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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
王族国家ラピスグラス
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70.気を抜けばキャットファイトか

ダンジョン内は食べるものがない事以外は快適だった。

程よく涼しく、程よく明るい。

明るさは周囲の魔力結晶が、ダンジョン内の魔力を吸収し自然発光している。


「まだ来ない?」

「うーん、もうすぐ来るよ。もう同じ八階層にいる。それより、何て説明するつもり?」


ソフィアは首をかしげ、思案した後に一言。


「…ツムの監視?」

「通用するかな?」

「わかんない。」


やりとりはまるで昔馴染みの友達のよう。

僕も話しやすいから良いんだけどね。


ナツミの気配を探ると徐々に近づいてきていた。

迷うことなく一直線にこちらに向かってくる。


…もしかして、ずっと僕をトレースしていたのだろうか。


アイゼンアントの女王を倒して、大体一日半。

残った頭部も『吸収』し、ただの広間になった空間を金属で囲い、柱を立てて屋根を作った。

公園の藤棚みたいである。

どうせならと、長方形のベンチのようなものも作った。

シンプルな形であれば、金属支配のスキルでなんとでもなる。

とても便利である。


その後、僕とソフィアは女王蟻がいた空間で過ごした。

空腹は水の魔法結晶で水を出して誤魔化した。

ラッチさんありがとう。


もちろん警戒はしていた。

時間経過で、また女王蟻が出て来る可能性は捨てきれなかったからだ。

念のため、床に金属を張り巡らせている。

まるでクモの巣だ。


どこからでも包み込めるように、踏むと発動するトラップだ。

僕が起きて意識していないとダメなのが欠点である。


ナツミとの距離が近い、もうすぐ来るよとソフィアに言うと、彼女は少し遠くから様子を見ると、ベンチへと向かった。


入れ違いに勢いよく扉が開く。

「ご主人様!」

「お兄さん!」


叫ぶ声は二つ。

視界に入った二人は立ち止まることなく、飛び込んでくる。


衝撃を受け止めるために少し腰を落とす。

突撃されたのは腹部と胸部。


腹部は柔らかいので突撃にはちょっと弱い。


「心配しました。無事で良かったですぅ…。」

「あたしは無事ってわかってましたけど…それでも心配だったんですよ!」

「うん、うん。ごめんよ。」


ピクリとうさみみが動く。

スンスンと僕の身体の匂いを確認するフェリス。


「…この匂いは…?」

「…どうしたんですか?」

「ナツミさん。ツムギさんから、知らないけど、知ってる匂いがするんです。」

「知らないけど…知ってる匂い?」


難しい言い回しをしているが、間違いなくソフィアの事だろう。


「あー、説明させてくれませんか。」

「ご主人様、またレティさんに怒られるようなことしてたんです?」


人聞きの悪いことを…。

そもそもなんで毎回レティは怒るの。


「お兄さん割とたらしですからねぇ。」

「たらしてるつもりはないんだけど。」

「無自覚たらしは、たちが悪いです。」

「ですねぇ。」


不名誉な称号が付けられた気がする。


「で、何拾ったんです?」

「誰が拾った、だ。ボクは拾われた訳じゃない。」

「あなたは…。」


ナツミが臨戦態勢を取る。

金属を触手のように伸ばしている…?

あれはなんだろう。


「ボクはソフィア。君たちのご主人、借りてたよ。」

「何でよりによって。これはレティさんホントに怒るやつです。」

「カリカリしないで。ただの助け合い。ダンジョンから出たら、離れるから。」

「…信用できるとでも?」

「ここのボスを二人で協力して倒したと言っても?」


分かりやすく険悪な雰囲気。

そうなるとは思っていたけどね。


リュカが気を失ったのは、他でもない彼女の攻撃のせいなのだから。

幸いだったのは、直接戦ったレティやリュカ本人が居らず、又聞きだったフェリスと、負けることなくソフィアとの戦線を離脱したナツミがこちらに来たと言うことだ。


そしてなるほど、フェリはソフィアを知らない、けれど僕の看病はしてくれていたから匂いは知っていたのだろう。


下階層に向かうために戦力は多い方がいい。

なんとか協力する方向に仕向けたい。

そしてナツミの触手を仕舞ってもらおう。


「取り敢えずソフィアとはダンジョンを出るまでは共同戦線を張るつもりだから、それまではお互い穏便に済ますようお願いしていいかな?」

「ツムはボクにも甘すぎる。」


「ソフィア?」

「ツム?」


フェリとナツミは顔を合わせて頭を抱えてしまう。

なんか悪いことしたか…?


