29.疑わしきは鎮圧
「魔王の召喚した勇者がここにいるはずだ。おとなしく引き渡せ。」
洞窟からわらわらと出てきた軽鎧を纏った兵士はそう言って里に押し入ろうとしていた。
三十人は居るだろうか。
「ナツミ、ちょっとお願いされて欲しいんだけど、小刀を取ってきて欲しいんだ。もし、あいつらに動きがあったらレティシアさんも動くと思う。その時に手伝ってあげて欲しい。」
「わかりました。でも、ご主人様の方は…?」
「取り敢えず、話し合ってみるよ。」
腕輪からメタルスライムに戻ったナツミは、一直線に祭りの時に世話になった建物へ向かっていった。
「勇者なんかうちには居ない。何を言ってるんだ?」
「しらを切るつもりか。庇い立てするなら、容赦しなくても良いと王からのお達しだ。」
先頭に立つ男は無機質な目を向けて、懐のショートソードを抜き放つ。
咄嗟に割り込み、振り下ろされる刃を片手で受け止める。
もう少し遅れたら、応対していた人に当たるところだった。
「多分、探しているのは僕ですよね。」
「貴様が?魔王の勇者?本当か?」
誰も僕のことなんて知らないのだから、判断のしようがない。
「どうすれば、勇者だとわかるんですか?ここで貴方達を一人残らず片付ければ、勇者だったと理解するとでも?」
「貴様ごときが、我々を片付けるだと?紅蓮直属騎士の我々を?まぁいい。どちらにせよ、疑いがあるなら、始末しても構わんとのお達しなのだ。名乗り出た以上、覚悟してもらわなければな!」
ショートソードが再び振り下ろされる。
…遅い。
めっちゃ遅い。
ショートソードの刃を再度掴み、握っている手首を蹴り上げる。
握る手が緩んだ所でショートソードを取り上げ、蹴り上げた足で兵士の胸部鎧に蹴りを入れる。
「がっ…なっ、貴様何をした!?」
「見えなかったなら早々に帰った方が良いんじゃないですか。」
「我々に撤退は無い!覚悟!!」
兵士三十人が雪崩のように攻め込んでくる。
「お、お客人!!」
「大丈夫です。少し離れてもらっても大丈夫ですか?」
肩口から金属が舞い上がる。
触手のように伸ばし、兵士一人ずつを絡め捕っていく。
軽鎧とショートソードはお揃いの規格で作られている。
いわゆる量産型だ。
金属で作られているなら、吸収してしまえばいい。
狭い空間で大人数で居たため、囲まれて逃げることも出来ずに捕らわれていく。
さほどの時間もかからず、三十人はオブジェのように、首だけを残して金属に包まれていた。
「そう言えばなんで皆軽装なんですか。」
「貴様に言う言葉は無い。」
「そうですか。」
全員の締め付けを強くする。
ぐあああぁぁぁ!!!
殺すつもりはないけど、殺すつもりで来てたんだから、多少は仕方ないよね。
「どうやってここに来たの?誰かが知ってた?」
「貴様に言う言葉は…。」
があぁぁぁぁ!!!
まぁ良いけどさ。
「ここまで飛んでくるのに、装備は軽い方が良かったんですよね。で、ここを知ってたのは多分、紅蓮の勇者その人だ。貴方たちの上司?上官とかですよね。」
「し、知っているなら何故こんな!!」
「確証が得たかっただけです。そもそも攻め込んできて、何を被害者気取ってるんですか。彼なんか知らないことを知らないと言ったのに、危うく斬られそうになった。その意味が分かりますか。」
「意味だと。我々は王命により、貴様を反逆者として捕らえに来たのだ!崇高な使命を果たそうとする我々にどんな非があると言うのだ。」
あれ、話し合いができないかもしれない。
彼らは実力から鑑みて、王への忠誠心の高さから直属騎士にされているのかもしれない。
「貴方の一刀で、反逆者が増えるとしても?」
「なら、その反逆者も殺せばいい。絶対である王に歯向かうのであれば、その覚悟もあろう。」
「…その王って誰。」
「王は王である!我らの王、元紅蓮の勇者にして、現国王カズヤ様だ!」
…え?勇者が国王?
建国したの?なんで?
「あの方が腐った国を立て直してくれたのだ。その王に我々は敬意と忠誠を誓ったのだ。」
「敬意とか忠誠はよくわからないけど、勇者が国を乗っ取ったってこと?」
「貴様に言う言葉は無い!」
もういいよそれ。
とりあえず、兵士の装備を全て吸収する。
で、両腕と両足にちょっと大きめに腕輪を転写。
金属を僕の元に戻す。
三十人の捕虜が出来上がる。
「他にも侵入してる兵士が居るかもしれません。とりあえず、誰かに伝えてきて…」
「おい!お客人、現状はどうなってる。」
片角のおじさんが、走ってくる。
「あ、どうも。取り敢えず縛って転がしてます。」
「おう、そうか…ってなんだこれぇ!」
僕もびっくりはしてる。
こんなに楽に制圧できると思わなかった。
「とりあえず、他にも誰か侵入者が居るかもしれません。辺りを警戒するように皆に言って回って欲しいです。」
「お、おう…。」
僕もナツミの方に向かおうかな。
「…ここに転がして置くわけにもいかないよな。」
兵士を見遣り、考える。
そういえば、魔王城からオーガの里に入ったとき、牢だったような。
ちょっと行ってくるか…
「すみません、ちょっと見張っていてもらえますか。多分余計なことはしないと思いますが。」
「えっ、あっ、は、はい。」
兵士と問答をしていた人にちょっとの間、その場を任し、僕は魔王城へと戻る。
狭い穴を抜け、魔王城に戻る。
牢は全部で六ヶ所。
その全てを吸収し、転写できることを確認する。
ついでにステータスの確認。
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Name:シロガネツムギ
FP:22120/23410
Familiar:マーキスメタルスライム
FamiliarName:ナツミ
Skill:
『吸収:S』『転写:S』
『圧縮:A』『人化:A』
『分裂:E』『錬成:A』
『纏着:A』『硬化:A』
『刺突:D』『魔眼:E』
PassiveSkill
『魔力吸収:C』
『金属支配:B』
『同族支配:C』
『渾然一体:C』
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兵士の鎧やらを吸収したにしては、そんなに増えてない。
…魔眼?
これはもしかしなくても、宝物庫の水晶から得たスキルなんじゃないだろうか。
魔眼…いい響きだ。
こう、心の奥底に沈めたはずの疼きが再び上がってこようとしているような…
どんな力なのか、また使ってみよう。
魔力がよく見えるようになったのは、魔眼の副次的な効果です。