ヒーローになるためには8
えるは人工重力負荷装置のスイッチを切った。
重力に耐えきれずに地面に突っ伏した受験生は、重力の負荷から解放されてぐったっりと横になる。
重力に逆らって立ち上がった合格生は、息も絶え絶えで膝から崩れ落ちた。
「ほみゅほみゅ、会場Bの合格者は8名と」
えるは眩しいばかりの笑顔でニッコリと笑うと、受験生達を称賛する。
「みんな結構頑張ったね。えらい、えらい」
「ふざけるな、これのどこが面接だ」
ぐったりと横になっていた受験生の1人が、起き上がるとえるに怒りを露にした。
「ん?わからないの?これは面接だよ?」
「常識を考えろ。こんなことが許されると思っているのか?」
「君さ、ヒーローを舐めているの?」
えるの怒気を込めた声1つで、受験生達は心臓に氷水を浴びた錯覚のような寒々しさを感じて、体をガクガクと震わせた。
「これは人物像や能力・思想などを見極めるちゃんとした面接試験だよ?」
受験生のAは震えながらも反論する。
「これのどこが面接だ。学校で面接のマナーや受け答えを散々練習したんだぞ。僕は学業だって優秀なのに」
「そっかそっか、ずいぶんと生温い環境で育ったんだねw」
「生温いだと!」
受験生Aは怒りで震えた。
「そういうのどうでもいいから」
受験生Aは突発的にえるに殴りかかった。
「君がさ、生温い環境でいられるのは、私達ヒーローがちゃんと命をかけて働いているからなんだよ」
えるは上段蹴りの要領で受験生Aの拳を右足の爪先でいなした。
受験生Aの体制が崩れたところに、えるは回転すると左足で足払いをかけて地面に転がすと、受験生Aを一瞬で拘束する。
「もう一度言うよ、ヒーローを舐めてるの?」
「ぼ、僕はエリートなんだ」
「全ての質問をNOと答えた君は、ヒーローとしての才能の欠片もないよ」
えるは拘束を解くと受験生Aにボソッと耳打ちする。
「ひぃっ!」
受験生Aは酷く怯えて顔が真っ青になった。
「私言ったよね、才能ない子はいらないって。不合格者はもう帰っていいよ☆」
「糞が、覚えてろ」
受験生Aは捨て台詞を残して逃げるように会場を後にした。
「ふう、だから試験官はやりたくなかったんだけど。それはさておき」
彼方にえるは近寄ると受験生名簿を確認する。
「えっと、青井彼方君ね」
「はい?」
「君とっても良い気を持っているね、精進するように」
そう言ってえるは右手を差し出す。
「はい!ありがとうございます」
ヒーロー界上位のえるに誉められたことが、彼方はとても嬉しく、気分が高揚した。
彼方はえるの手を握ろうと震える膝に力を入れて手を伸ばす。
しかし、そこで事件が起きた。
面接試験での無理もたたってふらふらな彼方は足がもつれ、何かを掴み転倒してしまう。
「いたたっ」
彼方は起き上がり、顔を上げるとリボン付きの水色の水玉模様が…!?
えるの顔が見る見るうちに羞恥に赤く染まる。
「キャーーーっ」
会場にえるの悲鳴が響く。
転倒して頭を打った彼方は、現状が把握できずに頭がくらくらする。
あれ?会場をラッピングしていたリボンが消えている?
それに会場に現れた時から、えるの目は輝くような金色の目だったような?
もしかして気が乱れると全ての能力が解除される?
えるの目は、金色が本来の色ではないってことかな?
「それにしても右手に違和感が?」
彼方は右手にしっとりとした繊維の感触に驚いた。
「何だこの布は」
「スカート返しなさいよ、この変態」
えるは桜の花ようなピンク色の眼で睨み付けると、彼方からスカートを引った繰り、彼方を蹴り飛ばす。
彼方を蹴り飛ばした反動で、薄桃色の艶やかなえるの髪がフワリと宙に舞った。
蹴り飛ばされた彼方の意識はそこで途絶えた。
数時間が経過して、彼方は見知らぬ部屋のベッドで目を覚ました。
記憶が曖昧だが、僕は気絶していたようだ。
「目を覚ましましたね。おはよう」
彼方が目を覚ましたことに気がつくと、白衣の女性に話しかけられた。
「ここはどこですか?」
「ここは医療室だよ」
ってことは、このベッドは全知全能のヒーロー達の使うベッド!?
彼方は恐れ多くて冷や汗をかく。迷惑だろうし、急いで帰ろう。
「すいません、ベッドを借りてしまって。すぐに帰ります」
「構わないよ、それより面接試験合格おめでとう。先は長いけど頑張ってね」
「本当ですか!?」
彼方は嬉しくて1人ガッツポーズをとる。
ベッドから出た彼方は、床に置かれた自分の靴を履き、立ち上がると白衣の女性に会釈をした。
「気をつけて帰ってね」
「はい、ありがとうございます」
白衣の女性に頭を下げると、彼方は全知全能の本部を後にした。




