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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
空中都市ロガロナ
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18.二度目のダンジョンアタック

目を覚ますと、体がやけに重い。

やっぱり僕の体が死んでいるからだろうか。

そのうちに意識も無くなってくるんじゃ…

と、心配になるが、体の上から声が聴こえる


「おはようございます!ご主人様。」


ナツミが上に乗っていた。

どうやら昨日の今日で、生きているか心配になり、胸に耳を当てて鼓動を確認していたそうだ。

そのまま顔を僕の身体にうずめる。

肩の痛みも、ほとんど無い。


「大丈夫です!生きてます!」

ナツミはにこやかに笑っている。


「うん。ありがとう。今日、もう一度ダンジョンを降りようと思うんだけど、どうする?」

「もちろん、あたしは着いていきます!」


ナツミの手から銀色の珠。

ぐにゃりと変化してオートマトンさんに変わる。

見た目は綺麗になっている。


「すみませんツムギ様。私の核が既に限界であるようです。」


僕が倒れている間、紅蓮の勇者による猛攻で核がボロボロになってしまったらしい。

核は基本修復不能で、オートマトンさんの損傷は日常生活をする分には問題ないが、戦闘には耐えられないとのことだった。


オートマトンさんの性格なら、そのまま一緒に来そうなものだが、無理しないように、と僕が言ったため、進言してくれたそうだ。


「じゃあナツミとスライムさんと僕、だね。」

「はい!」


書庫の地下の食糧庫から拝借してきた食べ物と、魔法結晶で水は出せる。

戦闘は出来るだけ回避する方向で、出来ればオーガの里への足掛かりを掴みたい。


「よし、行こうか。」

「はい!」


「オートマトンさん。」

「はい。ツムギ様。」

「僕たちは暫く戻ってこないかもしれない。でも、迎えに来るから待っていて欲しい。」

「承知しました。それがツムギ様の命令なら、従います。」

「僕の命令…命令はね、無理をしないことだよ。必ず生きていて欲しい。」


二度と知り合いのための棺は作りたくない。


「…善処します。」


気のせいだろうか。

オートマトンさんが微笑んでくれた、ような気がした。


真下の階は早足で抜ける。

窓の外は変わらず快晴で、眼下には雲海が広がっている。

ゆっくり眺めたい気持ちと、ラッチさんのことを思い出すから早く抜けてしまおうという気持ちが半々である。


また気持ちの整理がついたときに、オートマトンさんを迎えに来るついでにでもゆっくり眺めよう。


下りの階段。

ここからは初見だ。

気を引き締めて進む。


「ナツミは平気?」

「はい、ご主人様。ご主人様がいれば、なにも怖くありませんから。」


昨晩一度死んだのに、どこにそんなに信頼できる要因があるのだろう。

ナツミは腕に抱きついてくる。


「ご機嫌だね。」

「そうですか?いつも通りですよ。」


キリッとした顔で返事をしてくれるが、直後には顔が緩む。


「そう言えば、二人だけなのは初めてだね。」

「そそそそうですね!」


図星か。

今はスライムさんも跳ねて無いもんね。

実質二人だ。

父親になった気分である。


「魔王様とは、こんな感じで出掛けたりしたの?」

「えっ?…父上は忙しい人でした。一緒に出掛けることも…いえ、舞踏会等集まりがあるときは、時々一緒にお出掛けしました。そう言えば、10歳になると城下町では一人立ちの儀式をするんですよ?」


10歳?

早くない?


