目的のための手段
彼方はバスを降りると、自宅に向かって歩き始めた。
今日はなんだか長い一日だったな~。疲れたし、早く帰って寝よう。
ふぁーっと欠伸をすると、彼方は住宅街に入る。
住宅街に入り、しばらく歩いて曲がり角を曲がると。
「あーした天気になーれ」
そんな掛け声とともに靴が飛んできた!?
「クオッ」
短い悲鳴を上げると、靴が顔にめり込んだ。鈍痛な痛みとともに彼方は後ろへ倒れる。
うし、顔面で受け止めてやったぜ~?…痛い。
全力で靴飛ばしをする少女、弾丸が飛んできたかと思った。
「ごめんなさい、彼方お兄さん大丈夫です?」
慌てた少女は片足跳びで駆け寄って、心配そうな面持ちで、彼方の目を見つめた。
「やあ、粟井ちゃん。遊び方が相変わらず過激だね」
「過激だなんて、もう、彼方お兄さんのえっち」
粟井ちゃんの本名は粟井七葉、中学2年生。
黒髪ロングで、まだ幼さの残る美少女。
ヒーロー好き女子であり、粟井ちゃんとは幼い頃からヒーローごっこをしてよく遊んだ。
粟井ちゃんは家が隣同士で、両親同士が仲が良い。
彼方にぶつけてしまった靴を粟井ちゃんは拾い、前屈みになり、靴を履いた。
靴をぶつけられた痛みを表情に出さないように、彼方は心配する粟井ちゃんに笑いかけた。
「粟井ちゃんも大人になったんだね」
「私はもう大人なんだよ、難しい言葉も知ってるんだから」
彼方はしみじみと、うんうんと頷く。
下着に関しては、確かに大人だ。
スカートで全力で靴飛ばしをすれば、下着も見えるよね。
魅惑的な黒いヒモの下着。
僕にとって粟井ちゃんは妹のような存在である。
よし、今見たことは忘れよう。彼方は心の中で固く誓う。
そして靴飛ばしは、スカートを穿いている時は絶対にしないように注意しなければ。
「今日は彼方お兄さんの勝負の日だから、お兄さんを応援するために、私も勝負下着を穿いているんだよ」
粟井ちゃんはどや顔でそう告げる。
「ブッ」
彼方は思わず吹き出した。
「女の子がそんなこと言っちゃいけません」
「ふっ、私は大人だからね」
早くこの勘違い少女の間違いを正さねば。
粟井ちゃんは、どうやら大人という言葉にリスペクトを感じているようだ。
背伸びをしたいお年頃なのだろう。
「それより彼方お兄さん、今日の面接試験どうだったの?」
彼方は悲しげに俯く。
「聞きたい?」
「え!まさかお兄さん、うるうる」
粟井ちゃんは今にも泣き出してしまいそうだ。
「ごめんごめん、無事に一次審査通過したよ」
「お兄さん、グッジョブ」
勢いよく粟井ちゃんが抱きついてきた。
「お兄さーん、むぎゅー」
「粟井ちゃん、元気だね」
「彼方お兄さん、あの約束覚えてる?」
「あの約束?」
「ブー、忘れちゃったの?」
粟井ちゃんは可愛らしく頬を膨らませる。
約束?何の約束だっけ?彼方の反応を見て粟井ちゃんは寂しそうに遠くを見つめた。
「まあ、いっか。彼方お兄さん、またね」
粟井ちゃんはそう言い残して、自宅へと帰って行った。
もしかして粟井ちゃんは、僕が帰って来るのを待ってくれていた?
そんなわけないか、僕も自宅に帰ろう。
彼方は玄関のドアを開けた。