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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
樹林公国クレア
360/386

344.クレア城門前にて

イクリールさんに掴まれて運ばれて、空を伝っているうちに夕暮れ時に差し掛かっていた。

バフォメットと名乗る女性は、あの後追いかけてくる素振りもなかったので、ひとまず思考の隅に追いやるとして、まず考えなければいけないのは人間排斥派の後始末である。


「クレア各地で散発するゲリラを抑えるには、そもそも残党を始末する必要があるんですよね。」

「じゃな。ただ、どこに潜伏しているか、までは追いきれてないのが現実じゃ。」

「じゃあ今回の同時多発的に現れた人間排斥派のゲリラは好都合だったんじゃないんですか?」

「それに関しては、ツムギらが居てくれたおかげで対処出来たが平時であれば、ここまで迅速な対応は出来んのじゃ。……人間排斥派のバックはクレアの転覆を目論んでいると見るのが妥当じゃ。」


ほぼ転覆してるようなもんじゃがな、とイクリールさんは付け加えてぼやく。

事実クレアの城内とその近辺は営みが戻ってきているものの、それより外になると、建物の残骸が散乱しており、生活の基盤は依然として破壊されたままである。


「リョウタロウがもうちっとしっかりしておったら各村の人間も動くじゃろうに。」

「しっかり、と言うと?」

「各村を行脚するしかなかろうな。」

「城を開けて良いんですか?」

「あの状態で城も何も無いじゃろ。民あっての都市じゃ。足で信頼を稼ぐ以外に方法はない。」


確かに王が臣民に姿を見せると言うのは、安心感と存在感を示すにはもってこいであると思う。

けれど、これまで『樹影』は王様らしいことを何一つ行ってこなかったと聞いている。

そんな名ばかりの王様が今さら村を練り歩いた所でさほどの効果も得られないように思う。


「いっそイクリールさんが王になってしまった方がクレアも安定しそうですよね。」

「それで万事解決するなら幾分か楽なんじゃがのー。ナツミよ、各都市のトップは今全て勇者じゃろ?」

「そうですね……。あぁなるほど。」

「そう、『格』が足りんと舐められるんじゃよ。恐らく、今のツムギでもまだ足りん。」

「そうなんですか?フォッグノッカーでもパートリアでもあんなにカッコ良かったのに?」

「カッコよさは関係ないじゃろ。」


イクリールさんは呆れた顔でナツミを諌める。


『迅雷』は僕らがラピスグラスで会話した際に、クレアに亜人の都市を築けば良いのでは?と冗談交じりに言っていたが、あれはあくまで『僕が魔王になる』事が前提の話。

それに、ラビオラさんが言っていた『準勇者』の肩書き。

あれは突発的に出たものではなく、勇者に足る肩書きの少なさ故に準を付けざるを得ない、と言うことだ。


その話を総合しても、他の勇者に『格』で劣ると言う話は納得である。


「つまり『迅雷』は僕に格を付けさせたい訳か。」

「じゃろうな。現にお主は『迅雷』の名代でクレアに来とるんじゃし、顔役にする気満々じゃろ。」

「……人間関係がごちゃごちゃするのはちょっとめんどくさいなぁ。」

「生きてりゃ誰でもそうなる。まぁお互い興味が薄れれば疎遠になるじゃろうし、見えるものばかり数えるのも浅はかじゃがの。」

「まだそこまでは達観出来ないですね。」

「カカカ、素直で良い。……さて、そろそろ降りるぞ。誰か帰って来とれば良いがの。」


イクリールさんは首をもたげて急降下を開始すると、身体が浮遊感に包まれる。

ジェットコースターのように首に圧がかかる。

治りたての身体が痛むが、痛みを感じている間に城の正門へと降り立つ。


「あ!お帰りなさいツムギ。」

「ただいま、レティ。早かったんだね。」