ナツミが言うには、ロガロナでは10歳になると、仕事が出来るようになるそうだ。

仕事に出て、対価を貰う。

お給金は事前に両親と取り決め、約束を違えると警備兵に連行される。

さらに罪状として残るらしく、繰り返すと投獄されるそうだ。


異世界の話とは思えない。

元の世界でもやってくれないかな。


…無理かな。

長期的に権力を持つと人は多かれ少なかれ必ず腐る。

高潔な人間なんていない。


それに住む人が増えれば増えるほど人の管理が出来なくなってしまう。

管理ができる人間に対しての、管理対象が増えすぎるためだ。


そう考えると城下町に住んでいた人はそんなに多くはなかったのだろうか。

それか、警備兵の練度が高かったのだろう。

魔王の手腕が光るというやつか。


僕への書き残し然り、小刀然り。

魔王様はアフターケアまでしっかり考えていた。

…一度は会いたかったな。


「ご主人様、ここが下の階…恐らく二階です。」

「恐らく?」

「はい。あたしの見知った魔王城なら二階なのですが、ダンジョン化していることから詳しい階層が不明である判断です。」


なるほど、お城が伸びてるかもしれないと…


「じゃあさっき言っていた城下町とかはどうなっているんだろ。」

「そちらも恐らくですけど、無人になっていると思います。」


ダンジョン化するほどの怨念の連鎖。

それは城内だけの話じゃないんだな。


「よし、じゃあ探索しようか。」

「はい!」


恐らく二階と言っていたが、一階が謁見の間で、現在居る二階部分まで吹き抜けになっている。

魔王の玉座がよく見えるように設計されているのだろう。

ドアもないので、一通り見て回った後に下に降りる。


一階、謁見の間。


誰もいないただただ広い空間。

上階にあったダンスホールの何倍も大きな空間で、僕とナツミだけが立っている。


昔は多くの人がここへ来て、魔王に謁見したのだろう。

他国との貿易や、土地関連の保全の話が資料としては多かったな。

栄えていたのだろう。


30年の月日が経っても、栄光が見てとれる。

壁に絵画や、国旗、鎧が並んでいたり、休憩するのかわからない場所にソファがあったりする。


「どうしようか。」

「一思いに吸収してしまいましょう。ここにあっても埃を被るだけですので。それに!もしまた必要であれば、あたしが転写します!」

「僕も出来るし、そうしようか。」


二人で手分けして金属の吸収に勤しむ。

壁に掛かっている絵画の額縁や、壁の側で佇んでいる甲冑一式。

勿論ソファのバネなどの金属部分や大量の燭台も吸収する。


手をかざすと金属がぐにゃりと形を変える。

パッシブスキルの金属支配で自分の元に寄せてから吸収していく。


ファンタジーの世界の錬金術師になった気分だ。

まぁあんなに俊敏に金属を変化させたり加工したり出来ないけど。

精々水飴とか飴細工くらいである。


玉座は流石に手を出さないでおこう。


改めて辺りを見回す。

絨毯なんかは上と同様、焼け焦げたはずなのだけどダンジョンの力強いなのか、修繕されている。


魔力…なんでもありだな。

まぁ僕も魔力で生き永らえているようなものだけど。


「ご主人様!一通り吸収出来ましたよ!」

「お疲れ様。ちょっと休憩しようか。」

「じゃあ、ご主人様…玉座に座ってみませんか?」


ナツミはそわそわしている。

…こんなときでもないと座れないもんな。


「座ってみよっか。」


玉座の手摺をさらりと撫でる。

ひんやりとした肌触り。

手すりや背もたれ等、随所に見られる装飾は龍と…蝙蝠?


「この装飾は…。」

「それはドラゴン『ラルス』とブラッドバッド。圧倒的な力や名声を示すドラゴンと、暗闇でも遠くまで見渡すブラッドバッド。父上の魔法の象徴です。」


随分恐れられていたんだな。

竜のレリーフを撫で、玉座に座る。

膝の上にナツミが座る。


シンと静まり返った謁見の間。


…謁見に来る人が誰もいないなら、ただのふかふかな椅子だな。


立ち上がるためにナツミを抱える。



『グルル…』


謁見の間中央にふわりと集まっている魔力が形を成していく。

まずわかるのは真っ赤な体毛。

揺れる尻尾は黒い光沢と節がある。

先は勾玉のような形で、先端は槍のように尖っている。

僕と比べると四本足で立つ体躯は二回り程大きく、更にはたてがみがあるのがわかる。

ジロリとこちらを見つめる目や、鼻、耳は殆ど人のようである。


「ご主人様。マンティコアです。」

「うん。書庫の図鑑で見た。」


お互いじっと見つめる。


『グルアァァァァァアアアアア!!!』

マンティコアは臨戦態勢からの威嚇。


…戦わなきゃだめかな。

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