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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
王族国家ラピスグラス
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69.蟻を打ち抜け

大きな扉。

扉には細かな意匠が施され、その細部からは時を感じさせると同時に魔方陣の役目を果たしていることも伺える。

もしこれがRPGなら、扉の向こうにはボスが居ることだろう。


「開けていいものだろうか…。」

「開けないと進めない。」

「なんかヤバイのが居たりしないかな。」

「ツムなら負けない。」


ツムは僕のあだ名らしい。

ダンジョン内で好感度が上がってるらしい。

このまま、勇者への報告しなくなったりしないかな。


「何がいるかな。ソフィアは知ってる?」

「わかんない。女王蟻とか?」

「アイゼンアントの?」

「うん。」


もしそうなら心してかかる必要がある。

この階層のアイゼンアントを食い尽くしたのは僕だ。

怒ってるだろうなぁ。


「そうなら、良いこと。」

「良いの?」

「吸収し放題。」

「あぁ、確かに。」


じゃあそんなに悲観したものでもないか。


そもそも八階層の他の箇所は全て回って、後はここを残すのみ。


実は歩き始めて暫くして扉自体は見つけていたが、ホントに下階層に行くための場所なのかがわからないため後回しにしていたのだ。


もし強敵がいるだけのエリアであれば、下階層に行くための体力を残す必要があるためだ。

その後の探索では幾度となく行き止まりに遭遇し、終盤は何度もソフィアがムッとした顔をしていた。


「そもそも初めからここを開けておけば。」

「それはごめんて。」

「…仕方ない。それに、ボクだけじゃここまで自由に探索できなかったし。」

「それはお互い様だけどね。…よし、入るか。」


扉をグッと押すと反発することなく、スルリと扉が開く。

まるで開くのを待っていたかのようだ。


「んじゃ、行こうか。」



中は円形の闘技場のように広い空間と高い天井が広がり、まるで誂えたように戦うための舞台になっていた。

けれど、舞台にはなにも居ない。


『魔眼』を使うと、魔力の流れが上に向かっている。

見上げると、高い天井に何か濃厚な魔力の塊が蠢いている。


ギチギチギチギチ

何かを弾くような音と共に、大きな影を作り、それは飛来した。


「予想通り?」

「嬉しくないなぁ。」


鋼の甲殻と景色を反射する四枚の羽。

鋭く大きな顎を開きこちらを威嚇しているように見える。


それにしても大きい。

アイゼンアントの大きさが大体成人男性位の大きさだったのだが、女王蟻は何倍も大きい。


その腹部の後ろには大きな針が見える。


「…来る。」


正面から大型トラックのような巨体が土煙を上げ突進してくる。

迷わず回避。


すれ違い様に、小刀を振るうが刃が立たずに弾かれてしまう。


「…はっ!」


女王蟻の体を挟んだ向こう。

ソフィアが放つ裂帛の気合いと共に鉄板をハンマーで叩くような轟音が響く。


恐らくはソフィアの放つ『骨穿(パイルバンカー)


