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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
樹林公国クレア
351/386

335.三度現る

無いはずの心臓の鼓動が高まるのを感じる。

意識が遠のくほどのパニック状態だが、今意識を飛ばすわけにはいかない。


ご主人様は、あたしの唯一の居場所だ。

主従マーカーが見えなくなった。

それだけで突然闇の中に放り込まれたかのように、全身の感覚が無くなっていく。

迫る絶望感に肝が冷えていく。


「どうしよう……どうすれば……。」


そうだ、ルガルであればご主人様を追いかけているはず。

分身も全員の傍にいて、こちらの状況を把握できているはずだ。


「ルガル!ルガルはいますか!?」

『待ちなさい!先にあれを縛ってしまいなさい!』


耳元で声を出しているのは、先ほどまで身体を使っていたローナである。

主導権を戻してすぐに、妖精の姿で身体を作ったのだろう。

魂は繋がっているため、髪の毛が金属で繋がっている点は前と変わらずである。


けれど今はご主人様の事が第一だろう。

そんな中で有象無象の事など些事であるはず。


「主従が切れたのに随分と余裕なんですね!それとも、ご主人様のことなどどうでも——」

『そんなわけないでしょう。』


パリッと電気が体に走る。


あたしたちは同じ体に二つの魂が入っているのだが、その感情に関しても魂の数と同じだけ思うところがある。

片方が怒っていようが、もう片方には関係なかったり、その逆もしかり。

体が同じである弊害として、多少感情が引っ張られるのはご愛嬌と言ったところか。


『妾も心配ではある。あるのだけれど、そう簡単に命を落とすとも思えないわ。それこそ、主人は勇者ですもの。あの方の悪運で一度死んで生き返ったのはあなたの知るところでしょう?』

「それは……そうなんですが。」

『まずは信じなさい。今できることを十全にこなし、主人を探す。その方がいい女、だと思いますわ。』


ローナの言葉を受けて気持ちを少し落ちつけると、なるほど確かに彼女の焦りも伝わってくる。

今すぐ駆け出したい気持ちをグッと堪え、ダンデさんの両手足を触腕を利用し縛る。


『……ルガル、遅いですわね。』

「もしかすると、主従が切れたから……。」

『あぁ、分身も使えなくなったと。』


主従契約が成されているからこそ、ご主人様のスキルを使い、昇華させて『分身』することが出来るようになったのだ。

その要である主従契約が切れたとなると、彼の神出鬼没性も失われてしまう。


『となると、恐らくルガルは主人を足で追ってますわね?』

「ならあたし達も行きましょう。」


気合いや逸る気持ちと共に立ち上がる。

しかし、視覚も嗅覚も聴覚も触覚でさえも、メタルスライムであるため、あたしは皆に劣る。

どうやって探したものだろう。


『ねぇナツミ、なんだか森が騒がしくないかしら?』

「複数箇所で人間排斥派が動いていますし、そんなものじゃないですか?」

『それなら、戦闘する前からだったでしょ。ちょっとそこの!』


ローナが声をかけたのは一番近くの樹木にしがみついているバロメッツの亜人。

彼か彼女かは不明であるが、ダンデさんとの戦闘も、なんならご主人様が連れ去られた所も見ているかもしれない。


「わ……私ですか!?」

『そう!そこから何か見えませんこと!?』

「えと……えと何かが砂煙を上げながらこちらに飛んできて――」

「――はっ、よ、避けろナツミ!!」

「へ?わっ……きゃぁぁあ!!」


森の木々を縫って、不意に跳んできたのは見知った幼女。

声を聞いた時には既に遅く、あたしは彼女を受け止めて、押し倒される形で地面に伏すことになった。


「イクリールさん!?何してるんですか!?」

「わしもよく分かっておらん。同じ顔の亜人が三人も出てくれば、誰だって虚を突かれるじゃろ!」

「……三人?」

「ったく幼女だと思って油断した。」


イクリールさんが跳んできた方向からのぼやくような声は、聞いたことのある口調だった。

フォッグノッカーで出会った男。

あの時は確か二人だったはずで、しかもご主人様の『怠惰之行進(フェニックスレイ)』で、形も残さず消えたはずだ。


「なんで、ここにいるんですか。ローレン=リグレート。」

「あれ?俺ってば有名人?」

「やつを知っておるのか?ナツミ。」

「あれは……アニスタの足を奪った男です。」


あたしの言葉に、ローレンは白々しくおどけて見せる。


一度目のアニスタやフェリが相対したクレアでのローレンは、確か『樹影』が来たお陰で逃げられたとリュカが言っていた。

二度目にフォッグノッカーで現れた二人のローレンはご主人様が焼き尽くしたのを、あたしはこの目で見た。


だから、間違いなく目の前のローレンはあの時のローレンではないはず。

けれど、調子の良い声色も、そのおどけた仕草も、そして木の陰にマンティコアの尻尾を隠す姑息さも、あの時相対したローレンに違いはない。


「アニスタの足?俺が奪ったんだって?お前知ってる?」

「いやぁ?俺は知らねぇなぁ。アニスタってあのアニスタだろ?『大輪の槍』の時に魔法使ってた。」

「あぁ!あのちっこいのに胸のおっきいアニスタか。懐かしいなー。あいつ元気にしてる?」


同じ顔が口々に並べ立てる軽薄な言葉は、焦るあたしの心を掻き乱す。

思わずギリリと奥歯を噛み締めると、それすら一笑に付してローレンは言葉を続ける。


「あはは、他の俺になんかやられたんだな。まぁ俺に文句言うのはお門違いだよ、お嬢ちゃん?」

「……あなた達は何人いるんですか。」

「んぁ?知らね。自分で見に行けよ、敵に甘えんな。」


いい加減頭にくる。

二つ名付きのギルドリーダーをやっていたと言うのが嘘のような軽薄さである。

とは言え、問答をしようとしたのは失策だった。


頭を切り替え、全身から触腕を伸ばす。


「とりあえず消えてください!」

「はは、やなこった。」


三本の槍とそれぞれに付いているマンティコアの尻尾が、触腕の行く手を阻む。

けれど、同時にローレンも攻勢に打って出ることが出来ないでいるようである。


『ちょっと、ナツミ。頭に血が上りすぎなんじゃないかしら?』

「あたしは至って冷静です。目の前のクズを掃除して、ご主人様を探すんです。」

『や、まぁ……それでいいなら良いのだけど。』

「む?ツムギを探す?何かあったのか?」

『あぁそうね、えと……主人がこの村で連れ去られたの。あの辺りに居たんだけど。』


イクリールさんは首を傾げながら、ローナの差す指の先を見遣る。

掘り返されたかのような土を、しげしげと見つめていたが、直後にはガックリと肩を落とす。


「ナツミ、その脳ミソ空っぽ男どもの相手を任せていいかの?」

「……嫌です!」

「うむわかっ……へ?」

「あたしが探しに行きたいんです!あたしのご主人様ですから。」

「や、気持ちは分かるが、ほら適材適所と言う言葉もあるじゃろ。」

「諭されて、改められるほど大人じゃありません。」

「なんでそんな突然子供みたいなことを……。わしは心当たりがあるんじゃ。任せてくれんか?」


どうしようか。

任せてもいいが、なんだか抜け駆けされた気分がしてしまう。


所謂女の勘と言うやつである。


『……イクリールさんも、ゴミ掃除手伝ってくれない?』

「はぁ……そうするしかなかろうな。」

「おぉい!ゴミゴミ言うなよ!!」


最近のゴミはよく喚くようである。

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