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暗闇でドッキリ!



6-5)



「好きだっ!」



オレは叫び、腕の中に楓の体を包み込んだ。



ああ、またもやってしまった暴走行為。


だって楓は上半身キャミ一枚のノーブラだ。


その感触と明日には別離のこの状況で我慢できるはずがない!



オレが好意を寄せてるのを承知でベッドに誘い、身を任せてきたのは彼女自身だ。



真意は定かでないけどこうなることは予想済みのはず。



だからなのか抵抗を見せない。うーん、オレの方が困ってしまう。これからどうしたらいいんだろ。




キスしたいし、できればその先も……でも無理だろうな。聞いてみようかな。



けど失恋して立ち直ろうとしてる女に「エッチしたい」なんて言えないよなあ。



ふと腕の中で楓が動きを見せた。さらに身を寄せてきて、オレはドキドキが止まらない!


コイツのことだ、無意識なんだろうけど……。




大胆すぎです、楓さん。年下の男を誘惑するのはやめて下さい!


生き地獄に耐えられそうにありません!


ああっもうダメです。責任取って下さい!




仰向けに倒そうと下心全開の野獣モード直前、間近に聞こえるは呑気な和みの声だった。



「あったかい。アキラ、出来立ての牛丼みたい」



ああぁぁ……。何だそりゃ。一気に脱力である。



あのーその表現はイマイチどうかと。


最高の誉め言葉のつもりなんだろうけど、誉められてる気がしないよなあ。牛丼って……。




ボヤきつつも楓を離さない。細くて柔らかな体だ。


コイツの方こそ温かい。温かくて心地いい。



明日にはお別れか。この温もり忘れたくないよ。


オレは腕に力を込めて囁いた。



「オマエのすべてが好きだ。温かいのもオマエを強く思ってるから。オマエの太陽でいたいんだ」



生まれて初めてのキザなセリフだけど、消灯後の暗闇が表情と照れを隠してくれた。



オレの本心だ。


純粋で、飾らない笑顔を振りまくコイツを、太陽のように温かく見守って照らし続けてやりたい。


その役目を独占したい。心からそう思う。




楓からの反応はない。似合いもしない歯の浮くセリフに呆れてしまったのかな。


それならいっそ大笑いしてくれた方が気まずくなくていいのに。



嫌だな、この沈黙。何か話してくれよ。最後なんだぞ。あ、オレも何か話さないと。




……コイツ、今どんな顔してるのかな。無理やり引きはがすわけにもいかないし。ああ気にな……



「ありがとう」



ん?楓!?


やっと話してくれた!でもありがとうってどういう意味?



それと感じたのか楓は会話に補足してくれた。



「アキラ初日からずっと優しくて嬉しかった。ありがとう」



2度目の謝礼も感情が込められていて胸に染みた。



う、そんな丁寧に言わないでくれ。怒鳴ったり泣かせたり、酷いこともたくさんしたんだぞ。



それに思い出話は明日でいい。今はまだ思い出を作る段階だ。


聞きたくないよ楓。時間を振り返るのはまだ早いよ。



「アキラのお陰で楽し」


「やめろっ!」



思い出話はするな!


オレは勝手にも怒鳴りつけ会話を遮断させてしまった。



6-6)



ビクリと腕の中の体から振動が伝わった。それを機にオレは相手の体を引き離した。



オレの興奮は抑まらない。上体を起こして声を荒げ続ける。何でわかってくれないんだとばかりに。



「やめてくれ!今はそんなの聞きたくない!」



暗闇だけど目は慣れて周囲の物とか判断ができる状態だった。


もちろん横たわりオレを見上げる楓の表情も。



げ、泣きそうだ。



うわーごめん楓!


オレって最低男だ。別離の前日のロマンチックなはずの夜にすべき行為じゃないよな!?



ああ楓、こんなオレを優しいと言ってくれるオマエが一番優しいよ……。




一気に弱気になり懺悔するオレに彼女が取った行動、それは抱擁だった。


「アキラ!」と叫び、ガバッと抱きついてきたんだ。



びっくりしたけど遠慮なくその体を抱き止めた。



「ごめんねアキラ!でもね、一週間本当に楽しかったよ。明日、悲しくて言えないかもしれない。だから嫌かもしれないけど聞いて」



泣いてはいないようだ。でも切実な声。オレはひとつ返事で頷いた。



「はじめは不安だった。でもアキラは明るくて思いやりもあって美味しい食べ物も教えてくれて、安心できた」



さすが楓。食事の重要性も忘れない。よほど地球食が口にあったんだろうな。


もう食べられないんだよな。可哀想に……って、そんなことより!



内容はオレを誉めてくれるものばかり。なのに切ない声を耳元で聞かされて悲しくなってきた。


だから思い出話は嫌なんだ。泣きたくなるじゃないか。



オレを泣かせたいのか楓は話を止めない。静まる室内にそのかすれ声が浸透する。



「怒りも泣きもしたけど、それって日常生活の証だよ。普通に接してくれてありがとう」



何度目かの謝辞。


場面はとんでもなくシリアスなはずで、けれどコイツの髪とか体とか甘い芳香がして頭の中はグチャグチャだ。



そんなオレをさらに刺激する言葉を、この女は邪気なく発した。



「大好きだよ。もう少しいたかったけど、期日は守らないとね。10日くらいの予定にすればよかった……こんなに別れが辛いなんて!」



尻上がりに高まる声。体を震わせ、最後は悲鳴のようだった。



少しの間、彼女は呼吸を整える。温かい息がオレの首筋に吹きかかり理性は飛散寸前だ。そしてトドメ降臨!



「大好きだよ。だから抱きしめてね?寂しくならないように今夜は側にいてね?」



もちろんだよ楓。今夜は離さない。好きなんだ。オレだってオマエが好きなんだ。


寂しいなら朝まで抱きしめてやる。泣かないように側にいてやる。大丈夫だって囁いてやる。



教えてくれてありがとう。我慢できないほどの悲しみに気づけなくて悪かった……。




愛しさは最高潮となりベッドに彼女を押し倒した。長い髪がシーツに広がる。キャミソールから覗く白い肌も暗闇に浮かぶ。



見上げる眼差しが色っぽくてゾクゾクする。綺麗だ。あ、ダメだ。我慢できない。キス、したい……。



いつかのような抵抗を示さないあまりに無防備な姿。キスしちゃうぞ。オマエの唇、柔らかくて好きだ。



そう、オレは……。


唇は語るより触れあう行為を望んだ。けれど相手の唇は逆を求めた。



「アキラ、信じてる」



げっ、牽制されてしまった。


信じてやるからキスやエッチはするなってことだよな。


うわキツいなー。




さすが年上、お見通しか。マヌケなようで男女間に関しては鋭いんだよな。




最後の夜に嫌な思いはさせられない。楓サマの命令に服従するしかなさそうだ。



でも優秀な家来でないオレはギリギリの線まで粘り、彼女の腰に腕を回して抱き寄せ一晩を過ごすことにした。


この行為に抵抗は見られなかった。




繰り返すようだが明日でお別れだ。すでに寝息の、いま確かに腕の中にある体は遠い彼方へ。



明日、明日か。笑顔で送ってあげ……



「カレーちゃん、好き」



……さすがと言うべきか、こんな寝言を語れるコイツはやはり大物だ。



ああ楓さん、見るならオレの夢見て下さい!



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