してるし、魔方陣なら、魔力が乱されてるはずだしな。」
なるほど…。
ダンジョン化…思ったより厄介だな。
「じゃあオートマトンさんが向かおうとしている道のりで行くとしようか。」
「あ、量は少ないけど、ダンジョン内でも水は湧いてるからな。探してみてもいいかもよ。」
どういう仕組みなんだろ。
魔力が関係してるのかな…。
「水が湧くなら、入れるものが欲しいよね。先に水が貯められるものを探そうか。」
『承知しました。では、一旦、オーガ様と一緒に行動致しましょう。』
色々あるといいなぁ。
周辺を探索して、それからダンジョンアタックだ。
楽しみになってきた。