表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ノンシリーズ ミステリー短編

五味古書店での推理

作者: 髙橋朔也

 俺──五味(ごみ)貞次(ていじ)はここ津田沼駅の駅前で『五味古書店』を営んでいる。店員は俺一人。小さい古書店である。

 ここは地元に一店ある古書店のため、古本にまつわる厄介な難題がたびたび舞い込んでくる。しかし、これも古書店の仕事なのだ。仕方なく、その難題を解決している。そのせいで、俺は探偵と呼ばれることもしばしば。

 今日もレジに立ってため息をもらすと、随分(ずいぶん)(まず)しそうな服装の来客があったから、背筋をピンと伸ばした。

「フゥ......! あのう」

 息を切らした客は、汗を(ぬぐ)っていた、

「はい、どうしましたか?」

「本の買い取りをお願いしたいのですが」

「はい、わかりました。どの本でしょうか?」

「この本です」

 客が出してきた本を受け取り、俺はじっくりと見つめる。「鑑定(かんてい)をするので、ちょっと奥に行きます」

「はい」

 俺は本を持ってバックヤードに入ると、本を眺めた。かなり汚い。古い本だし、プレミアのものではないな。なら、数百円程度だろう。

 本を持ったままレジに戻ると、客は消えていた。どうしたのだろうと思っていると、一番目立つところに置いていた一番高い値段(50万円くらいだった)の本がなくなっていた。

「ちくしょう! 新手(あらて)の万引きか!」

 防犯カメラの映像を確認し、万引き犯の顔写真を紙に印刷した。これで犯人の顔がわかる。

 普通なら警察に被害届を出すが、まずは俺の方で犯人探しをするのも悪くない。手掛かりは犯人が置いていった、この古い本だ。パラパラとめくってみると、レシートがページに(はさ)まっていた。

 このレシートの日付は先週で、隣町の古本屋のものだ。俺に売りに来たこの本を購入したレシート。つまり、最初から万引きをするつもりだったということだ。許せねぇ。

 レシートはくしゃくしゃに丸められてから引き延ばされて、この本に挟まれたんだろうと推測される。なぜくしゃくしゃにした後に引き延ばしたのか。その理由がわかれば、犯人の家がわかるかもしれない。

 レシートの文字は消えかかっている部分もあるな。他に特徴はないし......。

 来客者は息を切らしていたか。無料駐車場は近いのに息を切らしていたから、おそらく徒歩だ。それに、わざわざ違う駅からここに来る理由もないから、万引き犯は多分地元。

 断片(だんぺん)的な事実しかない。ただ、レシートの文字が消えているなら、太陽光にさらされていたんだろう。

 レシートをくしゃくしゃにしてから引き延ばして、本に挟んであった理由は何なんだ?

「そうか、もしかするとそういうことなのか!?」

 犯人の居場所がわかった俺は、この古書店を早々に()めて駅前まで足を運んだ。それから周囲を見回し、とある漫画喫茶へと足を踏み入れた。キョロキョロと部屋の位置を確認して、一室の中を覗き込んでから扉をノックした。

 扉が開いて万引き犯が出てきた。そいつはひどく驚いていたが、俺はお(かま)いなしに部屋に入った。

 万引き犯は声をひそめた。「な、何で!?」

 俺は堂々と大きな声で話し出す。「あなたの忘れ物の古本をお返しします。盗んだものを返してください。

 何でわかったかあなたは気になっているようですね。今からそれについてお話ししましょうか?」

 他の人に聞かれるの恐れて、首を横に振る。「そ、外で話しましょう」

 二人で外に出ると、俺は盗まれた本を受け取る。「何でわかったんですか......?」

「推理です。あなたが置いていった本に挟んでいたレシートはくしゃくしゃに丸められていました。おそらく、この本を他の古書店で購入してからここの漫画喫茶に戻り、レシートは要らないと思ってくしゃくしゃにしたんでしょう。

 あなたは漫画喫茶暮らしの貧乏(びんぼう)なために、万引きのためにこの本を置いていくのが勿体(もったい)ないと思ったんですね。それで古本を読み始めますが、()()()がありません。そこでくしゃくしゃにしたレシートを拡げてしおりの代用としたのでしょう。そしてつい本に挟んでから、売りに来てしまった。

 レシートの文字は消えかかっていたので、文字の方を表にしてくしゃくしゃにされて、窓辺に置かれていたと思われます。

 太陽の光りが差し込む側に設置された窓があり、レシートをしおり代わりにするほど部屋にものがなく、来店の際の服装から貧乏。そこからわかったのが、この漫画喫茶にいることです。この漫画喫茶は太陽光が差し込む窓が、一部屋にだけ設置されているんです。ここら辺では、太陽光が差し込む漫画喫茶はここしかありません。

 レシート以外にもしおりに代用出来るものも普通の家にはありますが、漫画喫茶にはありません。そういうことから、この漫画喫茶にいるとわかりました」

「なるほど。面白い推理をしますね」

「ええ。それと、盗んだこの本。この本は商品にならなくなってしまいました。素手でベタベタ触られたので。

 つきましては、弁償(べんしょう)していただければ警察には突き出しません」

「べ、弁償!?」

 貧乏だから本を盗んだのだとは思うが、弁償してもらわないといけない。

 結局、50万円を受け取った。ちなみに、本が商品にならなくなったというのは嘘だ。今日は50万円の売り上げ、毎度あり! 大(もう)けだ。50万円の本も戻ってきたし、これで本が売れれば100万円になるぜ! 古書店というものは俺に向いた職業だ。

 面白かった、などと思いましたらブックマークや広告欄の下の評価をお願いします。



 本作は似鳥(にたどり)(けい)さんの『レジまでの推理 本屋さんの名探偵』を読んで、書きたくなったので書きました。三上(みかみ)(えん)さんの『ビブリア古書堂の事件手帖(てちょう)』の要素も多少あります(古本屋ということくらいですが)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読み応えのある、短編推理でした。 古書店店主も良い味出してます。 [一言] 津田沼っていうのが、それっぽい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