「私たちは近場でしたからね。二つのエルフの村に居た人間排斥派の残党はしっかり縛り上げて引きずってきましたよ、ほら。」


レティが指を差す方へと目を向けると一様に下を向いた亜人が数珠繋ぎに縛られ、兵士に連れられて下に繋がる階段を降りていくのが見えた。

恐らくあの先が地下牢なのだろう。


「わしは少しリョウタロウと話をしてくる。すぐ戻る。」

「分かりました。ここら辺で待ってますね。」

「おお、そうしておいてくれ。もしかしたらツムギを呼ぶやもしれんしの。」


ヒラヒラと手を振って、イクリールさんは城の中へと消えていく。

その足取りはあまり軽くなく、イクリールさんの気の重さを現していた。


「ツムギの方はどうでした?」

「…………ダンデさんと会った。」

「…………へ?ダンデさんって、あのダンデさん?」

「そう、あのダンデさん。」

「だってフォッグノッカーで連れ去られたって……なんでクレアに?無事だったんですか?」

「……無事と言えば無事だった。」

「……?」


当然、口も重くなる。

ダンデさんと会話したナツミも交えて、話を続けるが、聞いているレティも次第に空気が重くなっていく。


無理もないだろう。

『土塊』を人質に取られた上に、ダンデさん本人は人工亜人化していたのだ。


「ま、それはそれとしても『土塊』の近衛にやられると言うのはだらしないんじゃないかのう?」

「それはまぁ、不徳と致す所と言いま――いっ!イクリールさん!?と……シルトさん?」

「カカカ、気を抜きすぎじゃな!」

「そうですわ。これでは先が思いやられると言うものですわ。」


愉快そうに笑うイクリールさんと、腕を組んでやや不服そうなシルトさんが立っていた。

『樹影』への話は終わったのだろうか。


「早かったですね?」

「まぁ前々からちょくちょく話はしておったからの。今回のゲリラ戦の結果で話は変わってくるが、恐らく大丈夫じゃろ。」

「「??」」

「取り敢えず、お越しくださいませ。リョウタロウ様からお話がありますので。」


イクリールさんと、シルトさんの物言いにレティと二人で顔を見合わせる。

首をかしげつつ、促されるままにクレアの城門を潜ることになった。


「まず、ゲリラ戦の結果ってなんですか?」

「今回のゲリラ戦、五ケ所同時なんて随分と統制が取れているとは思わんか?」

「確かに……。」

「あちらにも、お主の犬っころと似た能力を持つ者が居ると考えるのが普通じゃ。」

「となると、今回捕虜として捕らえた人間の中に、他の人間排斥派と連絡が取れる人物が居るはずですのよ。」

「そいつを叩くことが出来れば、統率の取れたゲリラ戦は行うことが難しくなるはずじゃから、後は散発的に発生する可能性のある戦闘を潰していけば反乱は終わると言う寸法じゃな。……そう言えば、お主。犬っころはどうした?」


そう言えば主従契約はバフォメットに拐われた際に切られてしまったのだ。

おかげでみんなの居場所も分からない。


「あの……ご主人様。それなんですが……。」


おずおずと声をあげるナツミ。

厳密に言うと、主従契約が切れた今、僕はご主人様でもないのだけれど。


「実はウェアウルフの皆さんの居場所であれば、見えてるんです。」

「……へ?」

「ご主人様の中にいるヴァニタスなんかとは、契約ごと切れてるのか、ご主人様の契約が続いてるのかはあたしには分からないのですが、リュカ達の主従契約はあたしに引き継がれているみたいなんです。仮契約みたいな不完全な状態なので、スキルの借用なんかは出来ないみたいですが……。」


つまり、僕の身体の外側にあった契約が軒並みナツミへと移行した、と言うことらしい。


「カカカ、分からんことばっかりじゃのう。」

「……それは、賢王様が言うことじゃありませんわ……。」


ナツミが言うにはルガルはこちらに向かってきている途中であるらしい。

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