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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
王族国家ラピスグラス
329/386

314.紅血の使い方

ーーーside レティシア

ヴィルマの鎌はあくまで魔人の攻撃を躱す動きを続けている。

振り下ろされる刃を引っ掛けていなす。

袈裟斬りに振るわれる刃を鎌の背に沿わせて流す。


決してこちらから攻勢はかけない。

そうすればヴィルマは戦闘経験の浅さで確実に隙を突かれるからである。


「……でも、そろそろ限界、ですよー?」

ギチギチ


不愉快な牙の根元が動く音も、今はヤツが不快に感じている現れのように聴こえてくる。

なら、今がチャンスであると、再び渾身の一閃を振るう。

けれど、初手と同じ太刀筋であるため、魔人には容易く避けられてしまう。


「ヴィルマ!」

「遅かったですねー。そのまま縮こまって振るえてるのかとー。」

「私だけならそうなってたでしょうね。……仕留めますよ。」

「……作戦はあるんですー?」


紅血(クリムゾン)』を応用した刃を作れたことと、それを利用した作戦がある。

こそりとヴィルマへ耳打ちをすると、彼女の頬が少し上がる。


「分かりました。ならヴィルマちゃんの役割はヤツの邪魔をする事ですねー。」

「お願いします。」

「かき乱すならヴィルマちゃん大得意ですよー!」


駆け出すヴィルマの動きに合わせる。

魔人は大振りの鎌を避け、ヴィルマの懐に入ろうとするが、間髪いれずに私の一刀をくれてやる。


「らあああぁぁぁ!!」


例によって驚異的な反射により受け止められた『紅血(クリムゾン)』をそのまま押し込む。

刀も鎧も関係ない。

まずは一撃を。

私の心を取り戻すための一歩を!


