表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
王族国家ラピスグラス
53/386

52.襲来する迅雷

レティシアは今、歓喜に震えていた。

私の太刀を難なく躱し、母を事も無げに救って見せたツムギに敵を任されたのだ。


と、同時に自身の感情の高ぶりに驚きを隠せずに居た。

頼られた理由は分かる。

私たちが保護対象だからである。

だからこそ、私が矢面に立てば、被害は最小限に抑えられる。


分かっていて尚、頼られたのが嬉しいのだ。

尻尾があれば振っていただろうほどに。


自分が自分では無いような感覚さえ覚えるほどに、舞い上がっている。


「取り敢えず、レティシア姉ちゃんは深呼吸した方がいいな。」

「リ、リュカ。」

「無理しないように、念のため、って主が。」

「そ、そう…。」


自分だけで大丈夫なのに、と少しずつむくれるレティシアを見て、リュカは「やっぱりこうなったぞ」と村の奥に走っていったツムギを頭に浮かべた。


「…来ないならあいつ追い掛けるよ。」

「い、行きます!」


グッと柄を握る。

繰り出すは神速の袈裟斬り。

それを彼女はゆらりと躱す。


「…それじゃボクは切れないなぁ。」


太刀筋が見えているのか?

それとも、彼女の固有魔法?

思考しながら、時折リュカの攻撃も交えながら、斬撃を重ねていく。


しかし、そのどれもが避けられ、躱され、流されていく。

これでは、まるで蜃気楼を斬っているかのようである。


「はぁ…はぁ…。」

「もう終わりかな?」

「貴女のそれは、幻?」

「半分正解。」


こちらの息が上がっているのに対し、彼女は来たときと変わらず涼しい顔をしていた。

あちらから攻撃を仕掛けるそぶりもない。

レティシアは奥歯を噛み締める。

手加減されて尚、手が届かないのか。


幻であることが半分正解であるなら、もう半分はなんだろう。


「リュカ、匂いはどうですか。」

「…上手く言えない。攻撃するとぶれるんだ。当たる直前に粉を撒いたみたいに。」


こちらの攻撃が当たる直前に幻を見せている…。

距離感を狂わせるために?


「リュカ、もう一度お願いします。」

「うん。任せろ!」


半身になり、刀を構える。

里で教わった型の一つであると同時にそれは紅血(クリムゾン)の欠点、正中線に鎧が無いデザインを隠すためである。

レティシアの得意とする、神速の突きを始点とした息もつかせぬ連続攻撃。


詰め寄り穿つ。

けれど、彼女はまたしてもゆらりと躱す。

「さっきと同じじゃない…か…。」


ふいに彼女は強引に身体を捻り、攻撃を回避する。

頬からはトロリと赤い血が流れている。


「剣先が伸びた…。もしかして何か魔法を?」

「そんな、ツムギじゃないんですから。」


レティシアはニッと笑う。

そう、自身の得意とする突きからの連擊。

それらを一歩踏み込んで振るう。


タイミングは微妙に合わせられなかったが、それでも効果を得ることが出来た。


「攻撃の瞬間に、あなたは自身の虚像を作り、攻撃をずらしていた…。」

「…正解。じゃあ、これはどう対処する?」


彼女が視界からぶれる。

ゆらゆらと、見つめているのに景色に滲んでいく。


「姉ちゃんあぶない!」

「ここ。」


リュカは叫ぶと同時にレティシアを突き飛ばすが同時に、全身を衝撃が襲う。

一点に集中した力を受けたは紅血(クリムゾン)の鎧はバキリと嫌な音をたてて、崩れ剥がれていく。


「…そうだよな。これはそれくらいの威力があるはずなんだよ。魔力もずいぶん込めてるし。あいつが強すぎるんだよ。」


彼女は腕に付いている、まるで本のような盾が付いた手甲を見つめ、呟いている。


「大丈夫か、レティシア姉ちゃん。」

「なんとか…リュカは?」

「オレも…大丈…夫…。」

「リュカ!!」


リュカがどさりと倒れ込む。

彼女は出会い頭に一発、先ほどレティシアを庇って一発当たっている。


「リュカ!リュカ!!しっかりして!聞こえてる?」

「だ、大丈夫だから…。」

「でも!」

「早く制圧して、主のところに行かないと…ダメなんだよ…。姉ちゃん…。」

「リュカ!」


カクリと身体から力が抜ける。

どうやら意識を失ってしまったらしい。


でも、ツムギのところに向かう?

そういえば、彼女は殆ど避けてばかりだった。

…時間を稼いでる?

だとすると誰かが来る…?

ツムギを打ち倒すために?


危険人物として、討伐を指示したのは…。


ラピスグラスの勇者…。


ーーー


「そう!俺がラピスグラスの天辺に鎮座する、怠惰なる勇者、迅雷の勇者こと、御剣桜花(ミツルギオウカ)だ。以後お見知りおきを。この後があるかは、知らないけどね。」


その男は、白いスーツに艶やかな金の髪をなびかせ、恐らくグロリオ辺境伯の住居であろう建物の屋根の上で、流し目を決めている。

年齢は20前半くらいだろうか…。だとすると、本当に勇者だろうか。

勇者は30年前に召喚されたのだ。

年齢が合わない。


「さてさて、君はあれだね?カズヤがノイローゼになるほど待ちわびた、魔王の勇者…だね?」

「人違いです。」

「なに?本当か!?それはすまないことをした。確かに、良く見ると勇者としての風格などは見てとれない。はっはっは、まぁ落ち込むな。俺が輝きすぎているのが悪い。しかし、この迅雷の勇者、輝きを抑えることは、もはやできないのだ。そうだろう?凡人君。」


一つポーズを決める度に、髪を手で鋤きながらファサファサさせている。

ナルシストというやつだろうか…。


「ご主人様、あいつ嫌いです。」

「あ、こらナツミ、そう言うのは本人が居ないところか、もう少し小さい声で言いなさい。」

「でも、ご主人様のことを凡人君って言いました。嫌いです。」

「いけ好かないのは確かだけど、人間誰しも反りが合わない人はいるもんだよ。…大人しく流しておけば、角もたたないから。」

「…全部聞こえているのだが。」


「「あ、すみません。」」

迅雷の勇者の目尻がピクピクしている。

お怒りのようだ。


「君たちは勇者がどういうものか分かっていないようだね。良いだろう。25年前に猛威を振るった、迅雷の勇者の威光、とくと見るがよい!」


迅雷の勇者は、懐に携えた剣を引き抜く。

グレートソードのような大きさで、鍔は短い。

何より特筆すべきは剣先が尖っていない。


「そう!見たね!俺のコルタナを!そして次は魅せてやろう、俺の剣の冴えを!!」


天高く突き上げられた剣はバチリと見知った光を放つ。


閃迅(エクレール)!!』


言うや否や、勇者の姿が掻き消え、瞬きと轟音のみを残している。


「見えたかね?」

響く声は後ろ。


僕の左腕は守りを固める前に切り落とされてしまっていた。

エクレールってカッコ良く言ってるけど、エクレアと同じ意味なんだぞ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