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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
空中都市ロガロナ
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8.魔王城廊下

「1、2の3で行動ね。3の『さ』の部分ね。」

『いつでも行けますよ!任せてください!』


ヤル気満々であることを上下にぽよぽよ震えることで表現するメタルスライム。

スライムもヘドバン出来るとは驚きである。


目的地は出て左。

階段上がって魔王の自室。

オーガを撒いたメタルスライムを確保して、一段落。


「よし、じゃあ行くか。1、2の3!」


ドアにグッと力を入れる。

隙間から、メタルスライムが飛び出る。


グウォォォォオオオ!!

『こっちですよ!オーガさん!』


まんま鬼ごっこだな。

振動が少し遠ざかっていくと同時に雄叫びも少し小さくなるのを感じる。

今だ。


パッとドアを開け放ち、出て左に向かって走る。


階段が遠い!

廊下が長い!


側にスライムもいないから、なんかと遭遇したら詰む!


怖い怖い怖い!


飛び出そうな心臓を抑え、ようやくたどり着いた階段はぐにゃりと半円を描きながら上へと繋がっている。


フッと振り返る。

薄暗い城内。

赤い絨毯は所々が剥がれ、焼け焦げ、魔王が居なくなった後そのまま放置されていたことがわかる。

側近とか、居たんじゃないのか?

居たなら建て直すだろうし、この城が無人である理由がわからなくなる。

先に勇者の手にかかったか、裏切り者がいたのか。


足音を立てずに、進んでいく。

遠くでは、オーガの雄叫びが響いている。


…大丈夫なはずだ。

スライムの足は速い。

大剣を吸収したときくらいしか知らないけど。


そろりと階段を昇っていく。

軋んだりすることもない、立派な階段だ。

手すりも30年経っているとは思えないくらいに劣化せず綺麗なままだ。

埃は被っているけれど。

焼けた跡等、争いがあった痕跡もそのまま。


スライムとしては大丈夫だろうけど…

ナツミは大丈夫だろうか。

僕なら…自分が住んでいたところが廃墟のようになってたら、心穏やかでは居られない。


もやもやしながら、階段を昇っていくと、正面に立ちはだかる影。


「………どちら様ですか。」


見下ろす影は、細く、光沢のある、絡繰人形のように見えた。

その瞳に光は入っていない。


これは…まずい。


ーーーside ナツミ


廊下を走っている。


ついこの前まで朱色が映える、綺麗なもふもふの絨毯だったところを、転がるように走っている。

視界が地面と近いため、絨毯が傷だらけの焦げだらけになっているのがよくわかる。


あたしの記憶は30年分飛んでいるらしい。

それなら私は38歳になっちゃう。

やだな。


父上は勇者に討ち取られたらしい。

もう一人のあたしは見ていたのだろうか。


遊んで欲しいと駄々を捏ねたらごめんねと笑う不器用な父上。

目の下に隈を作って、資料整理していた父上。

陰日向にいつも誰かを守ってきた父上。


勇者や人間は何故攻め込んできたのだろう。

足が止まる。


ォォォォォオオオ!!!


ご主人様に引き付けて、とお願いされたオーガの声。

なんでここにいるんだろう。

ここは王族以外入れない場所なのに。


雄叫びと共に追い掛けてくる。


ォォォオレの剣を返せエエェェ!!!


ん?剣?

どうしたんですか。スライムさん。

なにか心当たりが?


こっそり吸収した?

お腹がすいていたから?


なるほど。

だから追い掛けてくるんですね。


『オーガさん!話を聞いてもらえませんか!』

「ハァ…ハァ……話を聞かなかったのはそっちじゃないか。てめぇ俺の愛剣かっさらいやがって。国王に貰った俺の…俺の大事な…ゥオオオオォォォ!!!」


激おこです。

男泣きです。


それはいけませんね。

え?話できるとは思わなかった?

二足歩行の魔物は知性を有している場合が多いですよ。

ご主人様も多分知らない?


なるほど。

無知は恐いですね!


それはさておき、スライムさん。

少し体をお借りしてもよろしいでしょうか。

私の体を転写してください。


『オーガさん。あなたは先ほど国王から貰った愛剣と言っておられましたが、国王とはどなたですか?』

「決まっている!この城の王、魔王カーム=ツェルミルフェナ様のことだ。そこから30年。王女ローナ様が復活するその日まで、この上層階を守護する役目を担っておった。それを…お前が…お前どこかで……いや気のせいか?いやでも…メタルスライムだし…」

『あたしが王女ローナ=ツェルフェルミナです。諸事情がありこの身なりとなっています。貴方は、どうしてここにいるのか、お聞かせいただいても宜しいでしょうか?』


半信半疑の顔で、こちらを見つめているオーガ。

あたしが王女だと示すものがあれば良いのだけれど…


「俺ぁ、元門番。名前はラッチ。あの日、俺は人化が出来ずに置いていかれた。ここを守ってくれって言われた。だからここにいるんだ。ずっと何事もなかったのに、いきなりお前らは!俺の愛剣をおぉぉ!!」


思い出したように泣き出すオーガ、ラッチさん。

スライムさんもばつが悪そうにプルプル震えています。


そろそろご主人様は上の階にたどり着いたでしょうか。

ずっと泣いているラッチさんを横目にそろりそろりとご主人様の方へと向かいます。


「…そういえば、お前はいったいどこから来た?俺たちがドアを触ることも出来なかった書庫から今になって出てきたのはなぜだ?なぁ、おい…ってどこ行った!?」


ご主人様、待っててくださいねぇー!


ーーーside ツムギ


「初めまして勇者様。私は『MK-08』。魔王様が召喚した、勇者様専属のメイドとして造られました。」


ん?

確か僕は魔王に勇者のカウンターとして喚ばれた。

僕も勇者と言えば勇者か。

と言うことは、このメタリックな絡繰人形は僕に宛がわれたメイド?


「勇者様。指示をどうぞ。」

「まず、勇者様って呼ぶの止めよう。」


そう呼ばれるとどうしても、城を攻め落とし、魔王やローナちゃんを斬った勇者を連想してしまう。

それに、剣も持てない僕が勇者の肩書きを持つのも違う気がする。


「僕は白銀紬。ツムギでいいよ。」

「承知いたしました。ツムギ様。指示をどうぞ。」

「指示…水や食料がある場所を教えて欲しいんだけど…」

「承知いたしました。食料庫は地下にあります。こちらになります。」


と言って、階段を下り始めた。


「待って待って!そっちにはオーガが…」

『ご主人様危ないですぅ!!!』


僕の目の前を銀色のぷにぷにが通りすぎた。

瞬く間に階段を一歩下りていたメイド人形を吸収してしまった。


『これで一安心ですね!』

「待ちやがれえぇぇぇ!!!」


前門のオーガ、後門のメタルスライム。

走ってくるオーガの目は腫れ上がっていたという。

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