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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
空中都市ロガロナ
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26.平和な朝

目が覚めると体のあちこちが痛む。

硬い板の上で眠っていたからだろう。

体には毛布がかかっており、その上でナツミもメタルスライムになり丸まっていた。


ナツミを起こさないよう起き上がり、辺りを見回すと住人もそこいらで倒れるように眠っていた。


家の壁にもたれ掛かって眠る者、折り重なって眠っている者。

死屍累々といった感じである。


平和なんだなぁ。

外敵がいるなら、こんな無防備は晒さないだろう。


「おはようございます。」


声の先には上は黒いノースリーブでハイネックのインナー、下はラフな黒ズボン。黒い髪を後ろでひっつめたレティシアさんがいた。


「すみません。気付いたら眠ってました。」

「よほど疲れていたのでしょう。」


戦闘や水晶の中の魔方陣の吸収。

それでなくても魔王城をずっと下って来ていたのだ。

確かに疲れもするだろう。


「毛布、ありがとうございます。」

「まぁ、客人ですから。」


レティシアは、指先で毛先をくるくると遊ばせながら、ぷいとそっぽを向いてしまう。


「そ、それよりツムギさん。今日はどうします?」

「とりあえず、首飾りを返すにはどうしたら良いですかね?」

「そういえば、それが目的でしたね。私が案内しましょう。でも、まずは…」

「まずは?」


レティシアに引きずられるように連れてこられたのは、川。

川幅はそれほど大きくないが、水は澄んでおり、魚が泳いでいるのがよく見える。


「体を清めた方が良いと思います。」


だそうだ。


「私は入れ替わりで清めさせていただきます。ナツミさんと一緒に。」


ゆっくりで大丈夫ですよ。と言い残して、レティシアさんは去ってしまった。

言われた通り川で体を洗う。


ひんやりした水が寝起きに心地よい。


「この水はどこから来てるんだろう。」

「はっはっは。そんなことが気になるのかお客人!」


振り向くとダンジョン探索の時にいた壮年の男。


「昨日は愉快だった。またやりたいものだ。」

「そうですね。僕も楽しかったです。」


がははと豪快に笑った後、男はボソリと言葉を繋ぐ。


「お客人、知っておるか。この空中都市にはもうほとんど人がいないことを。」

「え?」


そうなのか。

だから、レティシアさんも僕を警戒していたのか。


「姫様の客人ゆえ、深くは詮索せん。それにお前さんからはあまり邪悪な感じを受けないからな。ただ、お前さんと一緒にいる娘。あの娘を俺は小さい頃に見たことがある。俺が見たときのままの姿で。」


壮年の男は過去を思い返すように、虚空を眺めている。


「あの頃、このオーガの里からはな、魔王城の兵のための鍛練の場として使われていてな。家族を引き離すのは忍びないと魔王様は警備兵の一家ごと、ここに住まわしていた。もちろん、一人のやつもいたが、そこは自由だったんだよ。んで、警備兵だろ?王族への拝謁が定期的に行われていたんだよ。俺の親父も警備兵でな、偶然見ることができたんだよ。魔王様の娘をな。」

「彼女を隠しておいた方が良いと言うことですか?」

「いや、瓜二つとはいえ、その当時を知っているものは少ないだろ。だから、あの娘に見覚えのあるやつはこの魔王城の関係者か城下町にいた人間か、あの日襲ってきた地上の勇者様御一行だろうよ。警戒した方がいいって話さ。」


笑いながら肩をバシバシと叩かれる。

確かに言うことは一理ある。

これからいろんな所を巡るに辺り、そういう『元魔王の配下』とか『勇者の配下』みたいなところも気にしておいた方がいいかもな。


「あぁ、そうだ。この川はな、お前らがこの後行く場所辺りから流れてるから、姫様に言って見せてもらったら良いんじゃねぇかな。」

「僕らが行く場所?」

「おう。まぁ行ってからのお楽しみってな。」


じゃあ楽しみにしていよう。


ーーー


目を覚ますと、ご主人様が居なくなっていました。

聞けば、ご主人様は水浴びをしているそうです。

あたしもご一緒しようとすると、あの鬼さんに止められました。

「鬼さん、なぜ止めるんです?」

「女の子同士、交友を深めたいと思いまして。」


なんだか、彼女からは不穏な気配を感じます。


「交友…ですか。」

「はい。」

「あたしはスライムですが。」

「私も半分オーガです。」


オーガ。

魔王城にいた頃は、警護のためにあたしの回りに常にいてくれたことを思い出す。

戦闘力が高く、武器の扱いにも長けた種族。

得意とする武器により若干の種族進化が行われ、武器に最適化する。


確か、ラッチさんはグレートソードオーガ…だったかな。


「ほとんど人にしか見えないですね。人化ですか?」


私が助けた子供たちも人化が使えた。

人化は自身が想像した姿へと変化させる。

あまり突飛な想像をすると魔力の形と合わず、化けることは出来ない。

子供たちは、今より少し大人な自分を想像し、探索が出来るように人化していた。

あたしは自身を吸収したからか、意識せず、人化すると30年前の姿のままになる。

どうやら、髪色や目の色は異なるのだけど。


「私は少し母の血が濃いようで、人よりの姿になりました。もちろん、固有魔法の身体強化は行えますよ。」


ご主人様に襲いかかってきた時の超スピードは身体強化によるものか。

魔法結晶を使いながら身体強化を行ったのであれば、魔力の扱いがとても上手いのだろう。


身体強化は内側で練る魔力。

魔法結晶の操作は外側で繰る魔力だ。


同時に操作するのは、左右で別のものを書くような器用さが必要になってくる。


それでも、ご主人様の方が凄いんですけどね!


「…ナツミさん。」

先ほどまでのキリッとした雰囲気から一転、もじもじとし始める鬼娘。


これだ。

これはご主人様を狂わせる。

間違いない。

普段は凛とした姿を見せつつ、時々こうやって、しなをつくる。

魔性だ。


「ツムギさんは…どんな方なんですか?」


やはり…

この小娘はあたしのご主人様に興味があるようだ。

確かにご主人様は、どんな人にも優しく出来る人だし、こんな姿のあたしに対しても寛容で、ラッチさんに一度殺されているのに願いを聞くほど器が広いし、颯爽と戦っている所は格好いいし、本読んでぽやぽやしているところは可愛いし、眼差しは暖かいし、素晴らしい人です。


「そもそもナツミさんとツムギさんはどんな関係なんです?」

「あたしとご主人様の関係…。」


そういえば、なんだろう。

主従、と言えばそうなのかもしれない。

けれど、本来はスライムさんとご主人様が主従のはず。


…そもそも、あたしはなんでご主人様をご主人様と呼んでいるんだろう。

あたしは水晶の中で魔力として、意識を封入していた。

それを吸収し解放したのは、スライムさん。

呼び方を教えてくれたのも、スライムさん。


スライムさんとご主人様は会話は出来ていなかったけど、スライムさんは確かにご主人様を『ご主人』と呼んでいた。


それに倣って、あたしもご主人様と呼んでいた…。

じゃあ、あたしはご主人様と主従じゃない!?

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