練り上げた魔力を打撃に変換し、直接叩き込むソフィアの盾に付いている魔力結晶の力。


女王蟻が金属を裂くような叫び声をあげる。


「ツム!今だよ。どこか吸収して!」


返事より早く、肩口から金属を操作し片足の間接に絡み付く。


『吸収』


ガクンと巨体がバランスを崩す。

羽を広げるが決してとぶことは出来ない。

全身が金属で出来ているからか、羽で出来るのは滑空だけのようだ。

つまり、飛行するスキルは所持していない事になる。


「…良い仕事!」

「ソフィアもね。」


大きく羽を広げる女王蟻。

足が一本減ったところで、機動力はさほど変わらないらしい。


「今度は僕が足をとめさせる。もう一発お願いできる?」

「数秒持たせて。魔力練る。」

「分かったよ。」


ギチギチと規則的な音が空間内に鳴り響く。

先程よりも威圧的に、力強く怒りを現すように女王蟻は鳴きながら、こちらに突進してくる。


「…危ない!」


ソフィアに抱きつかれ、その場から突き飛ばされる。


風を切る音が耳に届く。


バサリとソフィアのフードが綺麗に切り裂かれ、落ちた。


尻尾にあった毒針。

切れ味は抜群のようだ。


「…大丈夫?」

「ソフィアこそ!何で助けたんだよ。」

「…何でだろう。」


彼女は本来、ダンジョンを攻略する必要はない。

それに、暗殺者だ。

監視しているとはいえ、僕が死ぬことに問題はないはずだ。

自分が死ぬかもしれないのに、自身の身を呈してまで助ける必要はない。


「僕が死んでも、ソフィアには関係ないんでしょ?」

「ツムが居ないと…困る。わかんない。でも困る。」


動いたソフィア本人もなぜ自分が助けたのか分からず、驚いているらしく、狼狽している。


「…そ、そう!監視対象が居ないと困る!それだけ。」

「わかったよ。そう言うことにしとく。」

「違う。ホントに。」


尻尾をバタバタさせ、反論する。


「ほら、来てる来てる!」

「っ!何とかして!」


スルリと僕の上から移動する。

息つく間もなく、女王蟻はこちらへ向けて針を振り回す。


「あまり使ったこと無いけど…」


肩口から出ている金属を増やし広げ、スキルを念じる。


『纏着』『転写』『硬化』


全身に金属を纏い、鎧を召喚、硬化でより強固にする。


針を真正面から受け止める。

鎧の踵部分からスパイクを突き出し、後ろに下がらないように備える。

全身に衝撃が走る。


「ああああぁぁぁ!!!」


パキリと金属にヒビが入ったような音。

けれど、衝撃はそれ以上なく、女王蟻の動きが止まる。


「良い仕事!」


上空から叩きつけるようにソフィアが拳を叩き付ける。


ようやく魔眼で見ることができた。

魔力の塊が大きな"杭"のようになっており、ソフィアの拳が当たった瞬間に杭が対象に突き刺さる。


二度目の絶叫。

女王蟻は体を逆くの字に反らせ、悶絶している。


良いタイミングだ。

全身の鎧を再び大きく広げる。

掴んでいる針から、女王蟻へ向けて。


面積的には腹部を覆うので精一杯だけれど、それでもその精一杯を一気に『吸収』する。


女王蟻は悲鳴を上げながら暴れ始める。

毒針に捕まったまま振り回される。

風圧で息が出来ない。


「ツム!」

「っは…僕は、大丈夫だから!隙を見て、もう一発お願い!」


叫ぶソフィアの顔はただひたすらに心配した顔をしていた。

そんな顔したら、さっきの言い訳は通用しないぞ。

僕の声を受けて、ソフィアはもう一度盾に魔力を流しこむ。

形作られる魔力の杭。


僕ももう一度動きを止めないと。

吸収し終えた金属をそのまま女王蟻の胸部へ移す。

僕の出す金属がどういうものかが解っているらしく、必死に体をひねり逃げようと、もがいている。


体を壁や地面に打ち付けられる度に肺から空気が抜ける。

この身体は斬撃に比べ、打撃に弱いらしい。

少し意識が遠退く。


最後に女王蟻の胸部と足の付け根を『吸収』し、足と胴体を切り離す。


直前まで動いた慣性が働き、女王蟻が転がる。


「これで、終わり!」

ソフィアの声と打撃音。

頭部を撃ち抜く魔力が視え、数刻の後、女王蟻の動きが止まる。


その姿は頭部のみ。

ドロドロとした臓物を撒き散らしていた。


「…ありがと。」

「こちらこそありがとう。ソフィア。」

「…ん。」


目を反らしたソフィアはそれでも恥ずかしそうに返事をする。

その尻尾は大きくゆっくりと揺れていた。

アイゼンアント:2×1メートルくらい

クイーンアイゼンアント:6×3メートルくらい。


羽は角度でキラキラと輝くため、加工され、アクセサリーになるなど、人気の素材だそうです。

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