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原初のヒーロー  作者: 七星北斗
修正後
96/117

ヒーローになるためには七

 えるが最後の問いを発してから三秒が経過した。


「君たちさ、気の使い方がわからないの?」


 えるは地面に突っ伏した受験生たちを、心底呆れた目で見下した。


 気の使い方?突然使えることが当たり前のように言われても、重力負荷のせいで頭が回らないし。


 中国思想などの用語の一つに、不可視の根元的なエネルギーのことを気と呼ぶ。それくらいは僕でもわかる。


 だけど、僕らは中国拳法の達人ではないのだから。気の使い方と言われてもわからない。


「ヒーローの基本は気の使い方を覚えること」


 えるは集中すると、赤色の光が彼女を包む。そして気を認識出来るほどまでに具現化させた。


「そう、例えばこんな風にね」


 そして具現化したものは、幅の細いひも状の織物である、いわゆるリボンであった。


 具現化したリボンで、会場全体がラッピングされて、何かのイベント会場のようだ。


「気の使い方を覚えれば、こんな風に具現化できるの」


 天才ヒーローの名は伊達ではなかったということか。えるからは凄まじい謎の力をひしひしと感じる。


「私のリボンは伸縮自在で手足のように扱える。そしてイメージすれば硬く、柔らかく、鋭くすることができる」


 具現化したリボンを手に取ると、長い髪をまとめてリボンで結ってポニーテールを作る。


「生まれてから呼吸をするように、体内の力の流れを感じとるんだよ」


 気を自在に操るには四つの技を取得しなければならない。


 気を感じる【感】気を目覚めさせる【発】気を動かす【動】気を変化させる【変】。


「才能ない子はいらないよ」


 えるは立ち上がれない受験生たちを嘲笑う。


 その姿はどこか妖艶的であり、とても儚かった。


「立ち上がれる子はもういないのかな?」


 受験生のすすり泣きが聞こえた。


「私の……夢は……ヒーローになること……」


 ヒーローが泣いてどうする?


 苦しい時こそ、辛い時こそ、例えどんな絶望が立ちはだかったとしても、立ち上がり前を向いて笑うんだよ。


 ヒーローはみんなの太陽でなければならない。私はそうやって前に進んできた。


「ヒーローが恥ずかしい姿を見せるんじゃないわよ」


 えるの心から叫ぶような言葉に、会場の空気が変わった。


 諦めかけた受験生たちの指に力が入る。


「まあ、ヒーローは遅れてやってくるものだからね。一分だけ待ってあげる」


 良い気を持ってる子がいるみたいだね。チャンスをあげようかなと、えるはほくそ笑む。


 この会場の誰もが、平等に与えられたチャンス。だけどどうすればこの重い体が持ち上がる。


「カウントを開始するよ。五九…五十八」


「やっぱり無理だよ」


 受験生の一人が試験を諦めた。


 その瞬間、彼方の体から力が抜け、頭が空っぽになる。そして、僕の中である言葉が繰り返される。


「諦めろ、君はヒーローになるべきではない」


 僕は学校の友達や先生、身近な人にヒーローを諦めるように諭された。


 ヒーローは命懸けだ。安い栄誉のために命を削るのかと誰もが言う。


 だけどそうじゃないと、僕は言いたかった。誰かのために命懸けで戦うことはカッコいいんだと。僕はそんなヒーローに憧れてしまったんだ。


 こんなところで夢を挫折する?


 夢は叶わないものなのか?


 ヒーローになりたかった想いは、この程度の逆境で諦めるほど安くない。


 諦める瞬間は今じゃない。


 本気になるのはカッコ悪くない。


 全身へ血流を巡らせるイメージをする。身体中の血が熱くなり、脈が速くなる。


 体はとても重い。だけど頭はクリアだ。


 腕に力を入れて体を起こす。そして足に力を入れ立ち上がる。


「十…九、お、立ち上がれた子がいるね。凄い、凄い。一…零」


 立ち上がれた受験生たちは、生まれたての子鹿のように上手く立てない。


 会場Bの面接試験終了。

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