5.30年越しの食料庫
食えるのだろうか。
今僕の目の前には30年モノの干し肉と、チーズを広げている。
樽の中身はやはりワインだったので、スルー。
お酒は大人になってから。
いや、ちょっとくらい…いいかな?
まず干し肉。
腸詰めだったのだろう。
かんぴょうのようにひょろひょろとひとつに繋がっている。
スライムさんには事前にナイフを転写してもらっている。
グッと力をいれる。
プチプチと小気味良く切れるけど、食べ物の音じゃないよね。
匂いは…ちょっと埃っぽい。
幸いカビのようなものは生えていないように見える。
なんか、特殊な保存方があったりするのだろうか。
…いざ。
食感はハードグミのような、ゴムのような。
プチプチというか、ブチブチというか…噛み応えがあるから、お腹の足しにはなる。
塩気が強い。
ちょっと香草?の香りもある。
食べられなくはない。
ないけど、出来ればもっといいものが食べたい。
ただ…なんの肉なんだろう。
今は考えないでおこう。
次はチーズ…だよなこれ。
テレビで見たことがある。
ホールケーキみたいなチーズ。
重いし固いし、机まで持ってくるのが大変だった。
引き続きメタルスライムナイフで切…
固すぎて刃が立たない。
…削る?
角を少し削ろう。
んー…なんかイカソーメンみたいな感じになった。
色もそんな感じ。
クリーム色ではなく、くすんだオレンジ色。
…では。
固い。
こんなに細いのにこんなに固いのか。
味は悪くない…と思う。
けど、かなり癖がある。
乳製品と埃とカビ?
後、木の匂いもうつってる。
もう一度、食料庫にもどる。
地面に魔方陣がある。
やっぱりなんか特殊な保存してたんだな。
書庫に戻ればわかるかな。
また調べてみよう。
食料庫はチーズを置くための棚が整然と並んでおり、壁側には干し肉が、同様に並んでいる。扉はないが、一区切りついている石壁を越えると奥には見上げるほどの高さまで樽が積み重なっている。
うーん。
圧巻。
で、そのワイン部屋の脇にあったんだよね。
部屋らしきものが。
奥には腕輪と水晶玉。
スライムさんどう思います?
って聞いたときには、スライムは腕輪と水晶玉を吸収。
もう少し落ち着いて、僕の話を聞いて欲しかった。
やってしまったものはしょうがない。
と言うか、水晶は吸収してもよかったのか?
ぼんやり虹色に光っていたような気がするけど。
怪しいものを吸収しちゃったから、確認を…
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Name:シロガネツムギ
FP:720/1020
Familiar:コンプレスメタルスライム
Skill:『吸収:B』『転写:C』『圧縮:E』
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また名前変わってますやん。
コンプレス…
圧縮?押し込む?
スキルも『圧縮:E』が付いてる。
どっきりラージメタルスライムとかになると思っていたけど、大きいと小回り利かないもんね。
でも、大丈夫?
お腹壊してない?
お腹どこかわからないけど。
ぷにぷに。
ふにふに。
むにむに。
気持ちいい。
さてさて、とりあえずもう少し干し肉食べて、書庫に戻ろう。
ちまちま食べていると何となく癖になってきた。
香草が良い。
塩気だけだと飽きそうなものだけど、香草のお陰で、噛むほどに広がる旨味。
歯ごたえも良いから、大量に食べなくてもお腹は満足する。
よし、そろそろ書庫に戻ろう。
調べたいこともあるし。
『……ん…ま。』
ん?なんか聞こえた?
気のせいか。
すごく近くから話しかけられた気がするけど。
『…しゅじんさま。』
気のせいじゃない。
スライムを見ると、スライムもこちらをずっと見つめている。
『ご主人様。聞こえますか。』
「うん。聞こえてるけど…何でしゃべってるの!?」
『あたしはローナ=ツェルミルフェナ。魔王の娘でした。』
多分、半ローナちゃんだ。
なぜスライムから声が…。
『水晶の中から出していただきありがとうございます。このご恩は必ずお返しします。ですが…』
「ですが?」
『今この国は勇者に襲われています。お願いします。私たちを助けていただけませんでしょうか。』
…あれ?
なんか変な感じがする。
30年前の出来事をまるで昨日のように喋っているような。
「ちなみにローナさん?」
『ローナとお呼びください。なんですか?ご主人様。』
「あなたのお父上、つまり魔王が勇者と戦っていたのはいつ頃ですか?』
『…父上は先ほど書斎にあたしを放り込んで、それで…』
やっぱり…
あの日記の最期を書く前で記憶が切れている。
これはどう説明したものだろう。
『ここは食料庫の前ですよね?なにか食べられますか?レッサーミノタウロスの腸詰めやロックミルクなんかがあるはずです!…あれ?どうやって歩くんでしたっけ。そもそも足は?手は?あれれ?』
「メタルスライム、ローナちゃんを転写出来る?と言うか今どうなってるの?」
『メタルスライム?あ、あなたですか?わー、ふにふにです!ふにふに!え、あ、すみません。お願いします。あ、ご主人様、転写するよー、だそうです。』
スライムの形が変わる。
ぐぐっと広がる
ヒトデのような形になり、そこから細部が作られていく。
肩、二の腕から指先。
お腹、腰、太ももから足先。
ん?ちょっとまって!
なんか服!
服!
まず、服を着なさい!