1.召喚したりされたり
「なんてこった…」
僕は机に突っ伏して絶望していた。
ドアの向こうは大小様々なバリエーションに富んだ魔物で溢れている。
更に昨今のSNSでも見たことない文字で書かれた書物の山の中に埋もれている。
読めない訳ではない。
…そう、読めるのだ。
だからこそ絶望している。
ここは多分異世界だ。
異世界に僕は転生…いや、転移か?
まぁいいや。
異世界なら、お決まりのあれ、出せるんじゃないか?
「…す…『ステータスオープン』」
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Name:シロガネツムギ
FP:100/100
Familiar:
Skill:
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なんだこれ?
HPとかMPは?
ATKとかもない…
これは…ファミリア…使い魔だったかな。
もしかして、使い魔を召喚出来る?
どうやったら召喚できるんだろう。
辺り一面に広がる本の中に…あった。
タイトルが…
『ゴブリンでもわかる!召喚魔法!!』
この世界ではゴブリンは猿ポジションなのか。
えーと…
『召喚にはまず、召喚者の思念が強い触媒が必要になります。』
思念が強い触媒…
じいさんの形見の指輪とかどうだろ。
中学に上がる頃に亡くなったじいさん。
昔はよく倉で遊んでいた。
なくなる直前に貰った、無骨なプラチナの指輪。
『現物資産は持っておけ』と渡されたのだ。
で、次は…
『触媒を下記魔方陣に乗せ、血液を落としてください。』
血液…
えーと、何か切るもの。
机の引き出しにナイフが。
これでいいか。
親指に押し当て…これ結構怖いな。
サクッ…
……痛てぇ…
これを魔方陣に乗せた指輪に…落とす。
バチバチと激しい音を起こしながら、魔方陣が光る。
眩しい。
煙も上がっている。
本燃えてないよね?
もうもうと巻き起こる煙が晴れると、指輪を置いていた場所には、小さな銀色のボタンが出来上がっていた。
僕の指輪が溶けた!!
じいさんの形見が!!
この本インチキじゃねーか!!!
出来上がったそれを避けて本を投げるつもりで、近寄ると、銀色のそれはふるふると動いている。
…動いている?
もう一度ステータスを開く。
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Name:シロガネツムギ
FP:0/100
Familiar:スモールメタルスライム
Skill:『吸収:E』
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おお…なんか増えてるし減ってる。
スモールかぁ。
エアガンの弾位の大きさしかないぞ。
手を伸ばすと、うにょうにょと指に巻き付いてくる。
先程と同じ右手中指に収まると、召喚前と同じ指輪に戻った。
おお…意外と賢い。
『召喚したファミリアは愛情をもって育てると、必ず返してくれます。使い魔は召喚者の鏡なのです。』
ペットみたいだな。
にしても、鏡もあるんだな。
良かった。
まぁそうか。
こんな図書館のような建築物が作れるんだもんな。
右を見ても、左を見ても本の山。
なんなら見上げても本がずらりと並んでいる。
取り敢えずスライムさんよ。
なんか『吸収』してみてくださいよ。
言葉に反応したのか、中指で指輪に成っていたメタルスライムはいそいそと机に戻る。
さっき召喚に使ったナイフ?
メタルスライムはむにょー、とナイフを包む。
大分薄く伸びているけど、大丈夫なのだろうか。
そのままむにむに動いている。
咀嚼しているような感じだろうか。
ピタリと止まり、パッと弾ける。
ナイフは手元の木材以外無くなっていた。
更に、メタルスライムは少し大きく、少しくすんだ色に変化している。
ステータスは…
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Name:シロガネツムギ
FP:20/120
Familiar:スモールメタルスライム
Skill:『吸収:E』『転写:E』
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FPがちょっと増えてる。
『転写:E』ってなんだ。
よし、スライムさんよ。
『転写:E』使って見せておくれ。
こくこくと頷き、メタルスライムは震えながら形を変えていく。
これは…さっきのナイフ…
と言うことは?
『吸収』したものの形になれるってことか。
カタカタと肯定するように、ナイフは震える。
じゃああれか、色が変わったのは不純物が増えたから?
再度カタカタと肯定するように、スライムは震える。
わかった。
戻っていいよ。
許可を出すとメタルスライムは、むにょりと潰れた球体に戻った。
うーん。
ずっとスライムじゃ味気ないな。
名前をつけてやろう。
スライムだから…
スラりん?スラぼう?
これは普通のスライムか…
メタきちとかかな。
ずっとスライムは抗議するようにむにょむにょしているからまた今度名前を付けることにしよう。