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メタルスライムと異世界ライフ  作者: 紫宵 春月
蒸気鉱山フォッグノッカー
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閑話7.カズヤとノノ

ーーーside カズヤ

「なんか騒がしくないか。」


薄暗い部屋。

乱雑に物が捨て置かれた部屋に男女が一組。


癖のある赤髪の男はひじ掛けのある大きな椅子に座り、小さな体躯の女は男の膝の上で小さく膝を抱えて座っている。

女は少女と言って差し支えないほどの見た目であり、手入れをしていないであろうアンバーカラーの髪は、椅子からこぼれ落ち、地面へと毛先を擦りつつあった。


男の呟きに対し女は手元で遊んでいた拳大の機械から目を放し、男の顔をじっと見つめる。


「なんだよ。」

「…怒らない、です?」

「場合によるな。」

「じゃあやめとく、です。」

「おい…。」


その男、『紅蓮』の勇者である北条(ホウジョウ) 一弥(カズヤ)は外を闊歩していたときのギラギラとした眼ではなく、目の前の少女、『土塊』の勇者と呼ばれる東雲 野々(シノノメ ノノ)をただ優しく見守るのみであった。


その様子はまるで兄妹のようであるが、その姿はお互いの部下に見せることはない。


「何で来た、です?」

「お前の都市に、魔王の勇者が来るかも知れねぇって話をオウカから聞いた。」

「…オウカ…騒がしいからキライ、です。」

「まぁそう言ってやるなよ。勇者同士はそんなに会う機会もねぇんだから。」


お前はどの勇者もキライだろうが、とは言わない。

彼女が人嫌いになったのは、魔王討伐の後の戦争の結果だ。


かくいうカズヤもあの戦争で何かが壊れたと思っている。

当時の王に召喚され、言われるまま魔王と戦い、そして討ち取った。

魔王の血筋を残さないようにと、ノノが矢面に立ち魔王の娘も討ち取った。


手に人殺しの感覚を残しながら、都市に戻ると次の戦争の準備が進んでいた。


積み上げる死体の山は、あの時あの瞬間に魔王を討ち取った感覚を麻痺させた。

一緒なのだ。

肉をブチブチと斬る感覚も、骨をゴリゴリと絶つ感覚も。

泣き声も悲鳴も、兵士も市民も魔王も一緒なのだ。


刃を通じてやっと理解した現実。

勇者は万能ではない。

魔王も魔王の娘も人であったなら、対話の余地があったのではないか。


身が震えた。

勇者とは他人の人生を容易く蹂躙出来てしまうのだ。

その力を自覚した瞬間に、自分の為すべきことを初めて自分で考えた。

そして、ノノや戦場で刃を交えた他の勇者と共謀して、王を引きずり下ろし、都市を掌握した。

オウカはどこかに王族を匿っているようだが、いずれそれらも俺が殺す。


人は裏切る。

保身のために、実利のために、洗脳されて、脅されて裏切る。


俺たちが魔王を殺したのは間違いだったのではないだろうか。

魔王を殺さなければ、戦争は起きず、自分達が都市を簒奪する必要もなかった。


その考えにはノノも至ったらしく、その日からノノは人に会うことを止めてしまった。


ノノは言った。


『魔王を殺す必要がなかったのなら、ノノは…ノノが手をかけたあの女の子は…。』


魔王の娘。

二桁にも満たない歳月しか生きていなかっただろうあの少女を殺してしまった。

それは戦争に駆り出されて人を殺すより残忍な振る舞いだろう。


俺とノノは共謀者だ。

それからずっと。


仲良く見えるのも仕方ないだろう。

俺とノノは互いが互いに寄りかかり甘えているのだから。

心も体も。


「カズヤ?」

「…ん?」

「なに考えてる、です?」

「魔王の事、かな。」

「魔王の勇者ってどんなやつ、です?」

「知らねえよ。黒髪のぼんやりしたやつだったよ。」

