57.魔眼の練習
腕、問題なし。
身体のダルさ、問題なし。
リュカ、問題なし。
ということで、あれから更に三日ほどお世話になったグロリオ領を出立することになった。
のんびり過ごすのは久しぶりだった気がする。
世話になった部屋を片付けてソファでぼんやりしていると、ライカが誘拐されてきた亜人二人を連れて、僕の部屋を覗きに来た。
「主、良いかな。」
真剣な顔をして伺いをたてるものだから、僕も背筋を伸ばして応対する。
「おいら、この子らと一緒に居たいと思うんだ。」
ライカ曰く、誘拐されたことにより夜など酷い不安により、頭痛など体調不良を引き起こしているらしい。
数日間レイナさんとライカでケアして回っていたため、それを途中で放り出すことはしたくない、とのことだった。
「いいよ。主従契約はどうする?」
「このままでいい。主はずっとおいらの主。」
僕が許可を出すと、後ろで縮こまっていた二人の亜人の子達もホッとしていた。
「そう言えばもう一人は?」
誘拐後、買い取られた亜人は三人。
二人は来ているが、後一人姿が見えない。
「そこにいるよ。」
ライカの指を追ってみると、僕の荷物のそばでジッと座っていた。
正直びっくりする。
その子は目隠しをしているのだが、周りは見えているようで、屋敷の中を不自由なく歩き回っているのをよく見かけた。
どうやら魔眼の固有魔法を保持しているらしいのだが、オンオフが付けられず仕方なく目隠して隠しているそうだ。
目隠しが目立たないように、前髪も鼻の頭がかくれそうなほど長い。
彼女には見えているのだろう、こちらを向いて首をかしげる。
「…帰る?」
「うん。皆も一緒にね。」
「…クネム…も?」
おっとりと喋る子だ。
けれど、帰ることに引っ掛かる事があるのだろうか。
「あ、主。この子はどこから連れてこられたか分からなくて…。」
なるほど。
帰る場所がわからないのに、帰れるのか?ってことか…。
「他の子達が樹林公国クレア出身ってことだから、現地で探そうか。クネムちゃんの帰る場所を。」
「…ん。よろしく…ね。スライムのお兄ちゃん。」
言うと、クネムちゃんは僕の服の裾を掴んで、ソファで眠ってしまった。
割と肝が据わっている…。
「主、起こす?」
「いや、いいよ。急ぐ訳じゃないし。」
スライムのお兄ちゃん…か。
この子には僕はどう見えてるんだろう。
目を隠しているなら、視力は魔眼が受けとる魔力に依存することになる。
もしかすると彼女には僕は人には見えていないのかもしれない。
魔眼と言えば、ここ数日、身体を動かす事を禁止された僕は、せっかくなので魔眼の訓練をしていた。
改めてステータスの確認。
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Name:シロガネツムギ
FP:23410/23410
Familiar:マーキスメタルスライム
FamiliarName:ナツミ
ServantName:リュカ
ServantName:ルガル
ServantName:ライカ
Skill:
『吸収:S』『転写:S』
『圧縮:A』『人化:A』
『分裂:E』『錬成:A』
『纏着:A』『硬化:A』
『刺突:D』『魔眼:E』
PassiveSkill
『魔力吸収:C』
『金属支配:B』
『同族支配:C』
『渾然一体:B』
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前回見たときとあまり変わっていないようなきがするけれど、特筆すべきはナツミとリュカ達の記述に差があることだろうか。
ナツミはファミリア、リュカ達はサーヴァント…。
ファミリアとサーヴァントで何が違うのだろうか。
他に変化と言えば、パッシブの『渾然一体』のランクがBに上がっている。
腕を飛ばされた時に無理矢理繋いだからだろうか。
肝心の魔眼は現在ランクE。
僕の知る限り最低ランクである。
『魔力を可視化する』くらいの能力なのだけど、こいつをもっと有効に使うことが出来れば、相手が技や魔法を使う前に、こちらから先手を打つことができるはず。
結果として、割とスムーズに発動することができるようになった事と片目で発動が可能になった以外に成果は得られなかったけれど。
ただ、発動している間ずっと魔力を吸われている感覚がある事、また長時間使用すると酔うことがわかった。
慣れが必要であると感じたので、このタイミングで練習しておいて良かった。
魔王城の宝物庫に隠されていたスキルだ。
強力な、或いは凶悪なスキルであるはずである。
…多分。
クネムちゃんだったか、ずっと魔眼を使っているのだから、魔力消費も酷いのだろう。
ゆったりした雰囲気だったのもそのせいか。
いざ魔眼を使おうとすると、先ほどライカが覗いていたドアから、ナツミとフェリが覗いている。
「…大人気ですね。ご主人様。」
言われて周りを見ると、僕の周囲ではスヤスヤと寝息を立てる子供が四人。
いつの間にか皆寝てしまったらしい。
「気付いたらこんなことに…。」
「フェリも仲間に入りたいですねぇ。」
膝に二人、両手にもう二人。
もう場所がない。
「…また今度ね。」
「言いましたね!必ずですよ!」
フェリのテンションに合わせてうさみみもぴょんぴょん跳ねる。
「あぁフェリさん!大声出すと起きちゃいますから、起きちゃいますからぁ!」
「あ、すみません。でもお兄さん。もうすぐ出立の準備が出来ますから、頃合いで起こしてあげてくださいね。ではでは、また後程。…子沢山も良いですねぇ。」
最後、何か聞こえた気がする。
窓からの日差しと抜ける風が心地よい…もう少し寝かせてから、起こそうかな。
気を取り直して僕は魔眼を発動する。
この世界の生命には多かれ少なかれ魔力を有する。
魔眼を通して見える魔力は炎のように揺らめいているけれど、個々人によって性質は異なって見える。
レティの魔力は赤く、また内に籠るような動きを見せる。
フェリは淡い紫色の魔力が忙しなく全身を巡回しており、全身に満遍なくとはいかないようだ。
リュカ達ウェアウルフの魔力は、体毛の色に近い青。
それぞれが若干異なり、リュカはジリジリと弾けて、ルガルはくるくると流れる水のように規則正しく周囲を回っている。
ライカはふわりと包むような暖かさを感じた。
ちなみに、僕に流れる魔力は灰色。
循環を意識することで、全身の活性化を促せることも把握済みであるが、かなり難しい。
血液の流れを意識しているようなものなので、一朝一夕ではいかないだろう。
で、ナツミに流れる魔力は、僕と同じ灰色。
どうやら魔力の色と体毛は割と類似しているようなのだけど、ナツミの場合、加えて僕と魔力のパスが繋がっているように見えたのだ。
僕の指先から魔力が伸びて、ナツミへと繋がっている。
クネムちゃんもこのパスが見えているから、呼び方が『スライムのお兄ちゃん』だったのだろうか。
レティ「私の出番は!?」
レオノール「貴女にはまだ旅に同行するための勉強が必要です!ギリギリまで頑張りなさい。」