11.魔王の遺言
スライムが引っ張り出してくれたものを整理しつつ、吸収させていく。
オーガさん的には「全部良いんじゃね?」とのことだったけど、念のため確認しながら。
武具の類いは、よほど鑑賞用っぽいものでなければ吸収。
同型ばっかりだし、まぁいいよね。
そうそう。
さっきオーガさんが話していた固有魔法結晶もいくつか見つかった。
レッサーバットの固有魔法結晶が二つ。
ランスフィッシュの固有魔法結晶が四つ…これは色が違う。
色が違うものは、効果も違うらしい。
うん。全部吸収していいよ。
その分頑張ってもらおう。
もちろんだとスライムはぽよんぽよん跳ねている。
みるみるうちに武具はスライムの中に吸収されていく。
これだけ吸収すればステータスも随分変わるんじゃないだろうか。
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Name:シロガネツムギ
FP:7390/7590
Familiar:バロンメタルスライム
FamiliarName:ナツミ
Skill:
『吸収:S』『転写:A』
『圧縮:B』『人化:C』
『分裂:E』『錬成:B』
『纏着:C』
PassiveSkill
『魔力吸収:E』
『金属支配:E』
『同族支配:E』
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凄いことになってる。
それぞれのスキルは軒並みランクが上がってるし、パッシブスキル?なんか付いてる。
纏着ってなに?とスライムに聞くと、スライムが右肩に乗ってくる。
何をするか見ていると、右肩から右手の先までを吸収するかのように覆っていく。
ひんやりしていて気持ちが良い。
………これだけ?
ふにょりと腕から意思表示のために顔を出して頷くスライム。
…いやちょっと待てよ。
スライムさん。そのままさっき吸収した鎧の腕部分を転写出来る?
頷いて、顔を戻す。
収縮し、スライムはそのまま鎧になる。
腕だけ鎧なのはちょっと恥ずかしいけど、なるほど…。
纏着してから転写すると、サイズを合わせて転写できる。
もっとなんか使い道ありそうなんだけど、またあとで考えよう。
パッシブ…常時発動するタイプのスキルってことだよな。
魔力吸収はまぁわかる。
同族支配もまぁ何となくわかる。
金属支配ってなに?
纏着を解除して肩に乗ったままのスライムは、うにょうにょ動いている。
『金属動かせるよ、とのことです。』
代わりに返答してくれるオートマトンさん。
ありがとう。
でも、金属を動かす…ってどういうことだろう。
今は金属無いから、これもまた後で見せてもらうとするか。
そういや、水入れる器みたいなのも無かったなぁ。
ワイングラスじゃ心許ないし、何か無かったか、一度ナツミと合流してみようかな。
その前に、一度魔王の部屋を覗いてみようか…。
「俺は魔王の部屋には入らねぇぞ。畏れ多すぎる。」
そっか。
そりゃそうか。
王様だもんな。
…もしかして、僕がやってることって大分不敬なのでは…?
こっそり魔王の部屋の扉をあける。
そもそもオーガさんは、どの部屋にも防護の魔方陣があって入れなかったらしい。
それは、扉を開けても変わらないようで、入れないんじゃどうしようもねぇなと笑っていた。
まぁ探索の間、オーガさんは待ってるらしいので、僕とスライムで行くことにする。
オートマトンさんはオーガさんと待ってるとのことだった。
中は綺麗に整っており、荒らされた形跡がない。
ソファもベッドも、カーペットも全てが良いものなのがよくわかる。
手触りがいいが、埃っぽい。
僕はスライムに先程同様、吸収出来そうな金属の探索をお願いした。
あれ?
メタルスライムは金属を吸収せずに、包んで持ってきてくれた…
なら水も確保できるんじゃないのか?
スライムはこちらを向いて、首をかしげている。
わからないらしい。
やってみたこともないもんな。
寝室にもワインが並んでいる。
相当好きだったんだな。
豪奢なワインセラーに古ぼけたラベルのワインとグラスが並んでいる。
樽の方は黒くなっていたけど、ビンに入っているのなら問題はないだろう。
飲みはしないけど。
窓際には机。
外を眺めながら、ワインを飲む人だったのだろう。
書庫の下もそんな感じだった。
机そのものも、書庫の下にあったものと同じ。
ただ全てに鍵はかかっていなかった。
自室だし、そりゃそうか。
机の中、ちょっと失礼します。
上段の引き出しの中には、ペンとインク、後はナイフと封筒を蝋で止める際に使う、シーリングスタンプ。
自室でも全然休めてないじゃん…。
中段には資料だろうか、本が入っている。
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最後の手記になるだろう。
私が召喚せし勇者よ。
勝手に呼び立てた上に、当人が不在であることを謝らせていただく。
すまない。
地上の王族が勇者の召喚に成功した。
奴等は我々が所有する土地や、資源を根こそぎ奪うつもりである。
私もカウンターとして、勇者の…否、君の召喚を行ったが、成果が結実するのは随分先の話になりそうだ。
土地を無為に奪われ、無辜の民が傷つけられるのは、こちらとしては遺憾である。
そのため、各土地の先住民に守護するすべを授けた。
私が召喚した勇者がもし、これを読んでいるのなら民たちに会って見て欲しい。
改めて、すまない。
そしてーーー
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妻と娘に会うことがあれば、ずっと愛しているよと言って欲しい…か。
僕と会えないことを前提に遺言を書いていたのだろう。
娘さんには会いましたよ。
年の割に頭がよく、前向きな良い子です。
成り行きでメタルスライムになってしまいましたけど。
でも、戦争の理由が陣取りとは。
どの世界も変わらないんだな。
略奪が人間の常だとは、思いたくないけれど。
奪うために力を蓄えて、奪われたものを奪い返すために力をつけてきた。
腕力も知力も、『奪われないために奪う』力だ。
戻ってきたスライムは、机の上でぽよぽよしている。
何もなかったのだろう。
改めて、一番下の引き出しを開ける。
そこには、僕の腕程の長さの小刀が入っていた。
白鞘で保管されているようだが、柄には固有魔法結晶が加工されて取り付けられている。
…保管用かどうかわからない。
これは…僕が持っておこう。
何が起きるかわからないし、護身用として。
で、魔王の遺言は、ナツミに渡してあげよう。
引き出しに入れっぱなしにしているより、僕が持っているより、有効だと思う。
再度周りを一通り確認して、部屋を出る。
仁王立ちして待ってるオーガさん。
「おかえり。なんかあったか?」
「いや、特には。あ、柔らかそうなソファがあったよ。」
「んなもんいらねぇよ。」
「じゃあ、お酒とか?」
「おぉ!あるのか?」
「なんかいっぱいあったよ。」
「ちょっと持ってきてくれよー。魔王が飲んでた酒だろ?旨いんだろうなぁ。」
「酒好きなの?」
「勿論。鬼は飲める奴ほど強いって、よく言われたぜ。」
それなら少し持ってきた方がよかったかなと聞くと、やっぱり畏れ多いんだそうだ。
ナツミに会いに行くために階段を降りている間も名残惜しそうにしていた。
そんなに気になるなら飲めば良いのに。




