300.随伴してもらうのは誰か
「――と言うことで、クレアのイクリールさんと話をつけに行くので、誰か一緒に来てください。」
夕食のタイミングで、皆へと相談を持ち出す。
内容は勿論、クレアでイクリールさんに応援要請する件と、シェンブルのダンジョンへ潜る件である。
魔王城組とフォッグノッカー組に分けた時と同じくパーティーを二つに分ける。
とは言え、あの時は僕がほとんど勢いで飛び出してしまったので、その時よりは落ち着いている。
生憎フェリとヴィルマはトリアリンブルダンジョンに潜っていて居ないが、彼女らには帰ってきてから伝えることにしよう。
「あたしは勿論、ご主人様と一緒です。」
「じゃあミーシャも一緒なの!」
「ツムギくん、その事なんだけど。クネムとミーシャ、フラマは置いていった方が良いんじゃない?」
「……嫌!」
アニスタの意見に、まず声を荒らげたのはクネムだった。
勢いのままで立ち上がり、アニスタを真正面に見据える。
「……クネムは、置いてかれるほど力にならないの?」
「違――」
「……どこで頑張っても子供扱いのままなんて嫌!クネムは、お兄ちゃんに貰った槍に賭けて、足手まといにならないって誓う。」
それは並々ならぬ誓い。
目隠しの奥に光る瞳が燃えていた。
戦意と言えばいいのだろうか。
触れれば、こちらまで焼かれてしまいそうな程に真っ直ぐで危うい熱を帯びている。
「クネムは、なんでそこまで戦おうとするの?」
「……戦えないと何も出来ないまま、期待されないまま現実がクネムの上を通りすぎるの。」
両親の事だろう。
運良く父親であるルースターとはフォッグノッカーで出会うことが出来たが、母親と会うことは未だに叶っていない。
「……あの時お兄ちゃんが言ってくれた。一緒に帰ろうって。帰る場所が無くなったクネムに。……だから、お兄ちゃんがクネムの帰る場所。」
彼女は恐れているのだろう。
父も母も、帰る家さえ一時は失ったのだ。
なら、安心できる人の側にいたいと思うだろう。
離れたくないと思うだろう。
「クネムの気持ちは分かったよ。」
「……じゃあ、」
「アニスタはどう思う?」
「……うちは……」
「心配、ってだけじゃないんでしょ?」
クネムの剣幕に驚いたのか、アニスタはやや消沈していた。
しおらしいアニスタを見ると、足を無くした時の事を思い出してしまうから、あまり気持ちの良いものではない。
それに、アニスタが何も思考せずに、子供だからと同行させないようにするとは思えない。
「うちは、クネム達にはもう少し学園に通って欲しいと思ったの。」
「あの、『迅雷』とレティのおかあ――王女様が共同で建てたって言う?」
「あの人が居ないところで王女とか呼ばなくていいのですよ。」
「そう、建前上は勇者が建てた学び舎ってなってるけど、中身は幾つかのカリキュラムを経て、職業を選びやすく就きやすくするための仕組みが出来上がってる。うちも臨時で魔法の講師をやったりしてる。」
「……アニスタは働きすぎ。ボクには真似できない。」
確かに、アニスタは講師として働く傍らギルドにも時々顔を出している。
フェリが受けそうな依頼を幾つか目星を着けた上で、自分も受けられそうな依頼は受けているとも。
「今はうちの働き方はどうでも良くてね。まだまだ発展途上だけど、教えるって大事だと思うんだ。……ほら、うちはもう……一緒に走れないじゃない?……だから、こう言うことでしか貢献出来ないかなーって……。うん、ごめんね。」
「……アニスタお姉ちゃん。」
「クネムがそこまで言うなら、うちは行って欲しい。冒険者は気概があるのが前提条件だもの。」
クネムがアニスタの腰に抱きつく。
アニスタも言いながらクネムの頭を撫でる。
クネムは出会った頃より少し大きくなったんじゃないだろうか。
「んじゃ、クネムは久々にリオネルさん、レフリオさんにしごいて貰うことにしようか。……で、ミーシャとフラマはどうする?」
