目的のための手段2
彼方は玄関を開けると、明るく挨拶をする。
「ただいま」
僕の声が家に響く。
「お帰りなさい」
彼方の挨拶に、母さんは優しく挨拶を返してくれた。
静かな足音が聞こえ、母さんが玄関まで出迎える。
普段着にエプロン姿の母。僕と同じ絳い目の母さん、黒髪のショートボブの髪型。
優しく母さんは笑う、母さんのその表情が僕は好きだ。
「今日はお帰りが遅かったですね?何かあったのですか?」
理由をそのまま話すのは角が立つし、さてさて。
彼方は、適当な嘘で誤魔化すことにする。
「うん、ちょっと面接試験に張り切りすぎて、疲れたからカフェで少し休んでた」
母さんは心配そうな表情を一瞬した。
彼方が、ヒーローになればもっと苦労するだろう。もしかしたら死ぬかもしれない。
しかし、彼方の前では気丈に振る舞い。そのことを考えないように、頭の片隅に置いた。
「そう、でも無理はしてはダメよ。ヒーローが彼方の夢なのはわかっているけど」
「うん、わかってる」
「それはそうと、面接試験はどうだった?」
わざわざ聞かなくてもわかっているだろうと、思いながらも彼方は満面の笑みで伝える。
「面接試験通過したよ」
っと。
母さんは少し寂しそうに祝福の言葉を述べる。
「第一歩おめでとう、めでたいですね」
「ありがとう母さん」
「今日は腕によりをかけてご飯を作るからね」
「うん、楽しみにしてる」
「和夫さんもそろそろ帰ってくるそうよ。彼方、早く着替えてらっしゃい」
「はーい」
和夫とは、「青井和夫」彼方の父親である。
着替えるために、彼方は自室がある2階に上がった。
彼方の部屋は、たくさんのヒーローグッズやポスターで飾られていた。
スーツを脱ぐと、彼方はシワがつかないようにスーツをハンガーに掛ける。
私服に着替えて一呼吸を置いた。僕は面接試験合格できたんだ。
今更ながら興奮が湧き上がる。
しかしヒーローになるための受験は、まだ始まったばかりだ。
次は実技試験、頑張ろう。
「晩御飯できましたよ」
母さんの呼ぶ声が一階から聞こえた。
「はーい」
彼方は返事をすると、一階に降りて居間へと向かった。
居間へ行くと、キッチンで忙しそうに、母さんはお皿に料理を盛っていた。
母さんは彼方に気づくと、お手伝いを頼む。
「彼方。テーブルを拭いてから、お箸を並べてくれるかしら?」
「了解」
いつもの日常、そんな非日常。
彼方は晩御飯を食べながら、父さんに面接を合格したことを伝えた。
そしたら父さんはめったにお酒は飲まないのに、上機嫌で高いお酒を開けていた。
嬉しいような感覚とともに、少しむず痒い。
まだ、全知全能への受験は始まったばかりだ。