「たらしですねぇ。」

「ご主人様は自覚なく、女性を侍らせるつもりなんですね。もしかして乙女の敵なのでは…。」

「何でそんな話に…?」

「そもそも!なんで、名前で気安く呼び合ってるんです?なんか距離も近いし!」


ナツミがぷりぷり怒る。


「ボクの距離感に、ツムが合わせてくれてるだけ。お前煩い。」

「お前ってなんですか!あたしはご主人様に貰ったナツミと言う、素晴らしい名前があるんです!」

「ツムに…貰った…?なら、本名は?」

「前の名前は死にました。あたしはご主人様の従者、ナツミです。」


少しの沈黙の後、ソフィアは目を反らした。


「…そう。」

「えぇ…。なんですか?急にしおらしくなって。そんなのであたしは騙されませんよ!」

「あーあー、煩い煩い。ツム、ボクちょっと休んでる。」


僕に一言かけ、彼女は休んでいた場所に戻る。

荒ぶる触手は一通りブンブン振り回されると、しゅるしゅると縮んで、ナツミの中に戻った。


ソフィアがベンチの上でごろりと横になるのを見届けた所でフェリが声をかけてくる。


「そもそも、彼女は何者で、なんでここに?」

「少し長くなるけどいい?」

「良いですけどぉ。」

「その話あたしも聞いて良いですか。」

「前半は知ってるでしょ?」

「主にこのダンジョンで何してたか、です。」


疑惑の目線を向けられる。

…冤罪です。

僕は何もやってない。


フェリにはどこから話をしたら良いだろう?

確か後追いでグロリオ領には来ていたから、その後から…かな?


グロリオ領での襲撃で、リュカとレティが対峙した相手であること。

その後、僕らをずっと遠距離から監視していたこと。


「で、ダンジョンで僕が転移した先に、ソフィアが踞って泣いてたんだよ。」

「な、泣いてない!ちょっとしょんぼりしてただけ。」

「じゃあそう言うことにしておくよ。」


そう考えるとあの時は随分と心が折れていたように見えたのに、今では随分と元気に見える。

ムキになって、反論するソフィアは可愛らしいものである。


「次言ったらぶっ飛ばす。」


ソフィアは盾を構える。

本気の目をしているので、話を先に進める。


「それから、この八階層を探索してたんだよ。一人で探索は難しかったから、ソフィアにお願いして、ね。」

「…長い間、この階層にいましたよね。」

「まぁナツミが、こっちに向かっているのもわかったからね。待ちながら安全に、確実に動けるように考えていたんだよ。」

「待っててくれたんですね!」

「そりゃぁね。それに、ここのボスは強かったから、休みたかったのも事実だし。」


正直もうあれとは戦いたくなかった。

虫の関節とかが、気持ち悪いのだ。

わしゃわしゃしてるのを見ると鳥肌が止まらなくなる。


「もう少し休んだら、出発しよう。次の階層がどれくらい大きいか、分かったもんじゃないからね。油断せず…ね。」


三階層ずつで環境が変わるなら、次も同じような環境だろう。

蟻の巣の迷路のような道を進んでいくのだ。


「そう言えば、七階層はスムーズに突破出来たんだね。どうだった?」


転移して八階層に放り込まれたからか、他の階層は気になる。


「七階層は短い。ボク一人でも探索可能だったし。」

「あ、そうかソフィアは七階層に飛ばされたんだっけ。ボスとか居たの?」

「居た。核の多いゴーレム。」

「あ、じゃああたしたちの時と同じみたいですね。」


なんでも核が五つあるらしい。


「めんどくさそう。」

「めんどうでしたよ。ひたすらあたしとフェリさんで全身砕いてやりました。怖かった。」


ホントに怖いやつは、魔物の全身を砕いたりしない。

逞しい女性陣の会話と同時に、レティへもう一度説明しなきゃいけないと考えると、げんなりしてしまう。


「…成り行きで、って言っても怒られそうなんだよなぁ。」


ツムギは頭を抱えながら、乙女心はダンジョンより難解で強敵であることを再確認するのだった。


乙女心って難しい。


レティ「私の影薄くありません?」

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