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偉大なる牛丼!



2-5)



ピンポーン



ん?誰だろ。もしかして楓?


アイツ合鍵持ってるけど嫌がらせか?


ピンポンダッシュとかやりそうな女だしなあ。



と、喧嘩して出て行った同居人の悪口をボヤきつつ玄関へ。


出るとお隣の山田さんのご主人だった。



腕には今日もかわいい次女のロザリーちゃんを抱っこ、そして後ろには宇宙人ナナも。


ロザリーちゃんを羨ましそうに見上げてる。まさか……嫉妬?



何かおぞましいものを見た気もするが、見なかったことにして、山田さんのもう片方の腕に注目した。見覚えのある封筒だ。



その通り、それは楓に預けてなくされたオレの願書だった。



話を聞くと牛丼屋のカウンター横に置かれていたらしい。


名前を見て届けに来てくれたようだ。でもまず思ったのは、




……牛丼屋?




楓のヤツ、牛丼屋に行ってたのか。外出前、嬉しそうにしてたのはこれだったんだな。



しかし……昼過ぎにひとりで入店し牛丼を食う美女。


思わず光景を想像して、何となくシュールでスゴいなと感心してしまった。


朝買ってやれなくて残念がってたし、そこまで気にいったのか。



それにしても山田さん、ということはあなたも行ってたんですね?しかもロザリーちゃんとナナを連れて。


まあ構わないし、お陰で願書も見つかったからありがたいけど。



山田さん、感謝!


牛丼にも感謝!



でもナナも入店できたんだな。だって尻尾が……どう見てもサ…ま、いいか。




そしてオレは室内へ。願書も見つかり、次に気掛かりなのは楓だ。



思いきり怒鳴りつけたもんなあ。どこかで泣いてるかもしれないな。


けどアイツも好き放題言い返してたし、涼しい顔して出て行ったし。


うーん、弱いのか強いのかイマイチまだ判断できない。けど宇宙人とはいえ女、迎えに行った方がいいのかな。



いま電話……ダメだ。アイツが悪いんだから、もう少し反省させないと。してるかもわからんけど。



ああっ!勉強にも身が入らない!


……3時か。6時までに帰らなかったら探しに行くかな?


あーあ、迷惑なヤツ。



2-6)



午後6時、夏至も近いこの初夏の季節、陽は長くて外はまだ明るく暖かい。



オレは手間のかかる同居人を探し求めて散歩がてら屋外を探索中。まずは昨日アイツが居座ってた公園へ。



風も薫り若葉が青々と綺麗だなあ、などと並木通りでガラにもないことを考えてたら、綺麗な女を前方に発見。探し人、楓だ。ホントにいた。



自分の勘に驚きながら彼女を目指す。


ゆるいウェーブの長い髪、Tシャツにジーンズのラフな格好なんだけど、一際目立つ。


でも目立つ理由は外見だけじゃなかった。何かを探してるのか首が左右に忙しい。


挙動不振のような動きが容姿以上に目を引いた。そうしてオレは、



スラリとした長身の楓に通せんぼ。



彼女はピタリと歩みを止めてオレを見つめた。その瞳をオレも見返す。



「帰るぞ」



ぶっきらぼうに言って、軽いデジャヴ。


そういえば昨日もここで同じことを言ったっけ。


そして楓も今と同じように不意に現れたオレに驚いたんだ。



ここまではほとんど一緒。けれどその後の反応は昨日の従順なものとは異なった。



「いやっ!」



うっ、いきなり反抗された。やっぱりまだ怒ってる?


暴行未遂の件もあるし、嫌われたかなあ。



どうしようかと悩んでると彼女が道を示してくれた。困惑の表情で意外なセリフを口にした。



「まだ見つからない」



挙動不振の理由が判明した。


オレの願書を探してたんだ。部屋ではあんなに文句ばかりだったくせに……。



「オマエ……ずっと探してたのか?」


「だって私が悪いから責任取らないと」



今までずっと探してたのか。


マヌケなコイツのことだ、行った覚えのない場所でも探し回って時間がかかってたんだろうな。


けどまずは健気な行動に報いて安心させてやらないと。



何時間も前に見つかってたなど言えるはずもなく、『ついさっき』牛丼屋に置かれていたのを山田さんが届けてくれた、と嘘をついた。



すると楓は、自分も確認しに行ったけど見当たらず、店員に聞いても知らずとのことたった、そう教えてくれた。



ああ山田さん、一言店員に言っておいてくれれば助かったのに。


まあ悔やんでも遅いか。



そんなあとの祭り状態を救ってくれたのは、一番の犠牲者かもしれない楓だった。



「見つかったんだ!良かった!」



楓は喜怒哀楽を素直に顔に出す女だ。いまも嬉しさを隠さずオレや山田さんの不甲斐なさを払拭し救ってくれる笑顔を全面に浮かべる。



う、かわいい。



泣いたり笑ったり、魅惑的な年上の魅力全開でやはり惚れそうになってしまう。


ヤバイぞ、話題をもとに戻そう。気を取り直して。



もう怒ってないし、こっちにも不誠実な態度があったのは確か。詫びをして、一緒に家に戻ろうと身勝手な要求をしてみる。



それでも楓は頷き賛同してくれた。


良かった良かった、これで一件落着、と思った矢先。



「あ、ホテルの予約キャンセルしないと」



は?コイツ本当にホテルに泊まる気だったのかよ。


それも贅沢にもランク上位の高級ホテル。ツインルームを予約してるし。


しかしネット予約の方が安いとか、地球人のオレより色んな情報に詳しいのはどうしてだ?


謎だ……。




さて時刻は夕食時。せっかく外に出てるんだし外食して帰ろうかな?


一応コイツにも聞いてみるか。



「行きたいトコあるか?食いたいものとか」


「牛丼食べたい!」



……オマエ、昼にも……ま、いいか。疲れさせたし好きなことさせるかな。


けどこの場合やっぱオレのオゴりだよな。まあ仕方ないか。



「食わせてやる。専門店に行くか。コンビニのより美味いしな」


「ありがとう!」



うわ、なんていい笑顔。



たかが牛丼、されど牛丼。願書のことといい侮り難し!


でも……やっぱりたかが牛丼かな?




まもなくして着いた店内で他の丼物メニューを教えるとその多さに楓は驚いた。


悩んだ末に注文したのはカレー丼で、これまた気にいったらしく次はカレーに興味を移したのだった。



ハマりやすい楓サマ。翌朝のメニューはコンビニのカレーライスとカレーパンになったのは言うまでもない。



そしてカレーのように辛い事件も起こってしまうのだ。


ああ、ゆっくり受験勉強がしたい!



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