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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
蒸気鉱山フォッグノッカー
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194.合流

ーーーside ローナ


ご主人の意識が希釈されているなら、肉体は意識を失うだけだったはずである。

けれど、体は暴走し、ダンデとやらは大怪我を負い、レティはご主人に刃を向けざるを得なくなってしまった。


『元凶は貴様ね。』


淡い緑や黄色のぷるぷるとしたジェル状の肉体の中に、一つだけ暗緑色の塊が浮いている。

あれが百近いメタルスライムの核、本体なのだろう。


他のメタルスライムは分裂することにより増えたのか、ダンジョン内の金属を触媒にナツミのように召喚したのか。


あの暗緑色の核は危険だと感じている。

全身がピリピリとする。


肌に張り付くような感覚を振り払うように、体を変化させる。

元から生えている角に加え、翼はもちろん。

腕や足の『竜化』、その姿は竜人と言うに相応しいだろう。


空を蹴って暗緑色の核へと拳を振るう。

ジェルの身体ごと貫くつもりで振るったが、その拳は身体の中腹辺りで勢いが止まってしまう。


『意外と硬いのね。』


こちらの拳も呟きも意に介さずに、スライムは白銀の球体を侵食せんとモゾモゾ動く。

ご主人が球体の中にいるため、執着するのは分かるが自分を無視するのは如何なものなのか。


些細なことであるが、ローナは三十年程他人と接する機会が無かった。

魔王城の主として、目覚めてからは竜の表層としてあの場で生き続けた。

深層には先祖の意識も居たのだが、層が違うために殆ど会話も不可能であったのだ。


何が言いたいかと言うと。


『妾を!無視するなぁぁぁ!!!』


ローナは孤独に対して酷く臆病で、孤独を課そうとする者を排除するために行動するようになる。


打撃で駄目なら斬撃である。

両腕から爪を模した刃が四本伸びる。

無造作に振るわれるそれは、黄色や緑のジェルを削ぎ落とす。


中空に散らばる身体は元に戻ろうと空を漂うが、戻る先が暴風の最中にあっては、地力の足りない肉片ではローナの周辺に戻ることは叶わない。


怒りのままに爪を振るうローナの勢いは止まらないが、スライムもただやられる訳ではない。


段々とローナの動きが鈍っていく。

弾けたスライムが身体に張り付き、刃に絡み付いている。


当然動きがに鈍れば、眼前のスライムは再び一つの塊へと戻り、白銀の球体へと侵食を進めていく。


そもそもスライムにどれだけの自我があるかは不明だが、これだけやってもスライムの意識がローナに向くことは無く、それがまたローナの琴線に触れてしまう。


頭に血が昇りながらも、ローナの思考は段々と冷えてくる。

関節や爪を埋めてくるのであれば、埋められる度に身体を再度作り直せばいいのである。


メタルスライムの身体に戻り、身体を捻ることで纏わりつくスライムを弾き飛ばす。

そして再びの『人化』。


本人も預かり知らぬ話であるが、『金属支配』が上手く使えない代わりに、ローナは『人化』を得意とする。

元々ナツミが自身の肉体を吸収したことにより発現したスキルであるため、より生への執着が強かったローナに呼応しているのであろう。


『人化』を経由してしか、竜化することは出来ないが、それでもタイムラグは数秒。

何事もなかったかのように、再びスライムの身体を千切り裂いていく。


『こっちを向きなさい!』


遂に核へと刃が届く。

接触の瞬間、金属のぶつかり合うような、乾いた音が響く。

傷付けることは叶わず、核は宙へ放り出されてしまう。


あの暗緑色の核がご主人の中に入ったメタルスライムの核であることは間違いない。

核が狙う球体…?


ふと、白銀の球体へと目を向ける。

大きな魔力の海の中をここまで泳ぐように進んで来た。

先ほどのメタルスライムは配下と目されるメタルスライムの核を伴って、一つの形を保っていた。


けれど、体内を巡る魔力は核だけではない。

周囲を守るように希薄な魔力で補われているのだ。

なら、あのメタルスライムの核以外は?


白銀の球体には、多少メタルスライムの身体の一部であったジェルがへばりついているのだが、それらはみるみるうちに色を失い球体から消えていくように見える。


否、黄色や緑だった魔力が白銀へと書き換えられていっているのだ。


ローナの顔に喜色が浮かぶ。

最愛にして勇者。

竜を打ち倒し、自分を救った救世主。


目の前にある白銀の球体は、そんな非の打ち所の無い想い人の核であるのだ。


両手を広げても、張り付くことしかできない程大きく、それに艶消しされた銀のように煌めいている核。


それはメタルスライムの核の幾つかを『吸収』し徐々に大きくなっていく。


自分はずっとご主人の中を泳いでいたのだ。

そして、暗緑色の核は吸収されまいと必死に抗っていたのだろう。


あのスライムは妾を無視していたのではなく、その余裕すらなかったのだ。

取り込まれるから、吸収されてしまうから。


球体の周囲にへばりついていたメタルスライムの身体の残骸(配下メタルスライムの核)が全て白銀へと塗り替えられてすぐ、ご主人の核の様子が変化し始める。


白銀の球体は圧縮されるように縮まり、その輝きを強めていく。

抱き締められるほどの小さな球体まで圧縮されてから、四方へ探るように触腕が伸びていく。


それほど長くないところで触腕は伸び止まり、中心を包むように絡まっていく。

まるで踞った人のように。


白銀から肌色へ。

そしていつもの見慣れた服装へ。

カッターシャツに、スラックス。

上から羽織ったロングコートはレティの家からずっと着ているものだ。

白銀のショートヘアも健在である。

その人物は、全てが整ってすぐに目を開く。


「ん、やっぱりローナだった。ありがと、助けてくれて。」

『妾は、別に助けてなど居ません!一緒に居ると約束してくれたのに、居なくなるから迎えに来たのです!』


ふいとそっぽを向いてしまう。

顔が緩む。

少ししか離れていないのに、変貌した姿をみて二度と会えないかもしれないと、悲しくなってしまった。

けれど、ご主人はちゃんと乗り越えて、戻ってきてくれるのだ。


ただ、乙女心として緩んだ顔を見せるのは恥ずかしいのである。


「うん。じゃあ、行こうか。」

『あ、あの…。』

「ん?」

『まだ、終わっていないの。』


妾はススと指を指す。

暗緑色の核。

恐らく乗っ取りを画策したメタルスライムの大元。

今回の元凶である。


「なるほど…。ちょっと待っててね。」


そういうとご主人は肩口からシュルリと触腕と出し、淀み無い動きで漂う核をパクンと喰らってしまった。


「これでよし。じゃ、戻ろう。皆にも迷惑かけただろうし、大変そうだなぁ。」

『それは、後で皆から怒られてくださいな。』



ーーーがっくりと肩を落とす貴方も、可愛く思いますよ。


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