答えなき問い1
「眠っている粟井ちゃんを自宅まで運ぶ道中、いろんなことを考えた。これまでのことや、今後のこと」
自分の選択肢一つで未来が変わる。僕の失敗ですべてを失う。
怖かった。考えれば考えるほど手が震える。でも、頑張るしかないよね。そんな風に自分を納得させる。
そんな僕の両手にふわりと温もりを感じた。
「大丈夫ですって」
粟井ちゃんが彼方の手を握って、優しく励ましてくれる。
目を覚ましたのなら、背中から降ろそうとしゃがむと、粟井ちゃんはギューっと彼方にくっついた。
「彼方お兄さんのお背中はお気に入りですって」
柔らかい感触と、鼻孔をくすぐるお菓子のような甘い香りがする。
「完璧なヒーローなんていないです。どんな仕事でも、探せば失敗したな~と思うことはたくさんありますって」
「確かにそれはその通りだと思う。だけど、ちゃんと背負わないと前に進めない気がするんだ」
粟井ちゃんはどこかドッキリしたような表情で「カッコ良すぎてドキドキする~」と、彼方に聞こえない小さな声で呟いた。
「む~、彼方お兄さんのそういう所は大好きですって。ちゃんと気づける彼方お兄さんは偉いです」
よしよしと、彼方の頭を粟井ちゃんは撫でる。
「ご褒美に元気になるおまじないをあげますって。彼方お兄さん、ちょっと目を閉じるのです」
言われた通りに目を閉じると、ほっぺに柔らかな感触がした。そして僕の頬を両手で撫でてくる。
僕が目を開くと、粟井ちゃんの顔がすぐ近くにあった。
「これはお家まで運んでくれるお礼ですって」
粟井ちゃんは、再び僕の頬にキスをした。唇が頬に触れている間隔が先ほどまでより長かった。
僕は驚きのあまり石のように固まった。僕にとって粟井ちゃんは妹みたいな存在だったはず。彼方の思考がフリーズした。
僕は心臓の鼓動が速くなるのを感じる。粟井ちゃんはえへへといった表情でご機嫌だ。
そして、彼方の首筋に頭をグリグリと押し付けてくる。
髪がサラサラして肌触りがいいなとか考えていたら、粟井ちゃんが不意に彼方の疑問へと答える。
「私ね、頑張ったんだよ。飛び級で学校卒業して、ヒーロー会社に推薦が決まって」
呟くように粟井ちゃんは語る。
「だから褒めてほしいな」
そしてねだるような上目遣いで、彼方の目を見る。
僕は覚悟を決めて、粟井ちゃんを背中から降ろすと、頭をわしゃわしゃと褒めた。
やっぱり中学生とはいえ、まだまだ子供だなと彼方は安心する。
彼方に撫でられ、ふわぁーと、粟井ちゃんは気持ち良さそうな声を上げる。