「黒髪と言うことは、この世界の恩恵を受けてない、です?」

「魔力が無かったのかもしれねぇ。でも、アイツは生き返った。悪運の強さじゃ俺らより上だ。」

「ですか。それは運が悪い、です。」

「…だな。」


再びノノは手元の機械を弄り始める。

拳大の機械の中には人工魔法結晶が埋め込まれており、外周を金属のパイプが張り巡らされている。


「さっきからそれはなんだ?折角俺が来てるってのに。」

「これは蒸気兵器(エスケーパー)の核。門外不出の代物、です。」

「なんで、俺には見せてるんだよ。」

「カズヤは人に言わない、です。」

「まぁそうだけどよ…。」

「効率を上げたい、です。」


『土塊』の勇者の名はこの蒸気兵器(エスケーパー)の発明により、フォッグノッカーでは知らぬものは居ない。


現在量産型の蒸気兵器(エスケーパー)ですら高級品ではあるが、鉱山で採掘の際に使用されている。


そしてオリジナルは五つ。

そのどれもがノノとフォッグノッカーを取り仕切る五人の近衛騎士長に預けられている。

魔力を放つのではなく、魔力を用いて蒸気を発生させ動力として機械を運用する。


電気ではないのは、蒸気の魔方陣を見つけたのは偶然の産物だったからだ。

今はその魔方陣の出力と、周辺のパーツの出力の調整をしてるのだろう。


機械を触っている間だけは悪夢にうなされることは無い。

だからこそ、俺はそんなに咎めずに眺めていられる。


「俺が剣を振ってるときみたいなもんだな。」

「ノノも剣は振る、です。」

「無理しなくていいさ。」

「…もうすぐ、必要になる、です。」

「あん?」

「騒がしいのは、多分クーデター。」


扉がノックされる音が響く。

ノノの部屋をノックするのは近衛騎士長の誰かしか居ない。

それも火急の用がある時だけである。


「はい、です。」

「ノノ様、メイリリーです。発言宜しいでしょうか。」

「良い、です。」

「ありがとうございます。先ほど『紅蓮』様を襲った輩の根城、貴族落ちの貧民街へとマリーゴールドの配下である兵士を送りました。けれど、彼らは何者かにより昏倒。その場には、貴族落ちの人間も多数昏倒していたようです。」

「全員が昏倒?怪しい人物は居たのです?」

「はい。黒髪の女性と、銀髪の男…後鉱夫落ちの貧民街にいた男が一人、無事だったそうで、女性に城まで同行して貰っています。」

「男は?」

「銀髪は探し人が居ると、一旦拘束は保留に、鉱夫落ちは逃げ出したので、拘束したようです。」

「先ほど騒がしかったのも?」

「はい。彼女がマリーゴールドに連れられてきたためでしょう。ですので、少しの間、黒髪の女性が城におりますので、そちらをお伝えに来た次第です。」


ああなるほど。

ノノが知らない人間が城にいると伝えに来ただけか。


ただ、黒髪の女性と一緒にいたと言われている銀髪の男に何か引っ掛かる。

思案しながらノノの髪を撫でると、額から汗を流していた。


病的なまでの人嫌い。

心的外傷を抱えながら王を続けるのは、難しいだろう。

現に貧民街が増えている。

それに、鉱山がダンジョンになりつつあるのだ。

王が顔を出せないのは致命的であり、だからこそノノはクーデターを予想していた。


「だから、怒らないか聞いたのか。」

「うん…。カズヤ。この都市の王になって欲しい。ノノはもう…無理、です。」


王が代わる場合、王を殺し簒奪するか、政略的に婚姻を交わすしかない。


「カズヤ。ノノを貰ってください、です。」


薄暗い部屋。

乱雑に物が捨て置かれた部屋に男女が一組。


二人で罪を背負い続けるなら。

これも一つの形なのかもしれない。

何で君ら突然イチャイチャしてんの?って書いてて思いました。

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