リアル4
呼吸が荒い、苦しい、辛い。
立ち上がれない、体が重い。
「どうした?強くなりたいか?立ち上がる強さが欲しいのか?それとも逃げ出したくてしょうがないか?」
もう影月の言葉など、彼方には届いていなかった。
「羽ばたくことを忘れた鳥達は、自由を奪われ、天に仰ぎ地に伏す」
その言葉にどんな意味があるのか?
なぜそれを言葉にしたのか?
「主君の資質は他の誰よりも優れています。しかし、温い環境の中で守られて、そこには甘えが生まれています」
僕のしてきた努力が、価値のないものだと否定された気がした。
「目指すのはヒーローじゃなくてもいいのでは?」
僕を夢を全否定か。頭に血が上り、もう何も考えられなくなった。
彼方はゆらりと立ち上がり、全力の一撃を拳で、影月の顔面に叩き込んだ。
不思議な感覚だった。重い体がスムーズに動いた。
影月は微動だにしなかったが、口の端から血が滲んだ。
血を指で拭うと、影月はニカッと笑った。
「なんだ、やればできるじゃないですか」
影月は、僕をわざと怒らせて、殴るように誘導したのか。
「主君には無駄な動きが多すぎるんですよ」
僕のパンチなんて、簡単に避けることができたはずだ。
「ごめん」
影月は、僕の言葉に驚いていた。
「どうして謝られるのですか?」
「殴ってしまったから」
「いえ?主君にご無礼を働いた、俺への当然の報いです」
「でも、ごめん」
「主君はお優しいですね」
彼方は表情を曇らせて、下を向いた。
「優しくなんてないよ」
「ヒーローを目指すなら下を向かない、前だけを向けばいいんです」
「僕にそんなことできるかな?」
「できるできないじゃないです。助けたい人を前に、主君は不安そうな顔で下を向くんですか?」
僕はヒーローを夢見ていたが、ヒーローになる前から、どうせ無理だとか、そんなことばかり考えていた。
「前を向いて、笑ってください」
その言葉に救われた気がした。彼方は前を向いて、笑う。
「及第点です」
彼方に合わせて、影月も声をあげて笑った。
なんだかスッキリした。しかし、疑問が残る。彼方は、その疑問を影月に問いかけた。
「でも、どうして僕をわざと怒らせたの?」
影月は苦笑しながら、問いかけに答えた。
「体が疲れているときは、少しでも疲れにくい動作を無意識にするので、自然と無駄が減るんですよ。その感覚を覚えてほしかったのです」
ちゃんと理由があったんだなと納得した。
「じゃあ、そろそろ今の感覚を忘れないように、手合わせを再開しましょう」
「おう」
彼方と影月は時間を忘れて、日が沈むまで繰り返した。
その頃、光莉はすやすやと昼寝をしていた。




