リアル10
目の前にあるのは、立ち入り禁止の看板。
「うん、時間通り。これより、富士山周辺は封鎖させていただきます」
監督官は、立ち入り禁止の看板の外側に出る。
「受験生の皆様は、この立ち入り禁止の看板を越えると、リタイアを意味します。ですので、お気をつけ下さいね」
踵を返して、バスに向かった監督官。
「え!?」
「それだけ?」
受験生達からは焦りの色が見える。
「もう実技試験は開催されているので、ここで無駄口叩かれる方は、減点しますよ」
受験生たちは混乱した。
ろくな説明もなく、バスを降りてすぐに、試験が開始されるとは思わなかったのだ。
「では、今から三十秒の間に、この場から動けない方は
減点しますので、悪しからず」
「嘘だろ!」
我先にと、周りの受験生達は駆け出した。
混乱する受験生達に巻き込まれて、万里は地面に倒れた。
不運なことに、膝を擦りむいたようで、痛々しく血が滲んでいる。
助けるべきか、見捨てるべきか、彼方は考えた。
今は実技試験中だ、そんなことをしている場合じゃない。
この場に留まれば減点されてしまう。
彼方は、万里と視線が重なった。万里は寂しそうな顔で、首を横に振った。
万里の表情から察すると、見捨てて先に行けということだろう。
僕の頭の中では、早くこの場から離れろと、結論が出ている。
『僕は最低だ』
仲間を見捨てるのは、ヒーローにあるまじき行為だ。
「助けたい」
僕の体は自然に動いた。
今ここで、自分の信念を曲げたら、絶対後悔する。
減点される?そんなの知るか。ここで助けないのは、ヒーローじゃない。
彼方は駆け寄り、万里を抱き抱える。
万里はなぜと、困惑した表情だった。
そんな受験生達を、観察する人物がいた。
その人物は、今回もまたかと、頭を抱えている。
「走って逃げたヤツ、全員マイナス一点。ヒーローなのに助けられた、マイナス一点。助けたヤツプラス一点」
遠くから微細な変化を見逃さない。そんな気の流れを読むことができるヒーローがいる。
彼等にかかれば、この場を一瞬で理解することなど、造作もないことだ。
この試験には、特別なヒーローが各所に配置されている。
「やれやれ、今回も期待値ゼロ。しかし、馬鹿正直に助けに行くとはな」
一人のヒーローは呆れた顔で、受験生達を品定めする。
幾人ものヒーロー達は、溜め息を吐くと、結論を出す。
「今回も凡才か」
と。
しかし、ヒーロー達のリーダー格である一人の男は、一部の受験生の上質な気の流れを感じた。
「今回は荒れるかもな」
そんな男の言葉に、周りのヒーロー達は困惑する。
こうして波乱の実技試験一日目が開幕した。