魔人をダンジョンの壁に弾き飛ばす。

が、ヤツは無防備に壁に飛ばされず、衝撃を分散させるように壁に足を付け、地面へと足を付ける。


「まだですっ!」


地面に降り立つ魔人を追い立てる。

呼吸を忘れるほどの連撃。

振るう刃は殆どが弾かれ、たまに表皮に当たるものもが軽い傷が出来る程度で、通る気配もない。


「やはり、刃はどうしても通らないようですね!」

「――――なら、打撃はどうですぅ?」


ヴィルマが気を乱し、私がその場に釘付けにして、フェリが叩く。

魔人が慌てるように振るう刀は私が引き受ける。


紅血(クリムゾン)』へより魔力を注ぎ、その刃を硬く、しなやかに作り上げていく。

清廉な月光のように。

打ち合いながらも想像する。

理想を願う。


「食らいなさい!!」

「食らいやがれですぅ!!」


フェリの蹴りと私の一太刀が同時に魔人の体に届く。

紅血(クリムゾン)』が遂に魔人の刀を断ち、フェリの蹴脚術が魔人の胴体を捉えていた。

魔人の体がフェリの蹴りに合わせて宙に浮かび、跳ね飛ばされる。


「……はぁ……ふぅ……。」

「よっしゃぁ!ですぅ!」

「無理矢理語尾付けなくても良いんですよー?」


油断無く魔人が跳んだ先へと戦意を向ける。

けれど、砂煙が明けるとそこには力無く崩れ落ちた魔人があるだけだった。


「……終わり、ですかねー?」

「立ったら次は蹴飛ばせなさそうですぅ……。」


ヴィルマと私を囮に使った上での不意打ちで、漸く通った一発だったのだ。

立ってくれるなと願いながら、刀を構えるがその願いもむなしく聞こえてくる音があった。


ギチギチギチ


アイゼンセンチピードの嘶きのようなそれが、ダンジョンの空間内に響き渡る。

今までで一番大きく。


「っ!?」

「……これは随分と……。」

「気持ち悪いですぅ。」


その姿は、先程と同じはずなのに明らかに異質であった。

鎧の隙間と言う隙間から伸びるのは、虫であった時の脚、脚、脚。

ワキワキと伸ばして縮めてを繰り返す様は、まるで踠くような動きだ。


そのうちの一本に魔人は手を掛け、一息に引き抜いた。

中からはズルリと溢れるように何かがこぼれ出る。

びちゃびちゃと地面に滴る汁は髪と思わしき触覚と同じ長春色。

赤く白く黒く淡い。


手に持っていた脚は柄に、体内から引きずり出した臓物は気付けば、黒く硬化し先程へし折った刀と寸分違わぬ姿に変貌していた。


「私が行きます!二人は援護を!」

「承知ですー!」

「待ってください様子が――――」


直後に私はフェリの体から血が吹き出すのを見た。

私の体からも夥しい量の血が流れていた。

振り向くも魔人の背が見えるばかりだ。


酷く視界がスローに感じる。

体の動きが追い付かない。

いや、これはむしろ……。


遠ざかる意識の中で、声が聞こえてくる。


「……レティお姉ちゃん!ヴィルマちゃん!フェリお姉ちゃん!!」

「だめ、クネム!今行ったら貴女まで!」

「……でも、でも!」

「貴女の『魔眼』も使えないの!冷静にっておそ、教わったの!」

「……ヴィルマちゃんの魔力糸も至近距離なら使えた!クネムの『魔眼』だって――」

「ミーシャだけじゃ帰れないの。お願い、止まって……。」


あぁいけない。

私は彼女らを監督しなければならないのだ。

こんなとこで倒れるわけにはいかない。


「……レティお姉ちゃん?」

「皆で……帰りますよ。」


だくだくと全身から血が流れ出ている。

けれど、血液であれば。


紅血(クリムゾン)


いつからかトラーフェ一族に伝わってきた魔法結晶。

血液を操り、全身に纏う鎧を形成する。

刀も体の一部であると認識した時、血液は刀をも包むように作用した。


「私の血ならくれてやります。紅血、力を貸しなさい。」


呼応するように、全身の血液の循環が早まる。

鎧のような大仰なものではなく、もっと体を動かしやすく出来るように。

そう、ツムギが金属で布を作っていました。

それくらい密着するのがいい。


筋肉をなぞるように。

肢体に限界以上の力を出させるために。

纏った鎧が、ぴったりと体のラインに沿った形へと変貌していく。

最後に顔を覆い、額部からは角が生える。


私はオーガだ。

虫風情に体躯も剣技も及ばぬ訳がない。


「がああぁぁぁ!!!」


『身体強化』が全身を巡る。

紅血(クリムゾン)』によって、外側を覆う血液にも『身体強化』が循環するため、その力は先程の比ではない。


魔人の太刀は、先程よりも速い。

けれど、それも視える。

斬り結ぶ度に、コイツの動きを理解していく。


先程私達を撫で斬りにした理由もわかる。

斬らなかったのではなく、斬れなかったのだ。

刀は表面上は先程と変わらないが、それでも生成してほどない。

未完成の刀で斬ったがために、命を奪うに届かなかったのだ。

そして、少しだけ動きが鈍い。

恐らく、フェリに蹴られた箇所を庇っているのだ。

それでも尚、衰えぬ剣速には驚きを禁じ得ないが。


「村には……入れさせません!!」


遂に紅血は魔人の首を刎ねる。

同時に脇腹に熱を感じる。

見ると、ヤツの刀が突き立っていた。


「……レティお姉ちゃん!!」

「お姉様!」


魔人の絶命を確認出来たのか、二人が駆け寄ってくる。

まだ死ぬわけにはいかない。


「……クネム、ミーシャ。……ヴィルマを起こして……わたし……の。」

「今やりますよー。だから、しっかりしてくださいー。『身体強化』を解かないように。お願いですから、もう少し、頑張って下さい。」

「……ヴィルマも……泣……くんですね。」

「泣いてませんよー。」


けれど、私は血を流しすぎた。

意識を落とさないように、というのは……流石に……難しそうだ。

マオ「マオ達はスケイルドールの後始末やら、なんやらやってるっキュ。決して、傍観していた訳じゃないっキュ。とは言え、アイゼンセンチピードの動きもあの人の動きも全然わからなかったから、参戦していればお肉になるだけだったキュ。」



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