21.魔王城の宝物庫
鍵といえば、幾つか転写できるものがある。
書庫の下の食糧庫で吸収した鍵。
机の鍵と、食糧庫の鍵。
一応差してみるか。
机の鍵…はそもそも鍵穴に合わない。
次、食糧庫の鍵。
お?
いい感じ?
…残念。
合わない。
扉を吸収しようにも、防護の魔方陣で吸収出来ない。
うん…
合わないなら作るしかないか。
鍵穴に金属を流し込む。
鍵穴の空間全てに充填して、一旦全部回収。
その後、扉じゃないところで再度同じ形を形成する。
扉の中の構造がよくわかる。
構造から逆算して、鍵を作る。
元の世界のディンプルキーのように、魔力がどうとかでなければ開くはず。
出来上がった鍵を宝物庫の鍵穴に差し込む。
ギッ…ギッ…ガチャリ。
あ、開いた。
「ご主人様、そんなところまでシーフのように成らなくても良いのですが…。」
ナツミは困った顔をしていた。
ごめんね。
出来るだけやらないようにしておくから…。
扉を開ける。
埃の匂い。
一歩踏み込むと、壁にあるランプが手前から順に自動で火が灯されていく。
おおっ…カッコいい。
地面には地上階と同じ赤い絨毯が、通路として敷かれている。
左右には装飾過多の鎧や、輝く額縁に収められた絵画、こちらの魔物であろう骨格標本や毛皮が所狭しと並んでいた。
「どれが何なのか、よくわからないね。」
「あたしも詳しくは…」
どれも多分高価な物なのだろう。
見てると目がチカチカしてくる。
「父上の趣味ではなさそうです。」
「そうなの?」
「はい。父上は高そうなものは余り好みませんでした。もっとこう…」
ナツミは宙でろくろを回す。
「もっと実用的なもの…とか、普段は隠しているけれど実は凄い…みたいな物の方が好きだったように思います。」
仕込みナイフとか、仕込み傘みたいな話だろうか。
暗器は確かにロマン。
そう言われてみると、確かに宝物庫にあるものはロマン趣味とは言い難い。
一目で高価と分かるものばかりである。
「ナツミの父上が好むものじゃないならいいか。」
「どうするんです?」
「全部吸収する。」
肩口から金属を広げる。
部屋全体を覆えるほど大きく、広く。
絵画やら毛皮等、吸収できないものは後でまとめて吐き出せばいい。
一旦金属を全て吸収する。
流石に量が多い。
体に異物が混ざっているような感覚がずっと続いている。
「ご主人様!」
「ん?どうしたの?ナツミ。」
「ボーッとしてました。大丈夫ですか?」
「多分。一度に吸収したからかな。…うん、大丈夫だよ。ありがとう。」
くしゃりとナツミの頭を撫でる。
えへへと顔をほころばせる。
吸収は…ちゃんと出来たみたいだ。
ステータスは…
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Name:シロガネツムギ
FP:21250/21760
Familiar:マーキスメタルスライム
FamiliarName:ナツミ
Skill:
『吸収:S』『転写:A』
『圧縮:A』『人化:A』
『分裂:E』『錬成:A』
『纏着:A』『硬化:A』
『刺突:D』
PassiveSkill
『魔力吸収:C』
『金属支配:B』
『同族支配:C』
『渾然一体:C』
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FP…20000越えてる…
平均がどれくらいかわかんないけど、多いんじゃないかな…
「ナツミはステータスってある?」
「すてえたす?ってなんですか?」
「ううん。わからないならいいんだ。」
そうか、皆はステータス視れないのか。
なら、多いか少ないかも、わかんないか。
絵画や、毛皮を一つずつ宝物庫に戻していく。
傷がつかないように、それでいて空間を広く使えるように。
「ご主人様、あれ!扉ありません?」
ナツミが指し示した壁には確かに違和感があった。
壁に繋ぎ目は見つけられないけれど、床に擦れた後がある。
…隠し扉?
まさか…。
壁に指を這わせながら、順繰りに押していく。
…違う。
ここも違う。
ここ?いや違う。
数度目に押し込んだ瞬間に腕が空を切る。
回転扉らしく、体重をかけた全身が扉の向こうにある空間へ入る。
「ご主人様!!」
「だ、大丈夫!ナツミもおいで。僕が押したところを押し込めば来れるよ。」
「はい!今行きます。」
中は薄暗く、さっきの宝物庫とは趣が違う作りになっている。
奥には、ひたすら長い道が続いているようにも見える。
バタンと扉が開く音と共にナツミが飛び込んできたので、慌てて受け止める。
「わわわ!」
「っと。大丈夫?」
「は、はい…。勢いが良すぎちゃいました。」
「僕もそんな感じだったし、仕方ないかもね。」
「ここは…」
「なんだろう。ナツミも知らないんだよね。」
「はい。」
壁から流れ出てた水が足元にたまっている。
ダンジョンっぽい雰囲気である。
でも、魔王城…秘密の部屋多いな。
もしかして上の階にもあったんじゃないだろうか。
パシャパシャと音を出しながら進んでいく。
道中は平和そのもので、ひんやりした空気が辺りを満たしていた。
最奥には、台座があり、水晶が奉られていた。
この水晶どっかで見たことあるな。
「これは…あたしが入っていた水晶と同じ物ですね。」
ローナの半分が入っていた水晶。
確か、よく確認する前にスライムさんが吸収したんだっけ。
「これは、魂を入れることができるものってこと?」
「いえ、厳密には魔力を込められるものです。あたしはあの時、自分自身の人格を込めました。あの、あたし今、スキルを持っていないんです。水晶にあたしを入れる時に人格を優先したため…です。」
まるで悪いことをしたかのように、声が尻すぼみになっていく。
「人格かスキルを魔力として込めることが出来るってこと?」
「…はい。」
「…僕はナツミと会えて嬉しいし、一人じゃないのは頼もしいと感じてる。そもそも、人格だけで、30年後に飛んだんだから僕とお揃いだ。」
僕もスキルなんて持っていなかった。
メタルスライムを宿すことで初めて魔力の操作が出来るようになったんだ。
スキルは便利なもので、モノによってはそれだけで生活が一変するようなものもあるだろう。
でも、それだけだ。
会話して心を通わせる方が大事なときもある。
言っても、ナツミはコクリと頷くばかりだったけれど。
「…この水晶には何が入っているんだろうね。」
「中に魔方陣が見えます。何らかのスキルが込められていると思います。」
…吸収しないとわからない…か。