「ミーシャはお兄様と一緒が良いです!」
「じぶんは居残ってもいいのであります。」
ミーシャの即答は何となく分かる。
彼女は意見を曲げない所がある。
初めから僕と一緒だと言っていたし、着いてくるのだろう、とは思っていた。
「フラマが残るとなると……。」
「うん、うちも残るよ。」
「え?」
「なんでそんなにびっくりするの。」
「だって、アニスタは――」
冒険者として生きてきたのに。
ずっとローレンを追い掛けて……。
「……ローレンはもういいの?」
「思うところもあるけど、もう大丈夫。あ、でもどこかで会ったらぶっ飛ばしといて。」
「任せて、と言いたいとこだけど、それはフェリに任せるよ。」
「ふふ、前みたいに飛び出して行っちゃいそうだもんね。」
「……クネムも、ぶっ飛ばす!」
「気持ちだけ貰っとく。クネムはまず自分の事、ね。」
「…………わかった。」
クネムは不服そうに承諾する。
ただ、アニスタの気持ちも心配も分かったようで、先ほどのような
で、次は……。
「私はツムギと一緒ですよね。」
「……ボクがツムと一緒。」
レティとソフィアが両サイドからずいと顔を近づける。
今回、クネムとミーシャが同行するため、今は不在だがヴィルマは来て貰わないと困るのだ。
「ソフィアは魔王城に向かったときに一緒にいってましたよね?」
「……それはそれ。それに今回は交渉も大事。ボクの腕の見せ所。」
「そんな所見たこと無いです。それを言うなら私はロッティと心を通わせましたからね。」
ぐっと力こぶを見せるレティ。
恐らく御膳試合のことを言っているのだろう。
けれど、確かにレティとロッティは多少気安い仲であろう。
「じゃあ今回はレティにお願いしようかな。」
「わかりました!」
「……えぇー。」
「また埋め合わせするから。」
「……約束。」
ここが決まれば後はなんとかなるだろう。
トラーフェ商会から来てくれているメンバーやロザミアさんはアニスタに任せるとして、決まってないメンバーはウェアウルフ組と……
「俺が必要だろ!」
「ヴァレリー様が行くのであれば、私も着いて行きます。」
ポンコツ吸血鬼と従者の二人が何故か着いて来る気満々なのである。
彼らは身を隠さなければならないはずだし、なんならソルカ=セドラが落とされたとなればなおのこと着いてくるのは止めた方がいいと思うのだけど。
「貴方は要りません。」
「そう言わないでよレティシアちゃん。」
「ちゃん付けしないで下さい気持ち悪い。」
……少しレティに任せておこう。
さて、リュカ達はどうしようか。
「主、おいらは残るよ。」
「フラマのこと?」
「それだけじゃないよなー。」
「そ、それだけだから余計なこと言わないでリュカ。」
「んふふー、どうしようかなー。」
「ちょっとヴィルマ姉ちゃんみたいになってるぞ……。」
そう言えばライカが女の人と手を繋いでる所を見たって屋敷で噂になってたな。
十中八九レイナさんだと思っているし、実際レイナさんとライカと街中で出会ったこともある。
仲間内の色恋であるため、女性陣はいろいろと妄想を膨らませていた。
「じゃあリュカはどうする?」
「どうせルガルが主に着いていくんだし、オレはヒトミ姉ちゃんの方に行くよ。」
「いつも悪い。」
「いいんだよ。オレがあっちに居れば主も安心だろ?」
良くできた従者だ。
勿論、ルガルも、ライカも僕には勿体ないほどに助かっている。
ちらとポンコツ吸血鬼を見遣ると、机に突っ伏していじけていた。
「最終的に『紅蓮』と出会うかもしれないと言ったらこんなことになってしまいました。」
「あぁなるほど。」
取り敢えずヴァレリーとネロもお留守番と言う形になった。
後はフェリとヴィルマが帰ってくるのを待つばかりである。
300話の大台です。
ありがとうございます。
まだ頑張ります。




