139.捜索隊を結成する
ナツミが居なくなった。
主従契約のマーカーは、明後日の方向へ向かっている。
ナツミの動向が分かったのはソフィアがナツミが出ていくのを見ていたからであった。
「ナツミの居ない間に、女の人を増やさないようにだってさ。」
「なんで、止めなかったんです!」
「止まらないよ。あれは。」
僕は魔王城、ツィルフェルミナダンジョンの最奥の主が、ナツミの父親である可能性を集まったメンバーに伝えると、ナツミが飛び出していった理由も、推して知るべしと言う所であった。
「他にナツミを見た人は?」
ボクと行動を共にしていた、ヴィルマ、ライカ、クネムは僕がナツミと合っていなければ、同様だろう。
アニスタと、彼女の傍にいたフェリは部屋から出ておらず、休んでいたレティとソフィア、リュカのうちソフィアだけが偶然遭遇したのも彼女が気配に敏感だかららしい。
「ボクは一応暗部に所属していたから。多少気配はわかった。ナツミが変な動きをしてたから、追いかけた。」
「そうか…。ありがとう。」
「ううん。…止められれば良かったんだけど。」
「無理だと思ったんでしょ?」
ソフィアは伏し目がちに頷く。
彼女は引き留めるのは無理だと思った瞬間に、伝言を聞くだけに切り替えたのだと言う。
ただその伝言も「女の人を増やさないように」だもんな…。
「マスターちゃん…。どうする?」
「どうするって…ナツミを追いかけないんですか!?」
レティが声をあげる。
気持ちは分かる。
僕だってこの世界に来てからずっと一緒に居たのだ。
追い掛けたい気持ちでいっぱいだし、何より焦りで思考が纏まらない。
フォッグノッカーに先に行くことが出来れば、戦力を増強して、ツィルフェルミナダンジョンへと挑むことが出来る。
それに、義足の基礎情報が手に入れば、アニスタが自力で動くことが出来るのだ。
それは大きなアドバンテージのはずだった。
追いかけて、ナツミを連れ帰る?
それが出来るなら、ソフィアが止めていたはずだ。
ダンジョンの最奥に挑むためには戦力が足りず、ナツミを連れて帰るには説得力が足りない。
「うちのことで、悩んでる?」
「あ、アニスタ!部屋でじっとしててって言ったのに!」
ルガルに抱えられ、扉辺りにアニスタは立っていた。
フェリ、ルガルはアニスタに押しきられたのだろうから、そんなに睨んであげないで欲しい。
「うちはこんなことになっても、冒険者だよ。だからツムギくんも冒険者として、次どうするか決めなよ。うちのことじゃなくて。」
「でも…。」
「でも、じゃないぞ。うちが良いって言ったら良いの。…気持ちは嬉しいけどね。」
アニスタは言葉で背中を押してくれている。
ナツミを追い掛けろと言ってくれている。
けれど、アニスタは魔王城に連れていくことは出来ない。
たどり着ければオーガの里で休んでくれていれば良いだろうけど、そもそもたどり着くだけの体力もあるかわからない。
傷口は塞がっているが、完治はしていないのだから。
「お兄さん。フェリはアニスタと一緒にいます。」
「ちょっ、フェリ!」
「煩いです!一人で抱え込むのはアニスタも一緒じゃないですか!」
強がってるのは、分かっていたけどね。
フェリが一緒に居てくれるなら少し安心だ。
アニスタとフェリが言い合いする中、唐突に力強く窓が開け放たれる。
飛び込んできたのは、大きな黄褐色の翼。
シャルロットさんだ。
「ツムギ!賢王様が居なくなった!」
「…え?」
「だから居なくなったんだ。で、これが机に。」
懐から取り出したのは一枚の手紙。
その文字は丁寧だが一文字が大きく、イクリールさんっぽい字面で「少し留守にする。」とだけ書かれていた。
「留守にする、って書いてますね。すぐ戻ってくるのでは?」
「そんな簡単な話ではない。そもそも、今立て込んでいるクレアとの内乱の後始末の会議をすっぽかして何処に行こうと言うのだ。」
ちなみに代理としては、イクリールさんが不在の間はリオネルが折衝を、レフリオさんが書記を務めているらしく、稽古などの面倒を見てもらっていたクネムが言うには「リオネルさん、日に日にやつれてきた。」のだそう。
「それに半刻ほど前に、賢王樹から飛び去ったという目撃情報もあった。じぶんの妹達だがな。」
「それは…大丈夫?」
クネムが心配するのは情報源の話だ。
リヴとマインはイタズラ好きで、クネムも何度かびっくりさせられたらしい。
「クネムの心配も最もだが、イタズラからは少し離れた出来事なのでな。あいつらも嘘まではつかないだろう。」
「…半刻前ってことは、ナツミが賢王樹に向かったころ。」
ソフィアの独白に、みんなが目を見合わせる。
まさかそんな。
突然、賢王樹を抜け出して魔王かもしれない人物のところへ向かう?
誰にも言わずに?
「イクリールさんはナツミと行動を共にしている?なんでまた…。」
「それは僕にも何がなんだか。」
「待て、なんの話をしている?」
そうだった。
置いてきぼりのシャルロットさんにナツミが居なくなった経緯を伝えると、彼女はみるみる青ざめ、しまいには頭を抱えていた。
「なにをやっているんだ、あの方は…。」
ぼそりと呟いた言葉は多分に呆れの感情が含まれていた。
「まぁ、行ってしまったものは仕方ない。じぶんは魔王城へ向かう。ツムギ達は誰が向かうのだ?」
「ツムギとソフィアです。」
「ちょっとレティ!?」
「フェリもそれで良いと思いますぅ。」
「クネムはおいら達と一緒な。」
あれよあれよと話が決まっていく。
ソフィアを見ると、彼女は彼女で仕方なさそうな顔で納得していた。
いや、会ったとしてどうやって説得するの?
「ツムギ!思慮深いのは美徳ですし、ツムギの良いところではありますが、うじうじしてても解決しない時もあります。パッと行って、サッと解決して、戻ってきてください。」
「いや、でもまだ何もーー」
「でもも何もありません。そもそも、その場でフォッグノッカーに行くか魔王城に行くか決められずに後回しにしたからこうなったのです。ツムギが悪いわけじゃないですけど、付き合いも少し長くなってきたのですから、もう少し彼女にも真正面から向き合ってあげてください。」
その声色は優しく、諭すような口調だ。
心配してくれているのだ。
僕のことも、ナツミのことも。
「…わかった。ありがとう。」
「分かれば宜しい。あ、後ソフィア!貴女は私がいないからってあまりツムギにちょっかいかけないでくださいね!」
「それはわからない。」
「もう!そもそもソフィアがーーー」
この辺りはいつも通り長くなりそうなので、割愛しておく。
さておき、僕とソフィア、シャルロットさんで魔王城へと向かい、他のメンバーはフォッグノッカーに向かうことになった。
魔王城に向かうとなると気になることが一つ。
…オートマトンさんは元気だろうか。




