39.依頼主困惑中
『太陽の盾』とフェリス、アニスタが護衛している馬車の持ち主。
つまり、依頼主は真っ白な髭を蓄えたふくよかなお爺さんだ。
横には孫だろうか。
ひらひらとしたワンピースを着た少女が足をぶらぶらさせている。
「ホントに金はいらんのか。」
「はい。現在、護衛しているクランの方々に付いていくような形になってしまいますし、都市に入る最後の一日だけ共にしたところで報酬を頂くわけにはいきません。」
「そうか、それなら構わんが…。」
報酬を断ったのがそんなに不思議なのか、お爺さんはずっと首をかしげている。
「おにいさんはあの都市に何しに行くの?」
ふいに足をぶらぶらさせてた少女が僕に聞いてくる。
「人を探してまして。」
「そう、大変なのね。あ!おにいさんはどうやって戦うの?そもそも強いの?あの頭つるつるのおじさんより強い?うさみみのおねえさんより強い?そもそも、おにいさんは人?それとも亜人?」
そうか。
得体の知れない人物が護衛に付いているのが不気味なのか。
しかも金かと聞かれると、そうじゃないと言う。
確かに首をかしげるか…。
「僕は人です。戦うときはこれを使います。」
言いつつ、懐から小刀を出す。
「この魔法結晶と刃で戦闘をする形になります。
「わぁ、その結晶とてもきれいね。向こう側まで見えるのね。」
目がキラキラしている。
「透明度の高い魔法結晶は威力が高い分、消費する魔力が高いと聞いております。使いこなせるのだとしたら、相当お強いのでしょう。」
そうなのか?
威力が高い事しか知らなかった。
ふいに、のんびりとした空気が止まる。
「ご主人様、嫌な雰囲気です。」
「そうだね。警戒をーー」
「動くな。」
耳元で聞き慣れない女性の声。
声の主は僕の背後、体を引き寄せられ首元にはナイフが当てられているらしく、ヒヤリとした感覚がある。
フード付きのローブを纏っているらしく、顔が殆ど見えない。
「誰かな?」
「お前に言う必要はない。」
「そう。」
構わず僕は動き出す。
僕と同じように首元にナイフを突き付けられている依頼主の救出のために。
「なっ、お前!動くな!動いたら首を掻っきるぞ!?」
「やってみなよ。ナツミ、あの二人お願いして良いかな?」
「任せてください!」
腕輪からシュルリと離れ、僕の行動に呆気に取られている依頼主側の二人のナイフを吸収、無力感する。
僕の首に当てられているナイフは先ほどからカチカチと金属がぶつかる音だけで、刃が刺さる気配もない。
ナイフが当たっていた箇所に金属を纏わせて、硬化させただけなんだけどね。
「なんなんだ。お前は…。」
「君達は三人だけ?それとももっと仲間がいるの?」
「くっ…。」
視線の先では、ナツミが依頼主に襲い掛かっていた二人の手と足に腕輪を取り付け、既に無力化した後だった。
「邪魔しやがって…。」
こちらを睨み付ける瞳。
目があった瞬間に、こちらに向けて彼女は特攻してくる。
一歩の踏み込みで、爆発的な加速が出せるらしく、地面がめくれ上がっている。
ナイフを小刀で受け止めながら、彼女の動きも同様に受け止める。
反動でフードがはだけると、そこには犬の耳があった。
「ウェアウルフ?」
「み…見られた。人間に見られた…。ううぅ。」
フードが取れた瞬間から彼女はうずくまってしまった。
取り敢えず、ナツミにお願いして後ろ手に腕輪で拘束してもらう。
僕がやっても良いのだけど、人間であるといった手前、固有魔法をつかうわけにもいかなかったからである。
ーーー
三人のウェアウルフはそれぞれリュカ、ルガル、ライカと名乗った。
三人の主張によると、ここら辺はウルフの縄張りなのだと言う。
尖兵のミドルウルフのうちの一部が殲滅されたことにより、出てきたのだと言う。
「縄張りの範囲広すぎないかな。」
「誰も通らなかったし、良いかなって思った。」
「亜人故に、都市に入る訳にもいかず、こうして野盗の真似事を…。」
「初めてやったんだけどね。」
彼女達は少し前に、人化を使えるようになりミドルウルフを束ねて縄張りを広げていったそうだ。
街道の脇にある森は既にウルフの縄張りとなっており、さぁ街道もそろそろ…と、思っていたらしい。
「そんなことより、なんでお前はそんなに強いんだ!?」
リュカは興奮した様子で声をあげる。
見られると恥ずかしいらしく、再度フードを被せると大人しく僕の言うことに従ってくれた。
「それはそうと、ツムギとやら。その獣をどうなさるつもりで?」
依頼主のお爺さんは不安そうに訪ねる。
確かにこのまま連れていくわけにも行かないか…?
「おにいさんはこの子達に首輪をすれば良いと思うの。ねぇお爺様?」
「あぁ、そうしてくれると助かるが…、出来るかの?」
首輪?
「おれ、お前にならいいぞ!なんたって強いからな。」
「リュカが良いのであれば、私も。」
「おいらも良いよ。」
「えっと、首輪をつけるとどうなるの?」
「ご主人様、『首輪をつける』というのは慣用句でして、主従関係を結ぶを意味します。奴隷と言う言葉を父上が禁止したので、少し遠回しな言い方をするようになったのです。」
なるほど。
と言うことは、僕は変なことを聞いたことになるな。
うん、ちょっと恥ずかしい…。
「でも、いいの?主従と言うことは、リュカ達の自由は少なくなるよ?」
「おれたちは強いやつに従う。お前は強い。」
「ご主人様との主従と言うことは、あたしが先輩になりますね!」
あ、そうか。
ナツミも一応主従と言えばそうなのか。
「あ、ご主人様、手の甲を出してください。」
「え?うん。これでいい?」
その手の甲に、リュカ、ルガル、ライカが口づけをしていく。
「『忠誠の誓い』の儀式です。あたしはスライムさんの主従を継承する形で主従関係を結んでいますが、本来は主人になる人物の手の甲に口づけをすることで、契約が履行されるんです。」
付け加えて、あくまでも従者の意志が尊重されるらしく、付き従いたいという意志がないと契約は成されないらしい。
三人ともに契約できたと言うことは、そう思ってくれていたってことだ。
「んじゃあ、宜しく。」
「おう。宜しくな、主。」
「宜しく頼み申す。」
「よろしく。」
期せずして、従者が増えることになった。
またレティシアさん達に説明しないとな。
狼男って悲しい生き物やと思うんよね。でも○○男はもっと悲しいと思うねん。