76.護衛と言う名の
更新遅くなりました。
また、よろしくおねがいします。
僕らの前に出てきたソフィアは、冒険者の服ではなく、城にマッチしたシンプルな水色のドレスを纏っている。
そのまま隣で立ち止まると、勇者に向けて、片膝をついて頭を下げる。
そういえばそうだ。
忘れて居たけれど、仮にも王様なんだった。
僕らも府に落ちていないが、慌てて姿勢を正す。
「ツムギ達は彼女と共にダンジョンを攻略したと聞いている。その功績を称え、金と、何かもう一つ褒美をやろう。何が良い?」
勇者はニヤリと口の端を吊り上げる。
突然のことに目が点になる。
グロリオ領であったときと同じような強引さで、あの時と真逆のことを言われている。
褒美?
何が良いだろうか。
勇者は傍らに立つ二人の騎士の内一人に耳打ちをする。
「侍女を付ける。何か思い付いたら、彼女に言って欲しい。」
「王からは以上である。下がれ。」
耳打ちされた騎士が声をあげ、有無を言わせないまま、その場はお開きになった。
勇者はそのまま、騎士二人を連れて、去っていってしまった。
僕らはポカンとしながら、謁見の間から退出する。
「…どういうこと?」
「わかんないですぅ。」
その後、メイドさんからの説明を受けるための部屋に案内される。
「ツムギ様にお伝えしたいことは二つ。一つはダンジョン攻略に対する報奨があると言うこと、それからーー」
バタンと扉が開き入ってきたのは、自身の髪の色と同じ水色のドレスを纏い現れたソフィアだった。
あの時、必死に逃げたというのに、呆気ない再開である。
それを意識してかソフィアの目がさっきから合わない。
なので、説明をしていたメイドさんは言葉を続けることにした。
「ソフィア様がツムギ様の監視に付くことになりました。」
「監視?って元々なのでは?」
「何が元々なのかは存じ上げませんが、護衛のようなものだと思ってください。」
メイドさんは白々しく返事を返してくれるが、迅雷の勇者のやりたいことがよくわからない。
「護衛?」
「オウカ様はあれでも心を砕いて政務に当たっておられます。ソフィア様をツムギ様に付けることで、より他の国で行動が行いやすいように、そしてオウカ様へ、延いてはラピスグラスに利益があると思われたのでしょう。」
「グロリオ領で私たちに行ったことを忘れたのでしょうか。」
レティは誰とはなく苦言を漏らす。
危険だからと排除されそうになり、有益だからと味方に引き込もうとする。
それだと、王としてはあまりに短絡的なのではないだろうか。
「グロリオ領で…オウカ様にお会いしたのですか?」
メイドさんの顔が能面のようになっている。
どうやら、とても怒っているようだ。
「ソフィア様、何かご存じでは?」
「ボクは…知らないです。」
「…本当ですか?あの方は二十五年間変わらず前線に立ちたがる。…承知いたしました。この件はまた王に伺っておきます。」
その後、幾つかの質疑応答をしてくれた後にメイドさんは部屋から出ていった。
部屋を出る直前に、少しだけ怒気のこもった笑みを浮かべていたのが印象的である。
聞かれているソフィアも冷や汗を流しながら、目が泳いでいたのでわかりやすいものだ。
部屋には僕らとソフィアが残されるのみである。
ちなみに部屋の外には別のメイドさんが控えているらしい。
双方の沈黙が続いたが、口を始めに開いたのはレティだった。
「意外と早いお帰りでしたね。」
「…はい。」
「何か言うことはありますか。」
僕やナツミ、フェリはダンジョンでソフィアと一緒だったため、多少心中を察する事が出来る部分はあるのだが、レティはその『阻害されている感じ』も嫌なようで、出来るなら早急に蟠りを解消しようとしていた。
「…すみませんでした。」
「そもそもなんで逃げたんです。」
「皆に迷惑をかけると思って。」
「迷惑ならグロリオ領からずっとかけられていますので、今さらです。」
バッサリである。
とはいえ、ソフィアの言いたいこともわかる。
そもそも彼女は僕らとの接触を禁止されていたはずだ。
その禁を解除すると言うことは?
「そもそも、うちらに護衛って必要?」
「それは私から説明させてもらっても良いかな?」
開いた扉の側に立つのは、背の高い金髪の美丈夫。
さらさらの髪と落ち着いた声は、聞き心地がよく、よく通る声なのに大きく無くとも鼓膜を揺らす。
「あなたは?」
「…師匠。」
「えっ?師匠!?」
「どうも、ラビオラと申します。ソフィアがお世話になりました。彼女には体術を教えていました。」
よくよく見ると、彼の耳はすこし尖っている。
エルフだろうか?
「そんなに見られると、照れてしまうんだけどね。」
「あ、すみません。」
「良いんですけどね。お察しの通り、私はエルフです。とは言っても魔法はからっきしですけど。」
エルフは、にこりと微笑む。
爽やかな笑顔に若干の胡散臭さを感じてしまうのは、何故だろう。
「師匠は嘘ばっかり。」
「嘘じゃないですよ。エルフは魔力に特化した種族です。その中で私は魔術師としては三流と言う話ですよ。」
「ボコボコにされた。」
「優しく教えてあげられれば良かったんですけどね。」
ソフィアとラビオラさんの間に流れる空気感は柔らかく、まるで親子のように見えた。
のほほんとしているラビオラさんにアニスタは問いを再び投げ掛ける。
「それで、うちらに護衛が必要ってどういう?」
「あぁそうでした。皆さんもご存じの通り、各国のダンジョンの攻略は遅々として進んでおりません。理由としてはいくつかありますが…。深層に潜らなくても、お金を稼ぐことが出来る。中層までの道のりで、人を拒絶するような仕掛けが多々存在する。極めつけは深層に潜った冒険者が誰一人戻ってこなかった。」
「最下層のあんなの。普通の冒険者には無理。」
「ソフィアがそこまで言うとなると、最下層には勇者級の戦力を持った魔物が居たんでしょうね。」
「そんなダンジョンの最下層から、出てきたクランがいるとなると…。」
「お、ツムギさんは察しが良いんですね。そうです。そんなクラン、良くも悪くも目立ってしまうでしょう?だからこその護衛です。他の騎士を付けるより一緒にダンジョン攻略を成したソフィアなら、安心感もあるでしょうしね。」
まぁ護衛を付けるのはそれだけじゃないんですけどね、とラビオラさんが小さく言っていたのを聞いたのは僕だけだったのだろう。
「とりあえず、今日はこの一室を自由に使って下さい。そうそう、我が王が言っていた『褒美』とやらも思い付いたら、私か侍女に伝えてください。」
言うと、ラビオラさんは部屋を出ていってしまった。
レティとソフィアの第二ラウンドが始まろうとしている。